ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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本話でチャプター1は終了になります。
後は私の体力が続く限り素早い更新を心がけていく形です。10日以上伸びる場合は活動報告に入れるよう心がけます。


未だ希望は潰えることなく

 足元がおぼつかない。頭がグラグラする。思考などまとまるはずもない。

 ノクティスたちはおよそ最悪の精神状態のまま、王都インソムニアへの道を取って返していた。

 

「何があったんだよ、一体……!」

「わからないから確かめに行くんだ。……焦るなと言えなくて済まない」

 

 運転席のイグニスが申し訳なさそうに謝り、ノクティスはこれ以上の言葉が継げなくなる。

 助手席にいるプロンプトも窓に叩きつけられる雨を不安そうに眺めていて、平時の明るさは面影すら見えない。

 隣りにいるグラディオラスは落ち着こうと深呼吸を先ほどから繰り返しているものの、さしたる効果がないことに苛立っている様子だ。

 

 そして父と兄、自分さえも死んだと報じられたノクティスの心境など語るまでもない。

 怒りなのか、悲しみなのか、名前をつけることもできないほどグチャグチャに入り混じり、千々に乱れた心のままノクティスは徐々に王都への橋に近づくのを待つしかなかった。

 

 そもそもの発端はガーディナで受けたインソムニア陥落の知らせだ。

 講和条約の調印式が行われた場で騒ぎが起こり、ルシス国王陛下であるレギスとアクトゥス、ノクティス、ルナフレーナの死亡が確認。

 これと同時に講和条約の締結は無期限で延期という知らせも続いていたが――そちらはどうでも良かった。

 

「オレは生きてる。どうなってんだよこれは!」

「新聞に出ている情報はこれだけだ。これにしたって襲われているルシスが取材して得たものとは考えにくい」

「予め帝国が情報を操作している可能性もあるってことか」

 

 父と兄は無事なのか。そもそも同じオルティシエに向かっていたはずのルナフレーナはどうして王都にいたのか。わからないことだらけで何も思考がまとまらない。

 頭がこんがらがりすぎて、逆に何も考えていないような顔でノクティスはホテルの椅子に座る。

 

「冗談だろ……」

「だったら、良かったのに」

 

 呆然としたノクティスの言葉にプロンプトもまた本心をつぶやく。

 そして家族をいっぺんに失った可能性のあるノクティスの側に立つと、そっと椅子の縁に手を置いて顔を上げた。

 

「――確かめに戻ろう。こんなんじゃ結婚式どころじゃないよ」

「……オレたちが旅に出されたのは安全を確保するためかもしれない。戻るのは相応の危険が伴うぞ」

「ここにいたって変わらないよ!! それにイグニスとグラディオの話が本当なら帝国はノクトが生きてるって知ってるんだ! どこにいても危ないのは同じだよ!!」

 

 プロンプトの言葉にも確かな理があった。

 どのみちここにいたところで情報が入ってくるわけでも、事態が好転するわけでもなく、まして安全が保証されるわけでもない。

 しかし、旅の道を決めるのはイグニスではない。イグニスはあくまで参謀役。彼らに道は提示できるが、決める権利は持っていない。

 

「ああ……王都に戻ろう」

 

 三人の視線が集まり、ノクティスは頭痛を覚える頭を押さえながら決定を下すのであった。

 そして場面はインソムニアへ向かうレガリアの中に戻る。

 

「騙されてたのかよ、親父も兄貴も……!」

「ノクト、陛下もアクトゥス様もそんな人じゃないってわかってんだろ」

「わかってるよ、クソッ!!」

 

 グラディオラスの注意にノクティスは苛立つしかない。

 彼らはそんな愚鈍ではない。ルシスを支えてきたレギスは言うまでもなく、アクトゥスだって自分よりもよっぽど目端が利くはずだ。

 そもそも彼は国外情勢については実際に目にしている分、レギスより詳しい。その彼が騙されるなんてどうしても思えない。

 

