思いつき倉庫   作:羽撃鬼

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逆十字もの三話です。


三夢 英雄墜ツ

某国

 

 

件の噂の元となった男である兵藤一誠、否、緋衣誓慈(せいじ)は黒いスーツを着て、英雄を目指す集団と対峙していた。

 

 

「えっと、君は俺たちに喧嘩を売っているのか?神器も無いのに?」

 

 

誓慈が神器持ちでないことを知ると彼らは笑った。槍を持った男が、

 

 

「君は何で俺たちに歯向かおうとするんだい?」

 

 

誓慈は淡々と槍を持った男にたいして答えた。

 

 

「八層の試練が神滅具(ロンギヌス)持ちをどんな方法でもいいから倒す。とのことだからな。」

 

 

それを聞いた槍を持った男は、

 

 

「何を言っているかはわからないけど、力の差もわからず挑んで無様に死ねよ。」

 

「「「そうだ。そうだ。神器持ちで無いくせに。」」」

 

 

彼は何度も誓慈のある力の発動条件の基準を満たし続けている。

 

 

「憐れんだね。俺を!」

 

 

 

英雄派

 

 

今俺達の前には一人の男がいる。

神器を持たぬその男は見ているだけで不安になる雰囲気を纏っている。まるで、本能がこいつを認識してはいけないと叫んでいるようだった。

だが、俺達は英雄。

こんな奴でも慢心なく相手しなければいけない。しかし、無意識に神器を持たないことを見下し、最強の神滅具(ロンギヌス)を持つ俺に勝つことは不可能だと思っていた。故に彼にこう言った。

 

 

「何を言っているかはわからないけど、力の差もわからず挑んで無様に死ねよ。」

 

 

周りはそれに賛同するように声をあげた。

だが、彼の顔が歪んだように見えた瞬間、今まで感じたことのない悪寒が背筋を通り抜けた。

 

 

「憐れんだね。俺を!」

 

 

何かがヤバイと感じた。先ほどと何かが違う。彼は口を開き、

 

 

「ああ。確かに俺は神器を持たぬし、貴様らのように強靭な身体を持っていない。だからこそ、俺はお前らが羨ましい(・・・・)ぞ!」

 

 

言い表せない不安が押し寄せてくる。周りの何人かはこの圧に呑まれ始めている。いかん!と思い俺は槍を構え、この男に一突きしようとした。だが、俺の攻撃は不発に終わった。ヤツがとある詠唱をした瞬間、本能的に後ろに下がってしまったからである。

 

 

 

ああ、羨ましい!羨ましいぞ!英雄の生まれ変わり?英雄の子孫?なんだそれは!そんな理由で肉体が強靭になるなら平等ではないだろうが!奴等が俺を見下しているのも我慢ならん。何が神器だ!神器を持たないから雑魚扱いだと、笑わせるなよ。自分達は神器の被害者だから同じ神器使いを助けようだと?貴様らは神器とか言う玩具の力に酔っているだけだろう?英雄なら万人を救って見せろ!貴様らが英雄と言うなら何故あの時(・・・)俺を救ってくれなかった!

奴等は屑だ!自分達は英雄と嘯きながらやっていることは屑そのものだ。何故わからぬ!貴様らの行いが世界を混乱に導いているのだと!

俺は俺の行い生き方が万人には屑そのものだと理解はしている。俺など総じて塵屑だ。だが、俺は生きるのだ。

我も屑。彼も屑。故に平等に病みを与えよう!

 

 

 

「『干キ萎ミ病ミ枯セ。盈チ乾ルガ如、沈ミ臥セ』」

 

「『――急段、顕象――』」

 

「『生死之縛・玻璃爛宮逆サ磔』」

 

 

ここに同じ名だが、仕様が異なる略奪に特化した二代目の力ではなく、病みを与えることに特化した初代の力が発動した。

 

 

 

危険な雰囲気を纏ったその男が何かしらの力を発動した瞬間、何かおぞましい物が辺りに出現し始めた。そのおぞましい物はこちらに向かって広がってくる。俺は咄嗟に後ろに下がった。何人かは神器でそれらを振り払おうとしたしたが、それらに触れた瞬間、

 

 

「あ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

「痛い、痛い、痛い!」

 

「リーダー、助け、ァァァァ!」

 

 

彼らは体を縮こまらせ、地面で転がり回っていた。俺は男に向かって、

 

 

「貴様!一体何をしたァ!」

 

 

男は人を不安にさせる笑顔で、

 

 

「なに、俺の病みの一端を与えただけだ。お前達は英雄なのだろう?当然、俺のような塵屑に宿る病魔程度耐えきれる筈だろう?なぁ?」

 

 

俺は男に気を取られていて、彼らと同じそれをくらってしまった。

 

 

なんだこれは、痛い、こんなもの一人に宿る量ではないだろう、痛い痛い、それにこれが一端だとあり得ない!ぐっ、駄目だ!痛い痛い痛い、痛みしか考えられなくなる!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 

 

「「曹操!」」

 

 

他の幹部が彼に駆け寄り回復魔法やアイテムを使い始めた。それにより、

 

 

「ぐっ、お、俺は?」

 

 

彼らは治療を一端終え、曹操に語りかけた。しかし、

 

 

「曹操、大丈夫か!」

 

「あ、ああ。なんとか、っ!グァァァ!」

 

 

治療を止めて少ししたらまた発症し出した。彼らは再び治療を再開する。曹操は治療を続けることにより耐えきれる程度の痛みになった体を起こし、男の方を向いた。男は歪んだ笑顔のままその場を動いてなかった。

曹操は幹部に、

 

 

覇輝(トゥルース・イデア)を使う。治療を続けてくれ!」

 

 

幹部は今の状況を乗り越えるにはそれしかないと思い治療を続行した。

 

 

「ぐっ、俺も奥の手を使わせて貰おう!」

 

 

曹操は槍の穂先を自分の心臓の位置へ向け、

 

 

「槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ」

 

「我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ」

 

「汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ」

 

 

曹操はこの状況を打破するために一発逆転の可能性があるこの力を発動しようとした。しかし、この時彼は致命的なミスを犯した。それは希望(・・)を抱いてしまったことだ。かつて逆十字の中で希望を抱くことが発動条件の一つである力の使い手がいたということを。その男、四代目逆十字たる緋衣誓慈はその力さえも使えるということを、

 

 

「築基・煉精化気・煉気化神・煉神還虚・還虚合道――」

 

「以って性命双修、能わざる者墜ちるべし、落魂の陣――」

 

 「ーー急段、顕象ーー」

 

「雲笈七籤・墜落の逆さ磔」

 

 

覇輝(トゥルース・イデア)という【都合のいい希望を抱いた者を現実にぶつける】という力が発動した。

 

それに、その詠唱の一部である【落魂の陣】というところに曹操は反応した。その概要を知っている者だからこそ、不安を抱いてしまった。

その瞬間、曹操は奈落にいた。

 

 

落ちる

 

落ちる

 

落ちていく

 

 

彼の体感でそれだけでも数時間に及ぶように感じた。

仲間が助けてくれると希望を抱けば彼を痛みが襲う。希望を抱けば抱くほどダメージとなって彼に襲いかかるのだ。

その内曹操は考えることを放棄しだした。

 

そして、曹操の意識は完全に途絶えた。

 


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