「何なのアイツは!?」
「我々を侮辱しおって…許せん!!」
「おい、この場所に来てよいのは我々貴族階級の人間だけだぞ!?」
「おい、守衛はまだか!?早くあいつを処分しろ!!」
プライドが高い奴ほど、沸点が低いことはよく知られている。
その例にもれず、貴族たちは俺を指差し、あるものは悲鳴を上げ、ある者は怒号を上げて俺を侮辱している。
こいつらも何一つろうなど知らない、とんでもない温室育ち中々のクズ野郎どもだ。しかし、世の中には温室どころではない、超絶快適なビップルームで、生まれた時から非常識な教育を受けた奴らもいる。さて、彼らが持っているプライドのみが空気を入れられた風船のように膨れ上がったクズが少しでもじぶんを侮辱されたらどうなるだろうか。
「お父様!!何だかよく分からないけど、あのオッサンむかつくアマス!!生け捕りにして、うちのタマのエサにしちゃおうアマス!!」
「殺せ―!!わけのわからぬ、あの愚か者を血祭りに上げろ―!!我々を侮った愚か者として、世界中にその死にざまを晒してやるえー!!」
クズ!!キング・オブ・クズ!!いや、むしろ天竜人・オブ・クズ!!
いや、おそらくあいつらのことだから、みんながみんな自分達が神様のように偉いと錯覚しているのだろう。だが、そんなもの俺は知らん。俺は無神論者なんでね。困った時の神頼みだけども…。
ともかく、爆発した風船は勢いよく宙を飛び回る。それを拾ってやるのも俺の役目だ。飛び去る鳥は後を汚さないと聞くからな。
…ところで、タマって何?猫?
「貴様、天竜人様に何ていう口をきくのだ!!その罪、万死に値する!!」
「いや、生け捕りだ。生け捕りにしろとのご命令だ!!」
…何だか命令系統に混乱が生じているようだが、やろうとしていることがヒドい事には大差はない…。というか、五十歩百歩だ!!
「“覇気手合い蟹甲羅外し”!!」
というわけで、ゴタゴタとしている間に一発やらせていただきました。
鉄の刃と化した手刀を振い、素早く兵士達の間を駆け抜けた。だが、俺は兵士達を斬ったのではない。彼らが纏う鎧の結び目だ。
「はっ!?」
「へっ!?」
俺が通り過ぎた刹那、鎧の結び目がちぎれ飛んだ。結果、自らを結びとめるため繋ぎの部分が消えた結果、鎧は子の星の重力に従い、のバラバラと物悲しい音を立ててオークションハウスの床へと転がり落ちた。そして、鎧の下に着こんでいた服も同時にちぎれ飛ぶ。念には念を入れすぎただろうか。
『…』
闘争とはまた違った、重苦しい静寂がオークションハウスを包み込む。
外気に晒された、大砲、ピストル、水鉄砲。服を着ているものと来ていないもの。みながみな、振動に揺れて悲しげに揺らいでいた。パオーン…。
『う、うわァァァァァァァァァァあん!!』
そして彼等は何ともいえない哀しみを持ってオークションハウスからまるで追われるかのように逃げ出していった。
ウン、自分でやっておきながら何だけど、あれは辛いわ…。本当、ゴメンね敵だけど。
「は、破廉恥な!!」
「やっぱり変態だわ!!」
「ちょい待て誰が変態やなん!!」
「変態がしゃべったわ!?」
「ちょい待て!!俺はしゃべる事すら許されないのか!?」
そんなやり取りをしていると、ドタドタと慌てた様子で外の扉から銃を持った男達が飛び込んできた。
そいつらは、観客席で佇む俺の姿を発見した途端、手持ちの銃を掲げ、銃口を俺に向けた。
「動くな!!この狼藉ものめ!!」
「客たちを解放しろ!!」
「この外にはどの道お前には助かるという選択肢はないのだよ!!」
勝口々にそう脅し文句を発しながら、まるでヒーロー見参と言わんばかりにドヤ顔をする店員達に客たちは歓声を上げた。
「やった!!これで助かる!!」
「狼藉ものは死んでしまえ!!」
静かにたたずみ、俺と対照的に、恐怖から解放されたと思ったのだろう、観客たちが口々に騒ぎ始めた。
「我々の奴隷を持つことはステータス何だ!!今日は、質のいい奴隷を買う予定なのだ邪魔をするな!!」
「俺はわざわざ南の海から奴隷の買い付けに来たんだ!!その邪魔をするな!!」
その言葉を筆頭に、会場がオークションとは違う熱気の渦に包まれた。
俺一人に侮蔑の言葉を浴びせるそいつらの顔には、人を人とも思わぬ、そんな醜い人間の本能がありありとにじみ出ていることが見て取れる。
「本当にお前らって野郎どもは…」
奴隷が聞いてあきれる。
世界政府非加盟国と唄っている時点で、政府が主導している闇取引だという事を露呈している。それに、奴隷の中には世界政府傘下に加盟している魚人島こと、リュウグウ王国の住民達、人魚や魚人が公然と取引されていることに対して人々は疑問に思わないのだろうか?
