テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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去年の内にもう一話と書いていましたが急な用事で投稿することができませんでした


第24話

 

あれから数日してサウスガンド領、イズルトに到着したバンエルティア号。船を波止場に着け、ベルベット達は桟橋を渡り、船員たちは物資の載せ替えの作業を始める

 

「マギルゥ、例のグリモワールというのはどんな奴だ?」

 

ベンウィックと打ち合わせを済ませたアイゼンが例の人物の特徴を問いただす

 

「端的に表すのであれば・・・」

 

頭に指を当てて思い出すしぐさをした後に

 

「ふぅ・・・はぁ・・・あっそ・・・こんな感じじゃ」

「・・・全然わからん」

 

アイゼンの横にいたロクロウが抑揚のない声音で短く突っ込みを入れる。本人の声真似をしたのであろうがかなり特徴的で皆はどう反応すればいいかわからないようだ、マギルゥは両手を上げてあきれ返る

 

「やれやれ・・・想像力の乏しいお主らに合わせて言うと。グリモ姐さんは“アンニュイな有閑マダムの黄昏”・・・的な空気を纏ったオトナの女じゃ」

「ベルベットやエレノアとは違う感じの女の人ってこと・・・かな?」

 

ライフィセットは考えながら後ろにいるベルベット達を振り返る

 

「ははは、違いない。要するにオトナの女を捜せばいいんだな」

 

ロクロウが笑いながら余りに安直な言葉にアイゼンは呆れてため息をつく

 

「うん、捜すのは、オトナの女の人」

「名前がわかってるんだ。聞き込みで捜し出せるだろう」

「そういうことじゃのー♪」

 

ライフィセットはおもむろにマギルゥの方を向く。マギルゥはそれに気づく

 

「なんじゃ、坊?」

「マギルゥも大人の女の人でしょ。なのに、自分の気持ちを素直に出せないの?」

 

その発言に一瞬面くらったマギルゥだが直ぐに表情を変え、はぐらかす。だがその笑顔はどことなく固い

 

「自分の気持ちか・・・生憎、当の昔に砕け散ってしまったのじゃよ。バリーン!グシャーン!っての~♪」

「気持ちが砕けた・・・?」

 

ライフィセットがマギルゥの言葉に疑問を感じている後ろにバンエルティア号からケンがやってくる

 

「お待たせしました。物資の運び出しは終わりました。あとはベンウィックさん達が済ませるそうです」

「そうか」

「そっちも終わったなら、町の連中に聞き込みよ」

 

ベルベットはそれを聞き皆に号令をかけ街の方へと歩き始めた

 

 

街に到着した一行はさっそく住人達にグリモワールについての聞き込みを開始する、が、いくら名前が判明しているとしても身体的特徴がなければ難航するのは目に見えている。捜索は思った通りうまくいかない。皆はそれぞれに分かれて情報を集めている。ケンは露店の店主に話しかける

 

「ごめんください。少しお尋ねしたいことが」

「おっ、なんだいガタイのいい兄ちゃん」

 

日焼けした気のよさそうな店主が陽気に返事をする

 

「実は人を捜しておりまして。グリモワールという名の人を捜しているのです。連れの話ですとここにいるということなのですが、何か知りませんか?」

 

ケンの質問に店主は顎に手を当て思い出す仕草をする

 

「う~んグリモワールか・・・すまねぇな。その事は心当たりはないんだ、ここサウスガンド領は見ての通り船と人が多いからな」

「そうですか・・・ありがとうございます」

 

ケンは店主に頭を下げた後。店を後にする

 

「ここもダメか・・・この分だと残りを当たっても駄目そうだな・・・ん?」

 

ケンは目ぼしい所はすべて聞き込みをしても情報が得られない事にため息を突こうとした時、人通りの中に亀の甲羅を背負っている人物が歩いていた。ケンはその人物をよく知っている

 

「あれ?かめにんさん?」

「え?あ、あなたは!」

 

かめにんがケンに気づいて小走りで近づいてくる

 

「いや~暫くぶりっす!御座に行ったきり姿を見なかったもんでちょっと心配したっすよ」

「まぁ、紆余曲折ありましたけどなんとか。とその前に場所を変えましょう」

「へ?・・・あ!」

 

