テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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だめだ、モチベが上がらない


第21話

~ 

 

アイルガンドからマギルゥの師がいるというサウスガンド領へ行こうとしていたベルベット達だが海洋で発生する奇病、懐賊病が発生し治療薬を入手するため急遽ウエストガンドへ進路を変更した。バンエルティア号が寄港したレニード港、正確にはレニードはここウエストガンドの開拓拠点と外洋での航海の拠点として利用されており、さらに此処の土地は肥え、農業が盛んとされる。だがそこから西にある監獄島と潮の流れが合流することから囚人の死体がよく流れ着くという黒い噂もある。ベルベット達は薬を入手するべく船から降りる

 

「さて、薬屋はどこだ?たしか、懐賊病には特効薬があるんだよな」

「“サレトーマ”という野草の花だ。その絞り汁を飲めば、懐賊病は治る」

「今回は大事にならずに済みそうだな」

 

あくまで薬の入手、今までより圧倒的に簡単なのでロクロウは安堵するもベルベットが横やりを入れる

 

「安心するのは薬草を手に入れてからよ」

「ああ。行くぞ」

「待ってください。感染している者が街に出たら懐賊病が広まってしまいます」

 

アイゼンが先に進もうとするがエレノアが病気の感染拡大を危惧する。当然である。そこにマギルゥが口を挟む

 

「案ずるには及ばん。不思議なことに、懐賊病は海の上でしかうつらんのじゃ。空気中の塩分濃度が関係しとるとも、海水に潜む微生物のせいとも言われておる」

「真相はわからんが、陸で懐賊病が広まった例はない」

「・・・そうですか。本当に奇病ですね」

 

エレノアが安堵と納得の表情を浮かべる側らアイゼンがベンウィックに話しかけ打ち合わせをする

 

「すぐに戻る。お前たちは待っていろ、だが動ける奴がいたら一応ここでもケンについての情報は集めておけ。ここで駄目ならもう諦める」

「お願いします、副長!俺らもできるだけやってみます」

「無理はするな。今はこの事態の打開が最優先だ。急ぐぞ」

 

アイゼンの掛け声と共にベルベット達は歩き始める。その後ろでエレノアは優れない顔を浮かべる

 

「でも、サレトーマ・・・あれを・・・飲まないといけないのか・・・」

「エレノア?」

 

その横でライフィセットが不思議そうにエレノアを見る

 

「いえ、高熱の病気によく効く薬草なのですが・・・この世の物とは思えないほど不味いの。“業魔も泣く”っていうくらい」

「でも薬だから・・・死ぬよりイヤ?」

「あ・・・泣き言ではありませんよ。子どもの頃のことを思い出しただけです」

 

エレノアは恥ずかしいのは顔を僅かに赤くしている。味覚が完成していない幼い子供だと過剰に反応してしまいトラウマになることもあるのだ。そういう事は誰にでも一つはあるであろう

 

 

レニードの薬屋に向かう途中でライフィセットは不安そうにアイゼンに尋ねる

 

「ねぇ・・・アイゼン、本当にケンを捜すのやめちゃうの?」

「あぁ、ベンウィックや血翅蝶がローグレス中を探し回ったがあいつは発見できなかった。カドニクス港にもいなかった以上もう諦めるしかない」

「で・・・でも・・・」

 

それでも中々引き下がろうとしないライフィセットをベルベットが止める

 

「止めなさい、ライフィセット。こんだけやっても見つからないなら人手を割くのは無駄よ。諦めなさい」

「ほほーベルベットや、案外諦め早いんじゃの。まぁその方が儂としては10ガルド返ってくるからどうでもええんじゃが♪」

 

マギルゥはにやつきながらベルベットを捲し立てるその横でロクロウは腕を組みながらも尚諦めてはいないようで

 

