ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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初速は大事。これで読者を掴む(真顔)


貧乏王子の生活費稼ぎ

 ハンマーヘッド。

 それは三十年前、父王レギスがレガリアで旅をした時の仲間であるシド・ソフィアという技師が作り上げた小さな整備工場を指す。

 

 小さな整備工場と言えど侮るなかれ。ルシスでも魔法障壁の中にある首都インソムニアと、その他の街では文明自体に大きな差がある。

 そんな文明格差がある中でもハンマーヘッドには貴重なガレージがある自動車整備工場として、世界地図にも乗るほどの知名度を誇っているのだ。

 無論、シド・ソフィア技師の卓越した技術もその一因であることは疑う余地もない。

 

 そのハンマーヘッドにようやくたどり着いたノクティス一行は、疲労困憊と言った様子で一息入れていた。

 グラディオラスとイグニスは疲労している様子こそあるものの、動けないというほどではない。

 だがプロンプトはもう一歩も動けないと、痛そうに脇腹を擦っていた。

 

「おーい、待ってたよ」

 

 そんな彼らの元に、朗らかな明るい声が届く。

 涼しい地面と同化していたプロンプトがゆっくりと身体を起こし、相手を確かめるといそいそと起き上がる。

 それもそのはず。やってきたのは健康的な色気を持った妙齢の女性だったのだ。

 

 ホットパンツからのぞく日焼けした足は艶めかしさを微塵も感じさせない、気力に満ち満ちている。

 整備用ジャケットも大きく胸元まで開いており、思わず視線がそちらに行ってしまいそうだ。

 そんな色気のある格好ではあるものの、女性の雰囲気にそういったものは僅かも感じられず、あくまで朗らかでハツラツとしたもののみ。

 

「えっと、どれが王子?」

 

 女性は視界に入っている三人を見回すが、三人とも首を横に振る。

 では誰が、という顔で見ると三人の視線が一点に集中した。

 車の死角。女性の方からは見えない場所から王子――ノクティスが起き上がって女性の方を見る。

 

「オレだけど」

「初めまして、王子。結婚おめでとう」

「いや、まだだから」

 

 女性に結婚を祝う言葉を受けて、ノクティスは照れたようにあいまいな返事をしてしまう。

 実際のところ、彼にもまだ結婚をするという意識はないため、すでに確定したことのように言われてしまうと戸惑いが先立ってしまうのだ。

 

「ふーん、君がアクトの弟かー」

「兄貴のこと、知ってんのか?」

「そりゃぁね。君のお兄さんも昔はエンストした車をここまで引っ張ってもらってきてたんだよ」

「とすると、アクトゥス様はオレたちがこうなるのも予見していたのか」

「あンのクソ兄貴……!」

 

 イグニスの冷静な指摘にノクティスは苛立ったため息を吐く。

 帰ったら一発ぶん殴る、と心に決めて意識を切り替える。

 

「あんたは?」

「シドニー。シド・ソフィアの孫娘で、ここの整備士。このコ、あっちに連れて行こう。じいじも待ちくたびれてるよ」

「オーケー。おら、最後のひと押しだ」

 

 グラディオラスと再び気合を入れ直そうとしたところで、しわがれた老人の声が遮る。

 

「慎重に扱わんか。そいつは繊細なんだ」

 

 声こそ老いているものの、足取りに揺らぎはない。

 一歩一歩がその歴史を感じさせるようなゆっくりとした足取りで、老人はレガリアを愛おしげに一撫でする。

 そしてその後にノクティスを見る。

 

「ノクティス王子、か」

「あ、ああ、まあ……」

 

 老人とは思えない力強い瞳に睨まれ、ノクティスは怯んだようにうなずく。

 その様子に老人――シド・ソフィアは呆れたようにため息を吐く。

 

「レギスから威厳を拭き取ったような顔だな。色々と控えた大事な旅なんだろ。もっと引き締まった顔はできねえもんか」

「お、おう」

「まあ、アクトの野郎も似たようなもんだった。若い頃は頼りなさそうなのも血筋かね」

 

