1-5
私は自動車を使って速度違反をしながら、例の公園に到着する。
駐車して走っていくのはかったるいので、一度やったことがある二輪走行をして公園内に入り込む。
帰りも同じようにスタントができる壁があるので、経路は確保した。
そして散歩道を突破して、近くの憩いの場に停車させる。
鍵を閉めてそのまま、緑色の光に包まれている所へ走っていった。
「ユーノ、来ましたよ」
「一之瀬さん!状況を端的に言いますと、敵にリンカーコアを取られましてなのはが昏睡状態に!」
「専門用語が出てきたが、それは命に関わることで尚も敵が追ってきているということですね?」
「そ、そうです!」
ユーノがそう云った瞬間、何者かの気配を水辺から大量に感じた。
それと同時に河口である水面に桃色の光が灯る。
徐々に光が強くなるのと共に、その何者かが大量に地上に出現する。
「オイオイオイ、逃げんなよォ。俺達の食事を邪魔しようってかァ?」
水中から出現したのは、耳の部分が魚のヒレとなった何とも言えない人型の異形だった。
総勢50人程度。
その中に一人右手に、大きく輝く桃色の珠がある。
これがリンカーコアだと思われる。
うん、ぶち殺し決定だ。
法律は人間に課される。異形人や異邦人には、課されることがない。
「少し待ってください。何故それを持っているのですか?」
「ん?あぁ、知らねぇのか。んじゃ、冥土の土産に教えてやるよ」
敵にありがちな軽口か。正直いってありがたい。
「俺達魔族はな、人間の感情から出てくる瘴気を食って強くなったり、魔界っつーところに捧げて現界を保ってんだ。
でもなそれだけじゃたりねぇんだ。もっと強くなるためには、その巨大な奴を食わねぇといけねぇんだ。
例えば、魔力。これは単純に瘴気に換算される奴だ。誰でも持ってる。
次にソウルジェム。これは何故か知らんが、12~15の思春期真っ盛りの女からしか物理的に採取できねぇ。
特に真っ黒に染まった時が喰い時だァ。
最後にリンカーコア。こいつはソウルジェムよりも珍しいながらも圧縮され、超強大な瘴気に変換できる魔力がある。
こいつだけで俺は魔王クラスに成れる。
だがなぁ、こいつは持ち主の意思がねぇと変換できねェんだ。
だからその本体くれよ。女だから楽しみがいがあるし、堕としやすい」
「ど、どうやって奪ったんだ……!?」
私は怯えているように演技する。
上手く行っているかな?
「どうってよォ……どうするんだ?」
「俺達魔族や天使等が争うと、そこだけ異次元に呑みこまれるんだよ。勿論、魔力を使った瞬間もだな」
「そーそーで、戻し方は普通に突っ込めばいいんだよな」
「「そーだな」」
なるほど、案外簡単な感じだなぁ。
「と云う訳で、にいちゃん。死んでくれや」
一気に駆けよってくる。
それぞれを見るが、水中が得意なのか走るのが苦手なのが40名。
まず地上にいるだけで苦しそうにしているのが、15名。
元気に駆けてきているのは、たったの5名だ。
司令塔はその場に突っ立っているだけ。
なるほど。
戦力はガタガタってわけだ。
だったら、簡単だな。
「「ひっ」」
「何怯んでやがる!弱い人間だ、ヤレ!」
確かに人間離れした容姿に、爪等の凶器だ。
でもそれしかないようだ。
一部は人間になり切れていないのか、魚眼によりその場で嘔吐している馬鹿もいる。
私は殴ってくる奴の腕を、片腕で弾いて拳を鳩尾に手首を捻るようにして当てる。
敵はそのまま吹っ飛んでいって、ボーリングのピンの様に弾き飛ばされ河口の中へ飛んでいった。
それに呆気に取られている馬鹿共から二匹掴んで、司令塔へ投げる。
「お、オレ様を守れエエエエ!!」
「だ、誰が仲間を殺せるかよ!」
「だまれ!オレ様が魔王になれば、なんでも復活するんだよ!」
