テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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遅れて申し訳ありません。なるべく早く投稿したかったのですが想像力に乏しく四苦八苦です。


第7話

 

ベルべット、ロクロウ、ケンの3人はダイルの故郷である村に向かうべく雪道を進んでいた。その途中で岩陰に隠れるように花が数輪咲いていた。

 

「お、こんな場所に花が咲いてる。健気だなぁ」

 

ロクロウが花に興味を示す

 

「・・・プリンセシア・・・」

「ほう、なかなか雅な名前だな」

「姉さんが大好きだった花・・・」

「・・・」

 

 

3年前

 

ベルべットは用事を終え自宅の前まで来る、そこに墓の前でアーサーと二人の男が話している

 

「・・・そうか。全員、担当の土地に着いたか」

「はい。皆、準備を整え"例の刻"を心待ちにしています」

「間もなくだ。よろしく頼む」

「もちろんです」

「貴方なら、必ずなしとげられますよ」

 

二人の男はアーサーに頭を下げ歩き去る。ベルべットの前を通り過ぎる

 

「いよいよだよ、セリカ。俺はお前たちのために為さなければならないことを成す」

 

アーサーがセリカの墓の前で決意に満ちた語気で呟く

 

「・・・」

 

ベルべットは戸惑う。そこでアーサーが気づく

 

「どうした、ベルべット?」

 

アーサーが先ほどとうってかわり、柔らかい声で話しかける

 

「あ・・・邪魔しちゃ悪いと思って」

 

ベルべットが謝る

 

「遠慮する必要はないだろう。これは、お前の姉さんの墓だ」

 

ベルべットはアーサーの話を聞きながら姉の墓に歩み寄る

 

「そうだけど、セリカ姉さんが一番好きだったのは義兄さんだし。アーサー義兄さん一番、お姉ちゃんを愛してたと思うし・・・」

 

その言葉にアーサーが首を振る

 

「・・・家族に順番なんかあるものか。セリカも、お前も、ライフィセットも・・・みんな俺の大切な家族だよ」

「みんな・・・家族・・・」

 

ベルベットが家族という言葉に明るくなる。

 

「もうすぐセリカの命日だ。今年も岬に行って、プリンセシアの花を摘んでこないとな」

「うん。きっとお姉ちゃんも喜ぶよ」

「・・・ああ、そうだといいな」

 

ベルベットの言葉にアーサーは静かに応えた。

 

 

「よくもあんな嘘を・・・」

 

ベルベットはかつての記憶を思い出し、吐き捨てる様に呟く

 

「そういえば、花には花言葉ってのがあるんだよな。こいつのはなんていうんだろうな?」

 

ロクロウは思いついた様に話す。

 

「・・・『裏切り』よ」

 

ベルベットはそれだけ言うとそのまま歩き出す。

 

「ほう?」

 

ロクロウはそれだけ呟き後を追う。ケンはプリンセシアの花を見る。

 

(裏切りと言う花言葉は・・・嘘だな。)

 

ケンもベルベットの後を追う

 

 

雪道を移動中に小さな集落が見えた

 

「集落がある」

「聞き込みしてみましょ」

 

3人は集落の門を開け、中に入る。

 

「はああっ!」

 

そこで最初に目に入ったのは一つの影が槍を振るい業魔を倒していたところだった。

 

「居合わせてよかった。でも、次に襲撃があったら・・・」

 

女性はそう言うと顔を伏せる。白と青を基調とした制服。対魔士だ。

 

「対魔士・・・まさかダイルが?」

「違うわ、トカゲの業魔じゃない」

 

ベルベットがロクロウに話すと女性は気付いたのか3人の方を向く。

何故か目に涙を浮かべている。

 

「・・・なんで、泣いてるの?」

 

ベルベットが指摘する

 

「これは・・・現実を噛みしめていただけです」

 

涙を拭い、3人を見る。まだ涙ぐんでる

 

