テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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更新にかなり時期が空いてしまい申し訳ありません。執筆を急ぎたいのですが仕事や私情で思うように進まず大変ご迷惑をおかけしました。次はなるだけ早く投稿していければと思います


第26話

 

喰魔はベルベット達が結界内に入ってきたのを見計らい、先ほどと同じく飛び掛かる。先ほどより勢いの乗った攻撃に皆は左右別々へ分かれる、その数舜後に喰魔が地響きと共に地面に落下する。

 

「おおっと!お構いなしだな!!」

「喰らおうものならぺちゃんこじゃぞー」

「喋ってる暇があるなら手を動かしなさいよ!」

 

ロクロウとマギルゥの台詞に怒鳴りながらも刺突刃で幹を切りつけるベルベット。通常の木であれば傷をつけられたであろうが相手は喰魔、朽ち木のような外見から想像もできないほど硬く、刃が食い込まずに止まる

 

「チッ!」

「破砕しろ!ストーンエッジ!」

 

アイゼンの聖隷術に反応してベルベットは喰魔を蹴り離れる。石柱が喰魔の足元から突き出て跳ね飛ばすが重量があるのか思った程より手応えがない。

 

「なんて重さだ」

 

喰魔はアイゼンの方を向き脚を動かしながら接近しようと動き出すがマギルゥが止めに入る

 

「無視するとはいただけんな、フラッドウォール!」

 

水で出来た壁がアイゼンの前に現れ喰魔の行く手を遮るが強引に破ろうとしている

 

「そうはいかんぞ、大人しくせい!ブラッドムーン!」

「マギルゥぼくも!鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!」

 

深紅の霊場に囲まれると同時に周囲に鏡の破片が散らばり熱線が破片から破片へと乱反射を繰り返す。霊力と熱線に晒されて喰魔は吠える。そこへロクロウが滑りこむ

 

「隙あり!四の型・疾空!」

 

印を切りそこからかまいたちが繰り出され幹を削る。ロクロウは好機と判断して追撃をかける

 

「このまま押し切るぞ!零の型!!」

 

後ろへ滑り込み死角から素早く間合いに入り込み左の小太刀で斬り上げる。僅かに浮き上がった所へ右の小太刀で渾身の突きを放つ

 

「破空!!」

 

跳ね上がった喰魔は地面にぶつかり流石に効いたのか転げまわる。ベルベットとエレノアがそれを見逃さず業魔手と槍を振るい追撃をかける

 

「やるからにはしっかりしなさいよ!」

「わかって、います!!炎月輪!」

 

炎を纏った槍を振り上げ喰魔を後方へ下がらせる。そこへ同じく炎を纏ったベルベットの連続蹴りが放たれる

 

「炎牙昇竜脚!!」

 

蹴りの連撃を受け何度とも知らぬ衝撃に喰魔は我慢の限界なのか触手の様にしなる二本の腕を闇雲に振り回す

 

「くっ!」

「きゃっ!?」

 

ベルベットとエレノアは腕からの風圧で動くことができず、おおきな隙ができてしまう。それを知ってか知らずか、お構いなしに腕を振るう。そこにケンが間に入り喰魔の体を抑える

 

「大丈夫ですか!?」

「助かったわ」

「あ、ありがとう」

 

ケンは二人の無事を確認し喰魔を押し返そうとした時あることに気づく、口の中、正確には幹の中に人型の物体があった。一見見ると作り物のようにも見えたがそれは正しく人だった

 

「一体これは?・・・うおっ!?」

 

ケンがそれに気を取られた瞬間に喰魔は二本の腕でケンの胴体を掴み上げ石の床に叩きつけ始めた

 

「ケン!!」

「一体どうしたんだ!?」

「さぁな!今はアイツを助けるのが先だ!!」

 

ライフィセットの隣でロクロウはケンの行動に疑問を抱くがアイゼンが喰魔の懐に潜り込み拳を固める

 

「ハアァァァ!!ウェイストレス・メイヘム!」

 

拳の殴打で喰魔の体勢が崩れる、だがケンを掴んでいた腕は未だに離さない

 

「なんて野郎だ!・・・」

「ここは儂に任せい!伸びろー!」

 

マギルゥは式神を取り出し伸ばす、本来なら縦に叩きつけるはずだがマギルゥはあろうことか横に振りかぶる

 