「俺はまだ諦めたわけじゃない。第一、聖主の御座で殺されたなら俺達への見せしめに晒し首ぐらいはするはずだ。決めつけるのは早計というものだぞ」

「なんじゃなんじゃ!ロクロウ!えーかげん認めい!早く儂の10ガルドを返せ!」

「応、返すとも。ケンの死体を見たらな」

「ガクッ!!」

 

マギルゥがこける中エレノアが声を上げる

 

「自分が言うのもなんですが、貴方達に仲間意識というものがないのですか?」

「ないわ」

「ないな」

「ない」

「ないのー」

 

4人からの即答にエレノアは唖然とする

 

「あいつは勝手についてきただけだし」

「俺は、恩返しのためについてきた」

「最優先はアイフリードの捜索だ」

「儂は暇つぶしに引っ付いてるだけじゃし~」

「・・・」

 

各々の返答にエレノアはないも言えずに黙るしかなかったが最後にベルベットが煽りともいえる言葉を放つ

 

「別にあんたが気にしてどうすのよ、邪魔者が一人消えてやりやすくなったんじゃないの?」

「っ!・・・それは」

「話は終わりだ、急げ」

 

アイゼンはエレノアの状態を知ってか知らずか皆を急かした。ちなみにベルベットとアイゼンは話に合わせて喋っているだけなので半分嘘でもある

 

 

ベルベット一行はレニードに入り真っすぐ薬屋に向かう途中街の人と対魔士の問答が聞こえる

 

「繰り返すようだが、そのような事実はない」

「でも、大司祭様はいつまでたっても、お仕事にお戻りになってないっていうじゃないですか?本当は、業魔に襲われたんじゃないかって、王都から来た人が言ってたんです」

「隠そうとした真実が漏れ始めたか」

 

問答の内容を聞いたロクロウが呟く中。二等対魔士が住民を納得させるため必死に答える

 

「王宮の警備は他のどの場所よりも厳重だ。業魔が侵入するなどありえない」

「じゃが、業魔の群れが城に押し寄せたらどうじゃ?」

「王宮を守る対魔士は、トップクラスの実力を持つ精鋭部隊だ。業魔の群れなどものともしない」

「でも、巨人みたいな業魔だったら、いくら精鋭部隊でも厳しいんじゃないですか?」

 

住民の過大な妄想に二等対魔士は制するように口を挟む

 

「そのような業魔が王都に現れたら、もっと大騒ぎになっているはずだ。不安な気持ちもわかるが、我々の発表を信じて、冷静に考えてほしい。不安であなたたちが混乱状態に陥れば、それこそ業魔に入り込む隙を与えてしまう」

「それはわかってるんですけど、やっぱり不安で・・・」

 

今の情勢では正義感でまじめな者が一番苦労する。どこも変わらない、何事も最初に責められるのは現場にいる者なのだから。外部はそれを知らずに只吐き出すだけ

 

「・・・王都の噂が、広がってきてるみたいだね」

「少しくらい街がざわついているほうが、こっちは動きやすくて助かるわ」

 

ライフィセットの呟きにベルベットはただそれだけ喋った。この出来事の後直ぐ、アイゼン達は薬屋に立ち寄る

 

「いらっしゃい」

「サレトーマの花が欲しい」

「珍しいモノを欲しがるね。もしかして、壊賊病かい?」

 

アイゼンの注文に店主が察するように続ける

 

「ああ、最初の奴が熱を出して三日経つ。早いとこ手当をしてやりたい」

 

だが店主は一瞬言葉を詰まらせる

 

「そうか・・・生憎、切らしちまってるんだ」

「なぜ品切れになる?今が花の季節だろう」

 

アイゼンが食い気味で問い詰める、この時期に大量に自生するならば在庫があってもおかしくなく、先ほどに店主の言葉を勘ぐれば花が必要な者はそれほどいないことも推測できる

 

「サレトーマの咲くワァーダ樹林に業魔が出てな。聖寮が樹林への立ち入りを禁止しちまったんだ」

 

これもアイゼンの死神の呪いか。エレノアが禁止という言葉に反応する

 