かめにんケンの後ろの方を見るとベルベット達が情報収集をしている姿が見えた

 

「そ、そうっすね」

「えぇ、見つかったらまた通常料金で赤字になりますよ。さ」

 

かめにんを促し、二人は住宅の陰へと移動する

 

「どうですか商売の方は?」

「はいっす!手数料分はあなたに補填してもらって他のお客からの利益もあってかなり儲からせてもらってるっす」

「それはよかった。破産してたらこちらも何かと不便ですからね」

 

かめにんがにししと笑う横で表情を緩めるケン、そこにかめにんが何かに気づいてケンに話しかける

 

「あっそうそう。あの時の投資の事なんすけど」

「そうでした。そちらの方は」

「うっす、あの資金を使って仲間と一緒に事業の拡大を進めてるっす。その際に出た利益をへラヴィーサの復旧に当ててるっす、最初は怪しまれましたけど事業提携を結ぶ形でということにしたっす。今はまだ一部分しか援助できてないっすけどこれからどんどんでっかくしていくっすよ!」

 

かめにんの商売根性に火が付いたの炎のオーラをだすその横でケンは少し驚いている

 

「そうですか、それは何より。では自分はみんなの所に戻ります、あなたもベルベットさん達に見つからないように気を付けてくださいね」

「わかったっす。運営の方はお任せくださいっす!では!」

 

かめにんが手を振りながら人通りに紛れて消える。ケンもそれを見届けてベルベット達と合流しようと歩き出すと同時に、徐に懐から一つのペンダントを取り出す

 

「ルシフェルさんから渡されたものだけど・・・一体どんな効果があるんだろ」

 

ケンが握っているペンダントは宝石などの装飾はされておらず、すべて銀で出来ており彫金がかなり凝っている。ペンダントヘッドには騎士の装飾がされている

 

「・・・まぁ、とりあえずベルベットさん達と合流しよう」

 

ペンダントを戻し皆の元へ向かう。ちょうど全員集合していたようだ

 

「そっちはどうだった?何か情報は掴めた?」

「いえ、目ぼしいものはありませんでした」

 

ベルベットがケンに気づき収穫を聞くが、ケンは首を横に振る。一同は場所を変えて情報を纏めようと移動を始める

 

「グリモ姐さんの手掛かりは、さっぱりだな」

「あんたが受け取った手紙って、いつの話?」

 

ごちるロクロウの後ろでベルベットがマギルゥに手紙が届いた時期を聞く

 

「さて、去年じゃったか、十年前じゃったか・・・」

「ふざけ続けるならサメのエサにするぞ」

「後生じゃ・・・せめてクラーケンのオヤツにしておくれ」

 

あまりにも適当な答えにアイゼンが脅しをかけるもマギルゥは相も変わらずで皆あきれ返る

 

「なんなら、あたしが喰らって――」

 

ベルベットがいら立ちながらふと前を見ると通りの向こうに二人の対魔士が横切るのが見えるその二人はオスカーとテレサだった

 

「あいつは!」

 

ベルベットの声に反応して全員が住宅の陰に隠れる

 

「引き継ぎは、すべて済ませておきました。着任と同時に、あなたの指揮で皆が動けるように」

「助かります。でも、姉上の手際と比べられて、僕の至らなさが皆に知られてしまいそうだ」

 

テレサからしてみれば弟の負担を少しでも減らそうという配慮なのだろうが。オスカーからしてみれば自分がさぼっているように感じたのだろう、軽いジョークを飛ばす

 

「バカなことを。あなたには特別な力と素質がある、パラミデスの派遣も、アルトリウス様の期待があればこそです。臆せず、いつものあなたであればよいのです。自分の力を信じて」

「はい。しっかり努めます、姉上」

 

建物の陰でベルベット達が聞き耳を立てる中、エレノアはある言葉は耳に止まる

 

(パラミデスへの派遣・・・この島に、そんな施設があったかしら?)

