テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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仕事が忙しく遅れてしまいました。申し訳ありません


第13話

 

バンエルティア号がゼクソン港に入港する。この港は毎日100隻の船が物流、渡航、旅行者などでごった返すミッドガンド領最大の港である。今は聖寮の管理下に置かれており船乗りにとってはやりにくい状態

 

 

ベルベット達が船から降り、船着き場に降りる

 

 

「いやぁ、新鮮だな!まともに船に着けた」

 

ロクロウは腕を組みながら言う。確かにアイゼン達に会うまで港に着いたことがなかったのは事実である

 

「坊や、よかったのー。サメのエサにならずにすんで」

「うん、よかった」

 

マギルゥはいつものにやけ顔でライフィセットに話しかける。ライフィセットも返す。その横でアイゼンがベルベット達の横を通る

 

「いいの?海賊船がこんな堂々と」

 

ベルベットの発言に応えぬままアイゼンはこちらに歩いてきた一人の男に近づく

 

「北の海はいかがでしたか、アイゼン副長?」

「ヘラヴィーサは一時的に機能停止、"海門要塞(みはらしだい)"が沈んだ。当分、ノースガンド領の流通は大混乱するはずだ」

「それは耳よりな。早速手を打たせていただきます」

「船長の手がかりはあったと?」

「はい。大分前の噂ですが、アイフリード船長はタイタニア島に送られたとか」

 

男の言葉にベルベットの目つきが変わり腕を組む

 

「対魔士が管理する監獄島だな。わかった、行ってみよう」

「いつも通り、我が社の商船として停泊届を出しておきましたが、お気をつけて」

 

アイゼンが頷く

 

「ローグレスで盛大な式典があるせいで、ここも一目が多くなっておりますので」

 

そこまで聞いてロクロウがなにかわかったのか顎に手を当てる

 

「なるほど。情報が"船止め(ボラード)"の見返りってわけだな」

「情報が・・・見返り?」

 

ライフィセットが聞き返す

 

「最新情報をいち早く教えてやれば、商人は儲ける機会を得られるでしょ」

「だから、海賊でもかばってくれる」

 

情報を制する者が得をする。どの時代もどこの世界も変わらないということだ。海賊、自由であるからこそ情報の入手が早いのだろう

 

「アイゼンたちは、あちこちの港にこういうコネをもってるんだろうな」

「聖寮の規律でも、人の"欲"までは縛りきれんということじゃ」

「・・・そうなんだ」

 

アイゼンが戻ってくる

 

「監獄島に行っても無駄よ。アイフリードはそこにはいない」

「なぜそれを?」

「あたしは監獄島から脱走してきたの。監獄の囚人が言ってた『この島から生きて出たのはアイフリードだけ。メルキオルというジジイの対魔士が連れ出した』って」

 

ライフィセットが補足する

 

「メルキオル様は、特等第魔士で聖寮の長老。いつもは本部にいるはずだよ」

「"様"はいらない」

 

ベルベットが語気を強めライフィセットに言う

 

「・・・海賊バン・アイフリードは、俺たちの船長だ。あいつの失踪には、聖寮の上層部が絡んでいるようだな」

「その本部は王都にあるのかの?」

 

マギルゥが口をはさむ

 

「うん、王都ローグレス離宮に。行ったことないけど」

「ベルベットと目的も"そこ"にいる男だろう?」

「目的は同じというわけだな」

「謝らないわよ。巻き込んでも」

「それは死神(こっち)のセリフだ」

 

あくまで利害が一致しているだけであるため、意外とさっぱりしている。いい意味で

 

 

この後異海についてと探査船についての話を聞いた、これについては別話で

 

 

ロクロウが思い出したかのようにマギルゥの聞く

 

「お前、なんでまた戻って来たんだ」

「主らが寂しがると思ってのー」

 

マギルゥは意気揚々と答える

 

「ぜんぜん寂しくないけど」

 

ベルべットが面倒そうに話す。実際疲れるのだろう

 

「裏切者を捜すとか言ってたのはどうなった?」

「取り逃がした・・・手がかりもない」

「魔女なんだから、魔法で探せばいいでしょ?」

「あいにくと儂の魔法は二人三脚方式でのぉ、裏切り者のあやつがおらねば発動せぬのじゃ」

「共犯者ありきのペテン魔法というわけだな」

 

ロクロウからペテン師扱いされるマギルゥ

 

「ちがわい!!」

 

そこだけは即座に否定するマギルゥ。現状ではそう思われるのも仕方ないが

 

「その裏切り者とやらを捜す手伝いはしないわよ」

「バナナで釘が打てるほどの冷たさじゃのー」

 

ベルベットの発言にがっくりと肩を落とすマギルゥ。ふとロクロウが問い詰める

 

