テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

44 / 65
次話はPSO2NGSをやりたいのでもしかしたら少し遅くなるかもしれません


第37話

 

ベルベットはオルトロスに業魔手を振り下ろす。が、それを直様察知して俊敏な動きで横に躱し攻撃を空振りに終わらせる。その僅かな隙を狙ったのだろうオルトロスがベルベットの首を狙い牙を向け噛みつこうと飛び掛かる

 

「ぐぅっ!!」

 

ベルベットは右腕の籠手で左の首の牙を、刺突刃でもう片方の牙を受ける。ギリギリガリガリと金属の擦れる音が響く、オルトロスは首を振りまわす

 

「うああっっ!!?」

 

体格差も重量差もかけ離れているの力で敵わないベルベットは振り回され遠心力が付いた状態で振り飛ばされる

 

「ベルベット!」

「あの喰魔、ベルベットをしつこく狙っているようだな!ケン!」

 

ライフィセットがベルベットを助けるべく走りはじめロクロウはオルトロスを抑え込むことができる可能性があるケンに指示を出す、ケンが頷きベルベットの元へ走る出そうとした時足音と地響きが響き始める。それが徐々に大きくなる、それはこちらに近づいてきていることを表している。

 

「なんだ・・・!?」

「なにかが近づいてきます!」

 

アイゼンとエレノアが音のする方を警戒する。視線の先には土煙が舞い上げオルトロスより大きい物体が一直線に突っ込んでくる

 

「躱せエレノア!!・・・ストーンエッジ!!!」

 

アイゼンが直感的に岩の柱を繰り出すが、突進力の前には成すすべなく粉々に吹き飛ばされる。二人はすかさず横へ逃げる、眼中にないのか二人の間を通り抜けケンに向かう

 

「ケン!危ない!!」

 

猪が巨大化したような業魔ベヒーモスがその赤く染まった牙でケンを突き殺そうと構えて突っ込んでくる。ケンはその牙を受け止めるが勢いを殺すことはできず右の太ももに突き刺さりそのまま背後にあった岩に叩きつけられる

 

「ぐあ・・・!!」

 

ケンは僅かに声を上げるも直ぐに腕に力を込め押し返すが脚を刺され無理な体勢のためうまくいかない

 

「エレノア!」

「はい!!」

 

アイゼンの呼ぶ声に反応して二人はベヒーモスに向かって走り出す。そこから離れた所でマギルゥとロクロウがオルトロスをベルベットから引き離すべく戦っている。ライフィセットが聖隷術でベルベットを治している

 

「大丈夫?」

「・・・そうよね、憎んでいないはずないわよね・・・」

「え?」

 

ベルベットは静かに呟く、そうなることをわかっていたように。そうしてしまったように、恨みを向けられることをして逃げられるはずがないとわかっていたように。ベルベットは静かに立ち上がる

 

「ライフィセット。喰魔を倒すことに集中して」

「う、うん」

 

ベルベットはそれだけ言うとオルトロスに向かって走り出す

 

「四の型!疾空!」

 

ロクロウが印を切り小太刀から真空刃を繰りだしオルトロスの身体に傷をつけるがそれに意を介さず邪魔をするロクロウの喉笛を噛み切ろうと飛び込む

 

「そうはいかんぞ!フラッドウォール!!」

 

マギルゥがそれを阻止すべく水の壁で押し流そうとするもオルトロスがその強靭な脚力で強行突破し前脚の鋭い爪をロクロウ向けて振り下ろす

 

「なんて馬鹿力じゃ!ロクロウ躱せい!!」

「うおおっ!!」

 

小太刀で受け流すが相手の力の強さに金属の削れる音とロクロウは弾き飛ばされる。オルトロスは次にマギルゥに狙いを定め。詰め寄る

 

「喰魔の腹の中に収まるのは御免被るわい!!」

「させない!ライフィセット!」

 

ベルベットは指示をして走り出す、その後ろでライフィセットが聖隷術を発動させる

 

