亜種特異点0 終天の盾   作:焼き烏

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死を視ること帰するが如し1

 地震のはずもない。ここは空の上で、ランスロットの宝具となった飛行機の中だ。

 飛行機に乗ったことなんて数えるくらいしかないので、この揺れがどの程度深刻なことなのか、藤丸には判別が付かない。案外この程度の揺れはよくあることなのかもしれない。

 強い風が吹くとこうなるのだろうか。それとも嵐の中でも飛んでいるのだろうか、と考えてから、そういえばこの空はずっと晴れなのだとシールダーに説明されたことを思い出した。

 

 そのまま眠り直す気分でもなかったので、ゆっくりと起き上がる。

 

「敵襲です、マスター」

「■■■■■――ッ!!!!」

 

 その声で、一気に眠気が覚めた。操縦室に向かい、正面の空を見る。

 

 >牛若丸! 土方さん!

 >いや、彼らは敵じゃ――

 

 ライダー牛若丸・バーサーカー土方歳三。共にカルデアから派遣された藤丸立香のサポートサーヴァント。

 だが、二人は抜刀したまま鋭い目でこちらを睨んでいる。ランスロットの宝具で禍々しい姿になったこの飛行機のせいで誤解されているのか。違う、二人は今間違いなく自分と目を合わせた。

 

 砂塵が舞い、銃声が響く。既にバーサーカー・土方歳三は宝具まで開放してこちらを攻撃してきている。

 どうして、と尋ねようとした瞬間に土方が吠えた。

 

「藤丸ゥウウウウウ! なぜ裏切ったァッッッ!?」

 

 機首の球形風防をぶち抜いて銃弾が飛び込んでくる。藤丸の前にシールダーが立ち、ランスロットが電気ケーブルを千切り取って握りしめる。

 

 突進してくる牛若丸と土方を前に、シールダーが割れた正面ガラスを抜けて飛び出していった。

 

   ◆

 

 初撃。kg(キログラム)ではなくt(トン)で測られるサイズの暴力。

 超大な砲身の一振りに向かって、相対する牛若丸の刀はあまりにも心もとない。いくら名刀であろうと、いかに伝説を成そうと、単純に大きさが違いすぎる。

 

 だが。

 

「遮那王流離譚が一景を語る。自在天眼・六韜看破」

 

 金属音が高鳴り、火花が散り、砲身に寄り添って手元へと引き戻されていく刀。シールダーは何の抵抗も感じなかったというのに、この刹那の接触で力を逸らされている。

 

 振りかぶった鉄塊は、自ら目標を外れてその下をくぐっていった。

 ちょうど足元を抜けていく鉄塊を足場にして、跳躍する先にはランスロットの艦。ひとっ飛びに侵入を果たす。

 

 対して、土方歳三は鉄塊の上を走ってシールダーに向かっていく。

 その突撃は、足場となる砲塔が虚空に消えた後も途絶えることはなく。宙を走っている。

 

「驚きました。バーサーカー、あなたに空中戦能力があるとは思えないのですが。どういう原理でこの空を移動してきたのか、参考までに聞かせて頂けないでしょうか」

「空だ? 何言ってやがる。ここはなァ! 新ッ選ッ組! だろうが!」

 

 砲塔の代わりに取り出した銃剣で、土方の刀を受け止める。重い。弾き飛ばされる。左手のスナイドル銃で追撃が来るのをブースターで回避。

 瞬間、無警戒の角度から撃ち込まれた銃弾が、シールダーの腹をすり抜けていった。

 

「背信には粛清あるのみ。綱紀を正して国を守る……! 藤丸を出せ、わっぱァ!」

「何を言っているのですか、マスターを裏切ったのはあなたの方でしょう」

「敵を欺き、己を騙し、兵は詭道と先人曰く。だがな! 誠の一字を裏切る非道はならねえ!」

 

 高度1万メートルに砂塵が吹き荒れるなどあり得ない。ならばここは、既に宝具・不滅の誠による狂気の檻の中だ。「俺がいる限り新選組は不滅だ」という狂信により、対軍規模の支援砲火と怯み無効ステータス低下無効他の自己強化を発生させる土方歳三の宝具。

