ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者― 作:右に倣え
「ここが最深部か?」
「おそらく。あの木を見ろ」
「うわ、バリバリ言ってる。ノクトのことが待ちきれなかったみたい」
ナーガを退けた一行は最深部と思われる場所で紫電をまとう石造りの木を眼前にしていた。
雷が輝くそれは、暗い洞窟の中を通ってきた彼らには目に痛いぐらいだ。
「これが雷神の依代か」
「多分、てか状況的にこれ以外ないだろ」
他に道もなく、そして目の前の石碑はこれでもかと言わんばかりに自己主張が激しい。
「ではノクト、雷神の啓示を受けてくれ」
「おう」
イグニスの言葉を受けて、ノクティスはその手を石碑にかざす。
手を近づけることでわかったこととして、この石碑から感じられる力は雷だけのものではないということ。
タイタンと対峙した時と同じ、ノクティス以外にはわからないであろう神々の気配である。
そっと紫電をまとうそれに触れると、天からけたたましい轟雷が降り注ぐ。
ノクティスの周りを威嚇するように、あるいは祝福するように雷鳴が霞のようにノクティスの周囲を焦がす。
「うわっ!?」
「やべえ、近づけねえ!」
「――だが、ノクトは無事だ。これが六神と神々に選ばれた王の姿か……」
後ろから届く仲間たちの声は、すでにノクティスの耳に聞こえていなかった。
ノクティスの触れている石碑から紫電がノクティスに吸い込まれていき、彼の脳裏にいくつかの絵が映し出される。
一つ、神々の誓約を果たすルナフレーナとそれに寄り添う実兄アクトゥスの姿。
一つ、彼女らを見下ろす天地裂く雷鳴の主である老爺の姿。
一つ、彼らに手を差し伸べる老爺の優しい眼差し。
――一つ、その手が伸びる先にいる、己の姿。
「――っ!!」
体内に宿る紫電の力、というものをノクティスはハッキリと感じ取る。
巨神の力が自身の身体に宿ったときと同じ、自身で操ることのできる新たな力を獲得したのだ。
「雷神の、力――」
「おつかれ、ノクト。大丈夫だった?」
「ああ。神さまにも性格あるらしいぜ。今回はすんなりいった」
駆け寄ってきたプロンプトに答えつつ、ノクティスは雷神ラムウと交わした啓示について思いを馳せる。
かの老爺は声なき声で確かにルナフレーナとノクティスに伝えたのだ。
――すなわち世界を頼む、と。
世界というのが何のことか、ノクティスにはわからない。
だがルシスのことではないだろう。神々にとって国家間の争いなどどうでも良いはず。
やはりというべきか、自分たちが巻き込まれているのは国家同士の争いの枠組みにとどまらず、もっと大きなものなのだろう。
仲間たちも言葉にはしないだけで薄々理解しているはずだ。
「これでまた新たな力をゲットか。よしっ、それじゃあ脱出してレガリア奪還に向かうか!」
「だな。この封鎖を抜ければルーナにも会える」
「あと少しの辛抱といったところか」
先行きが見えてきた。そのことに一行の表情も明るくなる。
「でもさ、ルナフレーナ様と合流できたらどうするの?」
「帝国との本格的な戦争、と言うべきところだと思うが……おそらくルナフレーナ様とアクトゥス様はオレたちが見えていない情報を基に動いている」
彼らの不可解な行動をイグニスはそう結論づけていた。
そしてその事実に二人は罪悪感も覚えており、レスタルムで合流したら全て話すと言っていた。
「まずは合流が最優先だ。そしてお二人の話を聞いて改めて今後の動向を考えよう。……当て推量だが、単に帝国との戦いには留まらない気もするからな」
「巨神にも襲われたわけだしな。あそこだって打倒帝国だけなら必要ない場所のはずだ」
「とにかくいこーぜ。ここで話しても答えは出ねえだろ」
小難しいことを考え始めたグラディオラスとイグニスの話を遮り、ノクティスが歩き出す。