「漆黒渦巻き軟泥捉えよ!ヴォイドラグーン!」

 

オルトロスの足元から黒い沼が現れ後脚が嵌る。動きが鈍った所にベルベットの回し蹴りが一方の頭を蹴り上げる。反撃に前足で叩きつけようとするがそれをロクロウの一閃で弾き返す

 

「さっきの御返しをさせてもらうぞ!翠波活殺!!」

 

がら空きになった胴にロクロウが小太刀を振りかぶり右に振りぬく。斬撃の一瞬後に放たれる真空波がオルトロスの巨体を吹き飛ばし沼から抜け出す。オルトロスはまだ戦うようですぐに体を跳ね起こし追撃するベルベットとロクロウ、その二人に二頭の首が口を開け火炎と冷気を繰り出す

 

「ぐおおっ!?」

「くうぅ!!」

 

熱気と冷気が二人を襲うがマギルゥとライフィセットが素早く妨害する

 

 

「儂を忘れるでないわ!!ブレイズスウォーム!!」

「これで!鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!

 

マギルゥの爆炎とライフィセットの熱戦がオルトロスの体を包み攻撃を妨害する。途切れらた隙を二人は見逃さない

 

「活路を開く!!決めろベルベット!」

 

ロクロウの目が光りオルトロスに向かって疾走する、オルトロスが気づいた瞬間ロクロウの姿が消える

 

「上だ!!枝垂星!」

 

一瞬で上空に跳び上がり頭部に向けて小太刀を叩き下ろす。体が動いたのを確認しロクロウは後ろへと跳躍する、ロクロウの陰に隠れていたベルベットが刺突刃をオルトロスの左脚に突き立て自らの体を反動で吹き飛ばないように固定する

 

「容赦しない!一撃じゃ生温い!」

 

ベルベットは業魔手を振り上げる

 

「これで終わり!絶破、滅衝撃!」

 

オルトロスの胸部に業魔手を平手で叩きつける。そこから巻き起こる衝撃はでオルトロスの巨体は吹き飛び地面を跳ね、地面を擦り静止した

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「ふぅ・・・強敵だったな」

「ベルベット、ロクロウ!大丈夫?」

「ふい~やれやれ、危うくこやつの夕飯のなるとこじゃったわい~」

 

ライフィセットとマギルゥが走り寄り、ライフィセットが二人に術を掛け回復する

 

「こっちは何とかなったが、アイゼン達の方はどうなってるんだ」

 

ロクロウが自分達とは離れた所でベヒーモスと戦っているアイゼン達の方を見た

 

 

「描け蒼穹、霊槍・氷刃!」

 

エレノアが聖隷術を発動し槍先から繰り出される無数の氷刃がベヒーモスの体を切り裂くが表皮と肉体が予想以上に硬く有効打にはならない

 

「駄目!通じない!!」

「奴を引き離す!耐えろケン!!」

 

アイゼンは警告した瞬間聖隷術を発動する

 

「冷気の渦よ凍結しろ!フリジットフォトン!」

 

射出された氷塊がベヒーモスの巨体に向かって放たれる。着弾と同時に破裂に氷の華が咲く、胴体の一部が氷に覆われ動きを制限する

 

「今だエレノア!!」

「はい!!」

 

エレノアが呼応し走り出す。ベヒーモスの巨体を止めていた氷が直に砕け散るが彼女が接近するには十分な時間を稼いだ

 

「これで!!影土竜!!」

 

地面を抉るように薙ぎ払う様に振りかぶった槍を辿り地面から霊力を破裂させる

 

「いい加減に離れなさい!!昇掃泡撃!」

 

次は水の霊力を籠めた槍を振り回し追撃する、怒涛の連撃で流石のベヒーモスもよろける。ケンはその隙を突く

 

「これなら・・・ふん!」

 

