亜種特異点0 終天の盾   作:焼き烏

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意志あるところに道が開く3

 ランスロットの魔力で塗り潰された機内にも動じることなく、ライダーが踏み入ってきた。今は配管を椅子代わりに腰かけている。手の中でくるくると拳銃を回しながら、ライダーは語る。

 

「アタシが知る限り、敵さんは暫定4騎。魔力の雲に包まれた城内で無制限の魔力供給を受けてる。まともに叩いても傷つけた端から回復されてキリがねえし、敵だけ宝具打ち放題ってのも厳しい」

 

 コート姿に制帽、白手袋。きっちりとした服装だが、こうして近くで見ると皺が寄ってくたびれている。肌が見えるのは顔の部分だけ。その顔もしわがれていて、もともと黒い肌に陰影を重ねている。艦内の薄暗さもあって、黒い顔は表情が読み取りづらい。

 

「だからアタシの宝具であの雲を貫いて、そのまま城内に突入するよ。雲に穴が開いてる間に敵英霊をぶっ殺す。時間に限りがあるから、最初に出てきた相手に火力を集中させて最低1騎は倒す。敵軍の将、黒い巨人のバーサーカーを討てれば最高だけど、そこまでは望めないねえ」

 

 >黒い巨人のバーサーカー。それはひょっとして。

 思い当たる英霊がいる。漆黒の肌に入れ墨を刻んだ巨躯。黄金の戦装束に身を包み、不死隊を率いるペルシャ王だ。

 

「さあね。人づてに聞いただけだから、アタシは詳しいことは知らないよ。勝ち筋の見えねぇ相手とはやりたくないし、やり合う以上は仕留めるからねぇ。まともに情報持ってる相手は既に殺しちまったよ」

 

 言葉遣いの節々からにじみ出る剣呑さ。リラックスした体勢で手の中の銃を弄ぶライダーに対して、この場の全員が距離を取っている。ランスロットは低い声で唸りながらライダーを注視し続けているし、シールダーも腰から軍刀を下げて柄を握り続けている。スフィンクスは興味が無いのか、部屋の端で丸くなっている。

 

 >ちなみに、倒した英霊はどんな相手なの?

 

「終わった話さ。狐耳のキャスターとか、火縄銃のアーチャーとかさね。真名は知らないよ。今更話し合うことでもないだろ」

 

 十中八九、両方とも藤丸が知っている英霊だ。その二人なら、人理より個人的な目的を優先することもあるかもしれない。戦わずに済んだことに安心するとともに、来るのが遅かったことを後悔したくもなる。

 それはライダーが言う通り、今更話し合うことでもないのだろう。

 

「で、他に質問は?」

 

 >4騎じゃない。

 そこに加えて、さらにバーサーカーがもう一騎。土方さんがいる。

 

「なんだい、それじゃ敵にはバーサーカーが3騎もいるのかい? 紛らわしいねえ」

 

「バーサーカーが3騎ですか? 私が知る限り、要塞側のバーサーカークラスは土方歳三を含めて2騎です」

 

「■■■■■――!」

 

 バーサーカーが多すぎる。城主のバーサーカー、土方さん、ランスロットだけでも多いのに、さらにもう一騎バーサーカーがいる?

 城塞側4騎について、どうやらシールダーとライダーとで内訳の認識が異なっているようだ。

 

「状況を整理しましょう。私の認識では、空中要塞側の英霊はバーサーカー、セイバー、アーチャー、アヴェンジャーに加えてバーサーカー土方歳三です」

 

「アタシが聞いた話じゃ、バーサーカー2騎、セイバー、アーチャーって話だが。アンタ、アヴェンジャーが要塞側だと思ってるのかい? それともあれか、アタシが知っている糸使いの小娘以外にも別なアヴェンジャーがいるのかね?」

 

「こちらも、アヴェンジャーは暗闇に潜んで気配を消す糸使いと認識しています。同一個体でしょう。そしてそのアヴェンジャーが要塞側に与していることは、土方歳三の言からも明らかです」

 

「それじゃこっちの情報はお前らの当てにはならんかね。敵陣は黒い巨人のバーサーカー、数百もの剣を操るセイバー、巫術使いのアーチャー、そして炎の腕のバーサーカーだって教えてもらったんだが。そのアヴェンジャーから」

 

 >アヴェンジャーと協力関係にある?

