秋くれて ふかき紅葉は 山ひめの。定家はよくもまぁこんな風流な例えが思い浮かんだものだよ。
良いねぇ、この季節は山一面が真っ赤に染まって本当に綺麗だ。夏の緑も爽やかで好きだけど、秋の赤もまた違った美しさがあって面白いと思うよ。
ほんと、造ったみたいに濃くて綺麗な赤色だよ。もしかしたらこの色は、神様が私達を楽しませるためにわざわざ新調してくださったものなのかも知れないねぇ。いやはや、地獄からやってきた死神も分け隔てなく歓待してくださるなんて何ともありがたいことだ。
……だからね、そこな白狼天狗さんや。別にあたいの血で紅葉をさらに赤くしようとしなくたって良いんじゃないかなぁ。ホラ、ドス黒い赤色って綺麗というよりは猟奇的じゃん。だからさ、そんな陽の光を反射してきらりと光る物騒な得物は腰にしまってしまってぃっ!?
あ、あっぶな……。無抵抗の死神を警告もなしに袈裟斬りにしようとするなんて、あんたそれでも血の通った生き物かい。近頃の荒くれでももう少し人の情ってものを持ってるだろうに。
不法侵入者?あたいが?…いやいや、ちょいと待っておくれよ天狗さん。あたいはきちんと許可を取ってからこの山に入ったさ。断じて不法侵入なんかしていない。
誰にって、文ちゃん。そうそう、射命丸の文ちゃんだよ。ついさっきたまたま人里で取材中のあの子に会ってさ、その時に山へ立ち入って良いか聞いたら二つ返事で許可をくれたんだよ。本当だって、嘘なんかじゃない。疑うんなら文ちゃん本人に聞いてみれば良いじゃあないか。
あぁ。うん、文ちゃんとは仲良くさせてもらってるよ。…今日のあの子の服装を答えろって?いつも通りの黒くて短いスカートに、白い半袖のシャツ。あと、珍しくあの白い毛玉みたいなのが付いた帽子は被ってなかったね。何処かに置き忘れでもしたのかなぁ。
さ、これであたいの無罪は立証されたかい?うんうん、分かってもらえて嬉しいよ。ま、安心してよ。あたいは山を荒らしにきたわけでも誰かにケンカを吹っかけにきたわけでもないからさ。
ここに来た目的はね、ただのんびりこの探索しがいがありそうな山を歩いて回りたいだけなんだ。いい加減仕事にも疲れたしね、少し息抜きでもできればなって。
それじゃあ、あたいは山の味覚を探すとしよう。栗なんか良いかな、いやいや紅葉の天麩羅もカリッと甘くて捨てがたい。いざゆかん秋の名物巡り、天狗さんもご縁があればまた。
さてさて、まずはもう少しばかり山を登ってみるとするかねぇ。
……えっと、天狗さんや。一つ聞いても良いかい、どうしてついてくるのかな。いやあたいは良いんだよ、一人より二人の方が歩いてて楽しいに決まってるしさ。ただ、さっきのやり取りもあったわけだ。だから理由をちょいと教えてほしくてね。
ふむ。あたいが文ちゃんの知り合いだっていうからどんな奴なのか気になったってことかな。それで、実際に一緒に行動してみてあたいの人となりを把握しようって腹だね。そう言われても、あたいはただの人畜無害な死神なんだけどねぇ。
良いよ、気になるってんなら探ってもらっても。どうせ叩かれたところで大した埃が落ちるでもなし、なら存分にはたき回してくれて結構さ。勿論、実際に手を出すのは遠慮しておくれよ?至近距離からの抜刀なんて避けられるほどあたいは訓練されていないからね。
ふむ。
さしあたっては、この近辺で美味しいものがある場所ってないかな。あわよくば、幾つか頂戴させて頂きたいなーなんて……。
もう少し登れば大きな栗を実らせる木があるのか。それで、肝心のお持ち帰りの方は……多少なら問題ないかい!良かった、ありがたいありがたい。栗は美味しいんだよねぇ、焼いても良し添えても良しの万能食材だよ。
そういうことなら、早速そこへ向かおう。四つほど収穫できれば上出来かな、最低でもあたいの分とあの方の分は確保したいところだね。特にあの方の分は、確保できないなんて事態になろうものならあたいの身が危ない。
