テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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仕事の多忙と身内の不幸が重なり文章の短い年末の投稿となってしまいました。申し訳ありませんこれが今年最後になります


第31話

 

アジトであるタイタニアで暫く過ごした一行は、ライフィセットの地脈探知の結果により、バンエルティア号をミッドガンドへと進めていた。出航するまでにタイタニアではいろんなことがあった。ロクロウが落ちていた手紙を拾ったのがアイゼン宛てのものだったようでそれで一悶着、同じくロクロウがクロガネに頼んで作ってもらった両方表の金貨でアイゼンに表を出させようとするも鳥に奪われるはグリフォンに喰われるは雷が落ちて木っ端みじんになるわで散々であった。王子のグリフォンも飛び回ってわ獲物を捕まえてくれて食料調達には困らないが獲物がどんどん大きくなってきてベンウィックも困っていたが王子の嬉しそうな表情を見て言うに言えないとのことだった。そしてついにワァ―グ樹林で保護したクワブトの正体が判明した。エレノアが頼んでいたようでビエンフーから「ミッドガンド希少昆虫図鑑」なるものを受け取って早速調べてみたら、名はグロッサアギト。種としてはカナブンに属する昆虫であった、が、ライフィセットは断固その事実を受け入れるのを拒否してライフィセットクワブトを譲らなかった

 

 

ミッドガンドに到着しゼクソン港に入港したバンエルティア号、船員達が積み荷を降ろしている中でベルベット達は波止場で今後の予定について話し合っている所で後ろから声が聞こえた

 

「ボスから、あんた達に伝言を預かってきた」

 

左腕に赤い布を巻いた男、血翅蝶の組員が歩きながらこちらに向かってくる

 

「ローグレスの東にあるアルディナ草原に、狂暴な業魔が出るらしい。あんたらの探してる奴かもしれない」

 

そこでマギルゥが質問する

 

「ローグレス東の街道は封鎖されとったはずじゃが?」

「一時的にな。今は解かれてる、アルディナ草原の先にある村、ストーンべりィに件の業魔を目撃した仲間がいる。詳しい話は、そいつから聞いてくれ」

「・・・わかったわ」

「同じだね、僕が探知した――」

「タバサに礼を言っておいてくれ」

 

ライフィセットが言いかけたのを割り込んだアイゼンが組員を返す。ライフィセットの探知能力がばれた場合のリスクを考慮したのだろう

 

「喰魔がいる可能性が高まったな。今の情報、確認してみようぜ」

「ええ、まずはストーンべりィに行ってみる」

 

ロクロウとベルベットが打ち合わせしている横でライフィセットがアイゼンに近寄り先ほどの出来事を質問する

 

「アイゼン、僕、なんか失敗した?」

「いや。血翅蝶(やつら)にタダで情報をくれてやる必要はないと思っただけだ」

「?」

 

頭に疑問符を浮かべるライフィセットにロクロウが答えを出す

 

「地脈点のことだよ。俺達だけが知っている情報だろ」

「でも、血翅蝶は味方でしょ?」

「敵ではないが、味方とは言い切れん」

「裏同士というだけじゃ。それも、時と場合によってはクルリと変わる」

「こちらが信頼しなければ、相手も信用しないでしょう」

 

エレノアの意見を聞いたアイゼンは組員が去っていった方角を見る

 

「初めて会った遣いの者が、俺達の顔を知っていた。告げてもいない行き先に、先回りしてな」

「あっ!」

 

これまでの行動を思い出し驚愕するライフィセット

 

「こっちは血翅蝶(やつら)のことをろくに知らないのに、向こうは全部お見通しってわけね」

「儂らを売るのは造作もないと、暗に言うておるわけじゃな」

 

マギルゥの言う通り、国家を相手にする闇組織はありとあらゆる手段を使って自らを強くするのは当然のこと、使えるものは使い利用する。よくあることだ

 

「俺たちが聖寮に対抗する“戦力”であるうちは協力できるだろう。だが、切り札は多いほどいい」

「互いにナイフを突き付け合っているのを承知で背中を預ける・・・それが裏社会の“信用”ってことね」

「厳しいね」

 

裏社会の実態にライフィセットは表情を暗くする。だがそれも直ぐに終わる

 

「タバサのお店の料理の味は、簡単に信用できるけど」

「ああ、それは同感だ」

 

アイゼンもそれには賛同していた

 

 

貨物積み下ろしをしていたケンと合流した一行はアルディナ草原へと移動中にライフィセットが話を切り出す

 

「ストーンべリィは、行くのは初めてだよね」

「なんで通行止めされてたんだ?業魔か」

 