 そう、彼らがただで転ぶはずがないのだ。だというのに新聞では両者の死が報じられ、ノクティスは自らの不安を解消できないストレスがあった。

 そして一行の中で彼の怒りを受け止められるものはいない。ノクティスと同じ感情を皆が多かれ少なかれ共有しているのだ。情報がわからなくて混乱しているのは同じである。

 徐々にインソムニアへつながる橋が見えてきたところで、イグニスはレガリアを止める。

 

「――ダメだ。王都への橋が封鎖されている」

「準備が良すぎる。もともと調印式で襲う気満々だったのかよ」

 

 ニフルハイム帝国の主戦力である魔導兵と魔導アーマーの大群がずらりと並んで、橋への道を封鎖している。

 この数を四人で切り抜けるのは不可能に近く、また切り抜けたところで王都への道は未だ遠い。

 

「脇に高台があったはずだ。そこからなら王都の様子ぐらいは確認できる」

「ならそっち行くぞ」

 

 高台にはレガリアでは向かえないため、徒歩で行くことになる。

 レガリアを降りると冷たい雨がノクティスたちの頬を叩き、今の状況を表しているようだと誰もが口に出さずに思う。

 急かされる気持ちに突き動かされ、彼らは泥で服が汚れるのも構わず高台を目指す。

 

「ここにも魔導兵がいるか……」

「もう和平なんて関係ねえ。ぶっ潰す」

 

 レガリアでは溜め込むしかなかった鬱屈をぶつける絶好の相手だ。

 ノクティスはイグニスたちが援護に回るのを待たず、その剣を苛立ちとともに投げつけ、戦いの狼煙を上げるのであった。

 

 

 

 魔導兵とはニフルハイム帝国が研究を進め、大量生産を可能にしているニフルハイム帝国軍の主力兵器である。

 人形をした自立駆動のロボットと言っても良い。ある程度の判断能力を有し、食事も補給もほぼ不要で物理的に破壊されない限りは半永久的に動き続ける機械の集団。

 

 これ自体は確かに常人より大きな出力があるものの、ルシス王国の精鋭に敵うようなものではない。

 前述した通り、彼らの強みは半永久的に動けることとその物量にある。たとえ相手が一騎当千の猛者だとしても、万で襲いかかれば蹂躙できるのだ。

 だがそれは言い換えれば、彼らの強みを十全に発揮するには数を揃える必要がある。

 そしてそれができない場合、鍛え抜かれたルシスの精鋭には為す術もなく蹂躙されてしまう程度の存在でしかない。

 

「砕けちまいなぁ!!」

 

 グラディオラスの大剣が魔導兵の持つ武器ごと、その機械の身体を叩き切る。

 後ろではイグニスが双短剣を振るって魔導兵の首を落とし、プロンプトが手足を撃って他の魔導兵の動きを止めている。

 そして前を行くノクティスはシフト魔法を駆使し、グラディオラスたちでは攻撃の届かない場所にいる魔導兵を叩き壊しては次の魔導兵に剣を投げてシフトブレイクを仕掛けるなど、さながら鬼神の如き戦いぶりを見せていた。

 

 あまり先走るなと注意したいが、グラディオラスも魔導兵を相手に苛立ちをぶつけたのは事実。諌めるような言葉を言える立場ではなかった。

 本当に未熟だ、とグラディオラスは状況がわからないこととは別の怒りを自覚する。

 

 もしも、あくまで仮に。レギス陛下の死が確かなものであるならば。

 身体だけでなく王の心も守ると謳われる王の盾――自分の父親はどうなるのだ。

 この推測を考えるなら、もうすでに父はこの世におらず――自分がノクティスを守り抜く王の盾になる。

 

 ノクティスが家族の安否を心配する傍ら、グラディオラスもまた家族への不安とこれから自分とノクティスにかかるであろう責任に、雨の冷たさとは違う震えを覚えるのであった。

 

 

 