「辺境では、いまだ業魔の被害が絶えない。それは聖寮が警備を放棄しているせいです。全域を守る戦力がないのも事実。辺境に住むのが聖寮の規則にそわない人々なのも事実。非情な決断であることは、わかっています。でも、これが今最善の"理"なのです!」

「あたしに言い訳されても」

 

彼女の言葉にベルべットが言う

 

「言い訳では――!」

「まぁ、そう熱くならないでください」

 

ベルべットの言葉に反論しようとした彼女とベルべットをケンが仲裁する

 

「この人も聖寮と民衆のわだかまりに心痛めてるですよ。使命感もそうでしょうが、純粋に人のためにやろうとしてるんですよね?」

「えぇ、そうです・・・」

「その心構えは尊敬しますが、思いつめるのはいけませんよ」

「・・・はい・・じゃなくて!」

 

彼女は慌てて身だしなみを整える

 

「聖寮巡察官、一等対魔士エレノア・ヒュームです。御用件は?」

 

エレノアと名乗る女性は聖寮式のなのだろう敬礼をし、自己紹介をする。

 

「ヘラヴィーサで人を殺して逃げた業魔の話を聞きたいんだけど」

 

ベルべットは例の業魔について聞く

 

「商船組合の事件ですね。私も聞き込みをしましたが、まだ手がかりは・・・」

 

エレノアは申し訳なさそうに話す

 

「そう」

 

短く返すベルべット

 

「御安心ください。非道な業魔は、我らが必ず討ち果たします」

 

エレノアはそれだけを言うときびつを返して立ち去る

 

「仕事熱心というか・・・」

「ま、そうだろうな」

「どうでもいい」

 

3人はそれぞれ感想を述べる。その時横から声がかかる

 

「対魔士のヒト、帰った?」

 

そこには女の子がいた

 

「ああ、帰った」

 

ロクロウがそう知らせる

 

「よかったあ、これで食べられない」

「食べられる・・・?」

 

少女の言葉にベルべットが疑問を浮かべる。ケンは顎に手をやり考える

 

「し、しらないよ!業魔のことなんかなんにも!」

 

バレバレである

 

「頼む、教えてくれ。誰にも言わないから」

 

ロクロウが子供にあやす様に頼み込む

 

「・・・北のドウクツに、トカゲの業魔がいるの。このことしゃべったら、村のみんなを食べちゃうって・・・ぜったい言っちゃダメだよ!これあげるから」

 

そう言うと少女は懐からリンゴを取り出し、渡してきた。所謂賄賂だ。

 

「わかった。約束だ」

 

ロクロウは約束し、リンゴを受け取る。その言葉を聞き少女は走っていった。ロクロウは2人にリンゴを投げ渡す。

 

「北の洞窟・・・か」

 

リンゴを受け取りつつ呟く

 

「しかし、意外に対魔士は信頼されてないんだな」

 

3人はリンゴを齧りながら歩く。

 

「・・・」

 

ベルべットが立ち止まるがロクロウとケンは気づかない

 

「ん!なかなか美味い」

「寒冷地だと甘味が出ていい感じですね」

 

ロクロウとケンは率直な感想を述べる。2人はベルべットが立ち止まったことに気付く

 

「そんなに腹減ってたのか?」

 

ロクロウが冗談を飛ばす

 

「薄い・・・」

「薄いってなにがです?」

 

ベルべットの言葉にケンが反応する

 

「あの時もらったチョコは確かに甘い味がしたのに・・・」

「あれ?あのチョコ薄味なんてあったかな」

 

ケンは見当違いな発言をする

 

「・・・?」

 

ロクロウはそんな様子を見て頭に?マークを浮かべる

 

 

「手がかりはできたわ、北の洞窟に探ってみましょ」

 

ベルべットたち3人は北の洞窟へ向かうため集落を進む。ふと先ほどの対魔士の事をベルべットが話し出す

 