「そいつの他に仲間はいないのか?」

「はて・・・おらぬのー」

「帰りたい故郷はないのか?」

「ないのぉ・・・」

「魔法の他に、やりたいことはないのか?」

「ないのぉ・・・」

 

あっけらかんとするマギルゥ

 

「あ・・・」

「どうした、ライフィセット」

 

それを見ていたライフィセットが何かに気づいたのだろう。アイゼンが声をかける

 

「うん・・・マギルゥの話聞いてたらなんか胸がもぞもぞして・・・鼻がつんとした・・・」

 

友も居場所ま目的もない空っぽの人生を送る魔女を、お前は憐れだと感じたんだ

 

「憐れ・・・?」

「相手をかわいそうと思う気持ちのことだ」

 

皆マギルゥに対して辛辣、ひどい

 

「・・・マギルゥは憐れ・・・」

「そういう目で儂を見るでない〜〜!!」

 

かわいそうなマギルゥであった。一連の出来事を聞いていたケンは内心複雑な気持ちだった

 

(・・・過去のない僕は、一体なんなんだろう。)

 

 

ローグレスへ向かうためダーナ街道へ出る

 

「ではでは!改めてローグレスへ!」

 

いつもの調子に戻っているマギルゥ

 

「・・・あんたも来るの?」

 

ベルベットがぽつりと言う

 

 

街道を進み橋に差し掛かる時、その先に大きな壁が見えた

 

「わぁ・・・あの壁・・・すごく大きい・・・」

「この国の王都ローグレスだ。巨大な壁で街を囲み、業魔の侵入を防いでいる」

 

ライフィセットの感想にアイゼンが説明する

 

「聖隷をこき使うことによって、人は身の丈以上の文明を手に入れたのじゃよ」

「始めてじゃないだろ、ライフィセット?」

 

ロクロウがライフィセットに聞く

 

「前にも来たことあるけど、その時は、僕は今みたいじゃなかったから・・・」

「そうか。対魔士に使役されてる聖隷は、景色を見ることもままならないんだな」

「次にままならなくなるのは、儂らじゃがのー」

「・・・?」

 

マギルゥの発言に首を傾げるライフィセット

 

「王家も聖寮もある国の中枢じゃ。王国兵も対魔士もあちこちで見張っておる。儂ら悪党にとっては、居場所のない街じゃ」

 

マギルゥの言葉にベルベットが口を挟む

 

「居場所なんていらない。アルトリウスの居所さえわかれば、それでいい」

 

 

王都の門の前にたどり着く、流石に警備はいるが

 

「検問・・・!」

「全員を調べるものじゃない。自然にかわすぞ」

 

ベルベットの反応にアイゼンが注意し先に歩き出す。それに続いてライフィセット、マギルゥ、ロクロウ、ケンが続く。

 

「顔、硬いぞ」

「わかってるわよ」

 

ロクロウの指摘にベルベットが返す。緊張するのは仕方ないが、皆ある程度間隔を保ちながら警備の前を通り過ぎるがベルベットが通り過ぎた直後警備の一人が彼女に気づき後をつけた。まぁ、あの格好じゃね

 

 

王都ローグレスへ到着する。此処ローグレスは巨大な王城を中心に鮮やかな石造りの街並み、整えられた水道設備の象徴である大きな噴水が人々の憩いの場になっておりインフラも充実している。ちなみに王国の大陸統一記念に大聖堂があり。内部は現在の人類が持てる建築技術の粋を持ってかなり豪華な構造なのだがそれはまだ一部しか完成しておらずその奥側の巨大な神殿は今も尚建設途中、完成には数百年かかる模様。

 

ローグレスに入ったのはいいもののベルベットが呼び止められる

 

「そこの黒コートの女。"手形"を見せてもらおう」

 

ベルベットが戸惑う。アイゼンはコインを弾く、呪いだろうか

 

「ええと・・・」

「どうした?聖寮が旅人に発行する"通行手形"だ」

 

皆が振り返りロクロウは腕を組む、マギルゥは何か思いついたのかにやける。次の瞬間ベルベットの頭をはたく

 

「!?」

「この未熟者!奇術師見習いの基本は、ニッコリ笑顔と教えたじゃろーが!」

 

マギルゥが大道芸な仕草をしながらベルベットを叱咤する

 

「奇術師?」

 

警備兵が奇術師というフレーズを聞き返す。マギルゥがニッコリ笑顔で応対する

 

「いかにも!ご覧の通りクセ者揃いの我が一座。その名も"マギルゥ奇術団"と称しまする〜♪」

 

奇術団と聞いて周りに住民が集まってくる

 

「式典の余興か?」

「タコにもその通り!いやはや、我がバカ弟子が失礼いたしました。ほれ、兵士様の御不審を解くのじゃ。お前の得意芸、ハトを出してみせよ!」

「は!?」

 