 王都が見える丘に到着した時、状況は火を見るより明らかだった。

 王城は見えずとも、立ち上る黒煙とそれに群がるように集まる飛空艇に機動要塞の数がルシスの状況を何よりも物語っている。

 

 プロンプトは手元のスマートフォンを弄り、ラジオに接続して最新の情報を収集しようとする。

 しかし流れてくるのは新聞で得られた情報と大差はない。

 誰もが自分の知り合いと連絡を取ろうと電話をかけ始める。つながらないことは死に等しいなどということは、認めたいことではなかった。

 

 そんな中、ノクティスの電話がある人物に通じる。

 コル・レオニス。ルシス王国の王都警護隊の将軍を務める男で、その卓越した戦闘能力から不死将軍の異名を王国、帝国双方から戴いている正しく一騎当千の猛者だ。

 王子であるノクティスが小さい頃からレギスに仕えており、ノクティスも知己の人物だった。

 

「もしもし、コルか?」

「……ノクティス王子か」

 

 電話越しの声は常と同じ寡黙な声であり、同時に隠しきれない疲労の漂うもの。

 だがノクティスはようやく情報を知っていそうな相手と話せることもあり、余裕なく迫っていく。

 

「どうなってんだよ、一体!」

「いま、どこにいる」

「外だよ。そっちに戻れない」

「ああ――なら、意味はあったのか」

「何言ってんだよ、意味わかんねえ!!」

 

 肩の荷が一つ降りたと言うようなため息が電話越しに聞こえ、彼らの事情から蚊帳の外に置かれているノクティスは苛立つより他ない。

 

「何もかもわかんねえ、これはどうなってんだよ親父と兄貴、ルーナはどうなってんだよ全部説明しろ!!」

「――オレの知りうる情報は全て話す。だから王子、一度ハンマーヘッドに向かって欲しい」

「はぁ? 何言って――」

「陛下は、亡くなられた」

 

 無力感と後悔。そして疲労に塗れた声だった。

 ノクティスは実感など沸かぬままに、王都を睨みつける。

 帰ることの叶わなくなった故郷を見つめ、やがてポツリとつぶやく。

 

「兄貴は」

「わからない。オレの知っている情報含め、わからないことも必ず全て教える。だから王子、一度安全な場所に来て欲しい」

「……おう」

「どうか無事で。――また会おう」

 

 電話が切られ、ノクティスは何もかも失って途方に暮れた顔で、王都を見るしかなかった。

 状況がわからない苛立ちと怒りが解消されたが、次にやってきたのはどうしようもない状況に対するやるせなさと家族を喪った悲しみだけだ。

 

 足を動かす気力すらない。身も心も冷え切り、全て放り投げて殻にこもりたい衝動すら湧いてくる。

 誰もこの状況から前を向く気力はなかった。そんな時、ノクティスのスマートフォンがヴァイブレーション音を発する。

 誰だと思って首を動かすと、そこに映っていたのは兄アクトゥスの電話番号だった。

 

「兄貴!?」

 

 激変に次ぐ激変で止まりかけていた頭が動き始める。

 ノクティスの声に三人も何事かと近づき、その電話の話し声に耳をそばだたせる。

 

「もしもし、兄貴か!?」

「……おう、そっちは無事みたいだな」

 

 聞こえてくる声は寸分違わずノクティスの知る兄のものであり、ノクティスは胸に暖かな安堵が広がるのを感じる。

 

「無事みたいだな、じゃねえよ! 何やってんだよクソ兄貴!」

「あんま大声出すな。隠れて電話してんだ、魔導兵に見つかる」

 

 アクトゥスの口から語られる情報にノクティスは息を呑む。

 兄はまだあの危険極まりない王都にいるのか。

 

「……無事、なんだよな?」

「どうにか五体満足だ」

「じゃあオヤジも……!」

「それはない。レギス陛下は――父上は帝国との激戦に敗北し、身罷られた」

 