「立ち入り禁止・・・?退治していないのですか?」

「よくわからんが、探してもめったに見つからんらしい。百回に一回出くわすかどうかだとか」

「それ、危険じゃないだろう?」

 

ロクロウが遭遇率の低さにツッコミを入れる

 

「だが、出会って生きて帰った者はいないんだ」

「壊賊病、薬はない、聖寮に、妙な業魔。いよいよ“死神の呪い”全開じゃのー」

「・・・?」

 

マギルゥの死神の呪いという単語に更に疑問を深めるエレノア、店主は別の提案を出す

 

「他の街から取り寄せられるかもしれないけど、発熱三日じゃ、間に合うかどうか・・・」

「ワァーグ樹林に行けば、サレトーマの花は咲いてるのね?」

 

ベルベットは手っ取り早く花が咲いている場所を聞き出す

 

「たぶんな。でも業魔が・・・」

「ワァーグ樹林へ向かうわよ」

 

ベルベットが話を打ち切りレニードの外へ歩き出す。店主は戸惑いながらもベルベット達の背中に声をかける

 

「なんでもいいが、とにかく気をつけろよー!」

 

 

ベルベット達はワァーグ樹林へ向かうためノーグ湿原を通る、湿地帯特有の湿気で不快度指数が上がりそうだが動植物達にとっては楽園である

 

「あの、ライフィセット、死神の呪いってなんですか?」

 

橋を渡りながらエレノアがライフィセットにアイゼンの事について質問する

 

「・・・アイゼンは自分の周りの人たちを不幸にする力をもってるんだって」

「それは・・・聖隷の特殊な力ですか?」

「ただの不幸ではないぞ」

 

そこにマギルゥが加わる

 

「海門要塞では、突然業魔病が大発生したし、海賊団にも、多くの死者が出ておる」

「そんな話・・・にわかには信じられません」

「死神の呪いは本物でフー!!ボクがエレノア様から引き剥がされ、マギルゥ姐さんにフん捕まったのも呪いのせいでフー!」

 

ビエンフーが湧き出て泣きじゃくりながら悲痛な叫びをあげるアイゼンの責任にする前に自分の行いを振り返るべきなのだろうが

 

「そう・・・なの?」

「エレノア様の涙が乾くよう、頬をフーフーした日々が、恋しいでフー」

「えっ!?ちょっと・・・!」

 

エレノアが止めようとするがビエンフーは気づくことなく話を大きくし始める

 

「ここでエレノア様に再び会えたのも不思議なご縁。改めてエレノア様のもとへ・・・」

「好きにするがよい」

 

マギルゥは止めることなくビエンフーを促す

 

「いいんでフか!?」

「止めはせぬ。乙女の秘密をペラペラしゃべる聖隷が欲しいならのー」

「結構です!私にはライフィセットという守るべき聖隷がいますから」

「そんなぁ~!今はライフィセットに涙をフーフーしてもらってるのでフーか~?」

 

ビエンフーがどんどん話を大きくする中エレノアが必死で誤解を解こうとする

 

「してもらってませんってば!もう、あなたなんて知りません!」

「ビエ~~ン・・・!」

「ふぅ・・・」

 

エレノアが疲れた表情でため息をついている間にベルベットがライフィセットを自分の方へ引き寄せエレノアから離れる

 

「なんですか?」

「ライフィセットには、そういうことさせないでよ」

「させません!というか、以前もそのようなことは・・・!ああ、もう~!」

 

弁明しようにもビエンフーのせいで収拾がつかなくなり、諦めにも似た叫びを上げるエレノア

 

「これも死神の呪いかの・・・」

「・・・」

 

マギルゥの呟きにアイゼンは何も言わずただため息だけついた

 

 

ノーグ湿原を経由してワァーグ樹林の入り口に到達する。この樹林は珍しい虫が生息しており昆虫マニアがこぞって採集に来るらしい、時には虫を巡ってマニア同士が物理的な命のやり取りが発生している。今は立ち入り禁止となっているのでそのような光景は見ることはないが

