テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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長らくお待たせしました。年度末で仕事が立て込み遅れました。


第33話

 

アジトであるタイタニアから出港したベルベット達は進路を北に取り、ライフィセットの探し当てた新たな地脈点のあるヘラヴィーサへと入港した。其処は相も変わらず雪が降り、冷たい風が吹いている

 

「くしゅん!ふぅぅ・・・ノースガンド領って、こんなに寒かったんだね・・・」

 

ライフィセットが体を震わせる

 

「でも・・・テレサの管轄はノースガンド領でしたし、その頃、あなたも此処にいたはずでは?」

 

エレノアはライフィセットの寒がりように疑問を浮かべる

 

「多分、意識を制御されていた時は、他の感覚も鈍くなってたんだと思う」

「なるほど。。。でも、アイゼンが寒がっている様子は一度も見たことはありませんね・・・というか、皆さん、平気そうですよね?」

 

改めてエレノアが皆の方を見る

 

「この程度の寒さでガタガタ言うようでは、海賊などやってられん」

「俺は子供の頃から、夏は炎天下、冬は吹雪の中で素振りさせられてたから慣れっこなんだ。もっとも、業魔になってからは、暑いも寒いも関係なくなっちまったがな」

「あたしも、喰魔になってから関係なくなった。冬は苦手だったから、都合がいいわ」

「かくいう、お主こそ、平気そうじゃぞ?」

 

マギルゥが横から迫りながら逆にエレノアに聞く

 

「いえ・・・とても寒いです。あなたが平気そうにしているのが、信じられません」

「三度の飯より寒さが嫌いな儂じゃぞ?全身くまなく、防寒用の秘密兵器を忍ばせてあるわ。服の裏から靴の中まで、薄くて貼れて温もりキープ。その名も『ポッポカイロじゃ~♪』」

 

いつもいい加減なマギルゥのいい加減な防寒具に素直に信じたエレノアが迫る

 

「そんな素晴らしいものがあるのですか?」

「ハトマネするなら分けてやってもよいぞ?」

「えっ?」

 

ハトの真似を要求するマギルゥにエレノアが驚く

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

エレノアはかなり躊躇したが寒さに対処できるならと渾身のギャグを披露する

 

「ポッポカイロを分けてほしいポッポ・・・」

「ベルベットほどの衝撃はなかったのー」

 

辛口な反応にエレノアは呆れて頭を抱える

 

「・・・」

 

それを見ていたベルベットはため息しかでない

 

 

それからしばらくしてヘラヴィーサの北を進みそこにあった洞穴に入る、しばらく進むとその奥に建造物があるのを見つけた。それが例のフォルディス遺跡だろう

 

「お、警備がいないぞ。これは裏か表か?」

 

ロクロウは重要施設であるはずの遺跡の入り口に兵士や対魔士がいないことに警戒する

 

「・・・表よ!ここは一気に踏み込む!」

 

ベルベットは臆することなく扉に近づき開ける、遺跡の中は対魔士姿こそなかったが人員不足を埋めるべく多くの聖隷がいた

 

「かなりの聖隷を配備してるわね」

「喰魔を守るため・・・だよね?」

「ええ、おそらくね」

「操っている対魔士がいるはずです。警戒してください」

 

ベルベット達に気づいた聖隷の集団が一斉に向かってくる

 

「先に進めば本体がいる、さっさと片づけるわよ!」

 

 

「・・・この遺跡は、なにか哀しい感じがする」

 

聖隷の集団を退け遺跡の奥に進むベルベット一行、遺跡の内部見回していたライフィセットがそうつぶやく

 

「哀しいって・・・どういうことですか?」

 

エレノアはライフィセットの言葉の意味を聞く

 

「うん・・・ここで辛い思いをしたり、亡くなった人の哀しい気持ちが溜まってるような気がするんだ。遺跡を見て、そんな風に感じるなんて、なんかヘンだよね」

「いや、その感覚を否定する必要はない。案外そういうものが事実を導く場合がある。ライフィセットの観点でこのフォルディス遺跡を見てみると、説明がつくものがある・・・」

