「ヒロクンただいまー!」
今日もまた奴が来た。まるで俺の部屋を自分の家の様に“帰宅”し、自分の部屋の様に寛いで行くのだ。怒りは無いが邪魔で仕方ない。
「ヒロクン掃除ぐらいしなよー!」
そしてうるさい。
「助けてー!」
外もうるさい。
仮面ライダーという仕事は疲れるものだ。毎日毎日マンションの前で騒ぎを起こし、人質を取り、無駄に人を殺し、無残に灰に帰す。
まったくつまらない日々だ。俺が住んでいる地域じゃ精々民間人に扮した温暖な敵が多い。敵と言うよりは制御が効かなくなった怪物なのだが。
「なんか色々疲れた」
「そりゃ毎日蹴って殴ってじゃ腰や肩にくるだろうね」
「そうじゃなくてだな・・・」
敵は湧くがあまりにも平和すぎるこの生活に飽きていた。そこで気分転換に魅依奈を連れて遠出してみることした。
場所は適当。風邪の向くまま気の向くまま。放浪の旅に出て見たのだ。
オートバジンで海道沿いを走りながら潮風を浴びていた。オートバジンが錆びるかと心配もしたが細かいことは気にせずに走りまくった。すると何の導きか、昔の実家、親父の経営していた会社の本社に着いてしまった。
「久しぶりだねー」
「そうだな・・・」
周りの風景と合わない高層ビル。妙にあしらった緑。そして変にアレンジのかかった「SMART BRAIN」の文字。
昔は家電から高校に至るまで様々なものを作ってきた大企業だった。だがオーバーワールドとして世界融合が起こってからは事業が衰退し、親父が死んだのをきっかけに会社は倒産、別会社の下敷きとなって今は形だけしか残ってない。
そして、親父が死んでから一年経った頃に届いたのが「ファイズギア」だった。
「入れるのかな?」
「たしかここのロックはパスワード式だったよな」
オートバジンを入口付近に置いておき、ビルの裏口へ回る。裏口の自動ドアの前でコードを入力する。昔の記憶を頼りに入力してみたが案外上手く行った。さらに指紋認証も自分のが登録されていたので難なく入れた。
「臭いな」
「ほこりっぽいね」
床も白く埃が乗っていて、家具やらは全てない。
地下発電で多少の電力は残っていたため、エレベーターでの移動が出来た。最高層フロアへ移動し、ドアが開くと、以前親父が使っていた部屋が現れた。
「懐かしいな。俺もよくここで遊んでたな」
「私と一緒にね」
「騒がしくてよく怒られてたけどな。主にお前が」
「うっ・・・」
埃の積もった社長机を確認し、引き出しを開けて見る。
何か入ってないか確認し、隣の本棚も確かめて見る。昔よく調べられなかった所を重点的に調べる。
「何してるの?」
「何か目ぼしいものがないか調べてる」
「・・・なんか泥棒みたいだね」
「一応ヒーローっぽい仕事してるんだからそういう発言は良くないと思うよ!?」
そう話していると一冊の本が手に取れた。大きさに対して重さがおかしかったため、ページをめくろうとすると固いプラスティックに当たり開けなかった。
試しに表紙だけをめくってみた。すると本の中は空洞で、赤い腕時計が入っていた。
「なんだこれ」
「デジタル時計?それにしては変な形してるね」
「ああ、でもこれ・・・」
一目で分かった。それがファイズギアのオプションだということに。画面の横に付属しているパーツは紛れもないミッションメモリだった。
俺はそれを左手首に装着し、妙な悪寒を感じて外へ出た。
「腹減ったから飯にするか」
「そうだねー。ここら辺どんな店があるかな」
魅依奈がスマホで近くの店を調べている間に俺は腕時計をギアのケースに収納する。丁度それらしきスペースがあったためすっぽり入った。
検索の結果、近くのラーメン店に行くこととなって、バジンを走らせた。
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「親父・・・」
先週、親父が倒れたと連絡があった。そこから葬式までの準備はとんとんと進んだ。
当時俺は21歳。大学に通うために一人立ちしていた。そんな平穏な日々に訪れたのがファイズギアだった。
「なんでこんなもん持ってたんだよ」
スマートブレイン製の改良型ファイズギア。そう説明書には書かれていた。親父の遺書らしきものと共に。
内容は実につまらない物だった。オルフェノクがどうだとか怪人を倒すだとか。正義がなんだって言うんだ。
それでも俺はギアを装着してしまった。
《READY》
気が付いたらファイズショットを腕に装着し、殴りかかっていた。
《EXCEED CHARGE》
罪悪感は無い。むしろ人助けをしたような喜びと達成感に覆われる。
たが俺はそれを単なる闘争本能ではなく、正義感と勘違いしてしまったのだ。
人間と言う存在からかけ離れた者達を地獄へ屠る存在「ファイズ」へと俺は変わって行った。