「さぁ、もう一度始めよう。終わりなき戦争を」
それが最後の一言だった。
頭に突き付けられた銃口はディバインアーマーで形成されたスーツの人間が持っているライドブッカーだ。
マゼンタ色のライダーは仮面の下でにやりと怪しい笑みを浮かべた。
「クソッ・・・・」
力尽きた声が仮面の中に響いて消える。
「また、会おう」
目の前の空間が歪み、一筋の閃光が煌めいた。
そこで俺の意識が途切れ、再びあの日へと戻された。
――――――――――――
壁に掛けられている時計が午後二時を刻む。
今日も一日が終わってしまう。今自分が何をしていたかも忘れた。
かなり怠惰な生活を“
「俺何してたっけな・・・」
考えようとした瞬間、甲高いアラーム音に邪魔された。
振り向いて見張ると、電子レンジのランプが点滅していた。何かをレンジで温めていたようだが思い出せず、レンジを開けて中に入っていた食料を取り出す。
「そういえばこんなの温めてたな」
中にはコンビニで買ってきたカレーパンが入っていた。暖め過ぎたのか袋ごと熱い。
それでも我慢して中身を出すと、意外と熱くない事を確認した。口に運びこむと。
「熱っ!!」
パンの中に入っていたカレーが異常なほど熱く感じ、勢いで口から出してしまった。
はふはふ、と口に含みながら息を出す。
「熱いものも食えないのかよ俺。これも親父のせいだな」
愚痴りながらもカレーパンを食べ終える。
丁度その時、玄関の方からインターホンが連続で鳴り響いた。13階建てのマンションの一室に用があるのは大体あいつだ。
「おっはよー!ヒロクン」
インターホンの連打に加え、黄色い女声がマンションの一角に響く。相変わらず喧しい女だ。
「たしか今午後だよな」
「うんでもヒロクンは今起きたんだよね?」
「お前俺を引きニートか何かと勘違いしてないか?」
「やだなーヒロクン自覚してるんじゃん」
このキャンキャン五月蝿い女は“
俺が小さい頃、親父の友達で知り合ったのがこの女だった。当時からこの調子で狂わされている。
見た目は黄色いパーカーをいつも着込み、長い黒茶の髪の毛を後ろで括っている可愛らしい女性だ。中身はかなりの変態だが、見た目通りの性格ならば求婚をしていたところだ。
何よりこいつのウザいところは、俺の事を「クン」付けで呼ぶことだ。昔は取引先の娘と言う立場のためこの呼び方で通っていたが、四年前に親父が死んでからは“勝手に嫁候補入り”だった。
「まあ外でいるのもなんだから部屋に入・・・ってもう勝手に入ってるな」
俺の腕を潜り通って部屋に踏み入る魅依奈。
すると部屋に入るなり匂いを嗅ぎだす。とてつもなく無礼だ。
「カレーパン食べたでしょ。匂いきついよ」
無礼も無礼。人の部屋を臭いと言いだすのだ。
「うるせえよ!人が何食おうと勝手だろ!」
こう言う会話をほぼ毎日続けている。おかげで暇にならなくて良いことだがその代わり毎日がうるさい。
「キャー!!」
そう、こんな風に毎日毎日悲鳴と轟音が絶えることは無い。本当に迷惑で仕方の無い。
「チッ、今度はなんだぁ?」
マンションの8階から下を見下ろす。そこには異形の怪物と、それを取り囲む男三人。そして今現在襲われているであろう女性が一人突っ立っていた。
「どうする?助けちゃう?」
俺には関係が無いことだ。だからあの関係に水を差す気も一切無いはずだ。
だが
「見てらんねぇからな。それに近所で暴れられると迷惑だ」
御人好しで強者になった俺には見捨てられないのだ。
「それでこそヒロクンライダー!」
うるせぇ、と文句を吐きながら俺は部屋の中に捨て置かれているケースを開き、中に収納されている一式を取り出して腰に装着する。
異形の携帯を片手に部屋を飛び出し、急いで階段を下りていく。その最中も魅依奈は俺の側を着いてきた。
下へ降り、怪人と取り囲む男共の間を駆け出る。
「誰だお前は!」
幾度となく聞いたこのセリフ。響きの良いこの言葉を聞くと俺は敵を倒すことに緊張と好感を覚える。
「人様の家前でそんなことされるとこっちも日常困るんだよ。まあ俺にとっちゃ仕事以外のなんでもないからこれはこれでいいんだけどな」
「うるさい!関係の無い奴は消え去れ!!」
怪人が何かの動作をし始めた。それに勘付き、俺は咄嗟に携帯に「5821」を入力してENTERキーを押した。
《AUTOBAJIN VEHICLE MODE》