突然の無茶振りにただ驚くしかないベルベット。兵士も見ている

 

「すみません、師匠・・・仕込みを忘れました」

 

咄嗟の言い訳、もといできるはずもないわけで

 

「な、な、なんと情けない奴じゃ!芸の道をイカに心得おるか~!」

 

怒る振りをするマギルゥに兵士が止めに入る

 

「待て・・・こんなところでハトを出されても困る」

「いいや、勘弁できませぬ!お詫びにハトのモノマネをせいっ!」

 

ベルべットが後で覚えてろとばかりの表情

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

カメラがあるわけないが・・・一文字ずつズームする。同じ視点なので正確には1カメだけども。ベルベットは屈辱的な表情を浮かべながら右手を嘴の形にして口の前にやる

 

「ポッポ・・・」

 

周りから笑いが起こる。アイゼンもロクロウも笑っている、当の本人は顔を赤らめる無理もない。その直後マギルゥの右手が光りそこから鳩が出現し飛び立つ。紙吹雪も舞う

 

「おおお~~~!?」

斯様(かよう)に泣く子も笑うマギルゥ奇術団!ローグレスの皆さまにご挨拶の一席でございました~♪」

 

マギルゥの決めポーズに周りから歓声と拍手が送られる

 

「こら、こんなところで宣伝をするな!さっさと散れ!」

 

兵士が声を荒げる

 

「かしこまり~♪」

 

こうしてうまく誤魔化せた。門を後にする一行、一人を除いて

 

「待て!お前はこいつらの仲間ではないだろう。手形を見せてもらうぞ」

 

兵士はケンを呼び止める。奇抜な格好でない故に一回りも大きい彼は目立つ。逆に

 

「・・・ええ」

 

アイゼンが目線だけをケンに送る。ケンも目線を合わせる

 

「行くぞ」

 

一行もそれを察し先に移動していく

 

「さ、手形を見せてもらおうか」

「すいません。手形は盗まれてしまいまして」

「そんな事など理由にならん。手形がなければ聖寮に再発行手続きをしてもらう。それまで足止めだ」

 

ケンと兵士はお互い向き合ったまま問答する。何とか誤魔化して追いつきたいケンと仕事である兵士、このままではでは埒が開かない

 

(困ったな・・・)

 

その時後ろから聞き覚えのある声が聞こえた

 

「やぁ、暫く振りだな」

 

ケンが後ろを振り向くとそこには黒いジーパンと着崩したシャツ、黒髪のオールバックの男、ルシフェルがいた

 

「ルシフェルさん」

「ほら、これが必要だろ?」

 

ルシフェルがケンに何かを投げ渡す。ケンがそれを取り見て見ると何かの証明証だ

 

「それは手形、盗まれたんじゃないのか?」

「すまないな兵士さん、私が取り返したんだ。盗人はそれを使ってここに入り込もうとしたんだろうな。でもこれで何も問題ないだろう?」

 

そうか言われ兵士は渋々許可する

 

「むぅ・・・釈然としないが。通れ、問題を起こすんじゃないぞ」

 

そのまま持ち場に戻っていく兵士

 

「すいません、助かりました」

「別にいいさ。私も観光で来たようなものだしな」

「しかし、手形は一体どうやって?」

「そこら辺はちょこっとさ。造作もないさ」

「はあ・・・」

 

ケンは少し訝しむが聞くのも野暮なので流す

 

「急いだ方が良いんじゃないか?待ってるぞ?」

「あ、そうですね。貴方は如何なさるんです?」

「ブラブラするさ。それじゃまた後で」

 

ルシフェルはそのまま裏路地へ消えていった

 

「おっと、急がないと」

 

ケンもベルベット達に追いつくため走り出す

 

 

「ははは!なかなかの手口だったな、マギルゥ」

「あんな子どもダマシはら、今回限りポッポ〜」

 

ロクロウが笑いながらマギルゥを褒める、当のマギルゥはこんなの朝飯前なのだろう、煽りは余計だが

 

「・・・」

 

ベルベットがマギルゥを睨む、言わんこっちゃない

 

「おお、怖い怖いポッポ〜・・・」

 

ロクロウの後ろに隠れ尚も煽るマギルゥ。殺されるぞ

 

「ハト、すごかった」

 

ライフィセットが年相応の感想を述べる。今までそういうものを見たことがなかったのだろう。疑問だがどっちのハトだろうか。ベルベットは少し呆れている、怒る気が失せたのだろう

 

「その子どもダマシで入れた。王都も大したことないわね」

「それだけ守りに自信があるんじゃろうて。ライフィセット、王都の戦力を知っておるか?」

 

マギルゥがライフィセットに聞く。この中ではライフィセットが一番王都に詳しい筈だ

 

「王都に配備された対魔士さ・・・対魔士は千人以上。守備兵士は二個師団」

「・・・流石は王都だな。油断ではなく余裕と見るべきだろう」

 