 兄が無事なら父親も。当然の帰結であり、ノクティスの希望であったそれをアクトゥスは無情にも否定する。

 完膚なきまでに否定された父親の死にノクティスは言葉がなくなるが、そんな彼にアクトゥスの落ち着いた声が届く。

 

「今、どんな状況か聞いてもいいか? いつまでこの電話も続けられるかわからん」

「……さっきコルと連絡がついた。知ってることを全部話すからハンマーヘッドに来いって」

「もう王都を脱出できたのか、さすがだな」

「兄貴はどうしてんだ?」

「インソムニアの廃屋に潜伏中。どうにかして脱出はしたいがね」

「だったら待ってろ、オレたちがすぐに――」

「やめとけ。ロクな策もなしに助けに来たって犬死するだけだぞ」

「だけど!!」

「……言い方が悪かったな。オレもここで死ぬつもりはサラサラない」

 

 もうたった一人の家族なのだ。助けたいと思うことの何が悪い。

 ノクティスの叫びにアクトゥスは優しげな声になってノクティスを慰めるように、そしてこれからの未来を見据えた声で話し始める。

 

「いいか、ノクト。まずはコルの言葉に従え。んでオレの無事を伝えるんだ。そうすりゃあいつは必ず救出を考える。それに乗じてオレも王都を脱出する」

「大丈夫、なんだよな」

「デク人形にオレが捕まるわけないっての。とびっきりの美女なら考えるけど」

「おい」

「冗談だ。……とにかくオレたちのことは心配するな。なるべく連絡は入れるようにするし、どうにか脱出できたら合流も目指す。そっちはそっちでコルの話を聞いてこい」

「わかった。……勝手にくたばるんじゃねえぞ、バカ兄貴」

「ガーディナのマッサージの感想を聞くまでは死ねないね」

 

 アクトゥスの軽口にノクティスは朝から浮かべた覚えのない笑みが浮かぶ。

 誰も彼も沈んだ面持ちで状況に翻弄されるしかなかった。その中でアクトゥスの冗談が聞けるのは思いの外彼らの心を軽くした。

 

「会えたらぶん殴ってやる。だから死ぬんじゃねえぞ、兄貴!」

「へいへい。――ああ、待て待て、まだ切るな」

「は? どうかしたのか――」

 

 

 

「――ノクティス様、ですか?」

 

 

 

 耳に届くその声に、ノクティスの思考はピタリと停止する。

 鈴を転がすような美しく、芯の強さを秘めた女性の声。

 聞き間違えるはずもない。最近ラジオでも聞いた声だ。

 

「ルー、ナ?」

「はい! お久しぶりです、ノクティス様!」

 

 電話越しに聞こえる声はノクティスに会えたことへの喜びに満ちあふれており、混乱の極みにあるノクティスにもそれはわかった。

 

「え、あ、ど、どうして」

「アクトゥス様に助けて頂きました。わたしたちもこれから王都を脱出して、ノクティス様に会いに行きます」

 

 喜びもあるが、何より混乱が大きい。

 なんて言えば良いのかわからない。そんなノクティスは二の句が継げないまま、電話を聞くしかなかった。

 だが次に聞こえてきたのは、今はある意味聞きたくない兄の声だった。

 

「――悪い、魔導兵が近づいてる。切るぞ」

「え? あ、お、おい兄貴、なんでルーナがそっちに――」

「帝国にハメられた、以上。悪い、マジで時間がない」

 

 一方的に電話が切られてしまい、ノクティスたちは怒涛の情報に混乱するしかなかった。

 かけ直そうにも電話越しの情報が決して良いものではないことがわかった。迂闊なことをすれば今も王都で奮闘しているアクトゥスの足を引っ張る結果になりかねない。

 

 しかしこれからどうしたものか、と皆が一歩を踏み出せずにいたところプロンプトがノクティスの肩を叩く。

 

