太陽は、いつか―――   作:biwanosin

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実験逝ってきます。(誤字にあらず)




「準備できたわよ、カズヤ」

 

と、そう言って現れたマルガの姿は・・・何というか、こう。詰まっていた。

160はあるだろう身長に対して、それでもなお不釣り合いな胸部装甲が、俺のシャツを着たことで思いっきり詰まっている。露出度は減った、胸元だって元々同じくらい見えていたはずなのに、シャツでギュッとされた結果この上ない魅力を生みだしている。つい反射的に、ゴクリ、と。生唾を飲み込んでしまった。非常にまずい。身長がそんなに変わらないせいで、大変な爆弾を生みだしてしまったかもしれない。

 

「あら・・・どうしたの、カズヤ?」

「分かってて姿勢を取るのやめません?」

「あら、バレちゃった。誘惑はお嫌いかしら?」

 

クスクスと口元に手を当てて笑う。その動作自体は可愛らしい少女のものといっても過言ではないのに、なぜこうも色気があるのだろうか。それくらいじゃないと女スパイにはなれないのかもしれない。いやそうじゃなく。

一つ深呼吸をして、邪念を可能な限り取っ払う。

 

「それじゃあ行こうか、マルガ。目立つのはもう避けようがないけど、早く服を買って少しでもマシにしないと」

「まあ確かに、これは目立つわよねぇ。時間帯によっては大変なことになりそう」

「俺へ向かう視線も針の筵な予感なので・・・」

 

召喚時の服の上から着てもらって、本当に正解だったな。うん。じゃなかったら俺の理性が耐えられた可能性はかなり低いぞ。あと、今日が雨だったらマズかった。うん。

だがしかし、これならなんとかなる!マルガが着替えている間に可能な限りの精神を保ち続ける手段を取ったし、魔術回路を介した魔術的手段も取った。今の俺に死角はない!手をつないで出かけることもできるだろうさ!

 

「さあ、お買い物に行きましょう。現代の街並みがどうなってるのか、楽しみだわ」

「え、あ、ちょ」

 

訂正。腕を組まれた瞬間、そんなものはほぼ全て吹っ飛びました。童貞のスペックをなめるな。

あと、何かを面白がっている表情をされているので、間違いなくからかわれているのだと思われます。勝ち目がないなぁ。

 

 

 

=☆=

 

 

 

「さあ、これで一通りそろったのよね?」

「その辺りは男の俺じゃなくて女性であるマルガが判断してほしいところなんだけどなぁ」

「私の生きていた時代と今とでは全く違うもの、必要なものもそれに合わせて変わっていくのよ?」

「なるほど・・・」

 

そう言われたので、ざっくりと考えてみる。

まず、普段着。これについては三セットほど購入した。ジーンズ、ホットパンツ、ミニスカートに対して上もそれぞれ会うものをマルガのセンスで選び、その上から羽織るものなども全てマルガのセンスで選んだ。俺?試着するまでもなくサイズとか自分の容姿とかにあっている物を選び出すマルガの手腕にただ茫然としていました。肌の露出多目なセットが二つになる辺りなんだろう、こう、そう言うものが好きなのだろうか?

 

次に、部屋着。現代の生活を楽しんでもらおう、と考えている身としてはやはり寝間着に身を包んでふかふかの布団の中で寝てほしい。というわけで地味目なスウェットで、あの胸部装甲でも問題なく着れるものを探し出して購入した。お胸様が立派だとそう言うところでも苦労するんだね、初めて知ったよ。

 

続いて、下着。これについてはもう俺は関与していない。ランジェリーショップに入ることも躊躇われたので、十二分だろうという金額を渡して少し離れた場所で待っていました。無理です、そのクエストは難易度が高すぎて挑むことすらできません。あとブラってサイズが大きくなると値段も上がるそうでほぼ全部が消えていた。女性下着ヤバイ・・・

 

次に化粧品・・・は、本人がいらないと断言したので買っていない。確かにそんなもの無くても問題ないであろう見た目をしているし、そう言う方面のサーヴァントなのだから必要になれば何とかなるのではないだろうか?

 

生理用品。サーヴァントには必要ありません。次。

 

・・・後はもうわからないや。娯楽品なんかは別枠として買うことにするとしても、もうこれ以上必要ないようにも思える。

 

「大丈夫なんじゃないかな?少なくとも一番の問題点だった服に関しては解決したんだし、必要になったら買い足していくこともできるだろうから」

「じゃあ、そうしましょうか。私の中にある知識とも合致するし」

 

・・・・・・うん?