ロクロウも疑問に思っていたようで、詳しいであろうエレノアに質問する

 

「いえ、アルディナ草原で巨大な竜巻が発生して、輸送キャラバンが何百人も行方不明になったのです」

「寒冷化の影響による異常気象だな。雷が頻発した地域や、豪雨に見舞われた街もある」

 

アイゼンがエレノアの証言に補足する

 

「ええ・・・そういった地域への街道は、聖寮によって厳しく往来が制限されています」

「解除されたってことは、竜巻は収まったって思っていいのよね」

「どんな街なのかな・・・」

「結構いい所でフよ~~!!」

 

ライフィットが想像している所でビエンフーが割り込む

 

「東に広がる森林地帯では、宝石が採取できるし、珍しい植物も昆虫もたくさん生息してるでフ~。数少ない住民たちは、動物の肉や毛皮を必要な分だけ売り買いして暮らしてるし、静かで良いとこでフよ」

「随分詳しいんだね」

 

ビエンフーの説明にライフィセットが感心する

 

「こやつの初恋相手のノルミンの故郷なんじゃよ」

 

ビエンフーの後ろからマギルゥが話に入り込む。それを聞いたビエンフーが恥ずかしそうに声を上げる

 

「ビエ~~ン、姐さん、恥ずかしいじゃないでフか~、今は離ればなれになってしまったでフけど、あの娘とは、心が通じ合っているんでフよ~~」

 

恋人に思いはせる横でマギルゥが話を切り出す

 

「儂とお主が契約して旅に出た直後、あの娘は男前のノルミンと恋仲になり村を出たがのー」

「ええええっ!?そんなの初めて聞いたでフよ!!姐さん、いつその話を?」

 

驚愕したビエンフーがマギルゥに詳細を聞き出す、マギルゥはわざとらしく頭に指を当てる

 

「儂から逃げ出したお主を探す旅の途中じゃったか?」

 

通じ合ってる()

 

「いや、村を出て数分後、忘れ物を取りに戻った時じゃったか・・・ま、どーでもいいがのー」

「よくないでフ~!!」

「男が女にふられたぐらいで泣くな。ストーンベリィへ急ぐぞ」

 

涙をまき散らすビエンフーを横目で見ながらきっぱりと言った

 

 

ダ―ナ街道を歩きながらストーンベリィに向かう道中も中ごろ。山道へ入った一行は丁度閉鎖されていた交通路付近の聖寮の拠点を通り過ぎていた。その間にライフィセットに関してまた一悶着あったがそれはまた別の話。山道が少し険しくなってきた道を進んでいたベルベット達の後ろから強い風が吹いてきた

 

「・・・ん?」

 

通常の風とは異質な物を感じたベルベット達が吹いてきた方向を振り返る。その方向から巨大な物体が空を飛んでいた

 

「あれは!」

「ドラゴン・・・!!」

 

アイゼンの言う通り、ドラゴンはこちらに気付いていないのか、そのまま飛び去って行く

 

「アレじゃな。アルディナ草原の業魔というのは」

「自由に飛んでたが、喰魔なのか?」

 

ライフィセットが羅針盤を取り出して地脈点を探る

 

「地脈点!感じた!あっち!あの岩山の上あたりだよ」

 

ライフィセットがそちらの方を指さす

 

「確かめてみましょう」

 

それからしばらくして岩山の頂上付近へとたどり着いたベルベット達

 

「ここ!僕が感じてた地脈点だ」

「喰魔もいないし、結界もないようですね」

「またハズレかな・・・」

 

エレノアが辺りを見回す、彼女の言う通り喰魔を閉じ込めておくはずの結界もない。喰魔が飛び回っている時点で矛盾が発生している

 

「決めつけるのは早いわ。ドラゴンが結界を破ったか、聖寮が制御しきれていない可能性もある」

「・・・ありうるな、ドラゴンは最強の業魔だからな」

「問題は、ドラゴンが喰魔かどうかだ」

「そこね、予定通りストーンベリィで情報を得ましょう」

 

ドラゴンに見つからない内に移動を始めるメンバーの後ろでマギルゥがため息をつく

 

「やれやれ、一番の問題は敵がドラゴンというトコじゃろうに・・・」

 

 

岩山を下りしばらく進むと大きめの門が見えた、そこを開け村に入る。ここストーンベリィは開拓の村と言われる通り豊富で育ちの良い樹木、良質な石材、清純な水資源。ここに集まった職人は恵まれた環境で多義に渡る産業を模索している食料の品種改良や心水の開発も盛んにおこなわれているらしい

