~
アルトリウスが剣を横に振りかぶると彼を纏っている気が一気に噴出する。離れていてもその圧が凄まじいものだとわかる
「これが導師の剣気か!」
「こりゃ死ぬかもの~」
ロクロウが驚愕しマギルゥが怖気づく
「だが聖隷はいない!」
「策戦通りにいくわよ!」
「う、うん!」
アイゼンがもう一つの目的である聖隷がいないことでアルトリウスに狙いが絞れる、戦力を一方に集中でき勝機が上がる。それを理由に皆を鼓舞する。一足先にロクロウが己の獲物を構えアルトリウスに接近する
「先手必勝!!衝皇震!」
真正面から左へ踏み込み文字どうり大地ごと切り裂く斬撃がアルトリウスを襲うが当の本人は表情一つ変えることなく瞬時に後ろに下がる。初手が躱されてもロクロウは尚も喰らいつく。
「うおおっ!風迅剣!!」
小太刀を構え直しアルトリウスの心臓目がけ渾身の突きを放つ、が
「ふっ!」
「なっ!?」
アルトリウスが己の長剣を小太刀の真下から切り上げるように払いロクロウの胴ががら空きになってしまい、そこにアルトリウスの鋭い蹴りが刺さる
「ぐわぁっ!」
ロクロウが蹴りで大きく吹き飛ばされる後ろにベルベットとアイゼンがロクロウと入れ替わる形で攻勢に出る。ベルベットが飛び上がり脳天をたたき割ろうと踵落としの体勢に入る。
「はあぁぁ!!崩牙襲!」
アルトリウスの頭部に向けられた踵落としが当たる瞬間、眉ひとつ動かすことなく横に体一つ分移動する。その横でベルベットの脚が目標を見失い唯々地面を削った所でアルトリウスがベルベットに長刀の柄頭でベルベットの脇腹を穿つ
「ぐふっ!」
ベルベットが脇腹の鈍い痛みに足をもつれる中その首を刎ねんと刃を振り上げる。それを阻止すべくアイゼンは拳を握りアルトリウスに殴りかかる
「オラッ!!ハッ!」
ジャブとフックの素早い攻撃でベルベットから引き離すが如く連撃を続けるがそれも躱されるか掠る程度で決定打が与えられない。アイゼンが横目でライフィセットとマギルゥに指示を飛ばす
「ライフィセット!マギルゥ!今だ!!」
「重圧砕け!ジルクラッカー!」
ライフィセットの聖隷術が発動すると同時にアイゼンが後ろに飛び退き重力場がアルトリウスを捕える
「ぬっ・・・」
「これでもくらえじゃ!アクアスプリット!!」
マギルゥの水弾が動きの鈍っているアルトリウスに向かって直進する
「無駄だ・・・!」
「そんな!?」
「な、なんじゃと~!!」
アルトリウスは長刀を振りかぶり思い切り振るとその剣気がライフィセットとマギルゥの術を纏めて吹き飛ばす。その隙にアイゼンと吹き飛ばされたロクロウが合流し二人同時でアルトリウスに迫る
「強いと確信していたが全く底が見えんぞ!」
「ここまで手も足もでんとは・・・!」
二人は走り出し二手に分かれ左右から攻撃を仕掛けるアイゼンが先に聖隷術を展開するロクロウが攻撃できる隙を作るためだ
「っ!破砕しろ!ストーンエッジ!」
アルトリウスの足元から石の槍が飛び出し彼を貫こうとするが表情一つ変えずに後ろに下がる、そこにロクロウが空中に印を切り水流を発生させる
「ぬおおっ!!参の型・水槌!!」
圧縮された水流の刃がアルトリウスを切り裂かんとするもそれを瞬時に見切り跳躍しアイゼンが作り出した石の槍の後ろに回り込む、水流の刃が石を切り裂く。石の陰からアルトリウスが飛び出しロクロウの胸部に回し蹴りを放つ
「がはっ!!」
ロクロウが蹴り飛ばされる横からアイゼンが拳を振り上げアルトリウスに向かって走る
「ハァァッ!!冬木立(クラスター)!!!」
スウェイからの冷気を纏ったフックが顔面に向かって放たれるもののそれですら僅かに顔を逸らされ躱され膝蹴りを腹部に叩き込まれ体を折り曲げた所で背中を柄頭で殴打され両膝を着いて崩れ落ちる
「ガフゥ!・・・」
