太陽は、いつか―――   作:biwanosin

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意味もなく、勢いで書きだしております。
現状のプロットでは時代設定(というか時系列?)に矛盾が発生します。
原作名を『Fate/Grand Order』としていますが、カルデアが絡むのは最後の方、ほんの少しになる予定です。
おかしなところがあれば、感想などでお伝えください。




「はぁ・・・やりたくない、めんどくさい・・・」

 

一つ、また一つと準備を進めていきながら、しかしどうしてもそう呟いてしまう。やりたくないならやめればいい、めんどくさいならやらなければいい。そんなダメ人間根性はいくらでも湧いて出るのだけれど、それ以上に今ロンドンにいる親が怖くて逆らう行動を取ることが出来ない。そんなことを考えている間にも、既に準備は整ってしまった。

 

「はぁ・・・ホントに参加するのかぁ、聖杯戦争」

 

せめて触媒くらい何かくれ、と。そう心の中でぼやきつつ、お気に入りのネックレスの礼装を身に着けた。

 

 

=☆=

 

 

聖杯戦争。何でも願いをかなえてくれるとか言う万能機を奪い合う戦争。この時点でかなりファンタジーなものでるというのに、さらにもう一点として英霊なんてものを呼び出して戦わせるのだという、元からそう言う世界に生きていないと信じられないような戦争だ。

そんな戦争に、何でも願いが叶うという利点から参加しろと息子に言ってきたのが俺の親。当然だけどその被害者が俺。しかも、何をトチ狂ったのか触媒はくれなかった。金とか礼装とかはいくらでもくれるのに召喚の触媒はくれないとはどういうことなのか。あれか。兄貴がいるからなのか。兄貴のおかげで自由な魔術使いライフだとおもってたら兄貴のせいで明日には死んでる身かもしれない・・・何とも言えないなぁ・・・

 

「はぁ・・・そろそろ、現実逃避も終わりかなぁ」

 

全部準備を終えて、あとはもう呪文を唱えるだけ。そんな状態になってから約三時間ほど現実逃避をしていたわけなんだけど、もういい加減そんなことを言ってもいられないと受け入れた。いい感じに他の人たちがサーヴァントを召喚して自分の枠なくならないかなー、と思ってたわけなんだけどよく考えてみれば令呪が出てる時点でそううまいこといかないよね。はぁ・・・

 

「やる、かぁ・・・」

 

いすから立ち上がって、そのまま陣の前に立つ。親から送られてきたモノの中にあったナイフで左手の掌を切って、力を入れて血を垂らしていく。数滴垂れたところで血を止めずに詠唱を開始する。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

詠唱を始め、それと同時に魔術回路を起動させる。銃で撃たれる姿を、何かで殴られる姿を、自身が傷つくような光景をイメージして、掌の痛みに意識を向ける。ここまでしてようやく魔術回路が動き出すあたり、間違いなく俺は魔術師には向いていない。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

そうして起動した魔術回路から、どこかに魔力が吸い取られていく。唐突なそれに少し意識を持って行かれそうになるが、こらえる。英霊召喚なんて儀式、失敗したら何が起こることやら。怖くて仕方ない。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

ふと、何かとつながった感覚があった。目の前にあるものに吸い取られていると感じていた魔力の流れが、こことは違うどこかへと流れていくような。未知の何かに吸い取られているような、そんな感覚が。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ」

 

ここまで来たら、もう躊躇うことはない。暴れ回りそうになる魔力を無理矢理に抑え込み、意志をもってねじ伏せる。召喚した後であれば、死なないために従う立場にもなろう。だが、それまでの間はそうではない。俺が上だ。抑え込まれろ。

 

「誓いを此処に。我は常世全ての善となるもの、我は常世全ての悪を敷く者」

 

さあ、唱えろ。最後の一言を。平穏をぶち壊し、騒乱に自分を落とし込む呪いを。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――ッ!」

 

倒れず、唱えきった。目を覆いたくなる光が眼前に現れ、一軒家の地下で行ってよかったな、だなんて的外れなことを考えている自分に驚く。そんなことを思っている間にも光は収まっていき・・・ふと、花のような甘い香りが漂ってきた。

 

「なんだ、これ・・・?」

 

念のため、キャスターを呼び出していて気が付けば、なんてことがないように礼装を使ってレジストしてみるがこれといって何かあるわけでもなかった。つまり、これは魔術的な何かではなくて相手の性質的な何かなのだろう。・・・まあ、俺なんか比べ物にならないような魔術師って可能性もあるんだけど。

 

「っと、そうも言ってられないか・・・」

 

すでに、光も収まってきている。であるのなら、召喚した英霊・・・サーヴァントと話す必要があるだろう。相手が誰なのかを知らなければ、何ともならない。

 

「サーヴァント、アサシン」

 

と。そう考えている間にも、向こうは既に名乗りを上げようとしてくれている。アサシン、ということはハサンだろうか。何とも戦いづらいクラスになったものだ。

 

「マタ・ハリが通り名よ。よろしくね」

 

が、しかし。その名前はハサンのものではなく・・・俺も知らないものだった。

 

「・・・えっと、ハサン、じゃなくて?」

「ええ、ハサンではないわね。暗殺者、というようなものでもないし」

 

アサシンのクラスでありながら、暗殺者ではないという。一気に勝ち目がなくなったような気がした。

アサシンというクラスにあてはめられる英霊であり、その服装は水着かと思うほどに露出が多い。脳を溶かすかのように甘い香りと・・・なにより、男を誘惑するような煽情的な服装だ。であるのなら、出てくる解は一つ・・・

