ああ!
何故だ!
何故貴様は音楽を辞めてしまったのだ!
かの天才の再来と呼ばれし、貴様が何故!
私は貴様に追い付くため、努力し続けてきたのに!
なに?音楽よりエロスだと!
ふざけるな!ふざけるなよ!
私はこんな奴に憧れていたのか!
私はこんなクズに追い付こうとしていたのか!
赤い光が私を包む。私の慟哭が形をなして我が身を包んでゆく。
ああ。
そうか。
そうだったのか。
私は貴様を殺すために存在していたのか。
私は堕ちた貴様を殺そう。
私は我が存在にかけて貴様を殺そう。
だからこそ、貴様が人類悪の一部になる前にその生を終わらしてやろう。
だから待っていろ、
「もう辞めろ○○!」
楽器の意匠がみられる赤き龍の鎧を纏った男が叫んだ。
「
しかし、その叫びは彼と相対する赤き異形には届かなかった。
「私は貴様を殺すもの。私は天才を殺した者。私の名はサリエリ。貴様を恨み殺す者。いや……私は何を言っている。私とは……何だ?私は……誰だ。」
「わからない。だが、私は貴様を殺さねばならない。それが私だ。それこそが私なのだ。ならば!私は他のものはいらない。貴様を殺すことそれだけが私の存在意義なのだ。故に、」
「私は貴様を殺すぞ
「吾は死だ!」
「吾は神に愛された者を殺すのだ!」
「|至高の神よ、我を憐れみたまえ《ディオ・サンティシモ・ミゼルコディア・ディ・ミ》」
赤き異形は精神と肉体の双方を蝕む破滅の曲を奏でた。
その調べを聴くものが消えた時、彼の前には彼が死を望んだ者の死体が存在していた。
「ああ。やった!やったぞ!私は彼を殺せたのだ!ああそうだ!私は!私は!私は……何をしたのだ?」
「私は友を殺した。何故殺さねばならなかった?私はサリエリ、アマデウスを殺す者。いや……違う彼はアマデウスでない。私はサリエリであるがアントニオ・サリエリではない。私の名は……何故だ!何故思い出せない。わ、私は……誰なのだ!」
赤き異形は赤き龍に感じていた感情を目的の達成のためほとんど失っていた。しかし、彼は彼に宿る霊器に呑み込まれ、己の名どころか己の意思すらも霊器によって上書きされていた。
自分の名が思い出せない。
家族のことを思い出せない。
彼以外の友のことが思い出せない。
彼は過去を思い出そうとする。しかし、望んだものは浮かんでこない。何か別の声が聞こえる。それは一人だけではない。もっと多く、
『貴様がアマデウスを殺したのだ。』
『かの天才の才能に嫉妬したのだ。』
『あの男を恨んでいたのだ。』
違う。そうじゃない。彼は、彼とは……何故だ!何故私が彼を殺さねばならない。私は彼を殺してはいないのだ!私は!
『『『【サリエリ】が【アマデウス】を殺したのだ!!!』』』
私は殺してはいないのだ。私は、
彼はふと意識を戻した。
眼前には彼が殺した
『『『ああ。やはりだ。【サリエリ】は【アマデウス】を殺したのだ!!!』』』
やめろ。
『『『恨んで殺したのだ!』』』
やめろ。
『『『彼の才が恐かったのだ!!!』』』
やめてくれェ!
『『『ならば!その目で確かめてみろ!貴様がした行いを!!!』』』
どんなに否定しても彼の前には友の死体がある。
「私は!私は!あ、あ、あ゛あ゛ァァァァァ!」
赤き異形は空へ向かって吠える。
彼が行ったことは紛れもない悲劇だ。
だが、彼はいや、彼に宿る霊器はこうなることを運命付けられていた。元の彼が友を殺していなくとも大衆は【彼が殺した】と認識し、その認識が正しいと決めつけた。それにより彼に宿る霊器はこうなることが存在の証だと言う風に運命付けられたのだ。
これもまた数多の者達が彼に与えた悲劇そのものなのだ。
彼が彼の友を殺したことにより彼の友の仲間達は、彼に対しての復讐を決意したのだ。
数年後その復讐は果たされた。
彼女達は冥界の英雄の仇をとったと冥界の者達に称賛された。
しかし、彼が殺されるところを見ていた者がいた。その者は裏の人間ではなく完全な一般人だった。その者は彼の音楽家としてのファンの一人だった。その者は彼を殺した者達の写真をネット中に拡散した。
それを見た者の中に彼のファンは少なからず存在する。その中に権力を持つものがいた。その者は彼を殺した者達を権力を使い探させ殺した。
こうして彼女達の家族は激怒した。
悲劇の連鎖は止まらない。
後に、彼は人の世では【悪魔を殺した英雄】
異形達の世では【英雄を殺した大犯罪者】と記されることになる。