アイゼンにアルトリウスが一瞥すると次はライフィセットとマギルゥに冷たい視線を移す驚く二人にケンが前に立つ
「・・・お前が報告に聞いた男だな・・・」
「・・・」
アルトリウスの言葉にケンは表情を変えることなくお互い目を見据える
「実際に見てわかった。お前は危険だ、生かしておけば後々面倒なことになる・・・その前に――」
「お前の相手はあたしだーー!!!」
アルトリウスの背後からベルベットが刺突刃から炎を纏わせながら走り込む。それにアルトリウスは迎え撃つべく体の向きを変える
「紅火刃!!!」
炎の刃がアルトリウスの首に迫るが表情を変えずに長刀で受け止め弾き返す。ベルベットが体勢を崩す中長刀を構え直し今度はアルトリウスが初めて攻勢に出る
「ベルベット・・・まずはお前から仕留めさせてもらう」
「しまった・・・っ!!」
アルトリウスが地面をすべるように滑走しベルベットに一太刀を入れる
「一太刀とは言わん!」
次に分身したかのように多方向からベルベットに斬撃を浴びせる
「全身に死の慟哭を刻め!」
最後の斬撃の後にベルベットに背を向けたまま地面に剣を突き立てるとベルベットを霊力の爆発であろう光が彼女を吹き飛ばす
「漸毅、狼影陣!」
「ああぁぁ!!!」
ベルベットが悲鳴を上げながら後方へ大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「ぐうううっ!!」
アイゼンとロクロウは何とかライフィセットとマギルゥに合流する
「くっこれは不味いぜ・・・」
「ライフィセット・・・マギルゥ・・・頼めるか」
「うん・・・!快癒瞬け!ファーストエイド!」
「もうどうにでもなれじゃ!ハートレスサークル!」
二人の回復の聖隷術で二人のダメージが回復するも状況は圧倒的に不利、ケンは後衛である二人を守るため動けない。アルトリウスは改めてケンに己の長刀の刃先を向ける。ケンは意を決しライフィセットに声をかける
「僕があの人を引き付ける、その間にベルベットさんをお願い」
「!?一人じゃ無茶だよ!!死んじゃうよ!」
「時間稼ぎにはなるよ。その間に体制を立て直してほしい!早く!」
ケンがそれを最後にアルトリウスに向かって走り出す。ライフィセットも決意を固めベルベットに駆け寄る
「お願・・・い・・・」
ライフィセットがベルベットに回復の術をかけてベルベットが立ち上がる
「まだだッ!」
ベルベットが刺突刃と出しケンとアルトリウスが戦う中走り出す。ケンはそれに気付き刃を躱しベルベットが攻撃するチャンスを作り出す
「はあっ!」
刺突刃を振り下げ斬り裂こうするが半身で避けられるが地面に着地すると同時に飛び回し蹴りを放つ、がこれも後ろに下がられ刺突刃を横薙ぎに振るい喉笛をかっ切ろうとしても半歩後退し躱される。次に間合いを詰めての斬り上げをするが全て分かっているかの様に半身を下げて避けてしまう。斬り上げの跳躍で距離が出来そこから走り出し刺突刃の切っ先をアルトリウスの顔面目掛けて突く。が、アルトリウスは首を逸らし刃を躱すとお返しに長刀をがら空きのベルベットの腹部を貫く
「かは・・・」
「いけない・・・!」
ケンがベルベットを助けようと近づこうとするがベルベットの真後ろにいる為、迂闊に手を出せない
「もう一回よ!ライフィセット!」
アルトリウスがそれに気付きライフィセットの方を見る。ケンの陰に隠れていて見えなかったがライフィセットが聖隷術を発動させながら走り寄りベルベットを回復する
「ううっ!!」
ベルベットのダメージが回復した所でベルベットが呟く
「戦訓その四!はあああっ!」
ベルベットの腹部に長刀が刺し貫いたまま刺突刃を振りかざす
「ぬっ・・・」