 

アイゼンがライフィセットの感想を肯定する。アイゼンも遺跡の構造を観察する

 

「本当・・・?」

「この遺跡の造りは、派手さや豪華さよりも、通路や建造物としての堅牢さが優先されているようだ。それはつまり――」

「火山性の地震を考慮しているのと・・・この通路で、誰かが暴れるような状況が考えられたってことかな・・・」

「悪くない考察だ。そして、そんな猛者どもがここを素通りするとは考えにくい」

「・・・つまり、ここには通路だけじゃなくて、もっと奥に部屋や施設があるってことだね凶悪犯の牢屋とか・・・闘技場みたいなものかな」

「哀しいと感じた理由は、それで説明できるな」

 

ライフィセットはこれまでも仮説と遺跡の現状をまとめて推理をする

 

「闘技場だとすると、勝者に与えられる宝みたいな何かが隠されてるかもしれないね・・・」

「なぜ隠してあると思うんだ?」

「だって、猛者たちがいい人とは限らないし、ここを設計した人は、用心深い感じがするから」

「隠し財宝か・・・お前はその隠し場所をどう――」

 

話が長引きそうになるところをベルベットが口をはさむ

 

「二人とも、考察は後にして。今は喰魔が最優先よ」

「あ、ごめん・・・」

「・・・」

 

ベルベットに注意されて会話を中断する二人、だがアイゼンがこっそりライフィセットに声をかける

 

「宝の隠し場所だが・・・」

「アイゼン!」

 

ベルベットに聞こえてしまい注意される

 

「・・・ライフィセット、続きは必ず後でするぞ」

「う、うん・・・」

 

 

遺跡も終盤であろう最奥に近づいてきた。石畳の坂を下るとその方向から声が聞こえる、皆は素早く壁際に移動し姿勢を低くする。その先には聖寮の一等対魔士が三人いた

 

「メディサの様子はどうだ?」

「大人しくしている。やはり真実を告げたのが効いたようだ」

 

それを聞いたエレノアの表情が険しくなる

 

「よし。これで管理しやすくなるだろう」

 

そこまで聞いたベルベット達は顔を見合わせ死角から飛び出す。予想外の侵入者を発見した対魔士は驚きながらも即座に武器を構える

 

「何だ、お前たちは!!」

 

ベルベットは何も言わず刺突刃で斬りかかる、対魔士は自身の武器である双剣で受け止める。ロクロウは小太刀を振りかぶりもう一人の対魔士と武器をかち合わせそのまま押し込む

 

「でやぁ!!」

「チッ!」

 

エレノアももう一人の対魔士に槍を振りぬく、対魔士は押し負けながらも自らの聖隷を繰り出す。他の対魔士も食い下がりながら所持している聖隷を出す。一体は重厚な鎧を身に着けた大型の聖隷、他の二体は脚がなくくたびれた幽霊みたいな聖隷である。ベルベットとつばぜり合いをしていた対魔士の所持する鎧の聖隷『純白の鎧塊』がベルベットに目がけてエレノアの使う槍より重厚かつ長大なパイクを突き立てようとする

 

「ふんっ!」

「!!」

 

その横からケンが体当たりで純白の鎧塊の体勢を崩しベルベットから離すように押す

 

「ライフィセット!マギルゥ!」

「任せて!」

「しょ~がないの~」

 

アイゼンの声に呼応して聖隷術を発動させるライフィセットとマギルゥ。アイゼンが幽霊のような聖隷『徘徊の流霊』二体を相手取り素手と聖隷術で抑え込みその後ろから二人で援護するという形だ

 

「修行の相手にはなりそうだ、いざ勝負!」

「くっ!業魔がっ!!」

 

ロクロウの小太刀の連撃を受けながら後退する対魔士の横でベルベットが蹴りで対魔士の攻撃を弾き後ろ回し蹴りを相手の胴に叩きこむ

 

「ぐぅ!?」

「さっさと終わらせる!」

 

