R.I.D   作:神風雲

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五話「試される世界」

 

海岸沿いにあったラーメン店に入り、すぐさま入口近くの席に座りこんだ。

 

 「私醤油でよろしく」

 

 「あ、じゃあ俺味噌・・・豚骨で」

 

 「こってりばっかだね」

 

 「好きなもん食わせろや」

 

 メカニカルなバイクが窓から覗く店でラーメンを二人で食べる。海岸沿いであまり人がいないからなのかやはり寂しい気がする。

 そんな時、ふとテレビの内容が耳に入った。昔ながらの食堂によくある壁掛けテレビだ。

 

 「昨日ハワイで発生した怪人の暴動事件。偶然現地に居合わせた日本の自衛隊員によって事件は沈静化されましたが。この自衛隊員が使用した兵装が、新たに実装された“改G3システム”というものらしいのですが、専門家の一瀬さん―――――――」

 

 何やら難しい話をしている様であった。ハワイで起こった怪人暴動事件。さらには改G3システム等と言う訳の分からない物まで出てきた。まるで世紀末のようだ。

 その後映像も出てきたがどうやら改G3というのは装着型のライダーシステムの一つらしい。機械チックな見た目はファイズにも似ていた。

 

 「あんなのもいるんだね」

 

 「まあファイズだって人が作ったんだからおかしくは無いだろ」

 

 「そっか・・・・じゃあそのうちヒロクンも戦わなくて良くなるかもね」

 

 「なんで俺が戦いを止めるんだ?」

 

 「だってヒロクン戦うこと嫌そうにしてたじゃん最初」

 

 昔を思い返すと確かに俺は戦うことが嫌だった。だが今では慣れてしまい、むしろ今では生甲斐でもある。

 

 「戦うことは悪い事とは言わないけど、それでもヒロクンが戦うには理由がないじゃない?」

 

 「戦う理由か・・・」

 

 俺は単にベルトを持ったから。そこに敵がいたから。命の危険が迫っていたから止む負えなく変身したのだ。それなのに今は敵を見かけるたびに変身し、それだけの敵を屠っている。

 なら何故戦う?何故戦う必要があるというのだ?

 俺はさっき、ファイズの追加部品を拾った。あの装備が何のためにあるのか、どうやって使うのか、なぜあそこにあったのかなんて全て分からない。だが俺は咄嗟にこの装備を戦いに使う物だと判断した。普通の人間から見ればただのデジタル時計にしか見えないと言うのに。

 既に俺は人を越えている人害なのかもしれないと思い始めてしまった。

 

 「ヒロクンは誰のために戦っているの?」

 

 その問いは酷く簡単で、世界一難しい問題だった。今の俺には答えなど出せない問い。

 

――――

 

 ラーメンを食べ終わり、俺達は海岸沿いを再び走っていた。また当てのない旅を続けるために。

 その間、ずっと先ほどの問いについて考えていた。

 

 「俺からファイズを取ったら何が残る?俺の役目なんて知らない」

 

 そんな自問自答をひたすらに繰り返していた。その時

 

 「ヒロクンあれ!!」

 

 魅依奈が指を差す先には空を滑空するコウモリ怪人が暴風を放っていた。ここから先にあるのは小さな町だ。都心から2時間で着く過疎化が進んだ誰も襲う気すら思わなさそうな小さな町。

 そんな町にコウモリ怪人が何の用だ。

 

 「チッ!こんなとこでかよ!」

 

 オートバジンを急がせ、コウモリに追いつく。追いついた時にはすでに破壊活動を始めていたころだった。

 俺はバッグからギアを取り出し、装着してファイズフォンに「555」のコードを入力してENTERを押す。

 

 

 《STANDING BY》

 

 

 「変身ッ!!」

 

 バックルにファイズフォンを押しこみ、水平にして

 

 

 《COMPLETE》

 

 

 赤いフォトンストリームに体が包まれ、光芒の後にスーツを形成した。左腕には自動的に先ほどのデジタル時計が装着されている。

 俺はファイズフォンをもう一度取り上げ「103」のコードを入力した。

 

 

 《SINGLE MODE》

 

 

 ファイズフォンの上画面を変形させフォンブラスターにしてコウモリ怪人に撃ち放つ。第二射第三射と連射し、火花を上げながら落下していった。

 すぐにオートバジンで後を追った。そこには大量の砂を撒き散らして歩く怪人がいた。

 以前にも同じように血の代わりに砂が出る怪人がいたのだが、後で調べた時に「イマジン」と言うワードが出てきた。恐らく今回もその類の怪人だろう。

 

 「ええい!貴様何者だ!!」

 

 「偶然通りすがった仮面ライダーだ。どこから湧いて出たのか知らないが駆逐させてもらうぜ」

 

 ファイズフォンを開き、オートバジンを変形させた。バイクのグリップを掴み、引き抜く。

 ヴォン、とエネルギーの通る音が鳴り、フォトンストリームが伝導するサーベルが出てきた。ファイズエッジと呼ばれるそれはファイズ専用の近接斬撃武器だ。

 

 「さぁ悩みも変化も全部お前のせいにしてブッ倒してやる!!」

 

 コウモリに思い切りファイズエッジを切りつける。派手に火花を散らしてよろつき、さらにもう一撃打撃を加える。

 

 「クソッ!お前などに邪魔されてたまるか!!」

 