アルトリウスは瞬時に察して長刀を引き抜き距離を取る。刺突刃の斬撃は空振りに終わりベルベットが倒れこむ。ライフィセットがすかさず駆け寄り出血する傷口に回復の聖隷術をかける。そこでアルトリウスが口を開く
「ふっ・・・『勝利を確信しても油断するな』か」
ライフィセットの術を受けながら苦悶の表情で息を切らしながらも仇を睨むベルベットにそれを後ろから見るケンとアイゼン達にアルトリウスは宣告する
「お前を取りこぼすわけにはいかない。戦訓通り、全力で相対そう」
アルトリウスが長刀を真上に翳す
「“聖主カノヌシ”と共に」
その瞬間彼の後ろにある紋章が眩い光を放ち始める。その時今までの死闘で僅かに与えた傷が一瞬で治る
「一瞬で回復しやがった!」
「この力・・・まさか本物!?」
「そりゃ反則じゃろ〜!」
ロクロウが驚き、アイゼンは聖隷の力が本物であると悟り、マギルゥは文句を垂れる。だがライフィセットは皆と少し違う
「こ、この感じ・・・は・・・!?」
「これは・・・こいつは、あの夜の!」
ベルベットはこの光景を見たことがあるのだろう目を見開き、それを凝視する。アルトリウスの背後から光を纏った波動が噴出しアイゼンとロクロウとマギルゥが吹き飛ばされる
「おわあ!」
「ぬおおっ!」
「ひょええ〜」
ベルベットはライフィセットを庇いながら抵抗するが耐えきれずに二人とも吹き飛ばされる
「きゃああ!!」
「うわぁ!!」
「皆さん!」
ケンは光の波動を物ともせずに耐えたがベルベット達を見て声を上げる。波動の力は余りにも強く、皆満身創痍だ
「・・・うう・・・まだよ・・・回復を・・・」
ベルベットの指示でライフィセットは手をかざし聖隷術をかけるがライフィセットが抗議する
「もう無理だよ・・・!逃げないと!」
皆が重い体に鞭を打ち蹌踉めきながら立ち上がるがその横から聞き覚えのある声が響いてきた
「今度は逃がしませんよ」
建物の入り口に目をやるとそこにはエレノアにテレサにオスカー、そして一人の老人が立っていた。これではケンはアルトリウスと対魔士に挟まれる形になる、マギルゥはその老人を睨みつけるが本人は意に返さない。オスカーは一歩前に出聖寮式の敬礼をし謝罪する
「申し訳ありません、アルトリウス様。シグレ様が警護していると思い、油断しました」
「!!」
シグレという言葉にロクロウが反応する
「シグレなら修行に出た。そもそも、私を一番斬りたがっているのはあいつだ」
「変わらないな」
そこに老人が口を開く
「まったく。アイフリードの時といい、勝手なやつだ」
「やはりこのジジイが・・・!」
アイゼンが老人に目寝付ける
「違う・・・誰よりあんたを斬りたいのは・・・」
ベルベットが蹌踉めきながらも立ち上がり尚も導師に牙を向ける
「あたしだッッ!!」
アルトリウスの前にテレサが割って入りベルベットに立ちはだかる
「アルトリウス様。この業魔の始末はお任せください」
「そうはせない!」
ケンがベルベットを援護する為動こうとした瞬間横からオスカーが剣を振りかざし行く手を阻む。
「あの時は不覚を取った・・・だが、今度はそうはいかない!」
「く・・・」
「・・・テレサ、その業魔は任せる」
「は!!」
アルトリウスが長刀を構えケンに向き直る、老人が遠目から両方を見て顎髭をさすりながら様子を伺う。テレサが手を翳し自身の前に聖隷の一号を出す
「ハアアアッッ!!」
ベルベットが刺突刃を構えテレサ向かって突っ込み刃を突き立てる
「どけぇーーー!!」
テレサが杖を回転させ一号と同時に聖隷術を発動させる
「思い知れ!忌まわしい業魔が!」
無数の氷の針がベルベットを襲い吹き飛ばす。ダメージが残る体ではそれをいなす力も残っていなかった。ライフィセットが駆け寄り聖隷術でベルベットを回復しようとする
「まだ・・・だ・・・」