 

「ここがワァーグ樹林だな」

「対魔士が巡回してるかもしれない。注意して」

 

サレトーマを探すため奥へと進む一行、道中にそれらしきものを見つける。草はあるが花はない

 

「おお、あの赤茶けた草はサレトーマじゃ。シュミが悪い紫色の花を探すのじゃ」

「シュミの悪い、紫の花・・・うん」

 

ライフィセットが群生している草から花を探すために皆から無意識に離れて先に走りだす

 

「ライフィセット、あまり離れないの・・・っ!?」

 

ベルベットが呼び戻そうと声をかけた瞬間、ライフィセットが下を向きながら歩いている目の前の岩の陰から二等対魔士二人が突然現れ鉢合わせになる。二等対魔士はライフィセットがいたことで驚き、少なくとも待ち伏せしていたわけではないようだ

 

「なっ!?子供・・・いや聖隷がなぜこんなところに!」

「えっ!?ええ!?」

「ライフィセット!!」

「ここで対魔士と出くわすとはな!これも呪いか!?」

「言ってろ!」

 

ライフィセットは何が何だかわからず慌てふためく。ベルベットとアイゼンとロクロウが弾けたように走り出す、ライフィセットの後ろから迫りくる三人に反応が遅れながらも対魔士は各々武器を取り出す。

 

「静ッ!!」

「ぐおっ!?」

 

初めにロクロウが俊足で細剣を持った対魔士の前に躍り出て小太刀で抑え込み押し返す。鍔迫り合いになるもロクロウの方が優勢に対魔士が後ろに下がるその横で、双剣を構えたもう一人の対魔士はベルベットとアイゼンを相手に戦っている。が、数と戦闘力の差は歴然で勝敗が決するのにそう時間はかからない

 

「でやぁっ!」

「ぐぁ!」

 

ベルベットの回し蹴りで片方の武器が飛ばされ大きく体勢を崩した対魔士の横っ腹をアイゼンの拳がめり込む。

 

「ごへぁ!?」

「寝てろ」

 

内臓から発せられる鈍い痛みに耐えきれず嘔吐し、両膝を着く対魔士の首にアイゼンが手刀を見舞い対魔士は顔面から地面に倒れ伏す。隣でロクロウは細剣を弾き飛ばした対魔士を切り伏せていた

 

「儂が出る必要はなかったみたいじゃの」

「ライフィセット、大丈夫ですか!?」

 

後ろから頭の後ろに手を回しながらゆったりと近づくマギルゥとは反対にエレノアは走ってライフィセットの無事を確認する

 

「うん、大丈夫」

「しかし、この対魔士たち、さっきの様子からして業魔を探しているとは思えん、どちらかというと誰か来ないか見張っていたようだな。だいぶ気楽な様子だったが」

「・・・あっ」

 

その時ライフィセットの羅針盤の針がまるで手で回して遊んでいるかの如く回り始める

 

「あなたが動かしているのですか?」

「違うよ、急に動き出したんだ」

「アイゼンの金貨のように、この子と同調を・・・」

「アイゼン、お主は“地の聖隷”じゃろ。なにか感じるか?」

「いや。俺よりライフィセットの感覚の方が鋭いようだな」

 

アイゼンが腕を組みながら答えた後、羅針盤の針が止まった

 

「止まったけど・・・なんか変な感じがする」

「どんな?」

「この前、地脈に閉じ込められた時と似てるっていうか・・・」

「つまり、カノヌシの力に近い・・・?この先にいるのは、ただの業魔だけじゃなさそうね」

 

ベルベットは顎に手をやり思考しながら対魔士たちが出てきた方向を見る

 

 

対魔士がやってきた方向に何があるか確認するためベルベット達は進む。だが最深部に到達しかけたが野良の業魔が襲ってきただけで特別強い敵には合わなかった

 

「この先・・・行き止まりみたいだけど、何か感じる、ライフィセット?」

「ううん・・・今は何も」

 