 ノクティスから見ればアクトゥスはなんでもできる頼れる兄なのだが、シドにかかれば形無しらしい。

 シドはレガリアを一瞥し、それで状態を判別したのだろう。ガレージの方に向かっていく。

 

「時間がかかるな。中に入れたら適当に遊んどけ」

「了解! それじゃこのコ、中に入れようか」

 

 シドとシドニー。二人の整備士の診断を受けて、ノクティスたちはハンマーヘッドの逗留を余儀なくされるのであった。

 

 

 

「しばらくはここに滞在だな」

 

 イグニスは宿泊できそうなモービル・キャビンを横目に確認しつつ、全員の認識を合わせるようにつぶやく。

 

「まあ、のんびり行けば良いだろ。具体的な日時が決まってるわけでもなし」

「車での移動だとどうしてもな」

 

 地上にはモンスターが闊歩しており、夜にはシガイも出る。

 文明が進んだと言えど、食料や素材として役立つモンスターを飼い慣らすことは未だ難しく、シガイに至っては出現原理すらわかっていない。

 ニフルハイムと長い戦争が始まる前、交流があった頃に伝わった自動車が独自の進歩を遂げて、ルシスの主要な移動手段となっている現代であっても、安定して安全な旅路というのは難しかった。

 

「ノクトのお兄さんもこういう苦労してたのかなあ」

「ああ、聞いたことあるな。野営する時は絶対に標を見つけろ、とかシガイは倒しても倒しても湧いてくるから逃げた方が良いとか」

「倒すんだ、シガイ」

 

 ノクティスの口から語られる兄貴像にプロンプトは慄いたような顔になる。

 インソムニアに戻るのは僅かな時間だったことが多いらしく、グラディオラスやイグニスと違ってプロンプトはアクトゥスとあまり顔を合わせていない。

 数少ない顔を合わせた時には、気さくで優しく、気前の良いノクティスのお兄さんという雰囲気だった。

 

「意外と武闘派なんだね」

「外交官っつっても、外の世界との雑用係みたいなモンだったらしいしな。偉い人と話すことより、ルシスの中で話を聞くことの方が多いとかなんとか」

「へえぇ……」

 

 興味深そうにうなずくプロンプトと歩き、降って湧いた自由時間を謳歌する。

 二人はぶらぶらと店の中に入ると、整備用油の強い匂いが漂ってくる。

 自動車の整備工場だけあって、やはり店の中にもそういったものが多く置かれているようだ。

 

「おお! いいね、こういうの」

「お前機械とか好きだもんな」

「まあね。カメラのフィルムとかもあると良いけど……あ、エボニーコーヒーがある」

「マジか」

 

 エボニー社という会社のロゴが特徴的なコーヒーで、インソムニアにも流通しているコーヒーだ。

 ……これだけ見ると超大手のコーヒーを連想するかもしれないが、実態は好きな人はとことん好きだが、嫌いな人は匂いすらダメという好き嫌いの激しく別れるものだったりする。

 イグニスはこれを好んで飲んでおり、ノクティスたち三人は彼の味の嗜好に首を傾げることがしばしば存在していた。

 

「レガリアにも積んであったけどさ、これで補給ができそうだね。……あれ、ギル?」

「兄貴の言ってた金のことだろ。イグニスが持ってる」

「そっかぁ、本当に王都の金は使えないんだ」

 

 なんか外の世界だって実感するなあ、と言うプロンプトを伴ってイグニスの元に戻る。

 イグニスは何やら深刻そうな顔で佇んでおり、ノクティスを見つけると彼の側に寄ってきた。

 

「ノクト、悪い知らせがある」

「聞きたくない」

「いいや聞いてもらう。整備代で路銀が消えた」

「ウソ!? 結構持ってたよね!?」

「幸いというべきか、アクトゥス様からもらったギルだけは手元に残った。とはいえ、これだけでガーディナまでは無理だ」

「兄貴からもらったのってどんくらいだ?」

「その辺りでおみやげが買える程度だ。節約すれば一泊も不可能ではない」

 