「聖寮の巡察官か」

「王国の各地を回って、業魔対策の状況を確認したり、対魔士たちの行動を(あらた)めたりする精鋭らしい。いわゆる憲兵みたいなものだな。」

 

ロクロウが説明をする

 

「民衆にあれこれ我慢を強いてる以上、自分たちにも裏がないことアピールしたいんだろう」

 

ロクロウは捕捉する

 

「そんなの置いてる時点で、白じゃないって言ってるようなものでしょ」

「逆に、そっちの方が"誠実"って考え方もある。理想だけじゃ、世界は変えられないからな。だから泣いたんじゃないか?志の高い巡察官殿は」

 

ロクロウは含みを込めて話す。

 

「理想と現実の差ってやつですか」

「・・・そうね。いかにも、って感じだったわ」

「ま、女の涙ってのは、簡単に信じるもんじゃないがな」

「・・・」

「だたの一般論さ」

 

ロクロウの言葉を最後に3人は集落を進むその間の聞き込みでこの集落の現状が分かった。以前は硫黄の交易で潤っていたが今では他の所に需要を取られてしまい衰退したこと。あとヘラヴィーサに行く時にこの集落の出は口にしてはいけないらしい。つまり迫害されているということだ。聖寮のやり方に馴染めないもの、逃げて来たもの、罪を犯した者、そして自ら望んで来た者。この集落はそれで構成されている。所謂追放、もっとも聖寮は理というだろうが。小を捨て大を救う、だがそれでは何処まで行っても理屈でしかない。だが情だけで行動しても駄目。難しいことだ。

 

一通り調べ、集落を出ようとした時一人の老人に呼び止められる

 

「・・・待て。孫が世話になったようだな」

「孫?ああさっきの女の子ですね」

「脅してたんじゃないわよ」

「分かっている。お前たちは、旅を続けるんだろう?」

「これを持ってけ。ささやかな礼だ」

 

老人は包みとカードをケンに渡す。

 

「あ、どうも」

「気をつけてな」

 

 

カードには料理のレシピ。包みには食材が入っていた。ベルベットが料理をし、それを食す。美味かった、が作った本人は苦い顔をしている。大体予想はつくが

 

「よし、腹ごしらえはできたな!」

「・・・」

「ひとつ聞いていいか?」

 

ロクロウは何か気になったのかベルベットに質問する

 

「好きにしなさい。嫌なことは答えないけど」

「さっきの話だがな。もしかして、お前、味を感じないのか?」

「・・・ちゃんとわかるわよ。血の味だけわね」

「それ以外は?」

「なにも。満腹感も感じないみたい」

「みたいって、初めて食ったように」

「でも・・・あいつがあたしに変な技かけてきてからしばらくの間、味がわかるようになった。満腹感もでてくる。時間がたてばまたわからなくなるけど。」

「あいつに会うまではなにを食ってたんだ?」

「わかるでしょ。あの監獄にいたなら」

 

ベルベットの眼が鋭くなる

 

「・・・すまん」

「気にしなくていいわ。あたしがそういう業魔ってだけだから。レシピがあれば、料理自体は作れる」

「そうか」

「・・・戦う力は維持できる。それで十分よ」

 

 

 

「にしてもあいつの技は変わってるよな」

 

ロクロウはケンの後姿を見て言う。ケンは辺りを珍しそうに見ながら歩いている

 

「・・・そうね、確かにあいつは変わってるわね・・・」

「あいつは自分から攻めることもないし反撃という反撃もしない。避けたり弾いたりするぐらいだな。あの時は不意打ち紛いな事をしたからな。少なくとも正面からじゃ斬れないな」

「斬ることしか考えてないのね」

「そういう業魔なのさ」

 

 

雪道を進み北の洞窟、ハドロウ沼窟に入る。中には虫の様な敵がいた。

 