あぁ、そうなんだよ。あたいの上司はね、自由奔放で自分の感情にどこまでも正直なお方なんだ。おまけに困った悪へ……コホン、習慣をお持ちでいらっしゃる。まぁ簡単に言うと、人の隠したいことをわざわざ暴き出してそいつの前で言っちまうのさ。しかもそうする目的が暇潰しなんだからいよいよもって暴かれたやつが救われないんだよねぇ。
椛ちゃんも上司で悩んでるクチかい。…へぇ、あの文ちゃんの部下として働いているんだね。それはまた、陳腐な表現で悪いけれどすっごい大変そうだねぇ。多いんじゃない?あっちへ行きましょうこっちへ行きましょうって振り回されること。分かるよ、何で暇じゃない自分を選ぶんだろうっていうその気持ちは痛いほどに分かる。
この前も、何度目になるか分からないけど閻魔様の外遊に付き合わされてね。はるばる人里の外れまでお供してきたのさ。……ん?あれ、そういえば言ってなかったっけ。そうだよ、あたいの言ってる上司っていうのは閻魔様のこと。
だいじょーぶだいじょーぶ。そもそも閻魔様が職務すっぽかして出かけたりしなかったら良い話なんだからさ、あたいの愚痴も少しくらい黙認されて然るべきだよ。これは必要なガス抜きなんだ、決して悪意ありきの陰口ではない。
それでね、里の外れに寺が一つ建てられてるのを知ってるかい?そう、
閻魔様、そこに一人面白い修行僧がいるって仰って突撃しにいっちゃってさ。いや、修行僧の邪魔をするべきではないんじゃないかなぁっていうあたいの思いも通じず、あの方とあたいは命蓮寺の門前に辿り着くことになったわけだ。
門前の掃き掃除をしていた可愛らしい
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中に入った時に一番はじめに思ったのは、随分と整備の行き届いている寺だってこと。設備は割と古さを感じさせるものだったけど、ボロさは見受けられなかったなぁ。経てきた年月にそぐわない状態の良さっていうのかね、そんなものが見えたよ。
雰囲気よし、設備よし。こりゃあ足しげく通うに相応しい立派な寺だなぁと感心してたら、奥の方から尼さんが一人こっちの方へ歩いてきたんだ。異なる二色の髪をした、高潔な尼さんだったよ。あれは大分修行を積まなきゃ到達できない領域に入ってる仏僧の雰囲気だった。
「閻魔様とお見受け致します。そちらは、死神様でいらっしゃるようですね。はるばるの御足労、感謝致します。して、本日は如何なされたのでしょうか」
仏教徒だからかな、閻魔様に対してかなり下手に出ていたね。いや元々閻魔様に対して高圧的な態度で臨むことのできる方ってほぼいないに等しいんだけどさ。
「
「当然のことでございます」
「大変結構。…今日私達がここへ来たのは、ある一人の修行僧と話がしたいからです」
そう言えば、聖は僅かに緊張した様子を見せたね。
「修行僧でございますか。…もしやその者が、閻魔様に何か粗相を働きましたでしょうか」
「いえ、そういうわけではないのです。聖 白蓮、
「一輪ですか。はい、確かに現在寺にて修行を行っています。至急呼んで参りますので暫くお待ちを」
早足でその一輪っていう尼さんを呼びに行ってくれたんだ。自分のやらなきゃいけない修行とかもあっただろうに、今思えば二人の尼さんには済まないことをしたよ。無論、閻魔様がね。
入り口の近くで待つこと数分、聖が一人の女性を連れて帰ってきた。あたい達の前までやってきてお待たせ致しました、って詫びの文言を加えたあと、連れてきた女性についての紹介をしてくれたんだ。
「閻魔様、死神様。こちらが雲居 一輪でございます」
「ありがとうございます。聖 白蓮、貴女は自分の成すべきことを成しに戻りなさい」