ケンはベヒーモスの鼻に足を掛け脚に深く突き刺さっている牙の根元を握る。力を籠め牙を握り締めると徐々にヒビが入りついに握り折る。解放されたケンは素早く鼻を蹴り飛び降りると腰の短剣を抜きベヒーモスの下顎に突き刺し動きを封じる。痛みに唸り声を上げ振り払おうとするのをケンは出血し痛みの走る脚を踏ん張り抑え込む

 

「アイゼンさん!エレノアさん!今です!」

「仕留めるぞエレノア!」

「ケン、無理はしないで!!」

 

アイゼンとエレノアが素早く走りこみ懐に入り込む

 

「覚悟はいいか?」

「参ります!」

 

アイゼンが黒い瘴気の様なもの放出し広がりまるでドラゴンのような姿を取る。アイゼンが跳び上がり後ろからエレノアが槍を振り上げる

 

「響け!集え!全てを滅する刃と化せ!」

「明日はいらねぇ!今お前を殺す為の、詰みの一手だ!」

 

槍を縦横無尽に振りベヒーモスの体に攻撃を加える。着実にダメージを与える連撃にベヒーモスが吠えるがその上からアイゼンが拳を何度も叩き込む。その拳圧に耐え切れなくなりベヒーモスが倒れる。ケンは倒れる瞬間短剣を抜き脚を庇いながらローリングして距離を取る

 

「ロストフォン・ドライブ!!」

「ドラグーン・ハウリング!」

 

槍から放たれる白いレーザーと漆黒の衝撃波によりベヒーモスの肉体は瘴気なって消えていった

 

「か、勝った・・・!」

「ちっ、手こずらせやがって」

 

息を切らせるエレノアとアイゼン。こちらも勝利を収めた

 

「終わったみたいだな」

「ええ・・・後は」

 

ロクロウ達がアイゼン達の無事を確認した後ベルベットが業魔手で喰魔を閉じ込めていた結界を喰らう。オルトロスが起き上がりベルベットに唸り声を上げる

 

「悪いけど、一緒に来てもらうわよ」

 

ベルベットがオルトロスに近寄るがそれを拒否するように噛みつこうとする

 

「ベルベット!」

 

ライフィセットが声を上げるがベルベットは業魔手で右の方の頭を掴む

 

「・・・いいのよ。あたしは、この子たちのご主人を殺した仇なんだから」

 

その事実にライフィセットは驚き何も言えない

 

「けど、今はだめなの。あたしが仇を討ったら、好きなだけ食べていいから・・・だから、力を貸して」

 

オルトロスはベルベットの協力に応えたのだろう。その巨体を消し二匹の白犬と茶色の犬に変わった。それと同時に回りを覆いつくしていた霧も晴れた

 

「術の解けたようじゃな」

 

マギルゥが幻術が解けたのを確認する中ライフィセットが鞄の違和感に気づき探る

 

「古文書も消えちゃった!」

「古文書って?」

 

別行動を取っていたロクロウは知らないので質問する

 

「最後まで書いてあるカノヌシの古文書だよ。ベルベットの家にあったんだ」

「アルトリウスの本!」

 

ベルベットは覚えがあるようでその持ち主がアルトリウスであるのもすぐに分かった

 

「本物が残っているかもしれません。ベルベットの家に戻ってみましょう」

 

エレノアがこちらに歩きながら促す、その後ろでアイゼンの肩を借りながらケンも合流する

 

 

村に戻る前にケンの処置が済むまで僅かな休憩となった

 

「すごいな。ここまでの幻術を操る奴がいるのか」

 

ロクロウは今の今まで操られていたことに怒りを覚えるわけでもなく逆に感心している

 

「多分、俺の“死神の呪い”と同系統の特殊な力をもった聖隷を使役しているんだろう。こんな悪趣味な罠を仕掛けるのは、おそらく奴だ」

「だが、おかげでカノヌシの手がかりが手に入るかもしれん。ライフィセット、カノヌシの古文書は見つけたんだよな?」

「うん、ベルベットの家で・・・」

「よし、ベルベットの家へ急ぐぞ、ケン。いいか」

「はい、こちらは終わりました」

 