そのまま私はそいつらを投げる。
一匹は普通に投げて司令塔の肩をぶっ壊し、リンカーコアを取得。
もう一匹は普通に振り回して、変化している爪を利用して仲間殺しを行わせる。
最後は戦う気力がある者にだけ、ぶつけて壊した。
敵が怯えて大半が逃げていく。
その逃走に対して扇動し士気を上げようとする司令塔を無視して、バックステップでなのはの所へ戻る。
直ぐに彼女にリンカーコアを入れて、セットし直す。
無理やり取られたリンカーコアは、ユーノの魔法によって肉体とつなぎ留められた。
樹木にしだれかかる彼女が最初に動かしたのは指だ。
首筋に人差し指と中指で脈拍を測る。
徐々に安定するのが判明。
「だ……れ……?」
「なのは!?僕だよ、ユーノ・スクライアだよ!?」
「ユーノ。今は安静にしましょう」
「は、はい……」
「レイジングハートさん、ユーノ君と共になのはさんの意識確認をしてください」
<わかりました>
私はまだまだ内輪もめしている魔族へ近づく。
「クソオ!オレ様たち、海魔族の威信にかけて!今まで手に入れた、ソウルジェム・リンカーコアを使って
魔王になってやる!海魔王ダゴンよ、異端者であるオレらの雄姿をみよ!」
ダゴン。クトゥルフ神話における、イカかタコの神話生物だった気がする。
そして目の前の海魔族は、全ての同胞[はらから]を吸収して真っ黒で巨大な蛸になる。
クトゥルフ系は触手系が多く、気持ち悪い形状が殆どを占めている。
そのため私であっても、その姿は少し胸に来る。
ただそれは変身の時だけであって、変身後はただの黒い蛸と化した。
私はなのはさん・ユーノ君・レイジングハートさんを後方に押し込み、前線にでて奴と戦う。
「シネエ!」
蛸は大量の触手で攻撃してくる。
まあ、無意味だと思ったが、ほんとうに無意味だった。
私は点の攻撃に強いが、面や線の攻撃に弱い。
下がれば死。戦えば死。どうすることもできないな。
嗚呼、皆ともっと授業したかったよ。
「見てらんねぇな」
どこからか聲が聞こえた。
それと同時に私は殺しに来る触手の一部しか、断絶できなかった。
しかしその聲の主が、私が対処できなかった触手を全て断ち切った。
その主は私の後方左に着地する。
その者は見たことのない服装をしている。
両手に刃・腰に大きな鞘の箱の上に鉄のタンクがあり、翼が描かれたマントを羽織っている青年。
「チッ、汚ぇな」
彼は両手に降りかかった黒い墨をふるって落とす。
「あ、ありがとうございます」
「お前は後方に下がってろ。俺達の狩りの邪魔だ」
私にとっては死闘だが、彼等にとってはただの狩でしかないのか……。
私は潔く下がった。
「解ってるじゃねぇか。おい、哲也」
「知っている」
今度は彼はトランシーバーを取り出して、誰かに連絡している。
非常に淡々としている。
これが軍隊で特殊部隊と言われても信じれる。
「『神宮流秘術:頸木』」
誰が上空に居る。
そして何か動くのと同時に、海魔王の触手が全て純白の光の針に貫かれて空中に貼り付けられる。
「ん……ぅう……ユーノ君……?」
「なのは!」
「え、あれ…?一之瀬先生、なんでここに、ぅあっ……」
なのはさんは、痙攣を引き起こす。
この現象を治そうとユーノ君が回復魔法を施す。
しかし痙攣現象が戻ることはない。
「それじゃ駄目ですよ」
若い女性の聲が真後ろから聞こえる。
振り返ると、ピンクと白に塗れた少女がいた。
その少女はほのかに光っており、闇夜の中でも存在感が別格だ。
少女はなのはの傍に膝を着いて中腰になり、彼女の手を取る。
そしてその手をバリアジャケットが破れている胸の部分へ当てる。
「リンカーコアを感じて。そして、自分という器にリンカーコアを入れる感じを想像して?