「ダイルって業魔は奥かしら」

「だろうな、張り切って行くか」

「結局力ずくですよね・・・」

 

進む途中で敵がこちらの存在に気付き襲ってくるムカデの様な敵と蛸みたいなやつだ。数は5

 

「行くわよ!」

「応!」

 

ベルベットが蹴りをムカデの様な敵の頭部に放つ。蹴りは頭部にあたり数瞬よろける。その隙にロクロウが腹部を切り裂く、まずは1

 

「おっと」

 

ロクロウが敵を一体倒した瞬間もう一体が襲い掛かる。ロクロウはすぐに反応、横に動いて躱しその直後地面を蹴り飛びかかる。真横に切り払い両断する。ロクロウは次の獲物に目を付け走り寄り牙を向いて噛み付こうとした敵の懐に潜り込み二本の短刀を突き立てる。

 

「せいっ!」

 

敵がもがいている間にベルベットが跳躍し頭に踵落としを叩き込む

 

「やあぁっ!」

 

バク転し距離を取る。頭を蹴られた敵は崩れ落ちる。これで2

 

「やるわ、ね!」

「そういうお前も、な!」

 

お互いの顔をみる、次の瞬間お互いの獲物を突き立てる。二人は交差する様にすれ違う、獲物の先には敵がおり二人同時に攻撃したのだ。ベルベットの刺突刃は顎を貫き、ロクロウの短刀は腹を切り裂く。4

 

「あと一つ・・・」

 

ベルベットは敵を探す。最後の敵はケンに襲いかかっていたその敵は蛸の様な物でその足を鞭の様に振るう。ケンはそれを紙一重で交わし

続ける。何回か躱し攻撃が緩んだ所で足を一本掴みそのまま引っ張り投げ飛ばす。敵は地面にぶつかり転がる。

 

「はあっ!」

 

ベルベットはその隙を突き刺突刃を頭に突き刺す。蛸は暫く暴れてやがて動かなくなった。

 

「これで全部だな」

「奥にもまだいるでしょうね」

「さっさと行くわよ」

 

3人は一旦集まり奥に進む内、なんとも言えない匂いが漂ってきた。

 

「う・・・なんの臭い?」

「・・・油か?」

「あぁ・・・嫌だな、これ。気分が悪くなる」

 

目の前の穴に油が溜まっている。流石に越えるのは勘弁なので別の道を探す。あったにはあったが落石だろうか、大きな岩が道を塞いでいる。

 

「・・・この岩、壊せそうね」

 

よく見るとヒビが入っている

 

「まさか力ずくで壊すんですか?」

「お前、強引だな・・・」

 

ケンとロクロウはまさかと思いつつもベルベットに言う

 

「無茶でもないでしょ。お互い業魔なんだから」

「それもそうか」

 

あっさりと受け入れるロクロウ。以前似た様な事でもしたのだろうか

ケンは間を置いてベルベットに言う

 

「あのー、自分業魔じゃな・・・」

「あんたも似た様なもんでしょ」

「そうだな。どっちかというと超人だな、なんせ業魔と力比べしても余裕でねじ伏せるくらいだからな」

「ええ・・・」

 

そんな事を言いつつベルベットが回し蹴りで岩を蹴り飛ばす

 

「行くわよ」

「・・・ほんと強引だな・・・」

「もう自分ら要らなくないですか?」

 

ベルベットが一足先に進む、他の二人は台詞を言いながら後について行く

 

 

敵を倒しつつ進むと先ほどの油が湧いている穴に出くわす

 

「臭いの正体はタールか。気をつけろ、はまると底なしだぞ」

 

3人は点々とある岩場に飛び乗りながら向こう側に渡る。その先にも同じ様な箇所があり同様に飛び移る

 

「・・・飛ぶわよ」

「落ちるなよ」

 

 

沼窟を進む、ここには虫やら蛸やら蝙蝠など生態系がめちゃくちゃだが二人はそんなの御構い無しに叩き潰し斬り伏せて行く

 