「お兄さんは無事だったんだよ、ノクト! それでルナフレーナ様も連れてる!! これは絶対に良いことだよ!!」

「お、おう」

「何も状況なんてわからないけどさ、とにかく動こうよ! ノクトのお兄さんも、ルナフレーナ様も、コル将軍も! みんな動いてるんだ!」

 

 国に仕える者と、国を背負う者。なまじ多くの責任が伴うがゆえに状況の深刻さに動けなかったノクティスたちにプロンプトが声をかける。

 状況は絶望的かもしれない。だが自分たちが絶望してしまったら本当に終わりだ。

 だから前を向いて進もう。そんな意思のこもった言葉を受けて、仲間たちの声にも徐々に熱が宿っていく。

 

「……だな。まずは事情を知らねえと何もできねえよな」

「プロンプトの言うとおりだ。今後の方針を決める意味でも、まずはコル将軍の話を聞こう」

「ああ、ハンマーヘッドに戻るぞ」

 

 普段通りの調子、とまではいかずともある程度調子を取り戻したグラディオラスとイグニスの言葉に押され、ノクティスは決断を下す。

 希望が見えるとは言えない状況だが、絶望に膝を折ることもない。一人では立ち上がることも難しい状況であっても、仲間の声があれば立ち上がれる。

 

 三人はこの旅に来てくれたプロンプトへの感謝を内心で行いながら、レガリアに戻るのであった。

 

 

 

 

 

 電話を切ったアクトゥスは近づく足音に耳をそばだて、動くべきか否か考える。

 

「数そのものは多くない。単なる哨戒か」

「ではここまで探すことは」

「ないはずだ。廃屋の中まで探せる数じゃない」

 

 ルナフレーナの言葉にアクトゥスは安心させるように話し、再び床に腰を下ろす。

 今、彼らがいる場所は爆撃と戦闘で激しく損壊した廃ビルの一角だった。

 雨風はしのげる上、インソムニアの技術力で作られたおかげか倒壊する様子もない。

 長居は難しくても一時しのぎの拠点には十分な代物だ。

 

「さて、ノクトとも連絡が取れたしこっからどうするかな」

「脱出するのではないのですか?」

「ルナフレーナ様を連れてとなると機を伺わないと難しい」

 

 アクトゥス一人ならシフト魔法の駆使でどうとでもなる。

 レギスは魔法障壁の維持でまともに動くこともままならない身体だったが、アクトゥスは違う。

 五体満足に動けるルシスの王族の力は万夫不当と言っても過言ではない。あらゆる武器を使いこなし、魔力を通した武器に瞬間移動するシフトを使いこなす王族の力は、ニフルハイム帝国をして手を焼くものである。

 

 とはいえシフトで動けるのはアクトゥスのみ。現在の同行者であるルナフレーナも一緒にというのはできない。

 それを聞くとルナフレーナは申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「すみません、わたしが足を引っ張ってばかりで……」

「ああ、いやいや、済まない。もうルナフレーナ様の髪飾りは壊した以上、場所を知られる危険はない。それに――」

「それに?」

 

 

 

「――弟の未来の花嫁なんだ。見捨てるなんて冗談じゃない」

 

 

 

 かぁ、とルナフレーナの顔に朱が指すのを見て、意外と初心なんだと内心で微笑むアクトゥス。

 ノクティスも照れ屋な部分があるし、意外とお似合いなのかもしれない。

 

「それに光耀の指輪もオレたちが持ってるんだ。帝国に捕まるのは絶対に避けたい」

 

 父王レギスは死に、戦闘にも勝利したとは言えない。

 だが、希望はまだ潰えていない。王族しか扱えない光耀の指輪を使い、帝国軍を退けてくれた王の剣がいなければこの希望すら潰えていた。

 

「……王の力も使えない落伍者、か」

 

 アクトゥスは己の手に託された光耀の指輪を見て、自嘲の笑みを浮かべる。

 預けてくれた男は王族であるアクトゥスに恨み言を言わなかった。ただ、後は頼んだと告げるだけ。

 うんざりする、とアクトゥスは己に課せられた役割を思ってため息をつく。

 

