ポケットモンスター紫   作:鯖風味鯵

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誤字報告感謝します。気づかないもんだなぁ


技10

 モンスターボールを構えてポージングする下っ端。

 無駄にキビキビしたバレエじみた動き。顎が外れるくらい大口開けて、

 

 「俺こそロケット四兄弟の一人!!!」

 

 知らねえよ…。

 

 

 月の石探し開始から数分と経たず連中に見つかってしまった。

 俺って、普段の生活で姿隠したりとか全然意識してなかったからな。スニーキングの心得なんてシラナイデス。野生にあるまじき醜態である。

 

 見つかったら仲間を呼ばれると思ったが、こちらを舐めてるのかそんな気配は無い。ニドラン一匹程度、単独でどうにかできるってか。普通そうだよな。

 にしたってこの下っ端、野生のポケモンに遭遇しただけでキメテきたんだが、いつもそうなのか? 構成員向いてないんじゃなかろうか。

 

 ポケモンの捕獲も任務の内ってのは、ゲームなどと同じらしい。腰に下げてるモンスターボールを掴もうとしていたので、問答無用で奇襲。ボディに「にどげり」を喰らわせた。

 「ひ、卑怯なぁぁぁ」とか叫ばれたが、突っ込む気もおきん。「どくばり」にしなかっただけ有難く思ってくれや。

 

 「ま、まあいい。弟達が仇をうってくれ、る…。」

 

 気絶した。何だったんだコイツ。

 

 

 見つかったのがバカで助かった。この下っ端、ポケモンも出さずに山の中を徘徊していたからな。ポケモンがいたら、バトルは必至。騒音で仲間も集まってくるだろう。

 

 ロケット団を警戒しつつ、探索再開。

 月の石の形状が思い出せん。どんなだったか。

 やたら食い意地の張ったピッピが出てくる漫画では、三日月の様な形をしたひじょ~に分りやすい見た目だった記憶なんだが。

 

 ゲームのグラフィックだと、思いのほか地味な石だという印象が。ううむ。

 

 どちらにしろ、ゴキブリみたいに走り回ってるロケット団を避けながらってのは、かなり難しいぞ。あっちこっちにいるらしく、さっきから耳がピクピクしっぱなしだ。

 

 

 いっそ諦めるか、月の石。

 

 

 俺ってニドランだしな。ニドリーノに進化しなきゃ持ってても意味が無い。

 いつ進化できるのかわからん状態で、荷物を持ち続けるってのもなぁ。邪魔にしかならんよ。

 

 あ~あ。進化、いつになったら出来るんだろう。レベルは足りてるはずなんだが。

 

 レベルじゃないなら、原因は何だ。

 

 …わからん。本当にわからん。何が足りないのか。

 

 ま、もう少し探すか。気がすんだら下山すりゃいい。

 

 進化してないから何だというのだ。サトシのピカチュウはライチュウにならなくても充分すぎるほど強いじゃないか。

 

 主人公補正? ナニソレオイシイノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛、石ばっかりじゃあああもういやぁぁぁ!

 

 クソが! こんな暗い洞窟の中で、どんな見た目かもはっきり覚えてない石ころを探せだぁ? やってられっかっ。俺はどっかの御曹司みたいな石マニアじゃねーんだよ!

 

 やめだやめだ。埒があかねえ。さっさとおつきみ山を降りよう。石はまた次の機会でいいや。

 

 …降りるって、どこに?

 

 はい迷ったよ。笑うしかねえHAHAHA。

 

 ああもう面倒だな。また誰かに道案内でも頼むのか?

 

 いや、それはやめておくか。今回は周囲のポケモンに協力を望めそうにない。何故かって? おつきみ山のポケモン達が、俺に敵意の眼差しを向けているからだ。

 理由は、言うまでもなくロケット団。奴らとあまり変わらないタイミングで訪れた為か、グルだと勘違いされてるみたい。冗談きついっすわ。

 

 くっそー、ウザいなロケット団。石探しでも下山でも邪魔しやがる。もう化石でも何でも見つけて、さっさといなくなってくれよ。

 

 ぐちぐち悪態つきながらも、山を降りるため歩く。

 

 現在、俺は洞窟の中を進んでいる。おつきみ山は鉱石が特殊なのか、洞窟内でも周囲がぼんやり見える。

 

 そこらの石ころに、ちらちらと視線が行くのはご愛嬌。欲しいものは欲しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パラセクトが道案内を引き受けてくれた。

 

 そう、あのパラセクトである。再会した時は画太郎作画で悲鳴を上げそうになったが、なんとか堪えた。

 

 てかお前ダメージ平気なのかよ。あ? パラス仲間に木の実貰った? さいで。

 

 

 促されるまま菌蟹の後ろをついていく。

 

 俺の事は、ロケット団の仲間だとは思ってない…って、そいつは嬉しいがどうしてよ?

 

 どうやら、俺が下っ端を蹴っ飛ばしているのを目撃したらしい。

 なるほど、味方同士ならあんな事しないってか。単純ながら説得力あるな。でも注目すべきところはそこじゃない。

 

 

 

 見てたのだ、こいつは。

 

 あの時には既に回復していて、俺を付け回していたのだ。

 

 

 

 こええ! つーか、そのあと月の石を求めてうろうろしてた時もずっと傍にいたことになる。

 

 足音しなかったんですけど。一応、周囲を警戒してたのに気づきもしなかった。

 

 ねぇ付け回して何する気だったの? バックスタブろうとしてたの?? 絶対そうだよね?

 

 …何も答えてくれない。

 

 今更ながら、信用していいのかなこの蟹。俺はお前という恐怖を一生忘れねえぞ。

 

 

 というか何で協力してくれるんだろうな。

 昨日の敵は今日の友って古い言葉がポケモン主題歌の歌詞にもあるけどさ。あんな体験した後じゃ、ちゃんとした理由が解らないと不安になる訳よ。

 

 思い切って訊いてみたら、あっさり教えてくれた。

 

 自分が進化できたのは、あのバトルがあったから。だから、そのお礼、と。

 

 それはそれは。有り難くも羨ましいこって。

 

 

 

 

 

 

 その後。ロケット団に出くわす事もなく、山を抜ける事ができた。

 

 道が続いている。俺の知識通りなら、この先にハナダシティがあるはずである。

 

 案内をしたパラセクトに礼を言う。

 気にするなと鋏を振ってくれた。なんだ意外と気さくなええ奴やん素敵やん?

 

 別れ際に、質問。

 

 どうしてお前は進化出来たんだ? 進化って、どうやるんだ?

 

 是非とも聞いておきたかった。俺だって進化したい。

 

 特別勿体振る事もなく、パラセクトはどこ見てんのか判別つかない両目をこちらに向け、言った。

 

 

 こいつだけは、絶対にぶちのめしてやる。絶対に。

 そう思ったからかもしれない。

 

 

 逃げた。全力で。

 あいつとは二度と関わりたくない。感謝はしてるが、それ以上は無いからな。

 

 

 

 

 

 




 ピッピの出番はなし。もちろんギエピーもなし。

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