そこで丁度樹林の最深部についた時、そこにサレトーマが群生していた。今度は花がついている

 

「あっ・・・紫色の花が咲いてる!」

「サレトーマの花だ」

 

漸く目的のものを見つけたライフィセットはいち早く近づき花を観察する。一見枯れた草の上に偶然別の花が乗っかったかのような外見だが、これがこの植物の正常な形態なのだ。少なくとも観賞用にはまず向かない

 

「・・・聖寮は、業魔を警戒していただけなのか?」

 

ライフィセットの後ろでベルベットは先ほどの対魔士の行動について思考していた。先ほど倒した対魔士はどちらかというと暇をつぶしていたようにも見えた

 

「今は、サレトーマが採れればそれでいい」

「そうね」

 

サレトーマを観察しているライフィセットの横にマギルゥがやってくる

 

「どうじゃ坊、サレトーマはシュミが悪いじゃろう?色の組み合わせなんぞ、最悪じゃし」

「うん、サレトーマはシュミが悪いね。でも、これでみんな助かる」

 

ライフィセットがふと視線を動かすと花の傍らに一匹の虫がいることに気づく、虫はライフィセットにが気付いたと同時に黒い気を噴出させ巨大な禍々しい姿へと変わった

 

「うわああっ!!」

「「ライフィセット!!」

 

ベルベットとエレノアの声が重なり両者が同時にライフィセットを助けるため走り出す。ライフィセットから切り離すため二人が各々の武器で業魔に斬りかかる。業魔はそれを難なく躱し距離を話す。ちなみにマギルゥは真っ先に逃げた

 

「薬屋が言ってた業魔は、こいつか!」

「大丈夫?」

「うん」

「滅多に出会わないと言っていたのに・・・これが“死神の呪い”!?」

「まだ序の口だ」

 

業魔は威嚇するかのように音を出しながら飛ぶがある程度飛んだところで結界が行く手を阻み業魔を跳ね返し地面に落とす

 

「またあの結界!」

(これは・・・一等対魔士でも張ることのできない結界術!?こうまでして業魔を生け捕りにしているなんて・・・一体なんのために?)

 

ベルベットが毒づく横でエレノアは戸惑う、業魔と相対するはずの聖寮がなぜ業魔をそのままにしているのか。なぜ隠蔽しようとするのか、疑問が疑問を呼ぶ

 

「なんにせよ、この空飛ぶ虫を倒さぬとサレトーマの花は手に入れられぬぞ」

「わかってる。やるわよ」

 

全員が構える中業魔、グロッサアギトがかみ合わせるような音を出し向かってくる

 

「まずは小手調べ!先陣を切る!行くぞ!」

 

ロクロウが最初に飛び出し小太刀を煌めかせ真っすぐグロッサアギト目掛けて走り出す。グロッサアギトもそれに呼応して飛び掛かる

 

「破アッ!風迅剣!!」

 

ロクロウの音速を超える一突き、切っ先がグロッサアギトの頭目掛けて伸びる。だがそれをグロッサアギトがロクロウの腕を縫うように躱す

 

「なにっ!?」

 

ロクロウは相手の意外なスピードに判断が遅れる。ロクロウの首を切り落とさんと大顎が迫る

 

「あの速さは厄介だ!!ウィンドランス!」

「ロクロウっ!危ない!シェイドブライト!!」

 

ライフィセットとアイゼンが攻撃を阻止するために聖隷術を放つ。アイゼンの風の槍を後ろに下がることで躱し、二段目の光弾を上昇して避ける。ロクロウは後ろに飛び跳ね、走るベルベットとエレノアと交代する

 

「相手は業魔!手加減するんじゃないわよ!」

「わかっています!」

 

ベルベットは刺突刃を構えながら前転しながら跳躍し、グロッサアギトを両断せんと上から下へと振りぬこうとしたが、ガキンという音が響く

 

「ッ!!」

 