「剣捌きはさすがね」

「いや、まだまだだ。この程度じゃーー」

 

ロクロウは拳を握りしめながら話す

 

「あんたって、どういう業魔なの?」

「"夜叉"だよ。戦いの鬼神だ」

「戦いの鬼神・・・どうりで」

(やり合う時眼がギラついてるもんな)

 

ベルベットが納得し、ケンは心の中で呟く

 

「ベルベットこそ、なんなんだ?ずいぶん変わった業魔みたいだが」

 

ロクロウが逆に聞いてくる

 

「"喰魔"よ」

「喰魔?聞いたことがないが、どういう業魔なんだ?」

「敵を喰って力に変える化け物。それ以外は知らない」

 

ロクロウの問いに対して、短く答える

 

「ふうむ・・・女で、敵を喰らうというとーー」

(あ、なんか嫌な予感がする)

「"オニババ"の一種かな?」

「はあ?」

 

ロクロウがオニババと言った瞬間ベルベットの目つきが鋭くなる

 

「今の顔・・・ちょっとソレっぽかったぞ・・・」

「ロクロウさん、流石に不味いですよ・・・」

「・・・すまん」

 

ロクロウは少ししょげながら謝る、だいぶ奥まで来たところでロクロウが話し始める

 

「お前の剣技、どこの流派だ?誰に教わった?」

「我流よ」

「それにしては太刀筋がいいし、基本もきちんとしてる。それなのに、いきなり蹴り技を使ったりするのが面白い」

 

ロクロウはベルベットの戦い方に興味津々だ

 

「だから、我流って言ってるでしょ。あんたこそ、なんなのその二刀流?"命の太刀"とやらを抜きもしないで」

 

ベルベットは面倒そうに答えつつ逆に聞く。ベルベット自身もロクロウの背中の太刀を気になっていたのだろう

 

「抜かないからいいのさ」

 

ロクロウはただそれだけ言う

 

「・・・は?それも、ランゲツ家の教えってヤツ?」

「応、『借りたものは返す』ーーすべてはその為にある」

「わけわからない・・・」

 

二人はそのまま奥に進む、ケンもそれに続きながらロクロウの言葉を考える

 

(借りたものは返す・・・か、いろいろ訳ありみたいだな)

 

 

「お前、基本味がしないって言ってたが、匂いはどうなんだ?」

「なんで?」

「味覚ってのは嗅覚とセットみたいなもんだ。鼻をつまんで食うと、味がわからなくなるだろ」

「・・・匂いは、人間だったときよりも敏感かもね。あんたは違うの?」

「俺も五感は鋭敏になってる。しかし、匂いはするのに味はしない、か。ううむ・・・お前は、自分のことを"喰魔"と言っていたが、ずいぶん寂しい食生活だな」

「そういうあんたは、何を食べてるのよ?」

「主に"心水(しんすい)"だな」

 

ロクロウは意気揚々と答える。心水とは所謂酒の事だ

 

「飲み物じゃない、寂しいのはあんたもでしょ」

 

ベルベットは呆れる。食べ物じゃなくて飲み物を答えられればこうもなる

 

「ばかを言うな!心水ほど奥深いものはないぞ。素材も製法も千差万別、甘いも辛いも融通無碍(ゆうずうむげ)、舌の上に広がる熟成された味わい。鼻をくすぐる芳醇な香り。お子様にはわからん世界さ」

 

頼んでもいないのに語り出したロクロウ。そこが彼の個性というべきか

 

「あっそ」

 

興味ないと言わんばかりに返すベルベット

 

「業魔になって以来、回るのが早くなったのがたまにキズだがな」

「業魔の味覚って・・・」

「なぁケン、お前も心水の奥深さよ〜く分かるだろ?ベルベットはお子様だがお前なら分かるはずさ、そうだろ?」

「・・・全く」

「あ、すいません。自分未成年なんで分かんないです」

「「・・・は?」」

 