「皆の者!当たるでないぞー!!」

「おいおい本気か!?」

「ライフィセット!伏せろ!」

 

驚くロクロウとアイゼンはライフィセットを引っ張り地面に伏せる

 

「ちょっと待ちなさいよ!ケンはどうするのよ!」

「ケンを巻き込むつもりですか!?」

 

マギルゥは二人の非難にニヤケながらもケンに向かって叫ぶ

 

「ケンよ!覚悟はよいか!」

「仕方ありません!お願いします!」

「じゃそうじゃ!光翼!!」

 

マギルゥがさらに振りかぶる。ベルベットとエレノアは声を上げる暇もなく屈む

 

「天翔!!」

 

マギルゥは式神を横に振るい喰魔に当たる。軋むような音を響かせる

 

「くん!!」

「うおわっ!!」

 

ケンは喰魔ごと打たれ結界の壁にぶつかり落下する。背中を打つもすぐに立ち上がる

 

「ケン!大丈夫!?」

 

ライフィセットが走り寄る横でベルベットとエレノアが駆け抜け各々の全力をぶつける

 

「とにかく隙ができた!リーサル・ペイン!」

 

ベルベットの奥義が炸裂し喰魔がのけ反った後にエレノアは槍を構え突撃する

 

「奥義!スパイラル... ヘイル!」

 

槍による連続の刺突攻撃で喰魔を突き上げ最後に渦を纏わせの最大の突きを放つ流石の喰魔も堪えたのか大きく吹き飛ばされ石畳に巨体を叩きつける。喰魔は呻き声を上げながら起き上がる

 

「この喰魔は小さくならないようだな」

「・・・」

 

ロクロウの横でベルベットは顔をしかめる。が直ぐに己の左腕を業魔手に変える。その時後ろから何者かが走りながらベルベット達の後ろ姿を飛び越え喰魔の前に着地する。それは入り口で出くわした業魔だった

 

「さっきの業魔!」

 

エレノアが驚く中業魔はベルベット達に向かって威嚇する。エレノアは目を閉じ数秒立って何かを決意したように槍を握り、歩き出そうとした時横から手が伸び制止する

 

「えっ・・・?」

 

エレノアがそちらを見るとその正体はケンであった。その顔は何か迷っているようだが確かにエレノアを見つめていた

 

「ここは自分に任せてくれませんか?」

「・・・策があるのか」

 

背中からアイゼンの声が聞こえる

 

「先ほど最後の手段と言っていたものとはもう一つあります。それを」

「・・・できるの?」

 

ベルベットの問いにケンは数瞬沈黙する、が口を開く

 

「このまま何もしないより、自分にできることをするまでです」

 

ケンはそこまで言い数歩前に歩み出、構えを取る。左手に意識を集中させる、業魔は尚も威嚇を続けるがその後ろで喰魔が這いよる姿があった。ケンはそれを見て何かに気づき左手を突き出し七色の光を二体の業魔に晒す

 

「これは!」

「ほっほ~」

「ケンの奴、まだ隠し玉があったのか」

 

ケンのルナレインボーが業魔達を掻き消すほどの光の流れの中、さらに左手を前に突き出し光線を強める。やがて獣と朽ちた大樹の姿が少しづつ煙のように霧散して徐々にそのサイズが小さくなる

 

「っ・・・くっ」

 

ケンは少し表情を変えながらも最後まで光線を当て続け、そして遂に二体の業魔はその姿を大きく変えることに成功した。ケンは息を切らし両膝に手を付ける

 

「成功したのか・・・?」

「すごい・・・!」

 

アイゼンとライフィセットが驚きながらも他のメンバーは人型のサイズまで縮んだ業魔達の元へ向かう、ベルベット達は警戒しながら倒れている業魔に近づく。獣だった業魔は人間の女性の姿をしているが少女の方は人型ではあるがそれはどう見ても普通ではなかった

 

「・・・やはり、無理だったか・・・」

「無理だったって、どういうこと?」

 

アイゼンに肩を借りていたケンにライフィセットが言葉の意味を問いただす

 

「さっきの技は対象から穢れや憑りついた物の類を切り離す技、本来だったらもう一つの技を使うべきだったかもしれない。でもそれはまだ完全に扱いきれてないんだ、それを使ってもし何かあったら・・・」

「いや、それはお前しかできないことだ。それがお前の選択であれば、何も言わん」

「・・・はい」

 