ライフィセットは確かにベルベットの家で本を見つけたはずである。アイゼンはそれを頼りに家へ向かうことにした。止血と縫合も終わり包帯も巻き終わったケンに声を掛け一行は移動を開始した

 

 

アバルに戻ったベルベット達、夜が明け日が顔を見せ初め周りを照らす、家からも広場にも人の姿はなく木々と草の風で揺れる音のみが響いている

 

「誰もいない・・・」

「・・・現実よ、これが」

 

自宅に入りラフィの部屋の机の本棚を調べるが古文書はなかった

 

「本・・・ない・・・」

「当然か。奴が見落とすはずがないもの」

 

ライフィセットが探るもない事に落胆する、ベルベットもアルトリウスがこんなミスをするはずがないとわかっていたのだろう

 

「見つけた時、僕がちゃんと見せてたら・・・」

「気にしなくていいわ。どうせグリモワールでないと読めないし・・・夢だったのよ、全部」

 

その後皆は船へと戻るため家を後にする。ライフィセットは庭にある二つの墓に気づき近づく

 

「お墓よ。あたしのお姉ちゃんと、生まれる前に殺された甥っ子の」

「・・・荒れちゃってるね。お花供えようよ」

「・・・いい、意味のないことよ」

 

長い期間手入れされてないので大量の落ち葉と伸びた草で石が幾分か隠れている、清掃する時間もないのでベルベットはその提案を断る。その瞬間後ろから声が聞こえた

 

「卓見だな。食すならまだしも、追悼のためになんの関係もない花を手折って捧げるとは。生贄ですらない。無駄を通り越した残虐な行為だ」

 

ベルベット達が振り向いた先に落ちてきた木の葉を掌に載せたメルキオルが立っていた

 

「メルキオル!」

 

アイゼンがにらみつけ臨戦態勢に入る

 

「・・・相変わらずじゃのう」

 

マギルゥが静かに呟く

 

「“夢の霧”はあんたの仕業ね」

「よくもあの術から脱した。その覚悟、喰魔でなければ我が後継者にしたいところだ」

「態々誉めにきたの?」

「そうだ。この書を回収するついでにな」

 

メルキオルが懐からアルトリウスの書を取り出す

 

「返してもらうわよ」

「これは我が友――アルトリウスの師でもある、先代筆頭対魔士がまとめたもの。身を捨てて世を憂えた高潔な魂が残した希望だ。穢れた業魔が触れてよいものではない」

「てめぇの許可なんかいるかよ!」

 

アイゼンとベルベットが走りだし古文書の奪還と首を跳ねようと刺突刃と拳を振った瞬間、それが一対の手により阻止される

 

「「!!」」

 

掴まれた拳と刺突刃を振り払われ投げ返される。メルキオルの前に頭部から角の生えた一体の人型業魔が立ちふさがった

 

「ふん、珍しく従ったな」

 

メルキオルの言葉からしてこの業魔には手を焼いているのだろう。髭を触りながら呟く

 

「こいつは・・・まさか!?」

 

アイゼンはその姿になにかに感づく

 

「焦らずとも、まもなく知ることになる。我らが希望――草花の如く穏やかで美しい秩序の完成をな」

 

その言葉を最後に術で転移したのかメルキオルと業魔は姿を消した

 

「秩序の完成・・・?」

 

エレノアはメルキオルの発言に疑問を浮かべた。ベルベットはメルキオルのいた場所を見ていたが直に踵を返す

 

「行きましょう。もうここには、なにもないわ」

 

ベルベットは村の門へと向かうため歩き始める

 

「・・・」

 

ライフィセットはそれを悲しそうな表情で見ているほかなかった

 

 

村を出るため広場を歩いているベルベット達、ライフィセットはふと商店の方を見る。ベルベットと楽しそうに話していた店主も村の人も全て幻であったと事実がこの静寂が物語っている、だがその商店の商品棚にポツンと何かが置いてあった。開いたページには見覚えのある絵が描かれておりそれはまさしくベルベットの家に置いてあった古文書と同じものだった

 

「あっ!」

 

ライフィセットはそこに駆け寄り本を確認する

 

「見て!カノヌシの古文書!」

「なぜこんなところに?」

 

皆が驚き本の所に向かう。ベルベットはその本に見覚えがあった

 

(その本!義兄さんの!?)