ロクロウの力説にケンはそう答えるしかない。事実だから

 

「・・・お前、歳いくつだ?」

「17です」

「「・・・は?」」

「17です」

 

 

その後3人はなんとも言えない雰囲気の中最深部についた

 

(・・・あいつ、あんなガタイで私より二つ下ってなんなのよ)

(せっかく飲み仲間が増えたと思ったんだがなー)

 

そんな事を考えながらも辺りを見回す、タールが池のように溜まっている。そこにぽつんと白い塊が見える。よく見ると対魔士の遺体が油に半分沈んでいる

 

「対魔士・・・」

「うっかり落ちたのか?」

「どうなんでしょ」

 

その時三人の後ろから足音がした。振り向くと剣と盾を持った業魔が唸り声をあげて襲い掛かってきた

 

「こいつに落とされたか!」

 

ベルベットが業魔に向けて刺突刃で斬りかかる業魔はそれを盾で受け、剣で横薙ぎに振るう

 

「オラァ!」

「っと」

 

ベルベットはそれを難なく避ける。業魔はそのまま接近し斬りかかるが横からロクロウの短刀が伸び止める

 

「こいつが例の殺人犯だな」

「ヘラヴィーサのクソ野郎どもが!俺を狩りに来やがったか!」

「そのようね」

 

ロクロウが剣を弾き業魔に蹴り飛ばす

 

「ぐわあ!」

「ふんっ!」

「ごわっ!」

 

そこに更にベルベットの回し蹴りが頭部を捉える。業魔は痛がりながらも武器を振る

 

「ここで死んでたまるか・・・!」

「・・・でいっ!」

「あだっ!?」

 

だが武器の扱いがぎこちなくとても対魔士をヤレるとは思えない。

 

「ほらよ!」

「グエエ!」

 

ロクロウからの攻撃でほぼ一方的にやられる業魔。顔が膨れ上がっている

 

「ううう・・・チクショー!!」

 

痣だらけの顔を晒しながら今度はケンに襲い掛かる

 

「ウラァ!!」

「・・・」

 

真上から振り下ろされる剣を白刃どりで止める

 

「んなぁ⁉︎」

「もらった!」

「覚悟!」

 

業魔が驚愕している隙にベルベットとロクロウが両サイドか顔に蹴りと拳を見舞う

 

「グエェ・・・」

 

業魔は武器を落とし両手で顔を庇いながら膝をつく。業魔はモゴモゴしながら喋る

 

「まだ死ねねぇ・・・ヤツらに復讐するまでは・・・!」

「復讐?」

 

ベルベットが業魔の言葉に攻撃を止める

 

「俺を殺そうとしやがった組合のクソどもにだ!密輸の責任を俺に押し付けやがって!」

「密輸は組合がやってたってこと?」

「そうだ!俺みたいな不良船乗りがひとりで仕切れるわけないだろうが!?」

 

業魔が怒鳴るように反論する

 

「そりゃあ、手伝って美味しい思いもしたけどよ・・・」

「確かに、倉庫の抜け穴なんて、個人でつくれるものじゃないよな」

 

ロクロウがその言い分にある程度納得する

 

「調子に乗って規模ををでかくしすぎたんだ。聖寮にバレるのも時間の問題だった」

「『死人に口なし』。お前を殺して罪を最小にするつもりが、計算が狂ったというわけか」

「どうやって復讐するつもりだったの?」

「ヘラヴィーサに殴り込みをかけて船員どもをぶっ殺す」

「幾ら何でも無茶ですよ」

「自殺行為ね。何人対魔士がいると思うの」

「どうせ逃げても狩られる!奴らに一泡吹かせられればそれでいい!」

 

一矢報いたいのだろう言葉からそう伝わる

 

「・・・はぁ」

 

ベルベットがため息をつく

 