というか、あれ?そう言えば、なんかそんな感じのモノが合った気も・・・

 

「・・・聖杯からの知識に、あった?」

「一部一部だけど、ね。必要最低限のことは分かるようになっていたのではないかしら?」

「そう言うことは、早めに言ってほしかった・・・」

「聖杯は知識を全てくれるわけではないから、自信がなかったのよ」

 

ごめんなさい、と。手を合わせ、片目をつむり、舌をペロッと出しながら言われてしまっては。文句を言うことができないではないか。

 

「はぁ・・・まあいいや。じゃあいい時間だし、ご飯にしようか。何かリクエストなどありますか?」

「んー、そうねぇ・・・そう格式ばったものじゃない、気軽に食べられるものがいいわね」

「気軽に・・・」

 

方向性としてはラーメンとか、なんかそんな感じだろうか。しかし今来ているスーパーにそんなものは入っていなかったはずなので、何か別のところ・・・ジャンクフード系でいこう。

 

「ハンバーガーとか、どうでしょう?」

「お任せします、ご主人様♪」

 

ちょっとクラッと来てしまった。が、頬を叩いてどうにか正気を保つ。落ち着け、割と本気で落ち着け俺。そう言う方向へ行くのが危ないと思ったから色々と手を加えたんだろうが。

自己暗示に近いがどうにか自分を落ち着かせたのち、歩き出す。平日昼間のフードコートだし、そんなに混んでないといいんだけど・・・

 

 

 

=☆=

 

 

 

「本当にこれでよかったの?俺から提案しといてあれだけど、外のお店に入ることもできたし」

 

購入し終えて席についてから言うのか、と言われそうなことをついつい言ってしまう。がしかし、それも仕方ないと思う。

なんせ、連れてきたのは某M字の超有名ハンバーガーショップ。俺の前におかれているのはチーズなやつのセットで、マルガの前におかれているのは一番デフォルトなハンバーガーのセットだ。実際に並べられたものを見て冷静に考えると、それなりにおかしな状況ではないだろうか?

 

「いいのよ、これで。これがいいの」

 

しかし、マルガははっきりとそれを否定する。生前何かあったのか、それとも生前からこうなのか。正直、召喚してから始めてみる憂いを帯びた表情でハンバーガーを手に取った。紙を一部剥がして、出てきたそれにかぶりつく。租借し、嚥下して、口元についたケチャップを舐めとってから、口を開く。

 

「本当に価値があるものは、お金のかかったものなんかじゃなくて、何でもない、なんてことないものなのよ」

 

少し寂しそうな笑みを見て。きっと何かあったのだろうと察する。彼女の信条とか、そう言うレベルの何かが。

これがもし、アーサー王だったなら。ジークフリートだったなら。煌びやかな伝承を持つ英雄であったのなら、聞くことにためらいはなかっただろう。自分のことを語りたがる、もしくは俺のことを育てようとしてくれる英霊であったとしても、聞いただろう。

ただ、彼女には聞きづらい。俺は彼女がどんな人生を送ったのか、伝承的にすら知らないし調べてもいないけれど・・・現代に近い、女スパイ。その人生がどれだけ壮絶なものなのかを想像するのは、そう難しくない。

 

「そっか。じゃあ遠慮なく食べてくれよ。追加購入もいけるから」

 

だから、俺はそう告げる。彼女がポテトを選んだからという理由で選択したセットのナゲットも届く位置に動かして、自分のものの紙を剥がしてかぶりつく。このチープな味は、無性に食べたくなるような中毒性がある。うん、美味い。

 

「じゃあ、貴方のも一口くださらない?」

「もちろん、どうぞどうぞ」

 

チーズのやつを差し出すと、マルガはそれを受け取ってかぶりつく。これも美味しいわねぇといって微笑む彼女につられて俺の楽しくなってきて笑みを浮かべた。

 

想像はしていた。どれだけ無名の英霊であったとしても、英霊となることが出来る以上それなりの人生を、生涯をおくっているはずなのだ。だからこういう状況が生まれることも想定内だったけれど・・・実際に遭遇すると、それなりに重いものがあった。

しかし、不思議と。後悔していないのだから・・・俺もこの状況が楽しいんだなぁ、って。彼女といる空間が楽しいんだなぁ、と。そう、実感した。

 

「晩御飯、どうしよっか?凝ったものとか、あんまりでしょ?」

「そうね。家庭的なものがいいわ」

「じゃあ今日はカレーとかにしようか。超家庭的、どの家庭でも作られて、嫌いな人がいない料理です」

「ええ、楽しみね。じゃあ今から材料を買いに行きましょう」

 


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