 

エレノアの表情にライフィセットが首をかしげる

 

「もう行かないと」

「道中お気をつけて」

 

テレサは出発するため歩き出すが五歩進んだところで立ち止まりオスカーの方を振り返る

 

「そうそう・・・ハリアの業魔には注意してください。思いのほか手強く、手負いの者も出ています」

「心得ました」

 

オスカーの返事にテレサは頷きまた歩き出すが今度は三歩目で止まりまた振り返る

 

「それから・・・生水は飲まないように」

「姉上・・・」

 

さすがのオスカーも少し呆れている

 

「・・・おせっかいすぎますね。わかっているのですが、どうしても」

 

オスカーは強くうなづくのを見た後に、改めて歩き出す

 

「ハリアの業魔・・・派手に暴れてる業魔がいるみたいだな」

 

建物の陰で片膝を着いて身を隠していたロクロウが呟く

 

「事実なら、利用できるかも」

「それにしても、奇遇じゃのー。儂らがここに来たタイミングでオスカー参上とは」

 

反対側の建物に隠れていたマギルゥが街道へと出たと同時にエレノアの方へと顔を向ける

 

「・・・私を疑うのはわかります。でも、証拠があるのですか?」

「証拠はない。でも対魔士のあんたは聖寮の“理”と繋がってる」

「儂らには仲間の繋がりはないがの~」

 

疑う根拠がそろっている状態で反論できないエレノアをライフィセットが擁護する

 

「・・・エレノアは、告げ口なんてしてないよ」

「どうかのー?お風呂に入る時も監視しとるのか?」

「「「えっ!?」」」

 

マギルゥの言葉にエレノアとライフィセットが反応するのは分かるがなぜかベルベットも声を上げる

 

「・・・お風呂の時は・・・僕、外にいるからわからない・・・けど・・・」

「その間に聖寮とコソコソ話をするくらいはできるというわけじゃろ」

 

マギルゥの前をベルベットが通りエレノアの前に立つ

 

「死ぬまで従う約束だったわね?」

「・・・その通りです」

 

ベルベットとエレノアはお互いににらみ合う中ロクロウとアイゼンが割って入る

 

「お前たちが潰し合っても聖寮が喜ぶだけだぞ」

「やっかいな業魔と裏切り者が一度に片づく」

「もめてる間に、グリモ姐さんが暴れてる業魔に襲われるかも・・・」

 

そこにエレノアの後ろにいたケンも入る

 

「マギルゥさんの推理も可能性は十分にありますが。内通できたとしたら態々陸地で襲う必要が無いですし海上で戦艦を引き連れて沈めた方が圧倒的に楽でしょう。それに本当に此処にあの二人がいたのは偶然だったのかもしれません」

「ふ~む」

 

ケンの発言にマギルゥは僅かに不貞腐れる横でベルベットが口を開く

 

「・・・確かにそうね。とりあえずこの話は後、行くわよ」

 

ベルベット達が先に行くのを確認した後エレノアは大きなため息をついた

 

 

ベルベット達は聞き込みをしながら街を散策していると土産屋であろう店にビエンフーそっくりの人形にライフィセットが興味を持ったのか店に駆け寄る

 

「この人形、ビエンフーに似てる」

「坊や、気に入ったかい?これは、聖主アメノチ様の人形だよ」

 

店主が気づいて人形の説明をする

 

「聖主アメノチ様・・・これが?」

 

エレノアが人形を手に取りながら質問する

 

「ああ、まちがいない、俺はアメノチ様を見たんだ。威厳たっぷりで、たいそうお怒りのようだったよ」

「見た?怒ってたってなんで?」

「聖寮はサウスガンドで盛んだったアメノチ信仰を禁止したんだよ。それでアメノチ様はヘソを曲げちまったんだろうな。話しかけてみたんだが、なにを言っても『ふぅ・・・はぁ・・・あっそ』しか言わないんだ」

「それって!」

 

特徴的なワードにライフィセットが反応する

 

「土産屋よ、そのやる気のないカミサマはこの人形の姿をしとったんじゃな?」

「ああ、ほぼほぼな」

「おお、なんという奇遇じゃ~~!!その気怠いカミサマこそグリモ姐さんじゃ!」

「人間じゃないのかよ!?」

 

まさかマギルゥの師相がノルミンだったとは思わなかったロクロウがつっこみを入れる

 

「人間とは一言も言ってはおらぬ。土産屋よ、どこで見た?」

「この先のマクリル浜だけど・・・」

「渚で黄昏ておるとは、ますます姐さんらしい!さあ、海へ急ぐぞ!」

「はぁ・・・」

 