「承知」
即座に踵を返して寺の内部へと戻っていったよ。閻魔様の突然の来訪にも、事情を詳しく説明しないままの修行僧召喚要求にも嫌な顔一つせず応じてくれるなんて、聖は本当に優しいやつだったなぁ。
一方、何故自分が閻魔様から直接名指しで呼び出されているのか分かっていない一輪はおろおろしてた。そりゃあね、普段絶対会わない超格上の相手様からいきなりご指名なんて受けたら訳分かんなくなるよね。
あたいだってかつて地獄を統率していらっしゃったあの御方とサシで話せとか言われても右往左往するしかできないよ。まったく、格の差ってものを少しは考えてくれないものか。……あぁ、いや。ごめんね、こっちの話だよ。
「え、閻魔様に死神様。この私めに、如何なる御用でございましょうか」
例え自らを遥かに上回る上位存在がいたとしても、黙っているわけにはいかないと思ったんだろうね。何とか気力を振り絞ってあたい達に事情を聞こうとしてきたんだ。見上げた勇気だよ、膝が笑うほど怖かったろうに。彼女の横に控えていた入道が心配そうに彼女を見ていたのが印象的だったね。
「雲居 一輪。貴女に一つ、忠告しておくべき事があります。私達はそのために来ています」
私達って、あたいを含めないで頂きたい。あたいは別に一輪に言うことなんか無かったんだもの。
そうそう!厄介な上司ってのは部下をさらっと共犯者に仕立てあげてくるよね。こっちからすれば冤罪も甚だしいんだ、まるで加担しているかのような物言いは謹んで御遠慮してもらいたいよねぇ。
「忠告、と申しますと」
「心配しなくても、貴女の修行に対する態度を詰るつもりはありませんよ。貴女は寧ろ、普段よりよく細事を積み重ね徳を得ている。尼としては賞賛に値するでしょう」
ま、そんな酷い閻魔様だけど嘘をつく方じゃあないしそもそもつけない。賞賛に値するってんなら、きっとそうなんだろう。直々にお褒めの言葉をかけてもらえるなんて、随分と羨ましいことだよ。
「あ、ありがとうございます。しかし、そうなりますと閻魔様は私に何をお伝え下さるのでしょうか」
「まぁ一度落ち着きなさい。貴女は少し、結論を得ることを急ぎすぎている。……そうですね」
言うなり閻魔様は、びしっと悔悟の棒を一輪に突きつけた。びっくりして肩が跳ね上がる一輪を他所に、閻魔様はその忠告とやらを話し始めなさったんだ。
「
「…はい。確かに存じ上げております」
その名前を聞いた瞬間、一瞬だけ一輪の目が泳いだんだ。あたいに見えたんだから、閻魔様もまぁ見逃してたってことはないだろうさ。
これは何か隠してそうだなぁと思った時には、既にさっきまでの一輪に戻ってたよ。本人も態度が変わっちまったのを自覚したんだろうね。
「コホン。…雲居 一輪、善意は結構ですがあまり彼女に手を貸しすぎてはいけませんよ」
「……!」
まぁすぐにその偽装も剥がれちまったんだけど。
「…なんと、このことをご存知でいらっしゃいましたか」
「閻魔ですから」
いやだから、答えになってるようでなってないんだよ。確かに閻魔様ともなればあの鏡があるし、隠し事の一つや二つくらい簡単に暴けるんだろうけどさ。存在そのものが理由になるってのはどうなのかねぇ。
あたいは微妙に納得がいってないんだけど、椛ちゃんはどう思う?…飛び抜けたごく一部については致し方ないと思うしかない、か。なるほどそれも一つの意見として有り得る。
「彼女は先の異変において少々打つ手を間違えてしまいました。その後それに気が付き貴女方に協力する姿勢を示しましたが、やはり最初の印象というものは無視できない。封獣 ぬえは異変よりそれなりの時間が経過している今においても何処か命蓮寺の面々に馴染めていない」
それを見かねた貴女は、彼女が何とか命蓮寺の者達と心から打ち解けられるよう八方手を尽くしている。悔悟の棒を突きつけたまま、閻魔様はそう仰った。