ケンが息を整え終わりアイゼンから離れ、先に女性と少女の元へ向かったメンバーと合流する。少女は気を失っているだけだがその姿は黒と茶色の甲殻のような物が覆い、頭部からは触覚のようなものが付いている。女性の方は普通の人間だが外傷が酷い。一応マギルゥが回復の術をかけている

 

「うっ・・・」

 

女性は苦しそうな声を出しながら目を開け。ベルベット達を見る

 

「貴女・・・達・・・は・・・?」

 

エレノアが傍にしゃがみ手を取る

 

「私は一等対魔士のエレノア・ヒュームです。貴女がマヒナさん、ですね」

「・・・ええ・・そうよ」

 

マヒナと聞かれてそう答えた女性は話すこと自体億劫のようだ。エレノアはできるだけ負担にならないようマヒナの体を起こす

 

「村の宿屋の人から行方不明になった貴女をモアナを捜して欲しいとの依頼を受けました・・・ですがまさか貴女が業魔になっていたなんて・・・」

「・・・」

 

エレノアはタイミングを見計らいながら言葉を続ける

 

「ここパラミデスが、聖寮に接収された事に対する・・・憎しみ・・・ですよね・・・」

「ちがう・・・わ・・」

 

エレノアがこの祠を取り上げられたことが原因だと思っていたが、予想外の反応に目を見開く

 

「娘を・・・モアナを、あんな姿に・・したことが・・・」

 

マヒナの声に反応してモアナと呼ばれた少女が目を覚まし、起き上がる

 

「ん・・・お母さん・・?」

「モア、ナ・・」

「!!お母さん!!」

 

母親の姿を見て一瞬安堵したようだが顔を見た瞬間血の気が引いて直ぐにマヒナの傍に寄り添う

 

「お母さん!お母さん!」

「・・・ごめんね・・モアナ・・貴女に次代の巫女を受け継がせるためにあんなにきつく当たって、ダメな母親ね・・ここまで追い詰めてたなんてのも知らずに」

「そんなことないよ!モアナ、聖寮の人に強くしてもらったの!お母さんが喜んでくれると思って、戻ってきてくれると思って・・・」

 

モアナの言葉にマヒナは表情を暗くする。彼女はそれを見て押し黙る

 

「モアナ、お母さんはね・・聖寮を許せなかった、そして自分も許せなかったのよ・・・」

「え?・・・」

「貴女をそのような姿にした聖寮を・・貴女の苦しみに寄り添ってあげられなかった自分を・・」

 

マヒナはそこまで言うと激しく咳込み始める。ケンは直ぐにマヒナの傍に寄り左目で彼女の体を分析する、左目に映し出された情報から出された答えは『外傷及び内臓の致命的な損傷により延命不可』というあまりにも単純で残酷なものだった。ケンはマヒナに視線を合わせると、本人もわかっていたようで最後の力を振り絞り、娘に最後の言葉を伝える

 

「・・・モアナ・・これから貴方は一人で生きていかなくちゃ・・なら・ないわ」

 

モアナはその言葉を聞いた瞬間顔が青ざめ母の手を取る

 

「そんな・・いやだよお母さん!!やっと会えたのに!いやだよ!」

「お母さんだって・・モアナとずっと一緒に・・居たいわ・・でも、それも叶いそうにないわ・・いい・・モアナ・どんなに辛くても・・生きるの・・・どんなに、辛くても」

 

声が途切れ途切れとなり徐々に顔から生気がなくなっていく。モアナと握っていた手を放しそっと頬に添える。大粒の涙を流すモアナに微笑みかける

 

「お母さん・・・」

「モアナ・・・大・・・好きよ・・・」

 

その言葉を最後にゆっくりと目を閉じ、力をなくした手がモアナの頬から落ちる。その時彼女は理解したのだ、母親はもういないと

 

「お・・かあ・・さん・・・うわあああああん!!!」

 

モアナが泣き叫ぶ中、今まで黙っていたベルベットは業魔手を出しモアナの横に立つ

 

「始末するのか?」

 

ロクロウは腕を組みなんの躊躇もなくベルベットに聞く

 

「この様子じゃ足手まといになるわ」

「喰魔に手を出すことは許さない」

 

後ろから不意に声が響く。声のした方向にモアナ以外顔を向けるとそこには一等対魔士であるオスカーが武器を構え立っていた。皆が構える中エレノアがケンにマヒナの遺体を預け立ち上がり、オスカーに問い詰める