…いや、彼等は少数の権力者を欲望を満たすために、無理矢理口を閉ざさせられているのだろう。
自由?
平等?
解放?
安全?
フザけんなよ世界政府!!
お前達がやっていることは結局、人間そのものじゃないか!!
まるで、心の奥底から猛獣が檻を食い破ろうとしているような感覚。ここに来てから抑え込んでいた溶岩が、今再びグラグラと煮え立ち始めた。
「…もう黙れよ」
「ゲラゲラゲラ、ガッ!?グッ…」
俺が血走った目で睨んだ瞬間、今まで笑っていた観客の一人に異変が起きた。目をグルンと回転させて白目になりつつ。そのまま泡を吹いてまるで持ち主が手の手から離れた人形のようにその場に崩れ落ちたのだ。
「ヒッ!?」
「い、一体、何が起こったんだ!?」
いきなりの異常事態に観客席のあちこちから悲鳴が上がるのを無視しつつ、俺は階段を一歩一歩踏みしめながら歩みを進める。目標は勿論、あのクソ天竜人の所だ。
「ギャッ!?」
「グガッ…!?」
俺が歩く度、俺が動くたび、まるで世界が俺の怒りを代弁するかのように、周りにいた観客達の意識を次々と刈り取っていく。
「人が人を買う?そんな狂った理屈通るわけがないだろう」
「撃て!!撃て~~~~!!」
飛んできた銃弾を弾き飛ばし、銃の引き金を引いた順番から飛ぶ斬撃を食らわせていく。
その姿は何てこともない。玩具の銃で武装した兵士に立ち向かう子供そのものだった。
「ヒ、ヒィ!!来るな!!来るんじゃない!!」
「お父様!!怖いアマス!!」
観客が次々と倒れる中、最後まで残っていた天竜人親子ズは、先程までの威厳が嘘のようにブルブルとおびえ、懐から取り出した黄金の銃を連射した。
もちろん、こんなものよけるまでもない。
「どうした?全然当たらないじゃないか。温室育ちは銃の一つも扱えないのか?ハン、いつもは標的に元気がないとかで簡単に撃ち殺されるんだろうが、残念だったな。今の俺はムカ着火ファイアー状態なんでね。…じゃあ、俺をここまで怒らせてくれたお礼に、二つ…いや三ついいことを教えてやろう」
常人では黙視できないほどのスピードで天竜人父に近寄ると、その手に持つ黄金の銃を奪い取った。
「あっ…」
「銃ってのはな、ただバンバン撃てば当たるってもんじゃないんだよ。安全カバーを外し、撃鉄をおこして、あとはしっかりと狙いを定める」
そう言って俺は天竜人の脳天に標準を構えた。
「ヒッ!!や、やめ!!」
「そして、引き金を…引く!!」
「お、お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ターン!!という雷が落ちたかのような音が響いた。モクモクと煙が宙に舞い上がっていくと同時に、鼻にツンとした火薬の臭いが届く。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
その場には、俺が撃った天竜人が足を抑えてその場をゴロゴロと転げまわっていた。
「うううううううう痛い!!痛い痛い痛い!!死ぬ、死んでしまう~!!」
「お父様だ、大丈夫ですか!?」
そう、俺は弾丸を脚にブチ込んだだけだ。決して殺してはいない。というか、元々そんな事をする気もない。
「とある人間が言っていた。ブッ殺す、と思った時にはすでに行動が終わっているとな。詳細はよく覚えておらんが…。分かるか?キッタハッタも分からない、命を物とみなすテメエらクソ素人に引き金を引く権利はねェ」
そう言葉をかけて趣味悪い黄金の銃をソイツの近くに放り投げた後、俺は転げまわる天竜人に背を向けて階段を下りることにした。
「こ、この狼藉ものがぁぁぁぁぁ!!」
ある程度痛みが引いたのだろうか。天竜人父が銃を手に取り再度俺へ銃口を向けてきた。全く、筋金入りの馬鹿だな。俺の言ったこと分からなかったのか?