 大した額でないことはハッキリした。

 もっと気前よくくれよ、とこの場にいない兄に毒づいてノクティスは今後を考える。

 

「んで、どうするよ」

「シドニーに相談して安くしてもらうか、仕事をもらうかだな」

「だがよお、整備代にしちゃ高すぎんだろ。あれ、この旅の資金大半だぞ?」

 

 グラディオラスの言い分に誰もがうなずくが、どうしようもない。

 車の整備は彼らに任せねばできることではなく、ノクティスたちだけでどうにかなるものでもないのだ。

 まさかの一文無しにノクティスは空を仰ぎ、つぶやく。

 

「まったく、楽しい旅になりそうだな――」

 

 

 

 

 

 その後、値下げ交渉を試みたところめでたく仕事を申し付けられ、外の世界の厳しさを実感することになっていたノクティスら一行は、ハンマーヘッドからほど近い場所でモンスター狩りに勤しんでいた。

 

「オレらが戦えなかったらどうすんだろうなこれ」

「ルシスの王族ならそれなりに戦えなければ話にならないということだろう。それにさほど恐ろしい相手ではない」

 

 言いながらイグニスは巨大なサソリ――アラクランと呼ばれている――のハサミを避けて、柔らかい関節部分に短剣を突き立てる。

 痛みに悶え、尾の毒針をイグニスに突き立てる――前にノクティスの父から貰ったエンジンブレードが閃き、その尻尾を切り落とす。

 ほぼ無力化されたところをイグニスが慣れたように脳天に短剣を突き刺し、駆除が完了する。

 

 ノクティスとイグニスは軽く拳をぶつけて互いを労うと、離れた場所で戦っているグラディオラスとプロンプトを探す。

 グラディオラスの方は大剣を軽々と操り、すでに三体近く屠っている。サソリの硬い甲殻も彼の膂力にかかればもろともに粉砕できるもののようだ。

 

「無事か、プロンプト?」

「な、なんとか! で、でもグラディオとイグニスはともかくとしてどうしてノクトまで落ち着いてるのさ!?」

「ビビってちゃ勝てるもんも勝てねーだろ」

 

 初陣ということもあって最初はやや緊張していたのは否定しないが、案外なんとかなるというのがノクティスの感想だった。

 小さな頃から散々鍛えられ、シフトの訓練もやっておいた甲斐があるというものである。アクトゥスのシフト超便利という言葉を覚えておいて良かった。

 

 グラディオラスが大剣を振るい、最後の一体を倒したところで四人が集まる。

 

「案外なんとかなるもんだな」

「だな。鍛えた技の振るい甲斐があるぜ」

「とはいえ油断は禁物だ。向こうもオレたちを殺したいわけじゃない。依頼は簡単なもののはずだ」

「簡単なものでこれとか、ちょっと怖いんですけど」

 

 アラクランのハサミも尾の針も、直撃したら人間などひとたまりもないものだ。

 当たらなければどうということはなくても、万一を考えるとすくんでしまうのが人間である。

 そんなものを相手に物怖じせずに戦える辺り、やっぱり王族や警護隊の人は違うのだとプロンプトは実感してしまう。

 

「とにかくこれで仕事は終わりだ。戻ってメシでも――あれ、電話」

 

 ノクティスの上着のポケットからヴァイブレーション音が響く。

 誰かと思いながら取り出すと、液晶画面には先ほど交換したシドニーの番号が表示されていた。

 

「はい」

「シドニーだけど、退治は順調?」

「いま終わった」

「よかった。アクトとほとんど同じ仕事だけど、やっぱり四人だと早いね」

「兄貴もやったのか?」

「そうそう。シフトのありがたみが身に沁みたって言ってたけど、なんだろうね」

 

 わかるわ、とノクティスはシフト魔法が使える身として実感する。

 武器の召喚もそうだが、自身の魔力さえ通してあればその武器の元に瞬時に移動できるというのは、日常生活では全く役に立たないがこういう時に恐ろしく便利だ。

 