うわ言のように呟く様にライフィセットが疑問をぶつける
「なんで・・・?すごく痛いでしょ?苦しいでしょ?なのに、なんでベルベットは戦うの?」
その問いが聞こえたのか。それともうわ言かベルベットは途切れ途切れに話し始める
「あの子は・・・ライフィセットは、もっと痛かった・・・なのにあたしは・・・なにもできなくて・・・」
ライフィセットがベルベットの後悔に涙を浮かべる。ベルベットが手を伸ばしライフィセットはそれを取る
「ごめん・・・ごめんね・・・」
「ベルベット・・・」
ベルベットの懺悔にライフィセットは唯彼女の名を呼ぶことしか出来ない。それを聞いたエレノアが気まずそうに顔を下げる。だがそこにライフィセットにテレサが杖を突きつける
「業魔と馴れあうとは。二号、お前は罰を与えましょう。その業魔を殺して、お前も命を断ちなさい」
ライフィセットが俯きながらも顔を横に振り明確な拒否を伝える
「・・・いやだ」
「契約を忘れたか!これは、お前の主の命令です!」
テレサが手をかざすとライフィセットが苦しみだす
「ああああっ!!」
ライフィセットはそれでも尚拒み続ける
「命令なんて・・・いやだ!僕は!僕は・・・っ!」
その時カノヌシの紋章が再び輝き始める。アルトリウスがケンとの戦闘に一旦距離を置きその異変に気付く
「この力は・・・!」
「ベルベットが死ぬなんていやだっ!!」
ライフィセットの叫びと同時に波動が噴出しテレサは一号共々吹き飛ばされる
「ああああっ!!」
ケンと相対していたオスカーがテレサが吹き飛ばされ事に驚愕する
「姉上!」
「ライフィセットのあの力は・・・」
それと同時に空間からオレンジ色の球体に真っ黒な裂け目、まるでドラゴンの眼の様な形のものが現れた。アイゼンがそれがなんなのかわかっているのかすかさずベルベットを抱え上げる
「あれに飛び込め!ロクロウ!」
「おう!ケン!お前も急げ!」
「儂を忘れるな〜!」
ロクロウが気絶したライフィセットを小脇に抱え裂け目に向かって走り出す。マギルゥが後を追う様に裂け目に飛び込む。それを見ていたエレノアがそれを止めるべく自らも裂け目に向かって走り出す
「逃がしはしません!」
そこまで言ったのはいいが裂け目が一瞬大きくなりエレノアが吸い込まれる様に体が浮き上がる
「ああああっ!?」
なんとも情けない体勢で吸い込まれたエレノア、ケンも続こうとしたが横から長刀が伸び、それを掴んで止める
「・・・」
「言ったはずだ、ここでお前を仕留めるとな」
そうこうしているうちに裂け目が閉じ始めるが老人は紫色の球体を飛ばし裂け目の中に送り込んだところで完全に閉じる。オスカーがテレサに駆け寄りながら老人がぼやく
「カノヌシの力と地脈の反応とはな。珍しいものを見た」
ケンと距離を置いたアルトリウスが呟く
「そういうことか・・・」
アルトリウスは走り始めた
「しかし、聖隷に弟の名をつけるとは。お前はどこまでも--」
〜
「起きなさい、ベルベット」
いつか見た白と赤の空間に今度はベッドと一つの椅子、なにも映さない窓。そのベッドに蹲るベルベットの横で彼女の姉セリカがいた
「やぁ・・・もう少し寝かせて、お姉ちゃん・・・」
低血圧なのか、それとも唯寝たいだけなのか、駄々をこねるベルベット
「しょうのない子ね。私のお願いはどうなるの?」
「お願い・・・?」
ベルベットが眠そうに聞き返す
「ええ。あの人を頼むわね・・・って」
セリカの後ろ姿がシアリーズに変わる。
「!!」
ベルベットがその言葉を思い出し後ろを振り向いた時、意識が途絶えた。
「う・・・」
次に気がついた時、そこは外でも洞窟でも海の上でもなくなんとも形容し難い空間だった
「ここ・・・は?あたしは奴らに--」
そこまでいうとベルベットは自分の容態に異変がある事に気づく
