R.I.D   作:神風雲

6 / 7
六話「欲望の糧」

 

 謎のパーティーが終わり、凝った肩を回しながらタワーを出た。辺りはすでに暗くなっていた。

 

 「それで、今日のお前はなんだったわけ?」

 

 秋悟には変身ベルトの事や何故ここにいたかを色々聞いた。

 

 まず秋悟が戦うために付けていたあのベルトとライダー。「バース」というライダーの改良型らしい。性能は力任せのためメタルと対等程、だがバースバスターを撃つために中身の人間が鍛えられているため並の力ではない。

 さらに属性メダル、メダルに描かれている物の違いによって発生するエネルギーを自身に適応させることができるらしい。

 バースは彼が最近手に入れたライダーベルトで、そもそもこの仕事の報酬がバース装備一式だったそうだ。

 バースと似たようなライダーがいくつか出撃していたが、あれはバースを簡略化且様々な状況に対応できるようにバリエーションを増やした物らしい。通称名は「バーツ」。バースⅡと言う意味と個々それぞれがパーツと言う意味らしい。

 

 「まあ俺が知ってるのはそれくらいだわな。もっとも、それ以上の事をお前らに話してバースを取り上げられでもしたらマジコレ共が許しちゃおかねぇ」

 

 マジコレと言うのは彼が集めているベルトの事だろう。ベルト集めの業界でも秋悟の名はかなり有名だ。

 その昔、彼はあるベルトを手に入れるために人を何人か殺めているらしい。今の彼は出所しているわけではなく、正義の限りを尽くすと言う口車で活動しているに過ぎないのだ。謂わば裏技だ。

 

 「それで、あなたはいくらほどベルトを保有しているのですか?」

 

 珍しく神父もとい宮井明が口を開いた。どうやら先ほどから秋悟の事をかなり警戒しているようで、ずっと睨みつけている。物珍しい物を見つけた犬のようだった。

 

 「そうだなぁ・・・ざっと10~20ってとこかな」

 

 「そ、そんなに・・・ですか・・・」

 

 「ああそうだ。まあ若干違うのも混じってるが。で、それが何か問題?」

 

 いえ、と話を区切り、目線を地面へ向けて驚いているようだった。俺もまさかそんなに持っているとは知らなかったためかなり驚いている。そもそもそんな量のベルトを世の中に出回らせて良いものなのかと色々突っ込みたいところもあった。

 

 「そういえばシロスケも昔ベルト三つ持ってたよな」

 

 「シロスケって・・・まだ覚えてんのかそれ」

 

 シロスケというのは昔秋悟と組んでいた時のあだ名だ。何かとあだ名を付けたがるこいつは俺にまであだ名を付けて来やがったのだ。ちなみに当時の秋悟のあだ名もといニックネームは「シュウマイ」

 そんな昔話に浸っていると神父が顔を上げて俺を睨んできた。

 

 「あなたまでそんな趣味があったのですか!?」

 

 「いや俺じゃなくてだな・・・・おいシュウマイ。てめーのおかげで一人誤解してるやつがいるぞ」

 

 その後神父の誤解を解くのに苦労した。

 俺がベルトを持っていたわけではなく、俺の親父が同じようなベルトを三つも保管していたのだ。

 二つは俺の持っているロストドライバー。何故か二つも置いてあった。もう一つはロストドライバーに変身スロットを二つ付け足したベルトだった。その後聞いた話では恐らくロストドライバーの上位互換「ダブルドライバー」なのではと聞いた。

 一人立ちする時に実家から送られてきたロストドライバーに手を付けたのは二年前の23歳の時だった。

 

 「そんなことがあったのですか」

 

 「まあベルト持ちにも色々事情があるってことだ。ってお前も持ってんじゃねーかよ」

 

 「これは・・・その・・・」

 

 口を閉ざしてまた下を向いてしまったため、何か事情があるのだろうと察した。だがそれでいてめんどくさい男だった。

 見た目は優男でいかにも正義心溢れる奴だが、内心は敵対意識が非常に高い。

 

 「まあいい。それよりお前これからどうするんだ?」

 

 バイクに近寄ってベルトの収納されている荷物を引っ掛ける。イクサの場合はバッグに、秋悟はかなり大きい箱に入れていた。

 俺のロストドライバーはベルト部分が自動収納されているため懐に入れていても問題ない。いつもそうして持ち歩いている。メモリは胸ポケットだ。

 

 「予定はありませんしこれからどこに行くかも決めてません」

 

 「ならちょうどいいな」

 

 そう言って俺は腰のポケットからメモを取り出して渡した。

 

 「これは?」

 

 「俺のお得意先さ、ちょいと人手が足りなくてね。明なら一人で5人も6人もの力がありそうだからな」

 

 「私を便利ロボットか何かと勘違いしてませんか?」

 

 それでも彼は承諾してくれたところ優しいのだろう。単に正義を掲げるだけではないようだ。

 

 「よろしく頼むぜ、神父殿」

 

 「どんな仕事かは知りませんが・・・高く付きますよ」

 

 溜め息の後に口角のつり上がる不気味な笑みを浮かべて言った。

 程々にな、と一言伝えてその日は解散した。

 

 

 

 

 イクサリオンに跨り、光り輝く摩天楼の間を縫って移動する。

 所狭しと並ぶビルや人の声は全て私の脳に入ってくる。全ての感覚が人よりも優れている私には人と同じような生活が難しい。生活音、たとえば機械音やエンジン音などは細かいところまで全て耳に入ってくる。そのためイクサリオンは最小限音を小さくしている。