遠心力を利かせた斬撃は確かに当たった、だが、甲殻に余りの固さに刃が一寸たりとも入っていない。弾かれて体勢を崩した時、グロッサアギトは身を回転させ長い尾で殴りつけ、ベルベットを弾き地面にたたき落とす

 

「うああっ!?」

「ベルベット!」

 

ライフィセットがベルベットに駆け寄る前でエレノアは聖隷術を発動させる

 

「これなら!霊槍・獣炎!!」

 

槍の先から火球を放ちグロッサアギトを襲う、追撃をかけようとしたグロッサアギトはそれを見た瞬間慌てたように高度を取り避ける

 

「速い!これでは」

「なんとかして動きを止めて仕留めんとジリ貧じゃの!ブラッドムーン!」

 

マギルゥが聖隷術で発生させた力場がグロッサアギトを捕らえ霊力が敵を痛めつける。グロッサアギトは苦しみながらも体を振り脱出する

 

「ほほ~どうやらあやつ、熱いのは苦手と見えるの」

「弱点は掴めた!俺が隙を作る、その後攻めろ!」

「応!!任せろ!」

 

アイゼンとロクロウが短く会話した後走り出す。グロッサアギトは顎をかち合わせ突撃する、それを見計らいアイゼンが聖隷術を発動させる

 

「破砕しろ!ストーンエッジ!」

 

グロッサアギトの目の前に石の槍が飛び出し進路を塞ぐがそれを意に介さず突っ込み槍を粉砕する。その数舜前ロクロウは石の槍を駆け上がり前方捻り宙返りをしながらグロッサアギトの真上で印を切る

 

「隙あり!壱の型・香焔!」

 

霊力が収束、圧縮され爆発が起こ。グロッサアギトは苦しむ様な鳴き声を上げるが直ぐに怒りを表したかのように顎をガチガチと鳴らし爆炎から抜け出す。煙を引きながら着地したばかりのロクロウを大顎で捕らえる

 

「なにっ!?ぬおああ!!」

 

ロクロウはもがいて抜け出そうとするが圧倒的な力で組み付かれたまま結界に叩きつけられ、地面に突き落とされる

 

「ぐああっっ!!」

「ロクロウ!」

 

エレノアがロクロウを助けようと走り出す。しかし、それを察知したグロッサアギトはその大顎をそちらに向ける

 

「くうっ!!届け!裂駆槍!!」

 

大顎に捕まる前にエレノアが自身の槍で敵の頭を捉える。だが

 

「そっ、そんな・・・」

 

渾身の一突きがグロッサアギトの顎で捕まれる。今度はお返しと言わんばかりに顎を乱暴に振り始める

 

「くっ!!うあっ!?」

 

業魔の力に耐えきれなくなり槍を手放してしまう。グロッサアギトが槍を放り投げ丸腰のエレノアに飛び掛かる。アイゼンと立ち上がったロクロウ、ベルベットが走って来るのが見えるが、距離が開いており間に合わない

 

(こ・・・こんなところで・・・!!)

 

エレノアはこれから来る結末に目を瞑る、その時

 

「諦めないで!重圧砕け!ジルクラッカー!」

「対魔士の癖に諦めが速いの!ブラッドムーン!」

 

ライフィセットの展開した重力場で動きを止め、マギルゥの紅い霊場で敵の体力を削り、エレノアを危機から救い出す、そこへ立て直したベルベットが刺突刃を振りかざしながら走る

 

「さっきはよくもやってくれたわね!!これはお返しよ!裂甲刃!!」

 

一撃で駄目なら斬れるまで何度でもといわんばかりに連続で斬撃を繰り出す。耐えていたグロッサアギトも流石に耐え切れずによろめきながら高度を取ろうと飛び上がる

 

「おやおや?逃げるのかえ、それはちといただけんの。もちっと付き合え!光翼、天翔くん!」

 

マギルゥはいつの間にか式神を伸ばし上から思い切り振り下ろし、グロッサアギトを地面に叩き落とす。すぐ横でロクロウが右目を光らせる

 

「今度は不覚は取らん!!零の型!!」

 