 

「そうさ。アタシとあいつは馬が合う。狐耳のキャスターを奇襲した時もあいつの手引きだったし、仲良くやってるよ」

 

 ずっと回っていた拳銃が、藤丸に銃口を向けて止まる。

 

「ま、ちょっとすれ違えば殺し合う仲だけどさ。互いにそう分かってる関係は気楽で良い。どっちが先にくたばっても、残った方を心底呪うんだろうねぇ」

 

「それは、仲の良い関係とは呼べないのではないでしょうか」

 

「ああ、仲良くはないかもね。けど悪かない関係だ。互いに性根を嫌い合ってるんならどう転んだって納得いくからね。生まれや育ちで軽蔑されるよりよほど筋が通ってる。あいつはアタシの肌じゃなくて、アタシを嫌ってるわけだからねぇ」

 

「それこそ修復不能の最悪な関係というものでは?」

 

「分からねえなら、これ以上説明する気はねえな。作戦について質問が無いなら、そろそろこっちからも聞いていいかい?」

 

 >どうぞ。

 そう答えると、銃を向ける先が藤丸からランスロットに移った。

 そういえばこの銃、トリガーガードも無いのに一体どんな原理でくるくる回っていたのか。

 

「あいつは使い物になるのかい?」

「ランスロット卿は上級サーヴァントです。戦力については疑いありません」

「そういう話じゃねえよ。あれと共同戦線が張れるのかどうかだ。いくら強くても考えなしに突出する兵なんざ使えやしねえ」

 

 >ランスロットなら大丈夫

 

「ほぉ。えらくはっきり言い切るじゃないか」

 

 ライダーが立ち上がって藤丸に近づいてくる。肩を掴んで顔を突き合わせる。彫の深い目が視線を刺してくる。決して大柄ではないのに、前に立たれると圧迫感が凄い。

 ライダーはニヤリと笑った。

 

「なら良いんだ。あとはこっちから聞きたいことは無いね」

 

 >いいの?

 さっきからずっと臨戦態勢なランスロットをそんなに簡単に信用して良いのだろうか。突然仲間を襲うようなことは無いと思うけど、ランスロットが何を考えているのかは藤丸にも分からない。

 

「アタシの方からぶつかりに行ったんだ。イラつくのは当然だろ。そんな状態で銃口向けても襲ってこないんだ。バーサーカーにしちゃ上出来じゃねえの?」

 

 それはその通りだけど、ぶつかってきた当人が言っていると少しもやもやする。最初からそのつもりで当てに行ったとでも言うのだろうか。

 と考えていて、1つ疑問が出てくる。

 

 >どうしてランスロットは直前まで列車に気づけなかったんだろう。

 牛若丸と土方さんに襲われた時も先も気づいて雄叫びを上げていたし、オジマンディアスの神殿の場所も分かっていたようだった。狂化していても、ランスロットの知覚力は鈍っていない。そのランスロットがあれだけ大きな列車に直前まで気付けず、機体と列車が擦れ合うほどギリギリの回避になった。

 

「ああ、そっちの坊主には言ってなかったか。アタシの宝具は、事前に運行予定を決めて魔力を溜めとくことで威力が上がって気配遮断が付くからね」

 

 >運行予定を決める。じゃあランスロットの進路を先読みしてた?