どのみち答えはルナフレーナとアクトゥスが握っていて、彼らは話す意思を見せているのだ。
今はまだ言われるがままで良いだろう。それがルシス奪還への最短であると確信があるのだから。
ノクティスたちがフォッシオ洞窟を抜けると、吸い込まれるような青空が彼らを出迎える。
入る時に降り続いていた雷雨はすっかり晴れており、柔らかな太陽の日差しがノクティスたちを包み込んでくれた。
「太陽って良いねえ」
「雨より百倍マシだな」
とりあえずどうしたものか、と当座の行き先だけでも考えようとした一行の頭上に大きな影ができる。
何事かと上を見ると、明らかにルシスのものではない巨大な戦闘機が一直線に飛んで行くのが見えた。
「なんだありゃあ?」
「帝国軍のものだろう。……レガリアの状況といい、あまり良い予感はしないな」
グラディオラスの声にイグニスが眼鏡の位置を修正しながら答える。
その緊張した声に応えるようにノクティスのスマートフォンが鳴り、見るとコル将軍の名前が表示されていた。
「はい」
「王子か。イグニスからオレたちの状況は聞かされているか?」
「ああ、レガリアの見張りをしてもらってるって。面倒かけて悪いな」
「いや、構わない。それで悪い知らせだ」
「……今、帝国軍の戦闘機っぽいのが見えた。それ関係か?」
「ご明察だ。十中八九レガリアを運ぶためのものだろう。それともう一つ」
「まだ何かあるのかよ」
「レイヴス将軍が到着した。奴の目をかいくぐってレガリアを奪還するのは至難の業だと言わざるをえない」
レイヴス、という名前が出た瞬間、ノクティスの目が細く鋭くなる。
かつてテネブラエで療養していた時に顔を合わせたきりだが、今の彼とは敵同士なのだ。
まして彼の所属する帝国軍はルナフレーナを危険な目にも遭わせている。
到底許せることではない。何より兄妹なのだ。助け合わないでどうするのだ。
自分にも兄がいるからだろう。アクトゥスが敵に回った未来など考えたくもない、と想像するだけでも指先が凍えるこの気持ちを、ルナフレーナが味わっていると思うと怒りがこみ上げてくる。
「――わかった、そっちはオレがなんとかする」
「勝算があるのか」
「巨神と雷神の力を使えば勝てるはずだ。ってか、そんなに強いのか?」
「生き残るだけならまだしも、奴を倒せと言われたらオレでも困難だと言っておく。王都を脱出する際にアクトゥス様も交戦して、辛くも生き延びたという程だ」
「兄貴も戦ってんのか!?」
「ああ、本人曰く、人間業じゃないとのことだ。戦うのならシガイかモンスターを相手にする想定の方が良い」
「……わかった、気をつける」
「では今後の話をしよう。一度合流して作戦会議をしたい。今から指定する場所に向かってくれ」
そう言ってコルは電話越しにある一つの標の名を告げる。
イグニスの方を見ると取り出した地図に印をつけていた。これですぐにでも動けるようになった。
「すぐ向かう。コル以外にも誰かいるのか?」
「何名かいるが、別の場所で斥候を務めてもらっている。王子の合流地点ではオレが出迎える」
「わかった。……あー、コルが今まで何やってたかは兄貴から聞いてる。サンキュな、オレたちに力を貸してくれて」
ノクティスとアクトゥスが自由に動くため、彼が危険な陽動を行っているのは知っていた。
彼は父王レギスの部下であり、ノクティスの部下ではないことはわかっていたが、それでも彼を労いたかった。
なので慣れない言葉を使って感謝してみたところ、電話越しから微かに笑い声が届く。
「……フ、今までなら考えられないセリフだな、ノクティス王子」
「うっせ、オレなりにやってみたんだよ」
「そのようだ。まだまだ未熟だが、その気概は買ってやる」
「ったく、じゃあ向かうからな」
「ああ、また会おう」