「傷が治ってる!!」
ベルベットが驚いていると自分の背後に何かがあることに気づき振り向く、そこいたのはライフィセットだが彼の周りに黒い何かがハエの様に彼の身体にたかっている。ベルベットはすぐ様近づき黒いものを払いライフィセットを抱き起し、彼の額に手を当てる
「ひどい熱」
「うう・・・」
ライフィセットは熱と苦痛に魘されながらも自身の手をベルベットの手に当てる
「死なな・・・で・・・ベルベット・・・」
うわ言でもベルベットを守ろうとする意志に彼女はライフィセットを抱き寄せる
「あんたが助けてくれたんだね。今度は、あたしが!」
ベルベットは顔を上げ、ライフィセットを抱える
「とにかくここから出なきゃ!」
ここが何処か分からない以上動くのは危険だが何もしなければライフィセットが危ない。賭けになるが移動するしかない
「はぁ・・・はぁ・・・」
「頑張って、ライフィセット 」
移動して出口を探すがそれらしきものは見当たらない。その間にもライフィセットの容態は悪化するばかりだ。ベルベットも必死で走り回るが時間が無情にも過ぎるばかりだった
「うう・・・う・・・」
「くっ・・・どっちだ?」
しらみつぶしに行けるところを全て探したがそれでも見つからない。ベルベットもかなり焦っている
「出口は・・・ここはなんなのよ!?」
「地脈だ」
突然後ろから声がした。ベルベットが振り返るとそこにはアイゼンが立っていた
「無事だったのね」
「そうともいえん。“地脈”に閉じ込めれられたようだ」
ベルベットが一旦ライフィセットを下ろす
「もっとも。あの場に残っていたら今頃生きていなかっただろうがな」
「地脈・・・この空間のことね」
「ああ、自然の生命力が流れる河のようなものだ。世界中に存在するが、普通は見ることも触れることもできない空間だ」
「そんな場所に、なんで・・・?」
「カノヌシとライフィセットの力がぶつかって地脈が開いたのは間違いない。つまり、そいつの力があれば元の空間に戻れる可能性があるが・・・」
「うう・・・」
アイゼンがライフィセットの状態を見て結論を出す
「この状態では無理か。もうすぐ業魔化するぞ」
「バカなこと言わないで!」
ベルベットがその宣告に驚愕し反論する。彼女の脳裏に監獄島での聖隷の成れの果てが浮かぶ
「力を使いすぎたせいなの?」
アイゼンが組んでいた腕を解き、一つの解決案を出す
「・・・まだ止める方法はある。清浄なモノを“器”とし、それに宿れば聖隷は業魔化を防ぐことができる」
「あんたも?」
アイゼンが懐からコインを取り出し指で弾く
「
アイゼンが金貨を見せる。相変わらず裏、というかそれを頻繁に指で弾いてて大丈夫なのだろうか
「じゃあ、他になにか--!」
「対魔士なら可能です」
ベルベットの背後から声が聞こえ彼女が振り向くとそこには槍を携えたエレノアが立っていた
「我ら対魔士は、自らの心身を“器”として聖隷を宿らせ、使役しています。私が、その聖隷の“器”となりましょう」
「・・・なるほど」
ベルベットが刺突刃を出し構える
「つまり、あんたを動けなくして器にすればいいわけね」
達磨にする気なのだろうか。エレノアは槍の刃を自分の首元に当てる
「近づけば死にます!そうなれば、その聖隷は業魔になり、あなたたちはここから出る術を失いますよ」
「・・・えげつない駆け引きするわね」
「『敵を知り、その弱きを攻めろ』戦いの基本です」
「ふん、アルトリウスの弟子らしい卑劣さね」
エレノアが槍の石突を地面に刺し反論する
「違います!私は対魔士の力を取り戻した上で」
槍の刃先をベルベットに向ける
「業魔ベルベット!あなたに決闘を申し込みます!私が負けたら、なんでも言う通りにしましょう!死でも器でも、好きに命じなさい」
ん?