ウキウキ気分で浜へと向かうマギルゥにベルベットは唯々ため息をつくしかなかった

 

 

グリモワールの確かな情報を掴んだベルベット達は目的のマクリル浜へと足を踏み入れる。珊瑚礁と白い砂浜が美しい場所で観光には最適な場所だ。土産屋の話だと此処にいるということなので皆は辺りを捜索しながら砂浜を進む。ケンは左目の望遠機能を使って捜しているとかなり離れた所に人形と同じとんがり帽子をかぶったノルミンが流木に座っていた。左目の解析で特徴が一致していることを確認する

 

「もしかして、あの流木に座っている方がそうですかね」

「え?どこにいるのよ」

「ほら、あそこの流木」

「ビエンフーと同じ種族の聖隷・・・でしょうか?」

 

ケンが指差す方向をベルベット達が見るとビエンフーが声を上げる

 

「あの後ろ姿・・・間違いないでフ!あの気怠そうな雰囲気を醸し出しながらそれと同時に威厳さ漂うあのオーラ!グリモ姐さんでフ!」

 

皆はグリモワールであろう人物と接触を図るため流木に歩み寄りベルベットが話しかける

 

「あんたがグリモワール?」

「ふぅ・・・」

「頼みたいことがあって捜してたんだけど」

「はぁ・・・あんた、誰?」

「ベルベット。魔女の知り合いよ」

「あっそ・・・」

 

退屈そうで興味なさそうな話し方とは正反対にマギルゥとビエンフーが師とあいさつを交わす

 

「グリモ姐さん、ご無沙汰じゃのー!」

「ご無沙汰でフー!」

「ああ、あんたたち・・・相変わらず、どっちも妙ちくりんね・・・」

「どういう関係なんだ?」

「魔女の修行をしておった頃の先輩じゃよ」

 

ロクロウがマギルゥとグリモワールの詳しい関係を聞いているさなかにグリモワールが急かす

 

「で?」

「なかなかに興味深い古文書があっての、その解読を頼みたいんじゃ」

「へぇ、あんたが他人に肩入れなんて、珍しいこともあるもんね・・・」

「ヒマつぶしにちょうどよくての」

「あたしはヒマじゃないけど」

 

いかにも協力したくない雰囲気を出すグリモワールににビエンフーが泣きつく

 

「ビエ~ン、グリモ姐さん、そこを何とかお願いでフー!」

「そういうの、やってないから」

「ふむぅ、残念無念・・・引き受けてはもらえぬかー」

「やる気なら出させてあげるわよ」

 

ベルベットが刺突刃を出しグリモワールの首に突き付ける。だが当の本人は眉どころは平然としている

 

「・・・殺れば?」

「脅しじゃない」

「でしょうねぇ・・・」

「・・・」

 

お互いそのままの状態が僅かに続いた後グリモワールは口を開く

 

「あんたみたいな目をしたこと関わると、とんでもないもの背負わされるのよ・・・この年になるとね、そういうのは重くっていけないわ・・・」

「・・・何歳なんだ」

 

ロクロウがグリモワールに年齢を聞く。少なくとも女性に年齢を不用心に聞くものではない

 

「それ以上踏み込むと、あんたのケツに花火突っ込むよ」

「応・・・これは失敬」

 

ロクロウが頭を下げ謝罪する

 

「取り付く島がないようだな」

「南の島なのに、ごめんねぇ・・・」

「・・・」

 

拉致のあかない状況にベルベットがため息を吐く横でライフィセットが意を決したように頭を上げる

 

「古代語、どうやったら読めるようになる?勉強する本とか、あるかな?」

 

ベルベットが刃を下げるのと同時にグリモワールは意外な反応を見せる

 

「・・・へぇ、自分で勉強して読む気?」

「僕、本が好きだし・・・昔の事とか知りたいし・・・必要なんだ」

「坊や、随分熱心じゃない・・・」

「坊は、ベルベットとの役に立ちたいんじゃよなー?」

「・・・うん・・・」

 

それを見て観念したのかグリモワールが口を開く

 

「授業料、高いわよ?」

「教えてくれるの!?」

 

グリモワールの了承に表情が明るくなるライフィセット

 

「うっそ。健気さに免じて読んであげるわ。古文書はどこ?」

 

ライフィセットは直ぐ様グリモワールに古文書を渡そうとする

 

