個性『桃球』 作:猫好き
入り口付近での戦いがまたしても始まってしまった。しかし、第1戦と違いメインで戦おうとする者はいない。誰もが爆豪や内藤のように前で戦おうとするほど自信が無いのだ。
「仕方ない私が出よう。」
その中でまだ皆を守れる個性を持つ障子をメインにしたようだ。まあ彼以外に前を張れる者がいないのも現実だった。
こちらが陣形を整えている間クマは何も喋らずじっとしていた。それを見た耳郎が勝負をかける。気づかれないように死角に隠れそっと耳たぶからコードを伸ばしていく。
クマに気づく事無く耳郎の個性『イヤホンジャック』が炸裂した。しかし、先に根をあげたのは耳郎の方だった。
「ぐっ、なんや音が跳ね返ってきよった?」
耳郎が攻撃したにも関わらずクマは動かない。まるでそこに一体の銅像があるかのように戦闘態勢のまま動かない。それが不気味でもあり、独特の緊張感を生み出していた。
「皆んな気をつけといて、そいつ個性を反射しよる。」
「なら俺の個性ならどうかな?」
耳郎の言葉を受け、次に瀬呂が『テープ』の個性を使い相手を拘束しようとした。が、それを初めて動いて避けた。その速さは格別速いという訳でもない。
だが、そのヴィランが遊んでいるように見えて、緊張感が増していく。その時扉から1羽の鳥がやってきた。その鳥は口田の肩に止まる。
「あの黒い霧に飛ばされてどうなるかと思ったが何とか戻ってこれたぜ。」
「あ、口田君の鳥!どこにいたかと思えば、外に飛ばされていたの?」
その鳥は室内戦闘訓練の後口田が呼び寄せた人の言葉をしゃべる鳥だった。名前はまだ決めてないらしいが口田とのコミニケーションを通達する橋のような存在である。
「そんな所だぜ。後は主人の声を頼りに飛んできたってわけ…後主人からの通達だ。『攻撃せずに待っていてほしい。』だそうだ。」
「どういう事や?相手はうちらを襲ってきたヴィランやで?」
「あ!そっかあの脳無は元々動物だったのかな?だったら口田君の個性で大人しくしているんだ。」
そう。口田の個性は『アニマルボイス』。動物達の言葉を聞いて話せる個性。その個性は決して戦闘に向いている個性ではないが、今の状況では救世主と呼べる個性である。
「そういう事や。後は主人に任せておき!」
生徒達に再度安らぎの時間が訪れるが完全に休む人はいない。もし失敗すれば脳無は動き出す事になるからだ。口田の顔には普段見せない汗をかいており、話し合いが難航している事が見て取れた。
「そうとは知らず悪いな。うちが攻撃せんといたら難航せんかったらろうに…」
「いや、あの時はああするのが最善の策だったと思う。」
その時生徒とヴィランの間の空中に黒い霧が現れた。その中から黒霧が現れると警戒の色を強くする。しかし、そこから現れたのは切島だった。
「え?切島君?」
その姿に気付いた麗日が切島に近付こうとしたが、それを障子が止める。
「待て、ヴィラン側の罠の可能性がある。」
「そやな。本物って確証がないうちは下手に動かん方がええ。」
USJではないどこかに飛ばされていた同級生との再会は嬉しいものだが、1度足取りを消えた者が出てきても信じきれないのが現状である。
皆んなから疑いの目で見られている切島はというと…
「くそ!くそ!くそーーーー!」
地面を両手で叩いていた。その声は泣いているのか震えていた。堪らず意を決して麗日が質問をする。
「ねえ切島君。桃ちゃんは?」
「…八月は…俺達の為に自分を犠牲にした。俺達はヴィランの総大将の所に飛ばされ…1戦交えたけど勝てなかった。…俺があの時捕まりさえしなければ…八月は…くそーーーー!」
切島の男泣きの理由を語るには少し時間を巻き戻す必要がある。
…………
「取り引きですって?」
いつの間にか痛みは無くなっていたが、切島君が押さえつけられている為、下手に個性を使えば押さえつけている護衛に殺されてしまう事は容易に想像が出来た。
彼はそういう事に躊躇するような人ではない事は教えて貰っていた。
「そうだ。今回の事は水に流して、お互いに有意義な取り引きをしようじゃないか。」
そうは言っているが有意義な条件を出す訳がない。が、従わなければ切島君だけではなく他の生徒達にも危害が加わるだろう。
「まずそちらに求めるのは先程と同じく私を治す事。そして、こちらが提供するのは第2陣による遊英高校襲撃を止める事と、更なる脳無の追加をしない事。どうだ?互いに有意義な条件だと思うのだが?」
確かにオール・フォー・ワンの言葉を信じれば大分均等な取り引きに見えるが、受けるには値しない。
「それはどちらが先?まさかとは思うけど、そんな安い取り引きで通じる程私は馬鹿じゃない。」
「どういう事だ?大分均等じゃねぇか…」
切島君は分かっていないようだけどこういう取り引きは安易に乗るのは危険でしかない。特にこういう男は油断してはいけない。
「ククク。お前の友達は騙せてもお前は騙せねぇか…ならどうして欲しい?」
「こちらの要件は第2陣による遊英高校襲撃の禁止と更なる脳無の追加禁止、私達の安全の確保。」
オール・フォー・ワンが言わなかったのは私達の事。つまり、彼は私に治させて切島君共々殺す事だって出来る訳だ。
卑怯な事だがこういう取り引きは確認しない方が悪いのである。
「そして、こちらから提供するのは私自身。どう?これならいいでしょう?」
「おい!八月何を言っているのか分かってるのか!」
「大丈夫よ切島君。皆んなによろしく言っておいてね。」
ここでの最善はこれしかない。彼は私という武器を欲しがっている筈だ。必ず乗ってくる筈だ。
「いいだろう。こちらはそれでいい。」
「八月俺の事は構うな!こんな連中の良いなりになることはないって!」
切島君が声を荒げて制止を呼び掛けているが、もうこれしか…
「お仲間はこう言っているが、どうする?他の生徒を救えるのはお前しかいない。」
「分かったわ。貴方の提案を受ける。その代わり…」
「分かっている。そこの男はちゃんと戻そう。言っておくが戻したからといって逃げられると思うなよ。お前の命はこちらが預かっているんだからな。」
そういうと切島君の姿が消え、オール・フォー・ワンの姿とここにいた護衛の姿も消えていた。逆に1人の男が私に近づいてきた。
「それでは先生の所へ案内する。」
その姿に驚いた。その人は私がよく知る人だった。足元を見るとガラスが砕け散った後があり、1つの答えにたどり着いた。
「貴方の個性をすっかり忘れていたわ。最初から居なかったのね。ここには…」
「そういう事だ。」
つまり今までの出来事は私の前にいる1人の男性による個性により生み出された空間にいたという事になる。
私もこうやって外に出されるまでは全く気づかない程繊細に出来た空間を生み出すその個性は
『パロラマ』。パロラマを作る事だけに特化したゴミ個性である。そしてこの男こそ八月道場を0から作り出した人である。
まさかの裏切り者の登場です。名前はまだ決めてません。次回には公開できるかな…
次回は入り口完結かな