電話が切れたのでノクティスは仲間たちにも同じ内容を伝えていく。
そして同意が得られたため、一行は指定された標――これから攻めるアラケオル基地にほど近い場所にあるストマキーの標に向かうのであった。
「久しぶりだな。……フ、随分と成長したようだ」
「そりゃどーも。あんたこそ元気そうで良かったよ」
「派手に暴れれば良いだけだからな。意外と気楽にやれている」
とりあえず座れ、とコルに促されてノクティスたちは椅子に腰掛けると、早速話が始まった。
「あそこにある基地にレガリアが運ばれたのを確認した。そして戦闘機が着陸したのも確認した」
コルが指差す先にあるのは、昔の戦争時代に用いられた城壁をそのまま基地に流用したと言われている、アラケオル基地がさながら要塞のようにそびえ立っていた。
バカ正直に正面から攻めようとしたところで、無数の魔導兵にすり潰されて終わる未来しか見えない。
「てことは……」
「あまり猶予はない。次に戦闘機が飛ぶのが見えたら、レガリアは取り戻せないだろう」
今ならチャンスはあるということだ。そう言うとコルはイグニスの方を見る。
「お前の活躍も聞いている。旅で随分と頭を使う機会が得られたようだな」
「恐縮です」
「今回の作戦はお前に一任する。王子たちの力量を正確に把握しているお前が立案するんだ」
「わかりました。――夜襲を仕掛けようと思います」
「王道だな。魔導兵のセンサーと言えど、夜は多少精度も落ちる」
それにルシスの黒い戦闘装束は闇によく紛れる。
そして昔の戦争の名残を用いている以上、内部の見取り図も多少は入手できた。
「斥候をしてもらったモニカらの情報と、過去の城塞の見取り図を照らし合わせて作成した地図だ。確実と呼べる精度は保証しないが、ないよりマシだろう」
「ありがとうございます。これを使ってレガリアの位置をいくつかに予想しておく。作戦はこの場所を速やかに見ていく形に」
そう言うとイグニスは真剣な表情で地図に目を落とし、やがていくつかの点をつけていく。
「その場所を見ていけば良いのか?」
「そうだ。目的はレガリアの奪還になる。万一オレたちが見つかって、騒ぎが本格的になったら速やかに撤退する形にする。ノクト、悪いがその時はレガリアを諦めてくれ」
「失敗しなきゃ良いんだろ。続き、話してくれよ」
「……わかった。コル将軍には陽動をお願いします。オレたちはこちらより潜入しますので、反対側でなるべく派手に」
「了解した。適度に目を引きつけて退却しよう。一時間は稼いでやる」
一時間。それがノクティスたちに許された基地内で行動できる時間。
それが過ぎたらたとえレガリアの奪還ができずとも、脱出をしなければならない。
一通り作戦を話し終えたイグニスは再びアラケオル基地に目を向け、見るからに人体に影響のありそうな赤い電波を等間隔にばら撒いている電波塔を見る。
「それと将軍。あの電波塔は一体?」
「詳しいところは不明だが、魔導兵のみに機能するフィールドと推測される。あれがある限り、魔導兵の動きは通常より早いと考えて良い」
「わかりました。できるならあれも破壊しましょう。あとは……ノクト、レガリアを奪還するということは、どうやっても最後の最後は魔導兵と戦うことが予測される」
「速やかにぶっ倒して脱出、だろ? 上等」
最低でもレガリアが通れるだけの道がなければ脱出もままならないのだ。
レガリアのある場所まで潜伏し、見つかったら敵兵を排除して増援が来る前に脱出。
言葉にすればそれだけだが、全て実行して成功させるのは至難の業。
その難しさをノクティスはしっかり理解した上で、前に進むことを選ぶ。
「どのみち他に選択肢はねえんだ。できるかどうかなんて考えても仕方ねえだろ」
「だな。やってやろうじゃねえか」
「ここから反撃しよう! まだまだルシスは終わってないってこと、見せてやらないと!」