(ライフィセットが書き写した写本だ)

 

記憶がフラッシュバックしそれが弟が写したものであることを思い出す

 

「・・・ラフィが写した写本だ、あの子、それを売ってあたしに櫛を買ってくれたの」

 

ライフィセットがベルベットに歩み寄り写本を差し出す

 

「なにもなくないよ、ベルベット」

 

ライフィセットから本を受け取りその表紙を触る。手掛かりを残してくれた弟を思い浮かべる

 

「ラフィ・・・」

「完全な物なら、カノヌシの秘密がわかるかもしれん」

「グリモワールに見せてみよう」

 

アイゼンとロクロウが提案している後ろでマギルゥは静かに笑っていた

 

「くくく・・・あのジジイを出し抜くか。本当に面白すぎじゃて♪」

「オルとロスを送り届けて、グリモワールに古文書を解読させる。一度、タイタニアへ戻るわよ」

 

 

モルガナの森を通っている時、アイゼンはあの人型の業魔の事を推理していた

 

「あの角の野郎は・・・」

「応、メルキオルが連れていた奴だな。あの気迫は只者じゃないぞ。しかし、あいつは聖隷じゃなかったよな」

 

ロクロウもその事で気になっていたようだ。だが聖寮が業魔を使役するとは考えにくいと睨んでいる

 

「・・・」

「うん、業魔だと思う。だけど変だよね、聖寮が業魔を使うなんて」

「・・・喰魔という可能性はありませんか?メディサや、モアナの例もありますし」

 

ライフィセットも疑問符も浮かべエレノアは喰魔ではないかという予想を立てる

 

「それはないはず。結界まで張って地脈点に繋ぎ止めておきたいのが喰魔よ。地脈点から剥がして連れ歩いたら、カノヌシに穢れを送ることができなくなるから」

「・・・そうですよね。そもそも、ここには別の喰魔がいたわけですし」

「なんにせよ、メルキオルには幻術に加えて手強そ~な用心棒がおるということじゃ。そう簡単には倒せんぞ」

「・・・ああ、それが事実だな」

 

マギルゥの結論にアイゼンは詰まりながらも肯定した。

 

 

タリエシンに着いた一行は町の状態を確認した、此処も幻術に掛かっていたようでアバルの村はとっくに崩壊していたことになっていた。現在も交易が行われていたと言っていた話も以前になっており住民の中には記憶と現実の相違に混乱しているものもいた。住民の話ではこの町が霧が出たことは全くなかった、つまりベルベット達がつく以前に幻術にかかっていたのだった

 

「お帰り。喰魔は見つかったか?」

 

港で待っていたベンウィックが成果を聞いてくる

 

「ええ。この子たちをタイタニアまでお願い」

「クゥーン・・・」

「キュウーン」

 

ベルベットが後ろにいるオルとトロスが不安そうに鳴く

 

「犬!?待った!トカゲも動く鎧もいいけど、犬を乗せるのは、ちょっと・・・」

 

ベンウィックがやたら渋る、渋るというか嫌がっているようにも見える

 

「犬、苦手なの?」

「・・・子供の頃嚙まれたんだ」

「なら安心して。この子たちが喰い殺したいのは、あたしだから

「・・・大丈夫か?」

「本当よ」

「いや、あんたが・・・」

「・・・」

 

ベンウィックは普段とは様子が違うベルベットが気になったのだろう。そこには優しさがあった。ベルベットの表情から察して促す

 

「・・・わかった。タイタニアへ戻ろう」

 

出航の準備が始まり皆が忙しなく動いてる中ライフィセットがオルとトロスを見る

 