追い込むベルベットとは離れた場所でエレノアが敵の攻撃を槍で弾き距離を取る

 

「裏切り者の分際で!」

「・・・」

 

自らと相対しているのが聖寮を裏切ったエレノアという事実が怒りを助長させる。対するエレノアは何も言わず槍を構えなおす

 

「鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!」

「赤く染まるのか?ブラッドムーン!」

 

ライフィセットとマギルゥの聖隷術が的確に徘徊の流霊を追い詰める。アイゼンが敵を引き付け、抑えつけてくれるおかげで術の発動に集中できる。光の線と赤い力場が敵の体力を削る

 

「これで終いにする・・・!ライフィセット!マギルゥ!」

「足を止めるよ!重圧砕け!ジルクラッカー!」

 

ライフィセットの聖隷術で動きを抑えつけ、身動きできなくなった徘徊の流霊にアイゼンが拳を振るう

 

「蜃気楼(ミラージュ)!」

 

スウェイからの高熱を纏ったフックが流霊の身に突き刺さる。大きく後ろに飛ばされた所で

 

「これはオマケじゃ♪フラッドウォール!」

 

水の波が流麗の足元から吹き出し大きく吹き飛ばす。流霊は力なく地面に落ちる

 

「向こうはケリをついたようだな、ならば此方も手短に済ませるか!!」

 

ロクロウがアイゼン達の方を見てから向かい合っていた対魔士の方へ向き直るとその右目が光る

 

「ツッ・・・!?」

 

その気迫に声にならない声で距離を取ろうと後ろに下がろうとした対魔士だが気づいた時にはロクロウが眼前に迫ってきていた

 

「はっ早っ!?」

「隙あり!」

 

ロクロウは小太刀で下から上への切り上げで対魔士の双剣を跳ね上げ、がら空きになった所で印を斬る

 

「壱の型・香焔!!」

「うあああっ!!」

 

爆発が対魔士を襲い後方の壁に叩きつけ無力化する。倒れた対魔士から少し離れた所でエレノアとベルベットがすれ違いざまに膝蹴りと突き立てた槍を軸にしての跳び蹴りで残り二人の対魔士弾き飛ばす

 

「はあぁ!!」

 

ベルベットが業魔手で荒々しく振り上げ砕いた床毎対魔士を殴り飛ばす。対魔士は勢い余って天井に背中からぶつかり数瞬張り付いた後地面に落ちる

 

「せいっ!やぁ!!」

 

エレノアは柄を使い膝裏を打ち体勢を崩した対魔士の顎先を石突で叩き人為的な脳震盪をおこし無力化する。そのころ丁度ケンも純白の鎧塊を正気に戻す技を使い混乱したところを気絶させた、これで戦闘が終わり皆が一カ所に集まる

 

「これではっきりした、メディサはここにいる」

 

ベルベットが情報をまとめた結果この遺跡にいると断定する

 

「事実を告げて・・・管理しやすく?」

 

エレノアは先ほどの対魔士の言葉に疑問を抱いていた

 

 

遺跡の最奥、構造的にみればここにメディサがいるであろう部屋の扉を開ける。その奥には一人の女性が座っているのが見える。ベルベットが先に入り左手を静かに前に出す、左手に反応して監禁用の結界が姿を現す

 

「結界!喰魔です!」

「三度目の正直だな」

 

ロクロウは後ろを振り向きライフィセットを見る

 

「・・・うん」

 

だがライフィセットの返事はいまいちよくない

 

「はあああっ!」

 

その間にベルベットが業魔手で術式を喰らい結界を破る。一同は座っているメディサであろう人物に近づく

 

「・・・メディサね?」

 

メディサと呼ばれた女性は静かに顔を上げ答える

 

「・・・ええ、そうよ。あなたたちは?」

「あんたと同じく聖寮を――導師アルトリウスを恨む者よ」

「安心してください。私たちは、あなたを助けに来たんです」

 

メディサはエレノアの言葉に顔を伏せ力なく呟く

 

「・・・助かりませんよ」

「えっ?」

「諦めないでください。私は・・・」

 