ノクティス、グラディオラス、プロンプトの士気も十分だ。
それを見たコルは満足げにイグニスの肩を叩く。
「……イグニス、オレは配置につく。お前の合図で始めよう」
「……わかりました」
「それと、良く考えられた作戦だ。お前の案で失敗するようなら元より成功の目などなかったと諦めもつく」
「おいコル、変なこと言うなよ」
コルの言葉を耳ざとく聞いていたノクティスがふてくされたように言ってきて、コルは小さく笑う。
「フ、そうだな、弱気になっていた。では――また会おう」
それだけ言って、コルは標を去っていく。
彼はこれより手勢を率いて、イグニスの合図と同時に攻撃を開始するのだろう。
「……オレたちも動く。――作戦開始だ」
潜入そのものは容易だった。
元より命のない魔導兵が相手。一体一体が相手ならさほど苦戦もしないそれを、闇に紛れて排除するのは難しくない。
「ノクト、前方に一体。その右手に一体。順序よくやれ」
「了解」
イグニスが周囲を俯瞰し、排除すべき敵を見出してノクティスがシフトで音もなく刺し倒す。
暖かさの宿らぬ機械の命。奪ったところでモンスターを倒すのと何ら変わらない。
「眠れ、安らかに」
「あ、ノクトそれゲームのセリフ」
「ちょっと言ってみたかったんだよ」
「少しは緊張感持てよお前ら。敵地だぞ敵地」
基地内部に潜入した彼らのやり取りにイグニスがため息をつくが、ガチガチに緊張されては上手くいくものもいかなくなってしまう。
危機感がないと言えばそれまでだが、いつも通りの力を発揮するのであればある意味一番良い状態かもしれないのだ。
姿勢を低くして、騒ぎにならぬよう最小限の障害だけをイグニスの指示のもと、ノクティスが片付けていく。
そんな中、警備の目を避けるようにして入った屋内でイグニスが辺りを見回す。
「魔導アーマーの格納庫か」
「こいつらもある程度自動で動くんだったか。中には人力で動かすやつもあるらしいぜ」
「今は動力も入っていない状態だ。見つからない限り動くこともないだろう。……ノクト、マジックボトルをいくつか預けてくれ」
「良いけど、どうすんだ?」
「布石は打っておくに越したことはない」
言いながらイグニスはノクティスから受け取った三つのマジックボトルを持って、闇夜に紛れていく。
どういう意味だ、と残された三人は顔を見合わせるが、すぐに肩をすくめるに留める。
我らが軍師の考えはいつだって二手三手先を見据えており、同時に必ず彼らに利するものに決まっているのだ。
「待たせた。行こう」
「おう」
だからイグニスがマジックボトルを一つも持たずに戻ってきた時も、何も言わずに迎え入れたのであった。
そうして彼らは基地内を探索していると、基地の一角で爆発が起こる。
「イグニスか!?」
「いや、コル将軍だ。先ほど合図を送った」
「そういえば、入る時には送ってなかったよね」
「当然だろう。警戒の度合いが引き上がった状態で中に入ろうなど愚策だ。やるなら内部に潜入してからと決めていた」
にわかに騒がしくなり、サーチライトの明かりが煌々と地面を照らし始めた基地の中で、ノクティスたちは物陰に身を潜めて魔導兵の動きを見守っていく。
「ノクト、奴らが移動したら建物の上からレガリアを探してみてくれ。今なら明るいから見つけやすいはずだ」
「なるほど、了解」
魔導兵の気配が少なくなるのを見計らって、ノクティスは適当な建物の屋根にシフトで移動する。
そして目当てのものを見つけると同時、面倒だと言うように顔をしかめる。
「レガリアは見つけた。けど警備されてるぞ」
「想定内だ。数は?」
「四体で囲んでる感じ」
ノクティスの報告を聞いたイグニスは眼鏡の位置を直しながら、怜悧な目で電波塔を見据える。
今のところ作戦は上手く働いている。欲をかいて失敗はしたくないが、傾いている流れに乗らない手もない。