 

「オスカー!聖寮はなにをしているの?お願い、教えて!」

「エレノア・・・君は知らなくていい」

「よくない!」

 

オスカーはエレノアの後ろにいるケンに気づく、ケンは遺体を抱え上げ泣いているモアナと一緒にいる

 

「生きていたのか、報告には聞いていたが」

「生憎、ただでは死ねないもので」

 

オスカーは遺体に目をやり気づく

 

「・・・例の業魔を・・・だが、エレノア、君が気を病むことはない。すべては世界の痛みを止めるために必要な犠牲なんだ」

 

エレノアはその言葉に爪が食い込むほどに手を握る

 

「業魔じゃない!この人は母親だった!この娘の、たった一人の――お母さん・・・だった・・・」

 

絞り出すような声と同時に涙を流すエレノアにオスカーは視線を落としながらも言葉を続ける

 

「だとしても強き翼をもつ者は――」

 

言いかけた所でベルベットがオスカーの懐に飛び込み回し蹴りを繰り出す

 

「ぐあっ!!」

 

蹴り飛ばされたオスカーが壁に背中を打ち付ける

 

「!!?」

「女の涙には気をつけなさい」

 

ベルべットが冷たく言い放つ後ろでモアナはマヒナの亡骸の手を握り泣いている

 

「うう・・・お母さぁん・・・」

「モアナ・・・」

「やるなら今だ」

 

ライフィセットが何かを訴えるようにベルベットに顔を向けるもベルベットはモアナの方へと歩き出す

 

「どいて、ライフィセット」

「待って!あなたには優しさがないんですか!?」

 

エレノアが必死に言葉で止めようとするがベルベットは止まることなくライフィセットとエレノアの間を通り過ぎる

 

「そんな議論をするつもりはない」

「目的はカノヌシを弱めることでしょう!繋がりさえ断てば、殺さなくても――」

 

ベルベットはモアナとケンの前まで行くと業魔手をだす

 

「ケン、退いて」

 

ケンは何も言わず視線だけをベルベットに向けその次に数秒モアナの方を見るが直ぐに横に避ける。それを確認したベルベットはモアナに業魔手を振りかざす

 

「はあっ!!」

「ベルベットォッ!!!」

 

エレノアの悲鳴が響く、その業魔手がモアナを喰らうことなく顔の横を通り抜け結界を食い破る。業魔手を引っ込め皆の元へ戻る、それと食い違う形でエレノアとライフィセットがモアナに走り寄る

 

「ほう、情にほだされたか?女の涙は実に危険じゃのう」

「グリモワールの言葉が気になったのよ。殺すのは後でもできる」

 

マギルゥの弄りにベルべットも問答に続きロクロウが急かす

 

「連れてくなら、さっさと引きあげよう。敵の拠点に長居は無用だ」

 

モアナの元へ駆けつけたライフィセットとエレノアは姿勢を下げる

 

「僕は、ライフィセット。モアナ、一緒にここから出よう?」

「・・・お母さんは?此処に置いていくの・・・?」

 

エレノアは涙を拭きながらもモアナを励ます

 

「いいえ、置いていきません。空の見える場所まで連れて行きましょう、そうすればお母さんはずっと、あなたを見守っていますから」

「どうしてわかるの?・・・」

「・・・私のお母さんも、そうですから」

 

ライフィセットがモアナの手を取り立たせる

 

「行こう、モアナ」

「うん・・・」

 

ライフィセットに連れられ部屋の入口へ向かう一行。エレノアが気絶しているオスカーを見る

 

「・・・」

 

曇る表情でオスカーを一瞥した後、改めて皆の後に続いて歩きだした

 

 

パラミデスの入口に戻る途中でエレノアが遺体を抱えているケンに質問する

 

「ねぇ・・・ケン、マヒナさんの遺体はどうするんですか?」

 

ケンはエレノアの方へ顔を向けた後でまるで眠っているようにしているマヒナの方へ視線を移す

 

「何がどうあれ、死者は弔わなければなりません。できるだけ遺体を回収した後で一緒に火葬しようと思います。土葬では掘り起こされたりするかもしれません」

 

それを聞いていたアイゼンが何かに気づいた後、皆に忠告する

 