「ほう・・・」
エレノアの覚悟にアイゼンが感心する
「ベルベット・・・死なない・・・で・・・」
ライフィセットは意識が朦朧としながらもベルベットの名を呼び続ける。ベルベットは観念したのか刺突刃をしまう
「わかった」
ベルベットが了承しエレノアがうなづきライフィセットの側まで近づきしゃがみベルベットに質問する
「この聖隷の名は?本来は、主がつけるものですが、今はまだ、私の“もの”ではありませんから」
ものというフレーズにベルベットの表情が変わる、その表情は色々な感情がこもっている
「“もの”じゃない。ライフィセットよ」
「ライフィセット・・・それなら・・・」
エレノアがライフィセットの手を両手で取り契約の儀式を始める
「原始の泉に生まれし者よ。今、盟約の契りを交わし、我が赫奕たる真意、清浄なる世を生む一助とならん」
エレノアが包むライフィセットの手の内から光が漏れ、彼女の頭上にマギルゥのと似た陣が現れる
「覚えよ、汝に与える“真名”を--」
陣が降り、ライフィセットは光となりエレノアの中に入る、その瞬間彼女から光が溢れ出し苦悶の表情に変わる
「くっ・・・なんて力・・・!」
その光は大きく膨れ上がり、驚くベルベットとアイゼン諸共辺り一面を包んだ
〜
「いきなりこんな場所に!?なにがどうなってるんだ?」
遺跡の様な場所に状況を呑み込めないロクロウと腕を組んだマギルゥがいた、辺りは長い年月が経っているのだろう石の床の隙間には草が生えている
「あの坊、まさか地脈を開くとは・・・」
「マギルゥ?」
「ふん、ベルベットの復讐見物もこれまでじゃな。つまらんオチじゃったわ。ま、どーでもいいがの」
「まだ死んだとは限らん」
マギルゥの決め付けに反対するロクロウ
「生きておっても終いじゃよ。あれだけの力量差を見せられて折れんはずがない」
マギルゥは何か思いついた様に顔をにやけさせ、頭の後ろで手を組む
「10ガルド賭けてもいいぞ?」
ロクロウはその賭けに迷うことなく承諾する
「・・・その賭け、のった」
その直後二人の目の前に小さな光が現れる。その光は大きくなり始め辺りを白に染める。いきなりの事でオロオロするロクロウと平然としているマギルゥをも包みこむ
「みゅわわっ!?」
流石のマギルゥの驚くのも無理はない、なんせいきなり目の前にベルベットが現れたのだから。その横にアイゼンが腕組みをして立っている。暫く沈黙するがベルベットが周りに見渡す
「ライフィセット!?あの女対魔士は・・・?」
ベルベットが動くごとに足元がぎゅうぎゅうとなる、ベルベットが不審がり足元を見るとロクロウが踏んづけられている。辺りが静まり返る。ベルベットが退くとロクロウが立ち上がり文句の一つでも言うと思ったが
「なにがあった?」
予想と全く違った
〜
その後、ベルベットは地脈での出来事をロクロウとマギルゥに話した
「・・・そうか、例の女対魔士がライフィセットの器にな。で、そいつはどこに行ったんだ?」
「ロクロウたちがここにいたということは、あいつも近くに出ているはずだ」
「なんとしても捜し出す」
「もう、そんなにムキにならんでもよかろー?」
マギルゥが宥めようとするがベルベットは己の胸の前に拳をやる
「助けるって決めたのよ。それに・・・」
ベルベットはなんとも悪そうな笑みを浮かべ
「あの子の力は戦力になる」
マギルゥの呆れた表情とロクロウは少し楽しそうな顔をしながらもマギルゥに先程の約束を言う