「アクトゥス様?」

「……ルナフレーナ様は聞かないんだな。オレが光耀の指輪を付けない理由を」

「ノクティス様のお兄様ですから、何か理由があると思います」

「理由になってないだろ、それ」

 

 ルナフレーナの言葉につい笑ってしまう。

 そしてアクトゥスはなんてことのないように光耀の指輪を――資格なき者がつけるとその身を焼かれる――指にはめる。

 王家の者が装備すれば莫大な魔力とクリスタルを操る力を手にし、ルシスを守ることができるようになる。

 だが――アクトゥスがはめた光耀の指輪からは何の反応もない。空気を震わせる膨大な魔力も、指輪に眠る歴代王の魂も感じない。

 

 王と認めないのではない。だったらアクトゥスの身が焼かれている。

 彼はまだ王になる時ではない。これはそれだけの話。

 

「――とまあ、オレに歴代王の力は使えないんだ。彼には本当に感謝してもしきれない」

「――はい。わたしも彼に深く感謝しております」

 

 華々しくルシスを救ったわけではない。だが、ルシスの滅亡からすくい上げたという意味であれば間違いなく彼がそれだ。

 アクトゥスは生涯忘れないと彼の名を心に刻み、立ち上がる。

 

「だからこそ、まずは何が何でも生きて脱出する。使命も約束も、全てはそれからだ」

「はい。及ばずながらサポートいたします」

 

 ルナフレーナより差し出された手をアクトゥスは迷いなく握り返し、ここに一つのパーティーが誕生する。

 

「オレのことは好きに呼んでくれ。呼び捨てでもいいし、アクトでも良い。オレもあんたに様付けはしない」

「……やはりアクトゥス様と呼ばせていただきます。男性を呼び捨てにするのは不慣れで」

「未来の義妹に他人行儀にされるとは、ちょっと悲しいぞ?」

「そ、そのようなことは!」

 

 生真面目な性格のルナフレーナはアクトゥスの軽口にも真面目に対応してしまう。

 それがおかしくて、アクトゥスは小さく声を上げて笑う。

 からかわれているとわかったのか、ルナフレーナの顔が僅かに不満そうなそれに変わる。

 

「ハハッ、冗談だよ。覚悟ある顔をしたって、暗い顔をしたって状況が変わるわけじゃない。どうせなら笑っていこう」

「……アクトゥス様は少し意地が悪いです」

「おっと、ノクトには言わないでくれよ? あいつに怒られる」

「さあ、どうでしょう?」

 

 生真面目かと思いきや、意外と言う時は言うらしい。

 まいったと言うように両手を上げると、ルナフレーナはクスリと上品に笑ってくれた。

 わざわざ道化になった甲斐があるものだ。軽口を叩くのは昔からの癖だが、こういう時には清涼剤になってありがたい。

 笑えば活力が生まれる。活力が生まれれば希望も芽生える。希望があればいつか必ず勝利できる。

 

「――よし、動くか。まずは橋の付近に潜伏する。そんで状況が動き次第脱出だ」

「はい!」

 

 王都に残されたアクトゥスとルナフレーナ。

 周りの手助けも少ないであろう二人の、孤軍奮闘もまたノクティスたちの冒険の始まりと同時に始まっていくのであった。




オレたちの戦いはこれからだ――!(なお次回サブクエ回の予定)

サブクエ回をどう入れたものか、今でも悩んでいます。なんか良い案があれば教えてください(平伏)

そしてここからはちょいちょい視点が変わり、ノクトとアクトの視点が交互に動く予定です。
アクト・ルーナ組の行動の際にレストランやダイナーの飯テロは入る予定です。ノクト側はもっぱらキャンプ。

ノクトたちの心理描写をガッツリ入れてあわよくば原作のFF15をプレイしてもらいたい!(欲望)
そんな感じで始まった拙作ですが、お付き合いいただければ幸いです。

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