「まずい・・・穢れが強まっている」

「ほぉ・・・早くも影響が出始めたようじゃの~」

 

ベルベット達が周りを見渡すと黒い塵のようなものが漂い始めている

 

「おっと、ケン。あまり時間がないようだな」

「・・・せめてマヒナさんだけでも」

 

ロクロウがケンの方へ顔を向ける。表情を曇らせながらも足を速める

 

 

地上へ出た後入口付近に置いてあった聖寮の物資から火葬で必要な物を調達し砂浜に上で簡易的な火葬を行った。布で包まれた母親が炎に包まれるのを涙を滲ませながらも見届ける後ろ姿にケンは何も言わず炎に目を移した。火葬した後、遺灰の一部を調達した革袋に入れモアナに持たせ残りを海に散骨した

 

 

ハリア村の門にたどり着くまでには穢れがさらに強まっていた。この様子だと村にまで影響が出ているのではないかと不安を抱きつつ中に入ると状況は一変していた。村人からは生気がなくもたれ掛かる者もいれば座り込むもの、立っているのもやっとなものもいた。その様子を見ていた一行の元へグリモワールが歩いてきた

 

「グリモ姐さん、どうしたんじゃ?解読で、なにかわかったのかえ?」

 

マギルゥの質問にグリモワールは答える

 

「違うわ・・・穢れが強すぎて・・・宿屋で本読んでる場合じゃなくなったのよ」

「穢れ・・・」

 

ベルベットが穢れというワードに引っかかりを感じ村人たちに視線を向ける。村人たちの苦しむ声と共に体から何か靄のようなものがでてくる

 

「なに・・・あの体から出てるのは!?」

「“穢れ”じゃ。こりゃあ限界じゃのう」

 

ケンもその様子を見ていたが何か違和感を感じバックパックをまさぐる、違和感の正体はルシフェルから贈られた銀のペンダントだった。そこから光が発せられている

 

「ケン、そのペンダントなに?」

「あ、うん。これも贈り物の内の一つなんだけど・・・」

「今はペンダントの話をしてる場合じゃないでしょ」

「あー、はい。そうなんですけど」

 

ケンがベルベットに謝っている最中にペンダントからあふれ出す光がますます強くなっていく。さすがに皆が驚きの声を上げる

 

「ちょっと!それなによ!?」

「こりゃ眩しいな」

「感心してる場合か~!」

 

やがて光が大きくなり辺り一面が真っ白になり数秒後、それが収まりベルベット達が目を開けると周りに漂っていた穢れは無くなっており村人たちは気を失い倒れている

 

「これは一体!?」

「間一髪だったな、危うく村人が溢れた穢れで全員業魔化するところだった」

「穢れ・・・?村人の身体から出てた“アレ”が、業魔病の原因だとでもいうの?」

 

アイゼンはその問いに答えることなく黙り込む中エレノアが迫る

 

「業魔病とは――業魔とはいったい何なのです!?」

 

その時門の外から声が響く

 

「まだ遠くには行っていないはずだ!絶対に捜し出せ!」

 

恐らく聖寮の増援であろう。ここにいてはいずれ見つかる

 

「・・・後で話す。この状況を見た対魔士達はここで足止めを食うはずだ、その隙に船に戻るぞ」

 

アイゼンが先頭を走りその後に皆が後に続く。因みにグリモワールはロクロウが背負っている。一行はそのままマクリル浜を通り抜け一気にイズルトに入る。幸いここまでは穢れの影響を受けていない様で特に問題もなく港にたどり着いた。バンエルティア号の近くでいよいよ業魔病についての本題に入る

 

「話してもらうわよ、業魔病と穢れのことを」

 

ベルベットの質問に、グリモワールはアイゼンの方を見る

 

「あんた、聖隷の禁忌を破るつもり?」

「こいつら次第だ」

「聖隷の禁忌?」

 

エレノアの疑問にグリモワールが答える

 

「ことは業魔だけの話じゃないのよ。この世界の仕組みといってもいい真実。下手に知れば人間そのものの足場が崩れるかもしれないほどのね・・・だから聖隷は、この件を人間に語ることを禁忌としてきたんだけど・・・」

 

その言葉にベルベットとエレノアの目つきが鋭くなる

 

「それでも知りたいか?」

 

アイゼンの忠告にベルベットが答える

 

「あたしは、もう人間じゃない」

 