「死ね!!」
「断る」
“覇王色の覇気”
『オオオオオオオオオオオオ!!』
俺を中心に吹き荒れる突風にも似た波動が解き放たれ、モロに天竜人に直撃した。
「ぎゃっ!!」
「ひっ!!」
その時、彼らには俺の姿がどのように見えたのだろうか。まぁ、そんな事どうでもいい。重要なことは、あいつらが二度と復讐しようなどと、あまっちろい考えを持たないようにすることだけだ
「さて…ん?」
「…」
ゴキゴキと肩をもみながら歩いている途中、ポカンと口を開き、アホみたいな顔をしているラクーンと目が合った。
「…で、どうだった?」
「あ、え、ウン。それは大丈夫れす。みんな無事だったのれす…」
「そうか、そりゃあ良かった」
ラクーンは安堵したように重く息を吐き、何故だか攻めるような視線で俺を見つめてきた。
「何だか怒涛の展開すぎて、訳が分からないのれす…」
「ああ、それは言えてる」
「で、これからどうするのれすか?」
「ウーン…」
どうすっかなぁ~~~。うーむ、取り敢えずやる事は一つだろう。
俺は壇上で伸びている男のポケットから奴隷を入れるための檻の鍵を取り、それをラクーンに放り投げた。
「わ、わっ!!」
慌てて鍵をキャッチするラクーン。その間、俺は眠るような顔をしているラクーンの仲間達を回収して、懐に納めた。
「こっから逃げ出すうまい方法と…あと戦うための戦力ではないですかな。というわけで、ラクーン。先に行って鍵を開けてきてくれる?」
「分かったのれす!!」
そう言うや否や、ラクーンはステージ奥へと消えていった。いや、分かっていたことだがやっぱりあいつは素早いのな。
「…ん?」
「お」
そんな事を考えていると、腕に抱えていた小人族の一人が目を覚ました。丁度いい、事情を説明して彼等にも檻の鍵開けを手伝ってもらう事にしよう。
「よう、起きたか「いやーーーーーっっ!!大人間ーーーっ!!」え、ちょっとちょっと、たわばっ!!」
目を覚ました女性の小人族っさんの尻尾ビンタが俺の顎をクリーンヒットした。顎へのダメージは直接脳へのダメージへとつながる事は知られているが、それにしても威力強すぎだろ!!一瞬脳が滅茶苦茶にシェイクされたぞ!!
「テ、テメエ!!いきなり何をしやがんだゴラァ!!」
「それはこっちのセリフよ!!よくも今までイジワルしてくれたわね!!許さないんだから!!」
あれ?コイツもしかして、俺の事をオークションハウスの人間だと思っていないか?
「いや、ちょっとヤメテ違うから!!俺は違うから!!だから、お願いだから尻尾ビンタをヤメレ!!」
「何が勘違いなのれすか~~~!!」
「いやああああああああ!!」
オークションハウスの地下にある一室。そこに一人の男がとある女性の首元に手を伸ばしていた。もちろん、男とはグンジョーである。
彼は今、女性の首につけられた爆弾首輪を外そうとしているのだ。
「ヒッ…」
グンジョーが首輪をつまんだ瞬間、女性から思わず恐怖の吐息が漏れだす。それもそうだろう。ここにいる人間ならば、この首輪が持つ恐ろしさは十分に理解している。首輪を繋ぐ鎖が外された瞬間、内蔵された時限式の爆弾が起動し始め、一定時間がたった後、木端微塵に爆発する。
鎖を外し、自由になれたという一筋の希望から一転、爆発、そして死と言う悪夢へと叩き落される。悪ければ死、例え生き残ったとしても、所有者たちに殴られ蹴られ、応急処置もされないまま結局苦しんだまま死んでしまうだろう。
しかし、グンジョーは女性に優しく語りかけた。
「ふぁいしょうふ」
「えっ?」
涙目の女性が顔を上げると、真剣な目をしたグンジョーが彼女を見おろしていた。
「おれを信じふぇ」
「…ハイ」
「ふぁーい、ふぁそのままゆっくりしふぇふぇね(はーい、しゃそのままゆっくりしててね」
「ハ、ハイ…」
左手を首輪に添えたまま、右手を奴隷の首輪の鍵穴に添える。一拍空気を置いた後、首輪に添えられたグンジョーの手が一瞬ブレた。
カシュ ボッ!!