「・・・さっきの賭け、忘れるなよ」
マギルゥがその宣告に頭をがっくりと下げる
「へなぷしゅ〜・・・儂の10ガルドが・・・」
今更言うのもあれだがその賭けは負け前提で賭けたのだろうが。エレノアを探す為に遺跡を探索しようとした時、ロクロウがもう一つ思い出す
「そういえば、ケンもいないな。あいつもまた違う場所に出たのか?」
「おそらくそうだろう。道中で合流出来るといいんだが」
答えるアイゼンの横でマギルゥがジト目でだるそうな顔をする
「対魔士に続いてケンも捜がさんといかんのか〜めんどーじゃの。その内見つかってくれるとありがたいんじゃが・・・」
「グダグダ言ってないでさっさと行くわよ」
ベルベットがマギルゥを急かすがジト目そのままで一つの可能性を言い出す
「もしかしたらあやつ、聖主の御座に取り残されたのかもしれんぞ〜。儂らと離れとった上に、対魔士達に一番近かったのもケンじゃった」
アイゼンが顎に手をやりあの時の事を思い出す
「・・・可能性が無いわけじゃない。あの地点で地脈に飛び込もうものなら対魔士の妨害を掻い潜る必要がある。並の対魔士ならまだしも彼処にいたのは特等と一等のトップクラスだからな、いくらあいつでも今回ばかりはマズイだろう」
「俺は生き残る方にかけるぜ。あいつのしぶとさはよく知ってるからな」
マギルゥがロクロウの言い分に良からぬ顔を見せる
「なんならまた10ガルドかけても良いぞ♪」
「おう!俺が負けたらさっきの10ガルドはなしだ。だが、勝ったら20ガルドな」
「うぐ・・・!」
先程のことで盛り上がる二人にベルベットがさえぎる
「話はそこまで、ほら、行くわよ」
四人はエレノアを捜す為遺跡を進み始める
〜
同時刻、聖主の御座では取り残されたケンがアルトリウスと戦っていた。だがそこにオスカーとテレサが加わり状況は最悪だった
「ぬあ・・・!」
ケンがアルトリウスの攻撃を受け、大きく後ずさる。既に傷だらけだ。そこにオスカーが剣を振りかぶり斬りかかる
「はぁっ!!」
「くっ・・・!」
上段からの斬撃を横に動くことで躱し次の横薙ぎの攻撃を後ろに下がる事で避ける。オスカーが次の攻撃に移る瞬間を見計らい、突き飛ばそうとしたが横からアルトリウスが近づきケンの脇腹を長刀で切り付ける
「っ・・・うっ!」
動きを妨害されて脇腹を押さえ半歩下がってしまう。そこにオスカーか後ろに回り込みケンの背中を下から上へと切り裂く。ダメージで僅かに体勢を崩すが二撃目が来る寸前に前方に転がりすかさず距離を取る
「しぶとい男だ。直ぐに投降すれば苦しまずに死ねたものを」
アルトリウスの後ろから老人が髭をさする
「・・・」
「・・・まぁよい、抵抗しようがしまいが死ぬのは変わらん」
アルトリウスの前に守るようにオスカーとテレサがケンに立ち塞がる
「お前達は聖寮に逆らった。その罪、今ここで罰してやろう」
「オスカーを傷つけたこと。後悔させましょう」
二人がそれぞれの武器を構える中、アルトリウスが口を開く
「殺す前に一つ聞こう、お前はなぜベルベットと共にいる。人間であるお前が何故業魔の味方をする」
肩で息をしながらルナモードの構えを解かないケンは答えない
「答える気はないか・・・」
アルトリウスが長刀を構え直し跳躍、オスカーとテレサを飛び越え凄まじい速さケンに接近する
(何とか・・・ここから脱出しなければ・・・!)