 

 「ここですか」

 

 着いたのは都会の風景に合わない様な小さな喫茶店。夜はバーを営んでいるようで看板に二つの掲示がある。

 喫茶店「風車(かざぐるま)」。夜は「ブラッディバー」として営業時間が分かれている。

 

 「いらっしゃい」

 

 ドアを開けると懐かしく古風な匂いが飛び込んできた。拭いきれないコーヒーの匂いとカランと奏でる氷の音。

 

 「カラスは巣に戻りましたか?」

 

 「ええ、三又のカラスが帰りましたよ」

 

 カラスが巣に戻る、というのは暗号だ。この問いに対して肯定した者が待ち人と言うことになるのだが。

 

 「ではあなたがそうですか」

 

 答えたのは店主だった。かなりご老人に見受ける。

 

 「ええ、この歳にもなって。あなたこそその若さで戦士をなさっているのですね」

 

 戦士と言うのはライダーの事だろう。この老人も同じライダーなのだ。

 

 「私はそこらへんの金稼ぎのために活動している輩とは違いますよ。それより」

 

 私が本題を言う前に店主がケースを出してきた。

 カウンターの上に置かれた小ぶりなケース、開けると中には小さな機械とUSBメモリーが2本入っていた。

 小さな機械は一目でロストドライバーだと分かったが、2本のガイアメモリには見覚えが無かった。

 

 「このメモリは見た事が無いですね」

 

 一つは青いメモリ、もう一つは黄色いメモリだった。

 

 「青はトリガー、黄はルナ。相性の良いメモリです」

 

 「なるほど。ガイアメモリにも様々な種類があるのですね」

 

 「ええ、ではお願いします」

 

 「わかりました」

 

 話を進めるが、私の本職は運び屋だ。特に重要な物を運ぶのが主な仕事だが、最近はイクサでの戦闘が多かったことから護衛や討伐の仕事の方が多かったのだ。そこへ舞い込んできた依頼が『ライダーベルトの輸送及び護衛』だった。

 

 「ところで護衛と言うのは?」

 

 及び護衛というのが気にかかり質問をしてみる。

 

 「いや大したことではないのですがね、私も孫の顔を久しぶりに見たくなりまして。ついでに連れて言ってくれないかと」

 

 実はこの依頼を貰ったのは数ヶ月前なのだ。そこから仕事を始動するまでの間にころころ内容が変わっていた。恐らく私のスケジュールが合わない事で色々迷ってしまったのだろう。

 

 「わかりました。ではまた明日の朝にここへ」

 

 「ええ、私もずっとここですから」

 

 すでに時刻は夜の10時。路地で騒ぐ若者の声が徐々に黒い声へと変わって行った。

 

 イクサリオンを走り進めて数分。中華街に差しかかったところで事件は起きた。

 明りの消えた中華街から発砲音が数発鳴り響いたのだ。確認のために中華街へと侵入すると

 

 「何の用だァ?」

 

 いかにも腐りきった化け物の声が聞こえた。瞬間、目の前を刃が飛翔し、空気を切って行った。

 周りを見渡せば臭い若者達が何人か倒れていた。出血の量からして恐らく死んだだろう。拳銃を所持しているところを見るとお化け屋敷感覚で怪人のテリトリーに踏み込んだのだろう。

 

 「こんな時間にあなたこそ何の用があるのです?」

 

 「質問に質問を返すか・・・嫌いじゃねえぜその面」

 

 月明かりにうっすらと浮かび上がるのはカエルのような粘液で滴る不気味な顔だった。

 灰色をしており、地面の色と同化しているようだった。

 

 「はて、私はどうしたらいいでしょうか。ここであなたを倒すか、見なかったふりをして帰るか」

 

 「そりゃこっちとしたら見逃してほしいがよ、面妖な俺じゃどうも息がしにくい世の中なんでな。いっそ殺してくれた方がマシなんじゃねえかと最近思い始めたわけだ」

 

 「では殺して帰れと?」

 

 カエルは岩の様に重い腰を上げてこちらに歩み寄ってきた。体長は私とさほど変わらない。だが横に大きいためその大きさを体全身で表している。

 

 「いや・・・・そうだな。あんたがどれほど優しくて御人好しかを見極めるために、ちとゲームをしないか?」

 

 「ゲーム?どうするんですかそれは」

 

 「俺がお前に『手下にしてこき使わせてくれ』と頼む。そこでお前はどう動くか、ってゲーム、いや賭けだな」

 

 「私は他のライダーのように御人好しじゃないかもしれませんよ?それでもやりますか?」

 

 「どの道死ぬんだ、だったら面白い物見てから死にてぇだろ?」

 

 岩肌は笑った。表面を見ただけでは何も分からないが息遣いがそう伝えていた。

 ライダーをやっている私はライダーを好んでいないのだ。だからといって怪人派と言うわけではない。噂でもある通り、私は自神教者なのだ。自分以外を決して信じない。

 だがこの時私は不服にも楽しさを忘れられなかった。

 少しの間を持って

 

 「いいでしょう。あなたを私の下僕としてこき使ってあげるとしましょう」

 

 「おっ、意外と善人なこって」

 

 「元より怪人のサンプルの一体や二体を欲しいと思っていました」

 

 「早速毛皮扱いかい?慈悲もひったくれもありゃしねぇな」

 

 不快だが私は笑った。

 酒臭いカエルの化け物を一刻も早く清めてやりたかった。そう、私の求めた正義の象で――――――

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。