メディサの意味深な発言にライフィセットが疑問を浮かべる。エレノアはそれを自棄と判断したのか説得しようとするが彼女がそれを遮る

 

「いいえ、助からないのは、貴方たちです」

 

メディサは立ち上がりながら続ける

 

「導師アルトリウス様の理想を!聖寮の理を汚す者たちは、私が殺します!」

 

その瞬間メディサの左目の模様が変わり怪しく光る。それに呼応してベルベット達の背後から大型の蛇が多数這いよってきた

 

「なぜ?あなたは・・・!?」

 

無理やり喰魔にされたはずと続けようとしたのだろうがスネークが飛び掛かってきてそれ処ではなくなる

 

「ちっ、こいつは聖寮の手下よ!」

 

ベルベットは毒づき足元に近づいてくるスネークを蹴り飛ばし、刺突刃で切り裂く

 

「やっぱり裏目じゃったの~!ひい!近づくでないわ!ブラッドムーン!」

「こいつらどっから出て来たんだ?まぁいい、修行相手にはちと物足りんが容赦せん!」

 

マギルゥの術で数体纏めて霊場で片付けロクロウは素早い身のこなしですれ違いざまにスネークを斬り捨てていく

 

「ライフィセット、ケン、離れるなよ。この数だ、囲まれたらまずい」

「うん!」

「はい」

 

アイゼンは二人に注意を促し自身は風の聖隷術で牽制、近づいてきたものはストーンエッジで撥ね飛ばし、拳で殴り対処する

 

「聖泡散り行き魍魎爆ぜよ!セイントバブル!」

 

ライフィセットは聖隷術を発動させ前方に無数の水泡を射出する。スネークはそれに警戒はするが臆することなく飛び掛かる、それに触れた瞬間水泡は大きな破裂音と共にスネークが爆発の圧で吹き飛ばされる。ケンはまとわりついてくるスネークを引き剥がして投げている。だがいくら倒しても倒した分が次から次へとでてくる

 

「きりがないよ・・・」

「あの蛇女が召喚してやがる。本体を叩かねば埒があかんぞ」

 

ライフィセットとアイゼンが毒づく後ろで業魔手で薙ぎ払うベルベットの姿にメディサが気づく

 

「その左手・・・そう、貴女が噂の――」

「なぜです、メディサ!貴女は、聖寮に無理矢理喰魔にされたのではないのですか!?」

 

エレノアは攻撃を凌ぎながらメディサに真実を聞き出そうとする。エレノアが忙しく動いている先でそれを淡々と見つめながら冷たく言い放つ

 

「違うわ。私は自らの意志で喰魔になったのよ」

「でも、貴女の娘さんは業魔になって対魔士に・・・それで聖寮を恨んでいるじゃ・・・?」

「ええ、恨んでいるわ」

 

メディサが一瞬間を置き憎しみを込め答える

 

「人間の“穢れ”が業魔を生んでしまうこの世界を!!」

「貴女穢れのことを・・・!」

「対魔士様が教えてくれたわ、ディアナが業魔になったのは、あの子が“穢れ”を発したせいだって。だったら、私は穢れを喰らう“喰魔”になる!二度とディアナのような悲劇が起きないように!」

 

メディサは右手を上げるとスネークではなく岩のゴーレム、ロックゴーレムが頭上から降りてきた、メディサが召喚したのだろう

 

「どんな醜い姿になろうが構わない!カノヌシ様を復活させ、この悲惨な世界を変えるのよ!」

 

メディサはそう叫ぶと姿を変える、肌の色が変わり下半身が蛇のそれと同じになる、頭部からは伸びた髪ではなくその先は蛇の頭部に変わっている

 

「・・・ああそう、なら、強引に攫うまでよ」

 

エレノアの説得が通じないとわかったベルベット。もはや言葉は意味をなさない、己らの意地と目的をぶつけるしかないと

 

「終わらせるのよ!あの子の死に報いるために!」

 

メディサは尾でベルベットとエレノアを叩き潰そうと振り上げる。二人はそれぞれ左右に飛び退いて回避する。尾が叩きつけられた地面にヒビが入り陥没する

 