「オルとトロス、ちゃんと世話をしてあげないとな」

「任せるわ。あたしは近づけないから」

「あ・・・」

 

ライフィセットが表情を暗くする

 

「じゃの。ワンコらにとってベルベットは飼い主の仇。放っておくのがせめてもの思いやりじゃろうて」

「・・・大丈夫だよ。僕が面倒をみるから」

「それは危険でフよー!あいつらはかなり凶暴でフから!」

 

そこにビエンフーが割って入ってくる

 

「さっき、仲よくしようと話しかけたら、いきなり噛みつかれたんでフ!」

 

ビエンフーがこういうこと言うとその前になにか失礼なことをやらかすのが目に見えている

 

「どーせ『僕の子分にしてあげるでフ~』とかイラっとくる言い方したんじゃろ?自業自得じゃ」

「よ、読まれてるフ~・・・!」

「しかし、ライフィセットは喰魔探しをしなきゃならん。面倒を見続けるわけにはいかんだろう?」

「そうか・・・どうしたらいいかな」

 

ロクロウの指摘にライフィセットはその対策を考えるがロクロウが提案する

 

「モアナとメディサに頼んだらどうだ?モアナは、昔犬を飼っていたと言っていたし。万一犬たちが暴れても、メディサがついていれば安心するだろう」

「二人にお願いするのがよさそうだね。僕、頼んでおくよ」

「よろしくね。喰魔を殺すわけにはいかないし、なにより・・・あの子たちは、ニコの形見だから」

「ベルベット・・・」

 

沈んだ表情で二匹を見るベルベットを心配そうに見つめているライフィセットにビエンフーがすり寄る

 

「ライフィセットは、犬も飼ってみたいんでフか?なら、聖寮に行くといいでフよ~!」

「聖寮に?なんで?」

「“お上のイヌ”がワンさかいるだワン♪」

「そ、そうなんだ・・・」

 

なんとも寒いギャクで引いたライフィセットであった

 

 

タリエシンを出航してしばらく、沖を航行中の甲板の上でベルベットが縁に寄りかかり自らの左腕を見ていた

 

「また喰らった・・・いや・・・」

 

アバルの事を思い出していたのだろう。ニコ達を村のみんなを今一度喰らったことの精神的圧がベルベットの気分を沈ませるだがあれは化けていた別の業魔であった。それを否定したいのだろう。その時後ろからライフィセットがやってきた。ベルベットがそれに気づきそちらの方を向く

 

「これ・・・ベルベットの弟が写したんでしょ?すごいね、古代語が読めるなんて」

 

ライフィセットが写本の内容を確認したのだろうその完成度の高さに感心している。本をしまう時その姿にベルベットの視界が一瞬弟の姿を連想させた

 

「・・・」

 

ベルベットは一瞬驚いた表情をするが直に元に戻しもらった櫛を取り出す

 

「ちょっと変わった子だったの。体が弱かったから本ばかり読んで、『いつか世界を旅するんだ』って、いっぱい勉強してた。怖い夢を見ると、あたしのベッドに潜り込んでくる甘えん坊のクセに・・・」

「そうなんだ」

 

ベルベットはライフィセットの方を見る。だがその視界に移るライフィセットが彼女の過去を思い出させる。彼にはなんの責任もないのだが

 

「けど・・・甘えんぼでいいから・・・生きてて欲しかった・・・だから・・・仇を・・・」

 

ベルベットはふらつきはじめ足を崩して座り込んでしまう。ライフィセットはそれに気づき素早く支える

 

「ベルベット・・・!?」

「何度でも喰らって・・・殺さなきゃ・・・」

「ベルベット!!」

 

うわ言の様に呟き視界が暗転する。いままで気丈に振舞ってきたが元は普通の村娘である彼女は精神的限界を迎えたのだライフィセットの呼ぶ声が遠くで聞こえてくる感覚を覚えながら意識が遠のいていった

 

 

第37話 終わり




最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお待ちいただければ幸いです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。