すぐ隣の駐車場に止められていたメカニカルなバイクが急発進して怪人に突撃した。
その衝撃で体勢を崩した怪人は地面に倒れ込んだままこちらを睨んだ。
「ってーな!ほんとなんなんだよお前は!!」
「俗に言う仮面ライダーだ。別に言わなくても知ってるだろ?」
携帯に「555」のコードを入力し、ENTERを押した。
《STANDING BY》
アラーム音と共に機械声が鳴り、激しいバイブレーションが浩人を覆う。
変身用携帯「ファイズフォン」を持った腕を上へ突き上げ、こう叫ぶ。
「変身!!」
ファイズフォンをベルトに押し込み、水平な状態へセットする。
《COMPLETE》
ライダーズギアから流れ出るフォトンブラッドが体を包み込み、フォトンストリームを形成する。体を包む光が激しくなり、収まった瞬間には浩人の体をファイズギアが覆っていた。
体を流れる赤いラインに、機械的なボディ。そして『Φ』を模ったライダーフェイスはそのライダーを意味示していた。
「仮面ライダーファイズ。今日は覚えて帰れよ」
仮面ライダーファイズ。科学と知恵の結晶により生みだされた最悪のライダー。
装着者を最悪死に至らしめるベルト系列にあるが、中でも安全な方に位置する。その証拠にフォトンブラッドも一番出力の低い赤が流れている。
対オルフェノク用として作られたが、今はベルトの改良によって様々な場面に適応できるよう作りかえられている。
「ここで降参して大人しく帰るか、ここで死ぬか。選びな」
そう言いながら俺は腰に装備されてあるファイズポインターを右足にある装着穴へ装備する。最後にファイズフォンに付属されてあるミッションメモリーをファイズポインターに差し込めば準備は完了だ。
「そんなもの!俺にはもう時間が無いんだ!オルフェノクとして生まれた俺にはもう!」
「そういうのどーでもいいから。さっさと選んでくれる?こっちは食後で運動したくないんだよ。その見た目吐きそうだわ」
「なんだと・・・ッ!!」
わざと挑発する。怪人はまるでナマコやウミウシのような気持ち悪い見た目のため、早く殺したいのは事実だ。
いずれにせよ奴がここで殺されようが逃げようが、この国の警備態勢に捕獲されて死ぬだけだ。
怪人に生まれた運命は最初から決まっているものだ。
「決めたよ、ここでお前もこいつらも!全員殺して死んでやるぅ!!」
情けない雄叫びを聞いたことを確認し、ミッションメモリーをファイズポインターに差し込んだ。
《READY》
「うおぉぉぉぉおおお!!」
気持ち悪い怪人がこちらに走り襲ってくる。この場面に俺は何度も居合わせ、何度も目の前の敵を狩ってきた。
そして今回も、ファイズフォンのENTERキーを押した。
《EXCEED CHARGE》
右脚にフォトンブラッドが集中し、大地を蹴った。
空を仰ぎ、右足を怪人に向ける。足先のファイズポインターから円錐状の赤いラインが飛び出し、怪人をポイントとして拘束する。
そのままポイントに向けて脚を蹴りだし、フォトンブラッドの引き寄せる力で一瞬視界から消えるように見える。実際は目標にヒットしており、その際に敵体内に猛毒のフォトンブラッドを流し込んでいるのだ。
最後に姿を現した時はすでに怪人の背後で脚を突き出して立っていた。
「うぅ・・・がァ・・・・ァァ」
怪人の体を襲う衝撃と共に体に「Φ」のマークを浮かび上がらせて灰化して崩れ落ちた。
文字通り、灰と化したのだ。
さっきまで目の前で威勢良く踊っていた奴が気づいた時には粉々だった、と言うのはあまりにも呆気無く、だがそれでいて妙な満足感がある。
本来ファイズギアはオルフェノク適正のあるものが装着できる物だった。まるで友撃ちのようだが、今の浩人はオルフェノクではない。
「今回も早く終わったね」
魅依奈が傍に駆け寄ってきて感想を述べる。
「早めに終わらせてぇだろ。食後にあんなの見せられちゃぁさ」
「そうだね。たしかにあれはキモかった」
感想を文句と無慈悲に変えつつベルトを外し変身を解いた。
後ろに立っている“関係者”との話は警察やら何やらに任せて俺達は部屋に戻った。
新西暦98年。この世には怪人蔓延る異世紀と化していた。
そんな危なっかしい世の中で一際正義を誇る存在が、俺達“仮面ライダー”だった。
発掘した作品の記憶を辿りに進めていきます。
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