地面に突っ伏したグロッサアギトを切り上げ腹に小太刀を突き立てる

 

「破空!」

 

突き上げで吹き飛んだ先にアイゼンが手首を回し構えを取る

 

「そろそろカタを付けるぞ。ウェイストレス・メイヘム!」

 

アイゼンの鉄拳は、グロッサアギトの顔や胴体に何発も撃ち込まれ最後のアッパーが顎にクリーンヒット。これだけの連続攻撃を受けたグロッサアギトは耐えきれず、吹き飛ばされる

 

「ライフィセット!お前が決めろ!」

「うん!」

 

アイゼンの掛け声に呼応し紙葉を操りグロッサアギトを捉える

 

「霊子解放!仇なす者に、秩序を齎せ!バインド・オーダー!」

 

霊力の衝撃波がグロッサアギトを吹き飛ばしもう一度結界の壁に叩きつけられ地面に落ち元の大きさの虫に戻る

 

「ふぅ、まったくとんだ昆虫採集じゃったのー」

「大丈夫かエレノア。ほら」

 

ロクロウはエレノアの槍を拾い上げ、もう片方の手をへたり込んだエレノアに差し出す

 

「・・・え、は・・・はい・・・ありがとうございます」

 

少し放心状態だったエレノアが気が付きロクロウの手を取り、立ち上がる。その横でライフィセットは先ほどまで戦っていた虫の業魔に近づきしゃがみ込む。虫もそれに合わせてライフィットを見上げる。そしてその虫を両手で持ち上げベルベットの方を向く

 

「この虫、連れて行っちゃ――」

「ダメよ、処分するから退いて」

「あう・・・」

 

即答で却下し虫を始末するため近づき業魔手を出す。だが何か思ったのかベルベットは自らの腕を見る、そこから行動が止まったままの二人にロクロウが助け舟を出す

 

「聖寮が守っていたんだ。殺さずに様子を見た方がいいんじゃないのか?」

「・・・」

 

ベルベットはふとライフィセットを見る

 

「・・・」

 

ライフィセットの無言のお願いの如くベルベットを見る。彼女はため息を業魔手をライフィセットのすぐ横の結界に当て喰らう。結界は手に吸い込まれるように消え、やがて光となって消える。業魔手を戻しながら仕方ないとばかりにライフィセットに告げる

 

「自分で世話をするのよ」

「うん!世話する!」

 

許しを得たライフィセットは満面の笑みを浮かべた

 

「サレトーマの花は確保できた、これで船の連中も、エレノアも大丈夫だ」

「こら!儂も数えーい!」

 

自分が入っていないことに抗議するマギルゥ、船の連中の中に入っていると願う

 

「壊賊病という“死神の呪い”も解けましたね。昆虫業魔には驚きましたけど、“呪い”なんて、やはり大げさな気もします」

 

皆が集まる中エレノアがアイゼンの呪いについて感想を述べる。それを聞いたアイゼンは小さくため息をついて顔を横に向ける

 

「・・・俺と旅をして、三年以上生き延びている奴は数えるほどしかいない。油断すると五十人目の犠牲者になるぞ」

「五十人!?」

「呪いで死んだ仲間の数だ」

「えっ・・・あ、あの私・・・」

 

それを聞いたエレノアは気まずくなり何か言葉をかけようとする

 

「気も抜くなということだ」

「・・・はい」

 

アイゼンの言葉にエレノアはそれしか返せなかった。ベルベットはそれを確認し皆に声をかける

 

「目的の花は取れた。船に戻るわよ」

 

それを聞いた一同は樹林の出口に向かって進み始める。皆が歩く中ライフィセットは先ほどの虫をまじまじと観察する

 

「この虫・・・名前、なんていうんだろ・・・?」

「案外のんきね・・・」

 

ライフィセットの横で小さくため息をついたベルベットであった

 

 

第21話 終わり

 

 

 

 

 

 

 




できるだけ早く投稿できるように頑張ります

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