「それで悪いんだけどさ、人探しも頼まれてくれない?」

「人探し?」

「デイヴってハンターなんだけど、連絡が取れなくなったの。本当についさっきだから万一はないと思うけど」

「この辺なのか?」

「近くにいると思う。お願いしても良いかな?」

 

 万一、と話すということは人命に関わる可能性もあるということ。

 つい先ほどモンスターの脅威も目の当たりにした以上、断るという選択肢はなかった。

 了承の返事をして電話を切り、ノクティスは辺りを見回す。

 

 見渡してもあるのは乾いた荒野ばかり。緑も少なく、黄土色の砂が巻き上げられて砂埃を立てる。

 かろうじて家と呼べなくもない廃屋が数軒並び、一台だけなら駐車も可能そうなパーキングがある。

 総じて言ってしまえば、寂れた通り道以上のものではなかった。

 

「シドニーから? なんだって?」

「デイヴってハンターを探してくれって頼まれた。この辺らしい」

「探す、ということは連絡が取れなくなったのか。……ハンターであり、何かしらの怪我を負っているのなら無闇に動くことはないはず」

 

 プロンプトたちに事情を話すと、一行の参謀役であるイグニスが得られた情報からの考察を皆に伝える。

 それを聞いたグラディオラスが辺りを見て、一軒の小屋を指差した。

 

「だったら屋内だな。あれなんか結構しっかりしてそうだし、オレだったらあそこで隠れる」

「行ってみるか」

 

 ノクティスの一声で全員の意向が決まる。

 小屋の方に向かってみると、すでにそこには先客があった。

 トウテツと呼ばれる鋭い爪と牙を持つ野獣が何匹も群れをなして小屋の周りをうろついており、低く唸って威嚇していたのだ。

 いくら周囲の廃屋と比べれば頑丈そうと言っても、所詮は木造の小屋。野獣の飛びかかりが続けばあっけなく壊れてしまう。

 

「ノクト、あれ!」

 

 その事実に真っ先に気づいたプロンプトが声を上げて、横にいるノクティスを見る。

 すでにノクティスの姿はそこになく、投げつけた剣にシフトで追いつき攻撃を行う――シフトブレイクをトウテツの頭部に突き刺していた。

 

「このっ!」

 

 瞬く間に一体を無力化し、ノクティスは油断なく前を見て次の獲物を見定める。

 突き刺し、頭部に半ばまで埋まったエンジンブレードを一瞬だけ送還の後、すぐに召喚することで引き抜くタイムラグを極限まで削り、近くにいたトウテツめがけて振り下ろす。

 しかしそこは獣の反応速度。ノクティスを敵と見定めたトウテツの動きは素早く、俊敏に身を翻してその攻撃を避ける。

 

 空を切った一撃に僅かに怯むノクティスの後ろから別のトウテツが飛びかかり――

 

「させねえよ!!」

 

 追いついてきたグラディオラスの大剣が飛び上がっていたトウテツを切り飛ばす。

 一撃で絶命したそれに構うことなくグラディオラスはノクティスの後ろを守るように位置取り、守るべき王子に叱責を飛ばす。

 

「先走んな! 獣が行儀よく正面から来ると思うなよ!」

「ワリぃ」

「けどまあ――真っ先に動いたのは見直したぜ」

「だろ?」

「調子に乗んなきゃ満点だ」

 

 軽口を叩き合いながら二人は油断なく獣を見やり、同時に笑う。

 

「一分でイケるな?」

「一分もいらねーよ」

「言うじゃねえか。じゃあ早速、王子のお手並み拝見と行きますか!!」

 

 追いついてきたイグニス、プロンプトも戦いに加わり、戦闘はノクティスの言ったように一分もかからず終了するのであった。

 

 

 

 戦いが終わり、ノクティスたちが砂埃を払っていると家の扉がゆっくりと周囲を伺うように開く。

 出てきたのは治療痕の残る片足を痛そうに引きずり、苦痛に顔を歪めて身体を壁にもたれかけながらも、二本の足で立っている中年の男性だった。

 丈夫そうな身を守るジャケットにサバイバルナイフ。そして一目でわかる鍛えられ日焼けした肉体。ハンターであることは間違いない。

 