 

「さあて、血翅蝶がいそうな場所と言えば――」

「宿屋をあたるのが定石だな」

 

アイゼンの提案に従い、村の中にある宿泊施設へと入る。手っ取り早く捜すために受付へ聞こうとしたところアイゼンの視界にテーブルに腰かけるザビーダの姿が入った

 

「ザビーダ」

「よう、副長」

「・・・」

 

険しい表情をしたアイゼンは何も返さなかった。ライフィセットがテーブルの上に置いてある心水の入った氷入りグラスが二つ置いてあった

 

「誰かを待ってるの?」

「いいや“あいつ”との願掛けさ」

「あいつ・・・?」

 

ライフィセットはその言葉に疑問を浮かべるがアイゼンがそれを遮る

 

「・・・行くぞ。ここに血翅蝶はいないようだ」

 

アイゼンが宿屋から出ようとするところでザビーダが呼ぶ

 

「いいのかよ?俺を放置して」

「誰にも、邪魔されたくない時間がある」

 

振り返ることなく外へ出るアイゼン。何のことかわからないライフィセットがザビーダの方を向く、ザビーダ本人ははぐらかすようにはにかむ

 

「フィー」

「う、うん」

 

ベルベットがライフィセットを呼び他の面々が出る。ケンも後に続こうとしたが横からザビーダが声をかける

 

「よう兄ちゃん、しばらくだったな」

「はい、ザビーダさんも。そう言えば貴方に借りがありましたね、なにか自分にできることはありますか」

「ああ、そうだな・・・いや、まだいいさ。それより早く行きな、外で連れが待ってるぜ。話はまた今度だ」

「?・・・ええ、わかりました。では」

 

 

ケンが合流するとライフィセットが先ほどのザビーダの言葉を思い出す

 

「願掛けって、なんのことだろう?」

「ザビーダが呑んでいたのは『いばらの森』だった」

「おお!大切な人と呑み交わせば、永遠に添い遂げられるというロマン無双の逸品じゃな」

「だが、めったに手に入るもんじゃない。俺も一度呑んでみたいと思ってるんだが」

「きっと、ザビーダにとって特別なものなんだね。だからアイゼンは・・・」

 

アイゼンは後ろ姿を見せたまま呟く

 

「・・・そんなんじゃない」

 

しばらく沈黙が続いたがベルベット達の後ろから声が響いた

 

「ベルベットさんですね」

「あんたね。例の業魔の目撃者は」

 

左手首に朱色の布を巻いた女性が歩いてきた。間違いなく組織の組員だ、組員は静かに会釈した

 

「来る途中、空を飛ぶ蛇みたいなドラゴンを見た。あんたが見たのも?」

「はい、同じ業魔です。あいつの巣は、アルディナ草原の岩山の上で・・・」

「岩山には行ってみたけど、いなかったわ」

「戻ってくるのは“雨の日”だけです」

 

組員がそれを言うと同時に雷の音が辺りに響いた

 

「雨の日だけ・・・か」

 

ベルベットの言葉と同時に元から雲だった天候が雨に降り始めた

 

「ぬわ~、あつらえたかのように雨が~!嫌な予感がビンビンじゃわ・・・」

「わかったわ。もう一度行ってみる」

 

 

ベルベット達は再び岩山の頂上へと赴く、雨でぬれた草を踏むたびに大きな音がしたが雨音で気づかれることはないはずだ。そして目的地に着くと組員の言う通りドラゴンが佇んでいた。皆は素早く身を低くし、隠れる

 

「なんて殺気・・・」

「それに、ものすごい穢れを発しておるわい」

「つまり喰魔じゃないってことか」

「このまま退くわよ。無理にこんなのとやり合う必要はない」

 

各々の意見が交差する中今まで黙っていたアイゼンが口を開く

 

「・・・俺にはある」

「お、やる気か!」

 

立ち上がるアイゼンにロクロウが静かに声を上げるがベルベットがそれを止めようとする

 

「は?何言ってるの!?」

「そうです!戦ったらただじゃ済みませんよ!」

 

エレノアが隠れているのはずなのに辺りに響くくらいに大きな声を出してしまった。それと同時に唸り声が辺り一面に広がった

 

「あ・・・すみません!」

 

皆はエレノアの方を何やってんだ見たいな表情でみる。人は彼女のことをこういう『ポンコツ』と

 

「ふん、もうやるしかないぞ」

 

アイゼンの声に呼応するかのように吠えたドラゴンがこちらを睨みつけていた

 

 

第31話 終わり


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