「ヒッ!?」
女性の首輪が一瞬にして後方に弾きとび、壁に当たるとそのまま爆発した。爆風と共に、暗い地下が爆風の光で照らされ、首輪が外された女性の白い首を照らしだした。
「ふぁい、これで終ふぁり」
「え…?」
女性が恐る恐る自分の首に触れる。自らを縛っていた首輪がないことを確認すると、女性はポロポロと大粒の涙を流しながら顔を手で覆い、その場に崩れ落ちた。
「ここにいる奴らふぁ全員首輪を外したな。…よひ」
そう言ったグンジョーは檻の周りで事の次第を見守っていた他の奴隷たちに向き直った。
「でふぁ、作戦決行と行こうか(キリッ)」
「言動がその顔のせいで台無しなのれすね」
「うるふぇい。取り敢えふ湿布かカットバンをよこふぇ」
そう、彼の顔はまるで空気を入れられた歪な風船の如く腫れ上がっていた。そうなってしまった原因は特に語る必要もないだろう。敢えて言うなら、何故か土下座を繰り返す女性の小人、アンズの事だけ教えておこう。
「よ、よおアンチャン。でよぉ、これから作戦はどうするんだ?」
腫れ上がった部分にカットバンを貼って応急処置をしていると、最初に助けた豊かなヒゲと上半身裸が特徴的男が話しかけてきた。
「作戦って?」
ポケッとした顔でそう返すと、その男を含め、奴隷たちがえっ、という表情になった。
「な!?作戦ってそのままだろ!!このままオークションハウスから逃げ出すなんて無理だぞ!!オークションハウスの前には海軍の一団、しかも天竜人に手を出してしまった何てことが分かったら、大将がこの島にやってくる!!そんな事になったら俺達このオークションハウスに逆戻りだ!!」
その言葉に、奴隷たちがパニックになったかのように騒ぎ始める。
「そんなの嫌よ!!」
「俺はもう海賊をやめる!!故郷に帰るんだ!!」
「お父さんとお母さんに会いたい!!」
一しきり騒がせた後、俺は軽くぱんぱんと手を打ち、彼等を静止させる。
「落ち着け皆の衆。焦っていても何も変わらないぞよ。そう、平和な凪の海の様に落ち着きなさい。この俺の様に」
『あんたが異常なんだよ!!というか、凪の海はどちらかというと危険な場所だろうが!!』
おお、ワンピース名物ユニゾンツッコミ!!…あ、今は喜んでいる時間じゃないか。
「まぁ、安心してくれ。お前らがこの後にどのような人生を歩むのか知ったことではないが、どうやってこの島から逃げ出すのかはすでにプランは練ってある」
俺の言葉に安心したのか、全員から安堵の息が漏れる。おいおい、お前等安心するのはまだまだ早いと思うぜ?
「問題は…ここからどうやって出るかなんだよなぁ。一応、外に仲間がいるにはいるんだが、あんたが言った通り、外にゃ海兵がいる。あいつらの事だから、どうせこのオークションの出入り口は塞いでいるハズだろう。正にアリの子一匹通さない…ってわけだな?」
すると、途端に盛り上がった雰囲気が落ち込んでいく。コイツらテンションの浮き沈み激しすぎるだろう。ま、それも分かるんだけどね。
「じゃ、じゃああんたはどうするつもりなんだ?」
「あ?それは勿論方法は一つだけだろう」
俺は近くにあった武器を近くにいた男の一人に放り投げた。
「え?」
「プロジェクトブラスト。パート2だ」
俺は黒化させた腕をギャリンギャリンと擦り合わせた。