「この人は・・・母親として・・・」

「関係ない!全部蹴散らす!」

 

葛藤するエレノアに対して既に覚悟を決めているベルベットは業魔手を振り上げメディサに飛び掛かる。エレノアも意を決しベルベットに合わせる

 

「喰魔の方はあの二人に任せるとしよう。俺達はこの岩を叩っ斬る!!」

「叩き斬るのはお主だけじゃろう~、儂は後ろからのんびりとさせてもらうぞ~」

 

ロクロウがストーンゴーレムの巨椀を小太刀で受け止める。その後ろでさぼり宣言をするマギルゥだがしっかりと術を唱え援護する準備をしている

 

「オラァ!!」

 

アイゼンがゴーレムの大振りの攻撃を掻い潜り懐に拳を叩きつける。岩の欠片が飛び散るがそんなのお構いなしに力任せに腕を振るう

 

「チィッ!!」

「アイゼン、危ない!シェイドブライト!」

 

アイゼンに迫っていた腕に光弾が命中しゴーレムが体勢を崩す、その隙にアイゼンがゴーレムの胴体に足蹴りをしその反動で後ろへ宙返りしながらケンの後ろに着地する

 

「ケン、俺とお前で二体片付けるぞ」

「わかりました」

 

アイゼンとケンは背中を合わせ、その傍で後衛であるライフィセットを守るように立つ。それぞれのストーンゴーレムが重量感のある足音を響かせながら近づいてくる。

 

「ストーンエッジ!」

 

聖隷術で岩の柱を作りそれをゴーレムの胴に打ち込む、岩に岩が当たることでゴツンと硬い音が響き渡る、その反動がゴーレムを数歩後退させる。ケンはもう一体の敵を抑えようと動こうとしたとき足に違和感を感じる

 

「ん?」

 

ケンは自らの足の方を見る。そこには足元から徐々に石化していく己の足だった

 

「こ、これは・・・!?」

「ケン!!」

 

ライフィセットも事態に気づく、何とかしようとするがライフィセットはそれを解除する術がない

 

「ベルベット!!」

「ちっ!あんたの仕業ね!」

 

ライフィセットの声で気づいたベルベットがメディサを睨む

 

「対魔士様から聞いたわ。貴方達の中に背が高い大男がいる、かなりの曲者だってね」

 

メディサは蛇の形となった髪でベルベットとエレノアを牽制しつつケンの方を睨み続ける

 

「させません!!旋独楽!!」

 

石突を地面に突き立てそれを軸にして回し蹴りを放つ、がそれをメディサは髪を動かして防ぐ

 

「水蛇葬!」

 

ベルベットは地面を滑りこみながらメディサの攻撃を阻もうとするも相手も尾を使い近づけまいと振るう

 

「不味いぞ!このままじゃ完全に石になってしまう!邪魔するな!鎧通し!」

「じゃがこいつらのおかげで近づけんぞ~!フラッドウォール!」

 

ロクロウは小太刀を重ねてゴーレムの銅体を穿つが岩でできているため砕けても動き続ける。マギルゥの術で起こした波で押し流そうにも重量があり上手くいかない

 

「邪魔だぁ!!」

 

アイゼンは必然的に二体を相手にすることになる。聖隷術と拳で猛攻を続ける、だが二体の内一体がアイゼンの攻撃を引き受けもう一体がライフィセットとケンの方へと近づき始める

 

「ライフィセット!」

「くっ・・・!!」

 

ベルベットが叫ぶように彼の名を呼ぶ。ケンはもう首の方まで石化しつつある、ゴーレムが迫っている中術が間に合わないと判断したのかライフィセットが庇う様に前に出る

 

「ライフィセット、駄目だ、自分の事はいい身を守ることを優先してくれ」

「いやだ!!いつも守ってばかりだから!今度は僕がケンを守るんだ!!」

 

ライフィセットの目は決意に満ちている。サイズ差は明らか、それでも彼はゴーレムを睨みつける

 