 新選組の戦場を再現する力が、土方の足元に確かな地面を形作っているのだ。

 

 だから、太刀が重い。

 

 地を掴んで走り出す癖に、そこから繰り出される大上段は重力を十二分に乗せてある。地上戦ではありえない落下斬撃を仕掛けた直後、空中にある地面を掴んで腹筋で飛び上がる。いわば地と空の良いとこ取り状態。

 接近戦においてはまったく敵わない。

 

「一、士道ニ(そむ)間敷事(まじきこと)――!」

 

 切り結んで後退。直後に飛び込んでくる相手の動きは予測できているのに、対応が間に合わない。完全に首を取られる状況から、しかし狙うのはシールダーの手の軍刀。

 また一本、砕かれた。即座に魔力を消費、次の武器を形成する。

 

「一、局ヲ脱スルコトヲ不許(ゆるさず)――!」

 

 インレンジではシールダーが得意とする重火器類は使いづらい。決して止まらずに突撃し続けるバーサーカーは、シールダーの苦手とする相手。宝具による絶対防御が無ければ、既に三回は殺されている。

 未だに宝具の絶対防御が機能し続けていることが救いであり、同時に脅威でもある。

 

 半分牽制としての意味を持つ初撃の砲身振り回し以外、シールダーはここまで一度も攻撃のチャンスを与えられていないのだ。

 

 説得などまったく考えていない。隙さえあれば殺すつもりで戦っている。だというのに、まったく隙がない。常に敗北直前の状況が続いている。

 相手が死角から銃撃を決めてくるように、こちらも支援火力を導入すれば反撃は可能だ。しかし、一撃当てた瞬間に宝具の守りは失われ、その瞬間に殺されるだろう。

 攻撃に全てを懸けた不退転の構え、一切守りを考えずに瞬間火力を最大化し続けるバーサーカーらしい戦い方が結果的にバーサーカーを守っている。まるで、こちらの手の内を知っているように。

 

 相討ちではダメだ。自分はこの終天の空において、唯一の勝者を目指しているのだから。今はこのバーサーカーの狂奔に付き合う他ない。

 

「だあああああッ! まだるっこしい! 藤丸を出せと言っている!」

 

 激昂の雄叫びを上げながらも、バーサーカーの戦い方は冷静そのもの。

 シールダー自身を傷つけられないことを承知の上で、その武装を1つ1つ破壊して魔力を削っていく。初戦の初手から最善手を打たれている。

 

 もし反撃をやめれば、その瞬間に突撃は方向を変えて、藤丸の元に飛び掛かっていくはず。それだけなら、同じく宝具に守られたマスターが死ぬことはない。しかしランスロットが倒されてあの機体が墜ちることがあれば、全てが終わってしまう。

 いや、それだけではない。この無限にも等しい防戦の中で、シールダーは確実に追い込まれている。無茶苦茶に切り込んでいくだけに見える剣を受け、あるいは受けられずに吹っ飛ばされ続ける中で、不思議とランスロットの爆撃機との距離が近づいてきている。

 

 これを狙ってやっているのだとしたら、バーサーカーは接近戦のみならず、大局的な戦略においても遥か上をいく怪物だ。

 

 反撃の糸口は見えない。ランスロットが牛若丸を撃退することに期待するほかない。だからこのまま防戦に徹することを改めて決意する。

 マスターとの契約が切れているのなら宝具の長時間展開は難しいはずだが、不思議と土方に魔力切れの兆候は見られない。むしろこちら以上の魔力供給を受けているようにすら感じられる。その違和感を追って、土方の後方に立つ虹色の雲に気が付いた時。

 

 砂塵の中から飛び込んできた弾丸が、シールダーの肉を抉っていった。

 

 ――宝具による絶対防御が、解除されたのだ。

 




砂煙立つ戦場に、鳴り止まない銃声の音。
この身果てようとも誠は尽きず。走り続けるこの道にこそ正義ありと信ずる。
新選組は終わらない。


バーサーカークラスに出したい鯖多すぎて困る。

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