そう、そして、照合して……うん、これで次から取り出されても、自分のリンカーコアになるよ」
「あ、貴方は……?」
「わたしはまどか。鹿目まどか」
「まどか……」
「隼、『ラスターパージ』」
見ているだけの私は、空中に浮いているその者の聲を聞いた。
すると空中で真っ白な爆発が引き起こされる。
それと同時に海魔王が黒から白の光によって蒸発しながら、ナニカが空中に存在する。
そのナニカは海魔王になった海魔族だ。
十字架に磔にされているような姿で、空中に居る。
そんな中、こっちでも進展がある。
「今からあれを一緒に封印するよ」
「ん……」
「えーと、一之瀬さんでしたっけ。お願いします、彼女を支えてあげてください」
「わかりました」
鹿目さんはピンクの光を発光させ、弓と矢を召喚する。
そして矢を番える。
私もなのはの身体を支え、射撃準備に入る。
「一之瀬先生……」
「なんですか、なのはさん?」
「来てくれるって、信じてました……」
「当然です。なのはさんは、私が守ると約束したのですから」
「うん……レイジングハート、ディバインバスターを撃つよ」
<Alright,My Master>
私はなのはさんを支えるように態勢を変えている。
なのはさんは私の胸にもたれ掛かり、安全で楽な姿勢になる。
右手も左手も、彼女とほぼ同じ場所にある。
「いい?」
「……っ」
振り向き確認する鹿目さん。
なのはさんは、それに頷いて答える。
「行くよ………」
「ディバイン……ぅくっ」
やはりまだ適合していないようで、苦しんでいる。
トリガーにかけられた指は、引く事ができない。
「なのはさん」
私はなのはさんに、無茶はしないようにこえを掛ける。
「せんせ……一つだけ、御願いしてもいいですか?」
しかしなのはさんは、聲を絞り出すようにして言う。
「…なんですか?」
「これを言って頂けるなら、私……どんな痛いのでも、耐えられます……」
「わかりました。私にできることなら……」
私は何もできない無力な人間であることをこの時痛感した。
やはり何も成長していないじゃないか。
護衛とは一体なんだ!
私は両手に力を入れてしまう。
「先生は悪くないです……これを……」
私はなのはさんの口からそれを聴く。
それを聴くと胸が熱くなるのと共に、急激に感情が冷えていく感じがした。
私は……なんてことをしてしまったんだ、と。
「私の勘違いでもいいです……でも、言ってほしいんです……。
凄く痛くて……もしこれで死んじゃったら、後悔する……っ
だからっ…………」
なのはさんは瞳から、大粒の涙を流す。
「まどかさん!」
「駄目です。私となのはちゃんじゃないと、止められません!
覚悟を決めて!!」
「くそっ、くっそおおおお!!」
私は無力だ。
こんな図体・知識を持っていても、何の役にも立っていない。
知っているさ。何もできないって。だから、委ねよう、全てを………。
ごめんな……。
「好きだ、なのは! 愛してる! だから、死なないでくれッ!」
私は全身全霊で叫ぶ。
「はい、正樹さん……私も、大好きです…………くぅっ!」
「「『ディバインバスタアアアアア』!!!!」」
溜めに溜めた魔法は、『ディバインバスター』ではなかった。
足元にあったのは、まき散らされた魔力を固めて放つ収束型魔法……。
名称:『Star Right Breaker』。
私は悔し涙を流しながら、歯を食いしばり反動をこらえて撃った。
なのはさんも最後目の前が真っ白になる瞬間、私を見て云いました。
”愛しています”と。
今日はここまでです。
高町なのはは、何故このように思ったのか。
そして出現した集団は一体なんなのか。
……徐々に紐解かれていきます。