 

「先読みなんて大層なもんじゃないさ。例の城塞に向かってやる気満々だったから、ちょっと遊んでみようと思ってね」

 

 >そうなの、シールダー。

 

「……。はい。循環する空の特性を踏まえての最短航路とは言えませんが、ランスロット卿は現在目標地点に向かって飛行しています」

 

 シールダーは時々こういうことがある。聞きたいことを教えてくれなかったり、意図的に情報を省いていたり。ランスロットがやる気であることを隠す行為に、何の意味があるのだろう。

 

 >ランスロットとの共闘を避けようとしてる?

 

「ランスロット卿、との共闘に問題を感じているわけではありません」

 

 その声を聞いて、本当に嘘が下手だなと思う。絶対に何か隠している。

 

 オジマンディアスは考えろと言った。この特異点がどこであるか、シールダーが何者か。それは考えれば分かることであると。

 でも、シールダーが隠したがっているのなら今はそのままでもいい。いずれ話してくれる。話してくれなくてもなんとかなる。そう信じておくことにしたのだ。

 だからこれ以上は追及しない。

 

「話をまとめるよ。敵陣にいるのが誰だろうと大筋には関係ねえ。アヴェンジャーが何か企んでるとしたら、こっちの味方になってくれるかもしれない奴を敵だと印象付けてアタシら自身の手で潰させるってとこだが、こいつは無さそうだ。アタシとアンタらの情報の齟齬、アタシだけが敵だと思ってるのはバーサーカークラスだったからねぇ。狂戦士と話し合って手を取り合う機会なんて無いだろ」

 

 少々乱暴な理屈だが、筋は通っている。

 バーサーカーで召喚されても理性を保っている者はいるが、バーサーカーはどれも直情的な性格だ。敵陣で捕虜にされたまま大人しくしているバーサーカーがいるとは思えない。要塞の中を自由に動いているなら、そのバーサーカーは敵だろう。

 もし要塞と敵対する関係なら、何重もの拘束を付けて牢に捉えてられているはず。そもそもそんな手間をかけるまでもなく、消滅させられているのが自然か。

 

 >でも、もし仲間になってくれる可能性が少しでもあるなら。

 >バーサーカーを攻撃する前に一言声をかけたい。

 

「それこそアヴェンジャーの好きそうな手口さね。嘘を吐かずに人を騙す。もしかしたら仲間になれるんじゃないかと思って、一手控える。思う壺じゃねえの?」

 

「しかし、初撃の前に声をかけるデメリットと、それで一時的な協力者が増えるメリットを考えればマスターの提案は考慮に値します。確率と利得を掛け合わせて考えても、十分賭ける価値があるものでしょう」

 

「ああ、そういえばアンタの宝具は……。なるほど、確かにアンタにとっちゃ悪い話じゃないか。じゃあアンタらが先に見つけた場合はそれでいい。アタシが先にそれっぽいバーサーカーを見かけたときは問答無用だ。それで文句ねえだろ」

 

 >わかった。

 これがライダーにとっての最大限の譲歩だろう。話しても結論が変わるとは思えない。自分がやるべきは、その『炎の腕のバーサーカー』をいち早く見つけられるよう集中することだけだ。

 確定とまではいかないけれど、そのサーヴァントに心当たりがある。もし予想が正しければ、彼女は会話できるバーサーカー。最初は人理に敵することを選んでいたとしても、話せば味方になってくれるかもしれない英霊だ。

 

「……それと、目標地点に付くまでの道中も気を抜くんじゃないよ。アヴェンジャーが情報を流してるかもしれないからね。奇襲に注意しな」

 

「アヴェンジャーは、あなたの協力者ではないのですか?」

 

「ああ、敵の敵は味方だからね。協力者だよ。ただ、向こうさんは『全員死ねばいい』と思ってるみたいだけどね。強い奴とは直接敵対せず、弱い奴に手を貸して、上手いこと両勢力を削ってく。あいつの目的からすると、アタシみたいな弱小勢力が残って強い奴が死んでく方が都合が良いのさ」

 




終天のライダー
属性:混沌・善
筋力:D 耐久:C 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:C+

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