状況など常にうつろう流れのようなもの。波に乗れている間は波に乗るのが正解だろう。
それにレガリアに乗って逃げるタイミングで一度は見つかることが確定しているのだ。その時に殺到するであろう魔導兵の排除を考えると、やはり電波塔は破壊したい。
「――電波塔を破壊する。レガリアに乗って逃げる以上、魔導兵を強化する要素は潰しておきたい」
「そいつはわかったが、正面から行くか? 今なら数も少ないから、オレたちだけでもやれると思うが……」
「いや、オレがやる」
グラディオラスの懸念に答えたのはノクティスだった。
その目には何らかの確信が秘められており、自分ならばできるという彼なりの根拠に基づいた自信があった。
それを見抜いたイグニスは詳細な方法を問う。
「……方法は?」
「六神の力を使う。雷神――ラムウなら力を貸してくれる」
己の中に宿る一端などではない。正真正銘、神々が振るう力がノクティスの意思に応じて振るわれる。
「電波塔の破壊ぐらいなら絶対に何とかなる。ただ、規模がマジで読めねえ」
「六神と言うくらいだし、毛色は違えどタイタンと同等程度と考えるべきだろうな」
「それ、地形が変わっちゃわない?」
地形が変わるどころか、この基地が原型を留めるかも怪しそうである。
タイタンの力と言ってもカーテスの大皿で見たのは彼がメテオを支えながら、自由な片腕と足で暴れていただけに過ぎない。
もし彼が五体満足で十全に四肢を操れたとしたら、間違いなく自分たちはカーテスの大皿の赤い染みになっていただろう。
「……なんとか加減して電波塔だけに押さえるよう言うだけ言ってみるわ。ラムウなら話を聞いてくれそうだし」
「個人的にはあまり不確定な要素に頼るのは好みではないが……わかった。念のためコル将軍に撤退の指示を出してから行おう」
電波塔への道は一本道で、魔導アーマーに魔導兵がうようよと配備されている。
陽動でコルに起こしてもらった爆発にも動かないのだから、おそらく電波塔の警備が最優先であると命令されているのだ。
他の手段を模索しようにも、レガリアを奪取して脱出する方法と噛み合わない。
こちらの被害を減らそうと迂遠な手段に出れば時間が足りなくなる。かと言って正面突破をするのなら一行にかかる負担が大きい。
いっそ電波塔を無視することも選択肢にはあるが、魔導兵が最優先で守っているものを放置して逃してくれるのかという疑念は消えない。
「――ノクト、頼む。今ある手札で電波塔を安全かつ迅速に破壊する道筋が、オレにはつけられない」
「ま、もともと無理言ってたしな。ここはオレに任せろって」
この少人数でここまで帝国軍の奥深くに潜り込めた。それだけでイグニスは己の仕事を十全に果たしている。
ならばいい加減、自分たちもただついてきているだけではないところを見せてやらねば。
「んじゃ、始めるぜ。動けなくなるから見つかったら頼む」
「了解した。全員、ノクトを守るぞ」
うなずき、三人がノクティスをかばうように立ったところでノクティスは準備を始める。
己の内側に眠る雷神の力を媒介に、すでにここではないどこかへ還っていったラムウに呼びかける。
その瞬間、ノクティスを除く三人は魔力に疎い身であっても感じられる凄まじい魔力の奔流に総毛立つ。
「――っ、これは!?」
「ノクトの力!? オレたちでもわかるぐらいビリビリ来てる!」
「よそ見すんな、魔導兵が気づいたぞ!!」
人間にも気づくほどの魔力。帝国軍が気づかないはずもなく、数こそ多くないが魔導兵が向かってくる。
先制攻撃とばかりに発泡したプロンプトの一撃を機に、敵の攻撃も始まっていく。
イグニスとプロンプトが応戦し、グラディオラスはノクティスの守護に専念することで時間を稼ぐ。
「おいノクト、長時間はやべえぞ!!」
「――――」