 コウモリ怪人は両腕の翼を合わせて突風を飛ばしてきた。さすがにその威力は高く、前へ進むことが出来ない。

 その時ふと腕の時計が目に入った。突風が止み、一度時計の使い方を考えて見た。ミッションメモリーがあると言うことはファイズフォンに同じように装着すればいいと思い、特製のミッションメモリーをファイズフォンに押し込んだ。すると

 

 

 《COMPLETE》

 

 

 変身する時と同じ音声が流れ、胸部装甲板フルメタルラングがスライド展開され肩部へと移動する。同時に体を流れるフォトンストリームの色が銀色に変化し、開いた胸部装甲の内側で内部構造が露出している。

 この変化に俺は驚いたが、そう言っているうちにコウモリオバケが突風攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を見切る前に俺は腕のファイズアクセルのスタータースイッチを押した。

 

 

 《Start Up》

 

 

 瞬時に攻撃をかわし、身を翻して敵に接近した。その間わずか0.数秒なのだ。俺は移動しながらも驚き、ファイズフォンのENTERキーを押していた。

 

 

 《EXCEED CHARGE》

 

 

 エネルギーがチャージされたファイズエッジを連続で的に叩きつけ、高速化されいくつもの刃が連なってコウモリに殺到する。 

 

 

 《3...2...1...》

 

 

 最後は止まるように速度が落ち、全身が脱力する。

 

 

 《Time Out》

 

 

 アクセルメモリーをファイズフォンから引き抜き、ファイズアクセルに戻す。

 

 

 《Reformation》

 

 

 胸部装甲が元に戻り、フォトンブラッドの出力色も元の赤色に戻った。 

 コウモリのイマジンは他の敵と同じように体に「Φ」の文字を浮かび上がらせて爆散した。

 だが俺の心は晴れなかった。むしろ様々な疑問が湧いて出た。まず浮かんだ疑問は

 

 「何故、俺はこいつ(アクセル)の使い方を知っているんだ?」

 

 知っていたわけじゃないはずだった。よくある話で、装備した時に脳内に取り扱いの方法が直接入ってくると言うものがあるが、そう言ったイメージは入ってこなかった。

 まるで

 

 「最初から知っていた・・・・いや、俺は以前にこいつを使った事がある・・・のか?」

 

 不確定要素が多い、だがそれでいて妙な自信があったのだ。その事に深い不安感を覚える。

 俺は煤で汚れた手の平を見た。この手の平は普通の人間がする手ではない。地と泥で汚れた戦士の手だ

 

 「・・・・何が戦士だ、この野郎ッ!!」

 

 地面を殴った。

 俺は今まで何をしてきたのかに自信が失せたのだ。この間魅依奈が来た時も何をやっていたか忘れていたぐらいだ、ろくなことをやってこなかったに違いない。何もやってこなかった自分に怖くなった。

 

 

 ―――怖い?何が怖いんだ?敵に立ち向かうことは別に怖くない。むしろ誰も救えない事が怖い。

 

 

 瓦礫に埋もれた人間や人質に取られた人間を無残に殺すシーンを何度も見てきた。そのたびに俺は「救えなかった命」を深く意識するようになった。俺が、誰かがそうしていれば救えた命はもう帰ってこない。だからこそ後悔しないために俺はファイズとして戦っている。

 俺は居ても立っても居られなくなった。すぐにオートバジンに跨り、魅依奈を連れて再び走り出した。

 俺が何をしたのかを探すために。俺がこれから何をするかを探すために。

 

 

――――――――

 

 

 鴻上ファウンデーション本社

 

 

 

 

 「鴻上会長。目標01がスマートブレイン本社に寄りました」

 

 秘書と思われる長髪の女性が社長椅子に座る男に話しかける。

 

 「そうか。と言うことは“アレ”も手に入ったのかな?」

 

 「そのようです。先ほど衛星にてシルバーストリームの発生を検知しました」

 

 面白がるような顔をして顎を撫でた。後ろに向いていて分からなかったが、彼は何故かスマートフォンを眺めていた。

 

 「会長、そちらは開発中のシグマパッドでは?」

 

 背面に「∑」の文様が入ったスマートフォンは新たなライダーズギア「シグマギア」の変身部品のようだ。シグマフォン、シグマパッド等呼び方はいくらでもある。

 

 「ああ、その試作品だよ。シグマとは言えないから“シグマゼロ”と呼んでいるけどね」

 

 シグマゼロ。よく見ると∑マークの横に漢字で「零」と書かれていた。英文字で表さない表現方法はスマートブレインとの決別を表しているのだろう。単体で見るとセンスのいい携帯にしか見えない。

 

 「このベルトが完成すれば世界中のネットワークシステムは我が手の内に入る。そのための∑だ」

 

 「ですが誰が装着するのです?」

 

 会長と呼ばれる男は不気味な笑みを浮かべてシグマフォンを机にしまった。

 

 「何なら君が装着するかい?」

 

 「いいえ、私などが装着したところで灰化してしまいます」

 

 「確かにそうだな。でも安心したまえ。これはファイズ以上のセーフティーを掛けてある。普通の人間がそう簡単に変身などできんよ」

 

 ベルト本体はまだ出来ていないようだが既にプロトタイプが出来ていると言うことは完成も近いだろう。

 その時はまた、彼女が動き出す。

 

 


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