「なんとかしなければ・・・でもなぜ?」

 

ケンはあの時科学者達から聞いた話を思い出していた。その瞬間彼の周りの動きが止まった

 

「やあ、暫くぶりだね」

「ルシフェルさん」

 

アイゼンからの攻撃を受けているゴーレムの上に足を組んで座っているルシフェルがいた。ルシフェルはそこから降りる

 

「中々大変な状況のようだな」

「ええ、そうですね。ですがなぜ、あの人たちの説明では外部からの損害は受けないはずでは?」

 

ケンは首が回らないので視線だけ動かす。ルシフェルは指を顔に手を当て若干申し訳なさそうな風な感じで説明を始める

 

「すまない、向こうはこの事は想定してなかったみたいでね、主に毒関係の類は一切受け付けないんだが、こういう摩訶不思議な物は未知数なんだ」

 

普通に考えれば人体が石になるなんてありえないことなのでそれも当然である

 

「さて、どうする。私が手を貸そうか?」

「いえ、初めは驚きましたがなんとか行けそうです」

 

ケンは体を動かしてみる。言葉では言い表すことはできないが体の表面が固まってるだけのような感覚だ

 

「ふむ、完全ではないにしろ君の肉体はそれなりの抵抗力を獲得しているようだ。それじゃ時間を進めるぞ?」

「はい、知らせていただきありがとうございます」

「気にするな、じゃ後で」

 

ルシフェルが指を鳴らすと時が動き始める。それと同時にあたりは再び戦闘の音が響き始める

 

「ふんぐぅ!」

 

ケンは右腕に力を籠める、表面を覆っていた石の部分にひびが入り始め数瞬で石を砕きライフィセットに殴りかかるゴーレムの水晶のような蒼い左腕に拳をかち合わせる。常人なら拳が砕け腕が潰れるであろうが水晶を逆に砕きめり込ませる

 

「ケン!?」

「ライフィセット、大丈夫!?」

 

そのまま全身の石を砕きゴーレムに前蹴りを加える。その衝撃でゴーレムの左腕が取れ体勢が大きく崩れる。ケンは砕き入れた水晶の腕ごとゴーレムを殴りつける。体はバラバラに砕け左腕も崩れ落ちる

 

「ライフィセット!」

「うん!」

 

ケンがライフィセットに合図を送る、彼はそれに呼応してアイゼンが戦っているゴーレムに聖隷術を発動する

 

「アイゼン!漆黒渦巻き軟泥捉えよ!ヴォイドラグーン!」

 

漆黒の腕が敵を絡め捕り拘束する。アイゼンはそのチャンスを逃さない

 

「手間取らせてくれたな。これはその礼だ!!」

 

アイゼンは跳躍すると自身の背中から黒い瘴気に様なものを出す。それはさながら翼に見える

 

「遠慮するなよ!ドラゴニックドライブ!」

 

アイゼンが巨大な火球を繰り出し爆発音と共にゴーレムが吹き飛ぶ

 

「間一髪だったな、こっちも決めるぞ!マギルゥ!」

「言われんでもわかっとるわ~い」

 

ロクロウはマギルゥに合図をし当身で距離を取り小太刀を構える

 

「瞬撃必倒!」

 

素早く間合いを詰め胴体に小太刀を突き立てる

 

「零の型・破空!」

 

突きで岩の身体にヒビを入れるロクロウがゴーレムの身体に足を掛け上へ跳ぶ

 

「マギルゥ!」

「かっ飛ばすぞ~!伸びろー!光翼、天翔くん!」

 

マギルゥが伸ばした式神を横へ振りかぶりロクロウが付けたヒビへ当てる。弱っていた所へ圧力が掛かり体が耐え切れず粉々になった

 

「そんな!?石化を脱してゴーレムも倒すなんて・・・」

 

メディサが驚愕し狼狽える。その横でベルベットとエレノアが構えながら跳躍する

 

「よそ見してる場合?こっちも決めさせてもらうわよ!!エレノア!」

「はい!貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

エレノアが術で槍の先から竜巻を繰り出す

 