「貴女も薄々このままではいけないと自覚していることでしょう。ですが、分かっているからといって放置しておくのは貴女の心が良しとしない」
「……まさに仰る通りでございます」
一輪は優しいやつだと思ったさ。詳しい事情は分からないけど、馴染めてないやつを何とか馴染ませようとしてたんだから。手の貸しすぎは確かに良くないかも知れないけど、
「勘違いしないように。手を貸すこと自体は決して悪ではないのです。私は、限度というものを考えてほしいだけなのですよ」
閻魔様も、手を貸すという選択肢を選んだことを責めてはなかったね。まぁ何事にも相応しい節度ってものがあるからね、それを見極めるのって存外難しかったりするよ。
「必要ならば、寺の仲間に協力を仰いでも良いでしょう。
ただし、と若干語気を強めて閻魔様はセリフを続けなさった。
「繰り返しになりますが、一から十まで貴女達が援助するというのは御法度です。命蓮寺に馴染みたいと考えているのは封獣 ぬえであって、そのために最も努力しなければならないのも彼女なのですから」
要するに、本人の努力が必要不可欠ってことだね。…あの方は何でも回りくどく言うものだから、側で聞いてるあたいはたまに頭痛がしてきちゃうんだよ。格式的な問題もあるんだろうけど、もう少し分かりやすい言葉を使っても良いんじゃないかとは思うな。
仕方ないだろう、あたいに学を求める方が間違ってるんだよ。…勉強しろってかい?ハハ、返す言葉もないとはこのことだ。如何にしてバレずにサボるかみたいなことなら喜んで学びたいんだけど、一般教養とかになってくるとどうしても意欲が湧かないねぇ。
おっと、話が逸れたね。本筋に戻すとしよう。
「そうですね。確かに私は独断的な行動をしてしまっていた。ぬえにも寺の皆にも迷惑をかけてしまっていたことでしょう、申し訳ないことをしてしまいました」
「自らの行動を省みて自己分析できるなら、以後は恙無く事が運ばれていくでしょう」
最近としては珍しいことなんだけど、相手が顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりすることなく、わりあい平和に話の決着がついたんだ。こんなお手本通りの良い話みたいな終わり方をするのはいつ以来だろうなってあたいが遠い過去に思いを馳せてたら、閻魔様がちらと一輪から視線を外したんだ。心なしか、棒の指す先も移動したよ。
何だろうと思って見ていたら、閻魔様はさっきまでより一段階声量を上げてこう仰った。
「
そこであたいも初めて気がついたんだけどね、柱の影からそっとこちらの様子を窺っている妖怪が一体いたんだよ。黒くて短いスカートが見えてたから女の子だったのかな。閻魔様に存在を看破されるなり慌てた感じで中へ引っ込んじゃったから、引き止める暇もなかったよ。
本当に、ろくにそっちの方を見たわけでもないはずなのによく気が付きなさる。説教をしながらでも何処に誰がいるのかを完璧に把握できるというのは、気配察知の力量が尋常じゃない証拠だよね。
きっとあの方に不意打ちなんて食らわせるのは至難の技なんだろうさ。いや、実力的な観点から言うなら勿論当たり前だよ。
「閻魔様?」
「お気になさらず」
今までと違う閻魔様の調子に疑問を抱いたらしい一輪をひょいと煙に巻いて、あの方は向かって一輪の右側奥に位置してた柱を指し示す悔悟の棒を下しなさった。
「さて。言うべきことは言いましたし、あまり修行中の尼の妨害をしたくはありません。私たちはここでお暇することにしましょう。…それでは、雲居 一輪。聖 白蓮らによろしくお伝えください」
「了解致しました。遠路遥々の御足労及び有り難い御説教、重ね重ね篤く感謝申し上げます」