「あんた、ハンターのデイヴだよな? 捜したぜ、大丈夫か?」

「ああ、オレを捜しに来たのか。ケガは大したものじゃないが、さっきのは危なかった。恩に着るよ」

 

 グラディオラスの言葉にもデイヴと呼ばれた男性はしっかりとした口調で答える。

 骨が折れているようでもなく、熱が出ているわけでもない。軽傷とは言い切れないが、重傷でもない。そんな印象の傷だった。

 痛いことには変わんねえだろ、とノクティスは後ろにいるイグニスに回復薬を出すよう頼む。

 

「イグニス、ポーション頼む」

「わかった。こちらを使ってください。傷の治療が早まります」

「助かるよ」

 

 ノクティスの魔力が与えられたそれはただの健康飲料ではなく、即席の回復薬になる。

 飲んでよし、砕いても中の魔力が飛沫とともに舞うため効果を得られるという、ありがたいものだ。閑話休題。

 

 デイヴは先ほどの外の野獣の死体を見て、彼らの腕が相応に立つことを確信する。

 そしてそっけない素振りではあるが、リーダーと思われる少年はこちらを案じてくれているのがわかる。

 密漁、盗掘などを狙った集団ではないだろう。そうあたりをつけて、デイヴは口を開いた。

 

「なあ――この近辺に様子のおかしい野獣がいるんだ。ほとんど倒したが、最後の一体にやられた」

 

 かすっただけでこれだ、とデイヴは足元の傷を見せる。止血が施されてなおジクジクと血が広がる様は、見ていて気持ちの良いものではない。

 

「あれがハンマーヘッドに向かう可能性もある。できればここで仕留めたい。君はハンターではなさそうだが、そこのトウテツを見る限り腕は立つのだろう。頼めないだろうか」

 

 無論、報酬は支払う。そういって頭を下げるデイヴに、ノクティスはうなずいて了承する。

 

「わかった。オレたちに任せとけ」

「助かる。では詳細な位置を教えよう」

「ああ。おっさんはどうすんだ? もうすぐ夜だぞ」

 

 夜になったら暗闇からシガイが溢れてくる。

 そのため夜になったら結界の施された標で野営するか、十分な光量の確保された街にいるのが鉄則となる。

 デイヴの足の調子は決して良いものではない。万に一つシガイに襲われでもしたら、寝覚めが悪いどころの話ではなかった。

 

「この足でも夜までにハンマーヘッドにはたどり着ける。そこで治療を受けるよ」

「無茶はすんなよ」

「これでもハンターだ。このぐらいの傷、日常茶飯事さ」

 

 

 

 

 

 

「この辺りじゃハンターが活躍してるみたいだな」

「ハンター?」

 

 デイヴと別れてからしばらくの後。日の落ちる兆候が見えてきたため、ノクティスたちも今日のキャンプ場所を探している時の言葉だった。

 グラディオラスの呟いた言葉にノクティスが首をかしげる。

 ルシスの王都インソムニアでは王都警護隊が街の警備、並びに王都外苑に出て来るシガイ退治などを行っていたため、ハンターという響きに馴染みが薄いのだ。

 

「王都以外のルシスで活躍している民間の組織だ。治安の維持、モンスターの退治、シガイの駆除。こういった場所では輸送の警護もありそうだな」

 

 魔法障壁などない以上、自分の身は自分で守るしかないということだ、と言ってイグニスが解説をする。

 

「オレらなんかよりよっぽど実戦経験はあるんだろうな」

「スゴイな。……オレのこれ、見劣りしちゃうな」

 

 プロンプトは自分の着ている警護隊の制服をつまみながら、自嘲するように笑う。

 彼は王都警護隊に属しているわけではなく、ノクティスの旅に同行することが決まってから王宮の側から支給されたものになる。

 当然、正規の訓練など受けてもいない。ノクティスのように子供の頃から武器の使い方を学んできたわけでもない正真正銘の一般人だった。

 