「これです、グリモ姐さん」

「姐さんはいらないから」

「・・・は、はい・・・姐さん」

 

グリモワールの視線にちょっぴり怖気ついたが先ほどの言葉を復唱しながら改めて渡す

 

「姐さんはいらない・・・うん」

「さて、どんな本なのかしら・・・」

 

グリモワールは本を開き数ページめくる

 

「古代アヴァロスト語・・・また厄介なやつね・・・傷みもあるし、ササっと読めないわよ・・・」

「可能な限り急いで」

「急ぐにしても、こんなところじゃなんだ。落ち着ける場所に移ろうぜ」

 

ロクロウの言う通り現在いる地点では外敵の襲撃の心配がある、提案したロクロウの方にグリモワールが顔を向ける

 

「さっきの失言忘れてあげる・・・この先にハリアって村があるわ」

「応。かたじけない」

「さっさと行きましょう。そのハリア村とやらに」

 

ベルベットの掛け声と同時に目的地であるハリア村へ歩き出す一同。だがグリモワールがケンを呼び止める

 

「・・・ちょっとあんた」

「?、はい、なんでしょうか」

 

ケンはグリモワールに歩み寄り片膝を着く

 

「あたし、ここまで来るのにだいぶ歩いたから少し疲れたのよね・・・あんた、エスコートして頂戴」

「へ?エスコート・・・ですか?」

 

ケンは突然の注文に少し困惑している中、先に歩いているベルベットが声を上げる

 

「なにしてるの、早く行くわよ」

「あぁ、はい!」

 

ケンはグリモワールから本を受け取りグリモワールを腕に腰かけさせる

 

「あら、意外と紳士なのね、てっきり抱きかかえられると思ってたけど。まぁいいわ、さ、行ってちょうだい」

「はぁ、わかりました」

 

ケンはグリモワールの自由奔放な行動に振り回されながらベルベット達の後について行った

 

 

ベルベット達は砂浜を歩ききり、門を抜けてハリア村に入った。ここハリアは昔からとある巫女の一族が治めていた土地で聖主アメノチを崇拝しており、巫女がアメノチからの信託を人々に伝え、ときにアメノチへと祈祷を捧げるというここでは独自の聖主信仰が行われてきた。今では聖寮によるカノヌシ信仰の動きにより人々は表面上は従ってはいるが、根底には土着信仰が今だに根強い。夕日も沈みかけたハリア村に落ち着ける場所を見つけるためベルベット達は宿を探す

 

「イズルトで聞いた限りじゃ、村を襲う業魔が出たり、聖寮への不満を抱く住民も多いって話だったが。想像していたよりも落ち着いた印象があるよな。このハリア村ってとこは」

「対魔士の私が同行していることで、村人たちが警戒しているのかもしれません」

「へえ、世の中には裏表があるってこと、あんたもわかってはいるのね」

「表層しか見えていないようでは、聖寮の巡察官は務まりませんから。私だって、色々と見て来たのです。人の世の、光も闇も」

「・・・」

 

苦い表情で絞り出すように話すエレノアを、ベルベットは黙って聞いている

 

「でも・・・いえ、だからこそ、私はその闇から目を逸らさず、正直に向き合いたいのです。その上で、信じたいと思っています。人の心にある光を」

 

決して光だけを見ず闇を見つめる。人の二面性を理解していくという真っすぐなエレノア

 

「闇ね・・・」

「はい、あなたのような闇です」

 

その言葉に驚くベルベット、まさか自分の事を言われるとは思わなかったのだろう

 

「・・・案外、はっきり言うのね」

 

住民から宿の場所を聞いて海側の一番大きな建物、そこが宿屋らしい。ケンがそこで部屋を二つ取り全員は一つの部屋に集まる

 

「じゃあ、解読を始めるわ・・・」

「姐さんが集中できるように、俺たちは外で待とう」

 

ロクロウがそう提案し皆は一旦部屋の外を出ようとした時ライフィセットがグリモワールに駆け寄る

 

「あの・・・僕、残ってもいいかな。古代語、勉強したいんだ。静かにするし、グリモ先生の邪魔はしないから」

「・・・坊や、今なんて言った?」

 

グリモワールはなにかに引っかかったのだろうか、ライフィセットに聞き返す

 