「くぅっ・・・!これしきの事で!」

 

メディサは飛ばされないように耐えるがそれが隙となる

 

「隙だらけよ!!」

「あぐっ!」

 

後ろに回り込んだベルベットがメディサの背中に回し蹴りを放つ、ケリを喰らい体勢が崩れた所にエレノアが飛び来む

 

「旋独楽!」

 

エレノアが先ほど不発だった技を繰り出す。先ほどは邪魔されたが今度は綺麗に決まる。槍を軸にした回転蹴りが一発と二発目が胴を捉える

 

「ぬう!!」

「止めぇ!!ブレイク・ブースト!!」

 

ベルベットが高く跳び上がり業魔手で地面を叩きつける地割れが起こると同時に地面が吹き飛びメディサを壁に叩きつける

 

「あああ!!」

 

数秒張り付いて地面に落下するメディサは喰魔の姿を維持できず元の姿へ戻る。戦闘が終わり皆が集まる

 

「ここまでよ」

「“災禍の顕主”・・・め!」

 

メディサは顔を上げ憎しみを込めた目でベルベットを睨む

 

「災禍の顕主?」

「災厄の時代をもたらす魔王の名よ・・・欲望のままに世を乱し・・・混乱と災厄をまき散らして省みない穢れの塊!始末に負えぬ人の業を体現した・・・お前のような“悪”のことだ・・・!」

 

メディサは戦闘のダメージがあるにも関わらず絞り出すように声を上げる

 

「・・・業魔、喰魔、災禍の顕主・・・好きに呼んでくれるわね。でもあたしが魔王だっていうなら、あんたは魔王に利用される。それだけよ」

「させない・・・あの子は私のせいで・・・だから私はっ!死ぬまで戦わなきゃいけないのよっ!」

 

メディサはボロボロになりながらも立ち上がりベルベットと相対する、だがその間にライフィセットが割り込む

 

「やめてっ!」

「邪魔をするなっ!」

 

メディサは声を荒げるがライフィセットはそこから動こうとしない

 

「嫌だ!もう“お母さん”が死ぬのなんて見たくない!モアナもエレノアもお母さんが死んじゃった・・・!それって、すごく悲しいことなんだ!」

「モアナ・・?」

 

ライフィセットが口にしたモアナという名にメディサは疑問符を浮かべる

 

「聖寮に無理矢理“喰魔”にされた少女です。娘を助けようとしたモアナの母親とその子を彼が何とか助けようとしたのですが・・・」

 

エレノアがケンの方を見る、メディサもそれに続いて彼の方へ視線を向ける

 

「結局、助けることはできませんでした。人の姿に戻すことはできましたが、命を助けることは・・・」

「モアナは最後にお母さんとわかり合えた、でも、お母さんの事を思い出しても皆に見せないように泣いてる。だから!お母さんが死んだら・・・ディアナだってきっと悲しむよ・・・」

「ディアナ・・・!」

 

ライフィセットの説得でメディサは何かに気づいたのか娘の言葉を思い出す

 

『お母さんは、ワタシがいらないんだね・・・新しいお父さんの方がスキなんだ!』

 

メディサは気づいた、ディアナが業魔に変わってしまった理由が、再婚という出来事は幼い少女にはあまりにも過酷なものだったことを

 

「違う・・・!私はあなたのために・・・でも、あなたは自分が邪魔者だと悩んで、穢れ・・・業魔になってしまった・・・私のせいで・・・ごめんね・・・ごめんなさい・・・ディア・・・ナ・・・」

 

メディサは娘の謝罪の言葉を口にしながら糸の切れた人形のように倒れる

 

「メディサ・・・」

「大丈夫、気絶しただけだ」

 

ライフィセットがメディサに駆け寄る、ロクロウは歩み寄り容体を看る。肉体と精神の負担で気を失っているようだ

 

「・・・このまま連れて帰るわよ」

「念の為、拘束術をかけておく」

 

ベルベットが次の予定を告げる横でアイゼンがメディサに術を掛けるため通り過ぎる

 