有り難いって言葉も、きっとあたいが何気なく使っているのとは心構えからして違ってくるんだろうなぁ。一輪の頭の中には
やっぱりこの手の話は、心を込めろとか勉強しろっていう結論に繋がってくるよね。やだよ、そんなことに時間を割くくらいならあたいは秋刀魚を焼いて食べるか酒が飲みたい。なんでって、そんなの決まってるじゃないか。勉強は不味いけど食べ物は美味しいからだよ。…椛ちゃん、不学の阿呆に心底呆れる気持ちは分からないでもないけどそんな冷えきった視線を向けないでおくれ。痛いよ、心が。
「見送りは結構です。善行を積みに戻りなさい」
「それでは、そのように」
深々と三秒お辞儀をした一輪が頭を上げて寺の中に戻っていってから、あたい達は門の外へと出たんだ。その後で、あたいは気にかかったから聞いてみたんだ。今回はあまり相手の心を抉りませんでしたねって。
そしたらあの方、甘いですねって仰る。何が甘いのか皆目検討もつかなかったから、どういうことか尋ねたらそこでようやく……って言うべきか分からないけど下卑た笑みを浮かべなさってね。
「考えてみてください。あの妖怪は、私が説教をしている間ずっとあの柱に隠れていたのです」
さてさて、事情を知ってなお皆に優しくされるというのは、どんな気分を味わうものなのでしょうか。くくく、と押し殺した邪悪な笑い声を聞いて、あぁやっぱり閻魔様は下衆なことをしなさると思ったよ。…でもまぁ、歪の過ぎる方法とはいえ一応命蓮寺の面々の仲が取り持たれる結果になりそうだったし、閻魔として許容範囲ではあるのかな。
次にあそこを訪れた時には、多分弄られっ娘が一人増えていることだろう。加虐趣味な知り合い誘ってまた今度行ってみようと心に決めながら、あたいは閻魔様を連れて地獄へと戻ったのさ。
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話はこれで終わり。これはまた、随分と長くなっちまったね。話が長引くのはあたいの癖みたいなものでね、ごめんよ。
暇を潰せる程度には聞き入れる話だったんだね。そりゃあ話し手冥利に尽きるってもんだよ。あたいとしては、変に気を遣われて面白かったと言われるよりそういった正直な及第点評価の方が嬉しいのさ。
ん?あそこの大木が探し求めていた大きな栗のなる木かい!ほうほう、それで栗の実の方は……おぉ、確かにかなり大きいね。これだけ実が分厚いと食べごたえが凄そうだ。
一先ず二つ頂戴しても良いかな。ありがとね、よっ……と。痛た、棘も鋭いねこいつらは。うっかり手とかに刺さらないように気をつけて持って帰らないと。
お、どうしたんだい椛ちゃん。……え、この木になる栗は文ちゃん御用達の秘蔵ものだって?いや、そんな上物を頂いても良いのかい。あの子確か、烏天狗の中でも相当な部類に入る子だったろう。
あ、良いんだね。しかも、今この辺りにあたい達二人以外は誰もいないから、さっさと欲しいだけ持って帰れときたか。もしかしてだけど、ちょっとした意趣返しみたいなことでも目論んでるのかい?普段振り回されてるお返しに食べられる栗を減らしてやろうみたいな感じでさ。
あぁ、やっぱりね。可愛い顔して中々イイことするじゃあないか、あたいは隠れイタズラっ子が好きなんだ。気に入ったよ、そういうことならいっちょ奮起して十ほど持って帰らせてもらうとしようじゃあないか。栗を地獄に移して、それからあたい自身が地獄に戻るのが手の安全的に一番良さそうだね。
ふむ。山の動物が今年は例年より盛んに動いていたのでしょうってことで誤魔化すんだね。よしよし、それじゃあ文ちゃんにそう言っておいておくれよ。ふふふ、楽しみに待たれているところを横どって食べるものはさぞかし甘美な味がするんだろうねぇ……って。
いけないいけない。これじゃああたいも閻魔様みたいじゃあないか。