「・・・と思ってたが・・・それも叶わねぇか」

 

諦めて後ろを向く。その時ベルベットが刺突刃を構える。

 

(ベルベットさん何かするな・・・まあ殺すことはしないな)

 

ケンがそう心の中で考えるなか。ベルベットが彼の尻尾を切り落とす

 

「ぎゃっ!?」

 

痛みのあまり転げ回る業魔を尻目にベルベットは尻尾を拾い上げる

 

尻尾(これ)を届けて、あんたは死んだと報告する。そうすれば、対魔士たちも警戒を解くはず」

「どうしてだ・・・?」

 

切り口を抑えながら彼はベルベットに聞く狩られると思っていたが違った。その疑問もあるだろう

 

「こっちの都合よ。ひとつは、船を修理するため。で、あたしが出発した後、騒動を起こして追っ手を足止めしてくれれば好都合」

「・・・そういうことなら、ご期待に応えるぜ」

 

そう答え立ち上がる

 

 

「ところでお前ら、どうやって俺を見つけた?」

「偶然よ。勘が当たっただけ」

「・・・俺の生まれたのは、何もない陰気な村でな。そこが大嫌いで船乗りになったんだ。だが、このザマだ。生まれ変わったら、俺は二度と故郷を捨てねぇよ」

「・・・そう」

 

そう答え、出口に向かい歩き出すベルベットとロクロウ。ダイルはその後ろ姿を見る

 

「あの・・・」

「ん?どうしたガタイのいいニイちゃん」

 

ケンが近づいてくる

 

「すいません。かなり手酷くやってしまって・・・」

「なに、気にするな。これから俺は散るんだからな」

「お詫びといってはなんですが・・・」

 

ケンは右手を光らせダイルに向ける。手から優しい光が放たれる、コスモスのコスモフォースだ。光が治るとダイルの膨れ上がっていた顔が元に戻っていた

 

「こりゃあ一体?」

「すいません、尻尾は無理でした。できればちゃんと治したかったのですが。」

「・・・いやこれだけでも感謝するぜ。ありがとな」

「いえ、ではこれで・・・」

 

ケンは走ってベルベット達の後を追った

 

 

3人は出口に向かう

 

「いいんだな。これで」

「こっちに追っ手がかかるのも時間の問題よ。同情してる余裕はないわ」

(同情・・・ね)

 

 

それからしばらく経ち3人はヘラヴィーサへと戻った。そのまま組合へ向かう組合長に尻尾を見せる

 

「これはダイルの尻尾!?あんた・・・あいつを殺ったのか!?」

「タールの沼にはまって死んでるのを見つけたの。これしか持ち帰れなかったわ」

「本当・・・か?」

 

組合長が疑う

 

「疑うのは勝手だけど、嘘でも業魔の体を持ってこれる奴がいる?」

「・・・確かに」

「じゃあ、船の修理をお願い」

 

ベルベットの言葉に組合長が口を挟む

 

「そうはいかん。テレサ様から正式な許可が下りないとーー」

 

その言葉にベルベットの声が低くなる

 

「急いでって言ってるの。密輸の真犯人がバレたら、営業停止じゃ済まないでしょ」

「お前・・・!」

 

組合長の顔が歪む

 

「取り引きよ。浜辺の船を直してくれれば、黙って出て行く」

「・・・わかった。船大工を手配する。浜辺で落ち合おう」

 

取り引きを終えひと段落した後

 

「おい、ベルベット。いい機会だから武具屋で装備を強化していこうぜ」

「装備を強化?」

「知らないのか?」

「・・・ええ。故郷では、やってなかったから」

「なら、なおさら丁度いい!やってこうぜ」

 

ロクロウはそう言い武具屋に向かって歩き出す

 

「ちょ・・・あんたって、結構強引よね!?」

「応!押しの弱い男はモテないからな♪」

 