「ふぅむ・・・どうやら聖寮はメディサの後悔を利用したようじゃな。喰魔として自分達に従う様に」

 

作業をしている後ろでマギルゥはメディサと聖寮の関係の答え合わせをする。家庭、親子、夫婦、様々な状況が重なって起きてしまった悲劇、自責の念に聖寮はそこに付け込んだ。ネガティブになっている状態で精神誘導は絶大であるからだ

 

「そんな・・・残酷すぎます」

「じゃが、理には適っておる」

「・・・そうですね。“理”に反しているのは私の方です。ここからメディサを連れ出せば、ヘラヴィーサがどうなるかわからない。例えケンの持っている力を使ったとしても」

 

エレノアはそう言い今から連れ出そうとするメディサの方を向く

 

「なのに私は、自分の拘りのために、それをしようとしている。メディサ本人の決意まで打ち砕いて・・・」

「理でいうなら、穢れる人間個人が悪いのよ。あんたが責任を感じることじゃないわ」

「・・・だとしても、私は目を逸らしたくありません。自分が選んだ道の先にある現実から。それが理に反する私の、せめてもの義務です」

 

ベルベットは理から外れようともそれでも己の選択した道を真っ直ぐに歩もうとするエレノアに小さく呟く

 

「本当に面倒ね。あんたも、この女も・・・」

 

呆れとも取れるが自分自身も同じ事をしている事実は変わらない。ベルベットは出口の方へ向き顔を逸らす

 

「ゴチャゴチャ考えないで、悪事は全部“災禍の顕主”のせいにでもしとけばいいのよ」

 

そういいながらベルベットは出口に向かって歩きだす

 

「ベルベット・・・」

 

エレノアはベルベットの彼女なりの優しさに気づいたのだろう

 

「別に気を遣ったわけじゃない。あたしは気にしないってことよ。道の先になにがあろうとね」

 

 

それからベルベット達はディアナを連れて遺跡を出る。聖寮は撤退したらしく警備という警備もほとんどいなかった。フィガル雪原を歩いている途中でライフィセットはエレノアに話しかける

 

「ね、エレノア。僕・・・メディサを苦しめちゃったのかな?」

「そうかもしれません。でも私はあなたと同じことを思いました。お母さんが死んだら・・・悲しいです。だから、止めてくれて嬉しかった」

「うん」

 

二人が話している後ろで見ていたベルベット達

 

「エレノアのヤツ、随分無駄な責任を背負おうとしてるみたいね。無理をしすぎて、穢れる危険が高くなってるんじゃないの?」

「・・・“穢れ”とは人間の心にある“エゴ”や矛盾から目を逸らす“独善”から生まれるものだ。だがエレノアは、自分のエゴを自覚し、矛盾と向き合おうとしている」

 

ベルベットがエレノアの精神状態を危惧するがアイゼンは穢れの性質を説明する

 

「それこそが対魔士に必要な資質――穢れを生む感情に染まらない“純粋さ”というものじゃ」

「つまり、大丈夫ってこと?」

「今はな。だが、人の心は一瞬で移ろう、この先どうなるかは誰にもわからん」

「ま、さほど心配せずともよかろうて。大抵の対魔士の純粋さは“理”で作り上げたものじゃが、あの娘のは“天然”のようじゃからの」

 

マギルゥはエレノアの才能を評価しているエレノアの純粋さは紛れもなく才能である

 

「ふん、対魔士の才能ってわけね」

「貴重な才能だが、特殊な資質でもある。エゴや矛盾を持たない者などいないし、己が醜さと正直に向き合うことも簡単にはできん。程度の差はあれ、穢れを持って生きてるのが普通の人間というものだ」

「穢れは、必然に存在するもの・・・か。でもアルトリウスは――」

 

ベルベットは最後にアルトリウスの事を呟いたが、それは誰にも聞こえることはなかった。一行はヘラヴィーサへ続く道を歩き続ける

 

 

第33話 終わり




如何でしたでしょうか。目標としては今年中に完結できればいいなと思います

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