「気にすんなよ。特別に作ってもらったんだ、見劣りなんてしねえって」

「警護隊の服は身分証明にもなる。大切に着てくれ」

 

 黒が基調となった服は特殊な繊維と編み方で作られており、それ自体が一つの防具としても成立するほどの頑丈さを持つ。

 同時にルシスの紋章も随所にあしらわれているため、これを着ているだけでもルシス所属の人間であると一目で判断ができるのだ。閑話休題。

 

 そのような話をしている間も足は進み、今日の疲れを癒せる場所を探していた。

 一直線に動いているイグニスの後ろをついて歩き、ノクティスは彼に行き先を尋ねてみる。

 

「んで、どこでキャンプするよ」

「標のある場所だ。……ほら、あれだ」

 

 淡い青に輝く小さなストーンサークルと、その周囲を張り巡らされた白い刻印。

 歴代の神凪が祈りを捧げて作られた結界であり、この場所であれば一夜を安全に過ごすことができる。

 

「ここで一泊だな。よし、テント張るぞ」

 

 サバイバルが趣味であるグラディオラスが張り切って肩を回す。

 テントなどのサバイバル道具もノクティスが魔力を通しておけば召喚も送還もできるため、手ぶらでもその場でキャンプができる便利な能力である。

 

 そうしてグラディオラス主導のもとノクティスとプロンプトがキャンプ用品を並べる中、一行の胃袋を握っているイグニスは本日の献立を考える。

 手元にある食材はそう多くはない。しかし何もないならないなりに工夫をするのが腕の見せ所である。

 幸い、道中で拾った根菜――リード芋がある。後は手持ちの食材で日持ちのしないものを組み合わせれば問題ない。

 

 まずは王都インソムニアでもよく食べられているリード芋の皮をむき、水に浸しておく。

 次に歯応えの良いキノコであるフンゴオンゴ茸をザクザクと厚めに切り、火を通しても歯応えを楽しめるようにする。

 他にも人参などの野菜を大きく――切ると偏食の気があるノクティスが嫌がるので、薄く切って色付け程度にしておく。

 

 そして鍋にバターを溶かし、同量の小麦粉を炒める。ダマにならないよう気をつけながら丁寧に火を通すと、火の通った小麦とバターの食欲をそそる香りが漂ってくる。

 ここでのポイントは焦げ付く寸前まで火を通すこと。その方が香ばしい匂いが強まり、味が良くなるのだ。

 そこに毛長羊の乳を慎重に入れていき、バターと小麦粉でできたそれを伸ばしていく。後は塩で味を整えればホワイトソースの完成である。

 

 水を切って大きめに切ったリード芋を入れ、火が通ってホクホクしてきたところで人参やその他の野菜を投入する。

 最後にフンゴオンゴ茸を入れて生っぽい感触が残らず、さりとて火が通り過ぎてシャキシャキとした歯応えも失われないよう慎重に暖め――野菜たっぷりシチューの完成となる。

 

 これからしばらくは旅の日々になるのだ。栄養価の高いシチューを食べ、今後の旅を楽しく過ごそうというイグニスの心遣いが光る一品だ。

 直火でこんがり炙ったパンも添えて、シチューの伴にして食べれば夜も暖かく眠れること間違い無しである。

 

「よし、完成だ。みんな、皿を用意してくれ」

 

 待ってましたとばかりに歓声をあげる三人に小さく笑い、イグニスはできたシチューを皆の元へ運ぶのであった。




FF15の見どころはキャンプにもあります。イグニスの飯テロにプロンプトの写真、チョコボがいればチョコボの可愛らしさにイグニスの飯テロ。

今のところはのんびり進めてますが、ゲーム的に言えばチュートリアルです。一回描写したら後は以下略も普通にあります。それでもイグニスの飯テロは練習にもなるので続けますが。

なるべくゲーム的な一章は早めに終わらせたい所存です。アクトの話が出てくるのもそこからになりますから。
なのでしばらくはある程度更新ペースは早くなると思います。最初にある程度文量を書いて固定客を掴む(真顔)

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