「えっと・・・静かにするし――」

「じゃなくて、あたしをなんて呼んだ?」

「グリモ先生・・・“姐さん”はいらないって言ってたから」

 

グリモワールはその言葉を聞いて表情が少し和らぐ

 

「それ、気に入ったわ。あんたに古代アヴァロスト語、教えてあげる」

「ありがとうございます、グリモ先生!」

 

ライフィセットは嬉しそうに礼を述べながらグリモワールと一緒に古文書の方へ向き直る

 

「・・・話はついたみたいね。なにかあったら声をかけて」

 

ベルベット達は二人の姿を見届け、宿を出た後自由時間として解散という形になった

 

 

夜は更けベルベット達がハリア村で自由時間を取っているそのころ、ケンはいつもの鍛錬のために一度村を出てマクリル浜に出ていた。彼は手ごろな場所を探して砂浜を歩いているとき、左目のセンサーが起動しケンの前方にいる一つの人影をマークする

 

「こんな所でなにをしているのだろうか・・・」

 

ケンは不思議に思いつつも海を見ている人物に歩み寄る。その姿はケンが元居た世界で見たことがある托鉢僧の姿だった。網代傘を被っており、左手には錫杖を持っている。傘のせいでケンからは顔は見えない、数メートルまで近づいた時僧衣の人物が声を上げる

 

「・・・ケンよ」

「・・・!なぜ、名前を!」

 

横にいたケンが驚く中、その男が向き直り網代傘を取る。そこには鋭い目つきでまるで獅子のように威厳のある男の顔があった。ケンはその人物は誰なのか、初対面であるはずなのにそれはすぐにわかった。ケンは砂浜に両膝と両拳をつけ頭を下げる

 

「暫くぶりにございます!師匠!」

「うむ」

 

その正体はケンの偉大な師の内の一人、ウルトラマンレオの人間態であるおゝとりゲンその人であった。レオは数歩近づきケンを見る

 

「俺が見ていなくとも、精進を怠っていないようだな」

「はっ、自分でできる範囲ではありますが、鍛錬を続けていました」

「そうか、ならいい」

 

ケンは顔を上げレオの質問にはっきりと答える

 

「・・・失礼ではありますが、なぜここに?」

「ああ、実はお前の動向を彼から聞かされててな。お前も、俺がここに来るという事は聞いているはずだ」

 

それを聞いてケンは頭を少し下げ、返事をする

 

「・・・はい、師匠はかなりご立腹と・・・」

「そうだ、なぜ俺が腹を立てているか・・・わかるか?ケン」

 

ケンは少し言葉に詰まるも意を決して答える

 

「自分めが・・・力不足であったからと」

「・・・」

「もし、あの人たちが助けてくれなかったら、自分はここにはいませんでした。そのことは痛感しています・・・」

 

ケンは地面を見ながら悔しそうに語る、レオはその姿を見ながら語り掛ける

 

「聖主の御座で、お前は最後までコスモスと同じ戦い方だったそうだな。最後の一撃を除いては。俺はその事に関してはなにも文句は言わん、だが、いつまでもそのままという訳にはいかなくなってくる。いずれその拳を固めて戦わなければならぬ時も来る、それを忘れるな」

「はい」

 

レオの言葉にケンはしっかりと頭を下げながら返事をする

 

「では、お前のこれまでの修行の成果を見せてみろ」

「!」

 

レオの言葉にケンは驚いた様子で顔を上げる。依然として鋭い眼差しで見つめているレオにケンは静かに立ち上がる

 

「・・・わかりました!全力で行かせていたただきます!!」

「うむ」

 

ケンは数メートル後ろに飛び退き携行品を外し、傍にある珊瑚礁に投げて引っ掛ける。レオは僧衣に錫杖のまま立っている

 

「行きます!」

 

ケンはレオと同じ宇宙拳法の構えを取り、相手を見据える。その額には汗が浮かび上がる

 

(やはり、この威圧感尋常じゃない・・・でもここで怖気ついてては!!)

 

ケンは砂浜を物ともせず数メートルほど跳躍し、レオに向かって手刀を振り下ろす。ここに師と弟子の組手が始まった

 

 

第24話 終わり




投稿が遅れて申し訳ありませんでした。今年もできるだけ投稿できるように頑張っていきます

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