ロクロウの発言に呆れながらベルベットとケンも武具屋に足を運ぶ

 

 

ロクロウとベルベットが装備品を整えている中、武器を使わないケンは適当に武器や防具を見る。前の世界ではこういう類はまず無かったからだ、珍しいという気持ちもある。使わないだけで鍛治関連の知識ややり方は修行中に教わったが。その時武具屋の店主から声をかけられる。

 

「おぉ、あんちゃん。ここに居たのかい」

「え?はい、なんでしょう」

「実はあんたにこれを渡してくれって頼まれてね。体がでかくて大きな背嚢背負ってる男が来たらこれをってな。」

 

店主から布で包まれた包みと手紙を手渡される

 

「いまここで見ても?」

「あぁ大丈夫だ」

 

ケンは布を取り中身を見る。それは短剣だった。柄頭と鍔の縁は水色の宝石、所謂藍玉がはめ込まれほのかに光っている。極め付けは柄の真ん中に丸々一つの綺麗にカットされた藍玉がはめ込まれていた。

 

「こりゃすげぇ・・・こんなもの見たことないぞ・・・」

「これは・・・」

 

鞘から刃を抜くと40センチほどの細身の両刃、真ん中にはこれも藍玉の装飾が施されている。

 

「すごいな・・・世の中これほどの業物があるなんてな、これまた勉強になった。見せてくれてありがとな確かに渡したぞ」

「はい、ありがとうございます」

 

店主か店に戻るのを確認し、一緒に渡された手紙を開く

 

〜やぁ、これを読んでるってことは贈り物は無事届いたという事だな。どうだい?その短剣、君のいた世界にあるとあるゲームを見て部下に作らせた物だ。かなり頑丈に出来てるから壊れることはない、勿論元の物と同じ使い方もできるから、試して見るといい。君が武器を使わないのはわかっている。だが御守り程度に持っているぐらいならいいだろ?私の方も少しかかる。だから会えるのはまだ先になる。旅の方も気をつけてな。それじゃ。〜

 

(やっぱりルシフェルさんからか・・・御守りか・・・)

 

ケンは手紙を仕舞い短剣を鞘に戻して腰のベルトに取り付ける。丁度ベルベット達の方も終わったようだ

 

「よし!これで取り敢えずいいだろう。だいたいわかったか?」

「・・・一応。けど、なんか面倒ね」

「一見な。だが、何回かやってコツを覚えるとハマるぞ。この先どんなやつに出くわすかわからん。戦うなら強化は必須だぞ押しの弱い男がモテないように、戦いの準備を怠るやつに、勝利はないからな」

 

ロクロウが力説する

 

「・・・もっともね。これで強くなれるなら、使いこなしてみせる。あいつに辿り着くために」

 

ベルベットが胸に手を当て呟く

 

「お、ケン。その腰の剣はどうした?お前もとうとう武器を使う気になったか!」

「これはある人からの贈り物ですよ。使う気は無いですが御守り程度にと」

 

ケンは短剣を取り出し二人に見せるロクロウがマジマジと見る

 

「おお、これは凄いな剣自体の出来といい装飾といい非の打ち所がない。これほどの業物は見た事がない。まるでこの世の物じゃないくらいにな。お前の知り合いって一体どんな奴なんだ?会ってみたいものだな」

「はは・・・」

「その刃の部分になんか書いてあるわね。見た事ない文字ね」

 

ベルベットが文字の存在に気付く

 

「確かにな。なんて読むんだ?」

「えっと・・・『旅の無事を祈る』だそうです」

「読めるのか?」

「はい、考古学も少しかじってますので」

「ほう」

「そろそろ船に戻りましょ」

「応!」

「はい」

 

ベルベットの声に二人は答え、組合が修理してるであろう浜辺に向かって歩き出す

 

 

第7話 終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後にルシフェルから送られたのはダークソウル3の藍玉の短剣です。
ご指摘ご感想お待ちしております

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