長刀の横薙ぎをふらついた脚で躱すものの次の斬撃を完全にいなす力は残っておらず弾いて受け流すのが精一杯。その隙にオスカーがケンの横から仕掛ける
「アルトリウス様!援護します!」
オスカーの獲物が先程アルトリウスに斬られた脇腹を剣で突き刺す
「っがほっ!」
激痛に気を取られた瞬間アルトリウスがケンの太ももを切り裂く。脚が意思に反して両膝を着く
(!?・・・腱をやられた・・・!!)
アルトリウスの後ろでテレサが一号と共に聖隷術を詠唱するのが見えた。オスカーとアルトリウスが横に飛び退く、脚が動かないケンはどうする事も出来ない
「これで終わりです!業魔に味方した罪、後悔するがいい!!」
聖隷術の陣から氷で出来た針が大量に射出される。ケンは両手を前に出しコスモシュートレスを放つ。光線に曝された針は静止するが体力が低下している今では全てを止めることができず、何本かがケンの身体に刺さる
「ぐあっ・・・くっ・・・!」
身を屈め氷を引き抜くがその眼前に長刀の刃先が突きつけられる。ケンが顔を見上げた時、アルトリウスが一度戻し勢いをつけケンの眉間目掛けて刃を突き立てようとする
「ハアッ!」
「ぬおおぉ!!」
ケンは白刃どりで防ごうとするが己の血で手が滑り刃を止めることが出来ない。すかさず顔を右に逸らすが遅かった
「ぐあっ!!」
長刀の刃先がケンの左眼に突き刺さった。
「ぬぅ・・・くっお・・・」
長刀に力を込め引き抜くも既に左眼の視界はなかった
「これだけやっても死なんか、本当にしぶとい男だ・・・ん?」
アルトリウスは今度こそ斬り捨てようと左腕を動かすが彼の握っている長刀は一寸たりとも動かない
「・・・ここまでやられたからには・・・せめて、一矢報わせてもらいます!!」
ケンが素早く立ち上がり右手で長刀を掴んだまま左手を赤く発光させる
「イヤァ!!」
「何・・・!」
ハンドスライサーで長刀の中程を叩き折り、右手で掴んでいた刃を投げ捨て拳を構える
「おおぉっ!!」
「グハ!!」
今出来る精一杯の打拳をアルトリウスの腹に叩き込み数歩後退させる
「ほう・・・」
「アルトリウス様!」
オスカーとテレサがアルトリウスに駆け寄る、老人は僅かに驚く。ケンは限界を迎え大きく後ずさり仰向けに倒れこむ
(駄目だ・・・身体が動かない、ベルベットさん達と・・・合流しないと・・・いけ・・・ない・・・の・・・に・・・)
ケンの意識が途絶えそうになるなかそれを見ていた者達がいた。その世界じゃない所で
彼の言っていたとうり、この男も面白い
突如ケンの周りに電気が走り始めやがて大きくなる
「これは一体!?」
「聖隷の力ではないな・・・」
テレサが驚愕しアルトリウスは冷静に分析する。電気はやがて一際大きな稲妻になり辺りを照らす、それが過ぎた時ケンの姿はなかった
「消えた!?一体何処に」
オスカーが辺りを見回すなか老人が近づいてくる
「あれは地脈ではないな・・・もっと別の何かだったが・・・」
老人はケンのいた場所を見つめていた
第18話 終わり
構成考えるの大変です