ベルベットはそう言い切り視線をエレノアの方へ向ける

 

「知らないままで・・・自分をごまかして進むことはできません」

「・・・いいだろう」

 

アイゼンはその覚悟に応え、組んでいた腕を下ろし皆の方へ向き直り、真実を語りだす

 

「そもそも、“業魔病”なんて病気は世界に存在しない」

 

アイゼンの言葉にベルベットとライフィセット、エレノアは驚愕の表情を浮かべる

 

「人間は、元々誰もが業魔になる。心に抱えた“穢れ”が溢れればな」

「“穢れ”とはなんなのですか」

 

エレノアの質問に横にいたマギルゥが代わりに答える

 

「理性では抑えきれぬ負の感情――人の心が本質として抱えている“業”じゃよ」

「知っていたのか」

「魔女じゃからのう。穢れは誰もがもつ心の闇。お主らの心当たりがあろう?」

「言われてみれば、かなり心当たるな」

「・・・」

 

ロクロウの話す隣でベルベットは黙り込む

 

「人間は業に突き動かされる生き物だ。容易に負に傾き、穢れを発する。ほとんどの人間が、穢れを発しながら生きているといっていいだろう」

「むしろ業魔が本来の姿で、ささやかな理性で人間の形を保っているだけやもしれん」

「民衆が、そんな事実に気づけば大混乱になる。だから聖寮は“業魔病”という仮病を広めた」

「だろうな」

 

ベルベットの考えに概ね当たりを付けるアイゼンにエレノアが反論する

 

「嘘です!だって開門の日以前に業魔はいなかった!」

「本来、業魔の聖隷も、特別な霊的才能――“霊応力”のない人間には見えない存在だった」

「並の人間には、突然狂暴化しただけに見えたんじゃよ。その異常さは“悪魔憑き”や“獣人化”などと呼ばれて伝わったがな」

「なんで急に見えるようになったんだ?」

「人間全体の霊応力が増幅されたからだろうが、理由はわからん。だが、同じように降臨の日を境に、聖隷まで人間に見えるようになり、大量の対魔士が生まれた」

「きっとアルトリウスが絡んでいる」

 

ベルベットの脳裏にハリア村での光景がフラッシュバックする

 

「・・・でも、病気でなければ、村人が一斉に業魔になるはずがありません

「八つの首もつ大地の主は七つの口で穢れを喰って・・・喰魔は、人が出す穢れを吸収して、カノヌシに送る。なのに僕たちが地脈点から喰魔(モアナ)を連れ出したから・・・」

「坊はかしこいのう~そう、吸収されなくなった穢れが溢れたのじゃ」

「つまり、あたしのせいか」

 

ベルベットが小さく呟いた横でエレノアも表情を暗くする

 

「ねえ、どうしたの?なんかみんなこわいよ・・・」

 

そこへ港の露店を覗いていたモアナが戻ってきた。彼女からしてみればこの重い空気は不安を煽るらしい

 

「おかげで、古文書の記述が信用できることが分かったわ。地脈点から、すべての喰魔を引き剥がす。カノヌシの力を削ぎ、覚醒を阻止するために」

「でも、喰魔を奪ったら人間がどんどん業魔になっちゃうんじゃ・・・」

「やらなきゃアルトリウスを殺せない」

「げに恐ろしき女よの~」

「真実を知って進むか・・・いいだろう」

 

アイゼンの言葉を最後に皆は出航するため船に向かう。ベルベットの歩いている横でロクロウがこれからのことについて話し出す

 

「外見が違う喰魔を捜すとなると、やっぱり地脈点を潰していくしかなさそうだな」

 

歩いていくロクロウ達の後ろでエレノアは視線を下げ立つ尽くしている。その表情はなにか葛藤しているようだ。

 

「人と業魔の違いは・・・」

 

そこにモアナがエレノアに近づく

 

「・・・えっと・・・」

 

モアナは何か話したいようだが言葉が詰まる、そこにライフィセットが助け船を出す

 

「エレノアだよ」

「元気だして、エレノア。エレノアのお母さんも、ずっと見てるよ」

「・・・はい。その通りですね」

 

モアナの言葉を聞いたエレノアはほんの僅かに心が軽くなるのを感じ、改めてバンエルティア号へと歩を進めた

 

 

第26話 終わり

 




ご回覧ありがとうございました。ご意見、ご感想があればよろしくお願いします

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