グラディオラスの警告もノクティスには届いていない。それほどの深い集中に入っているのだ。
ただ総身から魔力を漲らせ、その場に佇むばかり。
グラディオラスは何かを言おうとして、やめる。
ノクティスは何らかの確信を持ってこの方法を選んだ。
それが王にしかわからないものであっても、彼が決断したもの。ならばその決断を守らずして何が王の盾か。
そうして彼らが奮戦し――王はその期待に応える。
「――来い!!」
ノクティスが叫ぶと同時、いつの間にか空を覆っていた曇天から巨大な手が伸ばされる。
タイタンのそれに勝るとも劣らない大きさの手が、綿菓子を包むようにノクティスたちをひとまとめに掴む。
「なんか最近大きなものに掴まれることが増えてるんですけど!?」
「今度は味方らしい。良かったな」
「シガイよりはマシだけどさあ!?」
何やら賑やかなプロンプトはさておき、手の主を探して振り返ると、そこには空から地に届きそうな程の長い髭を蓄えた老爺がいた。
老爺――ラムウはノクティスたちを慈しむような目で一瞥した後、彼らを守る手とは別の手に持つ杖を振りかぶる。
鋭く、細い杖。何かを突き刺すためにも見えるその杖に、雷雲から複数の紫電が奔る。
それは杖から放電されることなく全てが蓄えられ、まばゆい雷光が天を焦がす。
ラムウはゆっくりと雷鳴を貯めたそれを振りかぶり――王の道を阻む不届き者へ裁きの雷を見舞った。
瞬間、およそ人の身には理解できぬほどの電流が地面を真っ赤に溶かし、小規模のフレアすら発生させる程の熱を生み出す。
尋常の生物なら――いいや、強力なシガイであっても何が起こったかわからず絶命する雷は、恐ろしいことに一瞬で終わらなかった。
一つの城であろうと神の暴威の前に意味などない。むしろそれは振るわれた暴威を閉じ込める結果になり、いたずらに被害を増やすだけになる。
当然、彼らが破壊しようと考えていた電波塔など物の数にも入らない。裁きの雷の前にその鋼鉄の体をドロリと溶かし、屈服するように折れ曲がっていた。
そして雷が消えると同時に彼らは地面に下ろされ、基地の一角を文字通り蒸発せしめた神の雷霆に驚愕するのであった。
「すっごい……これが、神さまの力……」
「……あの電波塔だけ壊したいって言ったから、力をセーブしてたのか」
「え、ウソ!? あれで!?」
「本気だったら基地ごと吹っ飛んでる」
「レガリアも吹っ飛ぶじゃん!」
「だから手加減しろって願ったんだよ。まあ良いや、ほら行くぞ」
さっさと歩き始めたノクティスを追いかけ、イグニスがその隣に並ぶ。
「ノクト、消耗は?」
「全然、って言いたいけどしばらくやりたくねーわ」
肉体や魔力の消耗ではなく、恐ろしい集中に入ることによる精神の消耗だ。
あれほどの集中、狙ってやろうとすればひどく消耗するのは間違いない。軽い気持ちで召喚という選択をしたことを後悔しているくらいである。
だがこれで全ての障害は排除できた。あとはレガリアを回収するだけ――
「――久しぶりだな、ノクティス」
「……レイヴス」
レガリアの前に来たノクティスたちを迎えるように、ニフルハイム帝国の戦闘装束である白い服に身を包んだ青年――レイヴスが姿を現す。
その瞳に宿る感情は紛れもない怒り。剣呑な気配を隠そうともしない彼を前に、ノクティスたちは無言で警戒の姿勢を取るのであった。
戦いはまだ、終わらない――
ラムウの啓示を受けたことによる詳しいメリットはまた次回。
そしてエピソードイグニスのトレーラーを見てアクトの戦闘方法が潰されてしまったのが悲しくも嬉しい。
魔法剣士スタイルにするか考えていたのにどう見てもイグニスの方が格好良く魔法剣使ってるじゃないですかヒャッホイ!
まあアクトの戦闘方法は一つしか考えてなかったわけじゃないので、別に問題ないと言えば問題ありませんけど。