 

「・・・失礼かもしれないけど、スパイとか、そう言う感じの?」

「ええ、そんなところね。・・・もしかしなくても、知らないの?」

「失礼ながら・・・」

「そう、悲しいわ。・・・まあ、仕方ないのだけれどね」

 

仕方ない。つまり、自分の知名度とかは自覚している、ということだ。それほどにはっきりしているレベルなのだろうか。

しかし、うむ。戦闘手段は・・・失礼ながら、なさそうだし。

 

「えっと、もしかしなくても、戦闘能力とかない感じです?」

「ええ、そうね。我ながら戦闘能力としては最低値だと思うもの」

 

うん、やっぱりそうだった。であれば、次の質問を。

 

「じゃあ、何が何でも聖杯で叶えたい願いとかは?」

「うーん、そうね。こうして召喚に応じてる以上、当然願いはあるわけなんだけれど」

 

あ、やっぱりあるよね。うん。そもそも召喚される条件がそれだし、触媒なしだからそう言う英霊くらいしか呼べないはずだし。

 

「けど、そうね。よっぽど運がよくないと無理だし、そこまでこだわりはないわよ?」

 

あ、やっぱりいけるかも。

 

「でも、それがどうかしたの?」

「あ、いえ。そもそも俺、親に強制されて聖杯戦争参加したクチなんですよね」

「あら、大変ね」

「ええ、本当に大変ですよ」

 

ちょっとシンパシー。

 

「あ、そうだ。そうかしこまらなくてもいいのよ?何度も言ってるように私、そう大した人間でもないもの」

「・・・じゃあ、遠慮なく」

「ええそう、そんな感じ」

 

なんだろう、どんどん沼に沈んでいくというか、飲まれていくというか。大丈夫かな、これ。

 

「じゃあ話を戻すけど・・・少なくとも今、召喚はした」

「ええ、こうして私が召喚されたわね」

「そして、触媒も何もなしに召喚するよう言ってきたのは、俺の親の方だからオレワルクナイ」

「なるほど・・・確かに、悪いのは貴方の両親ね」

 

クスクスと笑いながらダダ甘やかしてくれる感じ。これか、沈んでいくように錯覚したものは。

 

「であるのなら・・・どう考えても勝てそうにないし、いっそもう参加しないのもありかなー、って」

「つまり、教会にいってリタイアを?」

「というよりは、これも一つの縁だし聖杯戦争が終わるまで二人で一緒に過ごしません?」

 

まあ、うん。命がけの戦争に挑む勇気はないわけなんだけど、それでもやっぱり俺も男の子なわけで。であるのなら、英雄と一緒に過ごすというのも、かなり魅力的なわけでして。

 

「そんな感じなんですけど、いかがでしょうか?」

「ふむふむ・・・なるほど。聞いてもいいかしら?」

「なんでしょう?」

「本当に、私のことは知らないのよね?」

「大変失礼ながら・・・」

「攻めてるわけじゃないのよ。だからそんな縮こまらないの」

 

甘えた・・・いやいや、ダメだ駄目だ。

 

「じゃあ、どんな生前だったのか、察しがついいちゃったかしら?」

「あー・・・まあ、つかないではない、です」

「じゃあ、それ(・・)が目的?」

 

あー・・・なるほど。確かに、そう言うとり方もできる。

 

「全く考えてなかった・・・」

「そう・・・なら、どうして?」

 

と、近づいてきて、俺の目を覗き込みながらそう尋ねてくる。見た目同い年の、すっごく綺麗な褐色美女。そんな人に真正面から見られて顔が熱くなるのを感じながら、そしてどうしても敵意を感じ取れなくて・・・いつの間にか、口から漏れていた。

 

「なんとなく・・・面白そうかなぁ、って」

「そう・・・」

 

何でその言葉が口から洩れたのか、全くわからなかった。分からなかったけど、でもそれでいいと。何も不利になることはないと。それだけは、なぜか確信している。

 

「うん、なら、いいわよ。なんだかおもしろそうだし」

 

と、そんな軽い調子で。アサシンは俺としばらく過ごすことを同意してくれた。

何を根拠として良しとしてくれたのかは、俺にはわからない。分からないんだけど・・・まあ、うん。英霊の思考回路なんて一般人に分かるはずもない。魔術とは諦めることである。

 

「それじゃあ・・・何をして過ごそうかしら?聖杯戦争が終わるまで」

「できるなら、色々と。俺としては英霊と過ごすってのがどんな感じなのか気になるだけだから・・・まあ、やりたいように?」

「そう。なら私、この時代で遊んでみたいわ」

「じゃあ、もう今日は遅いし、明日の昼にでも。・・・って、服、それだけ?」

「まずいかしら?」

「うん、超まずい」

 

その服装で歩くだけでも警察ものだし、知り合いにでも見られたらその瞬間に俺の社会的立ち位置が死亡する。

確かに、魔術師の家系に生まれた魔術師なんだけれども。家は兄貴が継ぐし、この世界だけで生きていける程の実力持ちというわけでもないんだ。社会的立ち位置、大切。超大切。

 

「・・・まずは、服を揃えるところから、かな」

「あら、あなたが選んでくれるの?」

「そんなスキルはないので、霊体化してついてきて念話で伝えてください。それ買うから」

「は~い」

 

はてさて、どんな同居生活になるのやら。

 


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