アイゼンの冷静な分析、聖隷を使役し高い能力を持つ対魔士、一等は人数がかなり少ない、二等がいるのは明らかだ。それでも油断ならない。更には聖隷を使役出来ないが戦闘訓練を積んだ兵士が二個師団。師団一個で一万から二万人前後、ざっと数えて二万から多くて四万。これなら誰も襲うなんて考えないだろう

 

(通行手形がないと厳しいか・・・)

「民衆がニコニコなのも納得じゃの。業魔に怯えまくっとった数年前とは大違いじゃわー」

「でかい式典があると言ってたしな。そんな余裕があるほど、ここは平和なんだろう」

「・・・その平和は・・・ラフィの・・・」

 

マギルゥとロクロウの会話を他所にベルベットが頭を抱え苦しそうに呟く

 

「ベルベット・・・?」

 

ライフィセットが心配そうにベルベットを見ていた

 

 

「所でケンの奴遅いな。まだあそこにいるのか?」

 

ロクロウがケンのことを思い出す

 

「ケンは地味じゃからの。奇抜な儂らがいたからかえって目立ったんじゃろう」

「地味で悪かったですね」

 

ケンが追いつき、合流する

 

「もう大丈夫なのか?」

「ええ、なんとか通してもらえましたよ」

「ケンもハトマネをしたのかえ?見せて欲しいの〜♪」

「・・・」

 

マギルゥの煽てにベルベットがまた気を悪くする。やめたまえ

 

「違いますよ、交渉したんです。ここで暴力沙汰を起こすわけにはいかないですからね」

「王国兵ならまだしも対魔士もいる、眼を付けられたらそれまでだ」

「無事通れたなら、先を急ぐわよ」

 

ベルベットがハトに関してこれ以上触れたくないのだろう急かす

 

 

ベルベットたちは噴水の広場を抜け王城の前まで来る、城門はしまっているがその前に民衆が集まり口々に声を上げている

 

「ミッドガンド!!ミッドガンド!!ミッドガンド!!ミッドガンド!!」

「すごい歓声じゃのう。躾が行き届いておるわ」

 

マギルゥがあきれながらも皮肉を言う。縋るものが聖寮しかない故だ

 

「王国民よ!ミッドガンド聖導王国第一王子パーシバル・アスガードである!この良き日を皆と祝えることを、父王と共にうれしく思う」

「おおお~~~!!」

 

城の中から声が響く

 

「式典が始まった」

「こりゃあ、割って入るのは無理だぞ」

 

アイゼンが腕組みをし、ロクロウが思案する

 

「十年前の"開門の日"以来・・・業魔病と業魔の脅威によって我が王国は存亡の危機を迎えていた」

 

そんな中ベルベットは辺りを見回している。ふと上を見ると見張り台に目が留まる

 

「だが、命が朽ち、心が尽き果ててゆかんとする地に奇跡の剣をもち立つ者があった」

「あそこ!」

「登るのはいいが、ここで襲うのは無謀――」

 

ロクロウが言いかけた時パーシバルがある男の名を言う

 

「誰であろう・・・アルトリウス・コールブランドである」

「!!」

「アルトリウス!!!アルトリウス!!!アルトリウス!!!アルトリウス!!!」

 

その名前にベルベットの目つきが変わりすぐさま走り出す

 

「アルトリウスの偉業は、誰もが知っている。彼は、業魔に苦しむ民の救済にすべてを捧げた」

(でも、殺した)

 

ベルべットが縁に足をかけ見張り台に向かってジャンプする。業魔手で城壁にしがみつく

 

「五聖主の一柱たるカノヌシを降臨させ、聖隷の力を我らにもたらした」

 

だがそのまま擦り落ちる

 

(でも、殺した!)

「ベルベット!」

 

ライフィセットが真下まで駆け付け声を上げる

 

「混沌の世に"理"という希望を与え、今、その希望が"絆"となって我々を結んでいる」

(でも、お前は!)

 

ベルベットが歯を食い縛る

 

(あたしの大事なものを全部ーー!)

 

業魔手で壁を突き刺し登り始める

 

「アルトリウスの偉大なる功績と献身を讃え、今、ここに厄災を祓い民を導く救世主の名ーー」

 

ベルベットが壁を登りきり見張り台の上に立つ

 

「"導師"の称号を授けん!」

「導師!アルトリウス!!導師!アルトリウス!!」

 

一気に沸き立つ民衆を眼下に見据えるベルベット。その目に怒りが宿る

 

「導師・・・アルトリウス!!」

 

パーシバルが後ろを向くと奥から一人の男が歩み出る。アルトリウスその人だ、アルトリウスが前に出て語り出す

 

「・・・世界は厄災の痛みに満ちています。なのに、私は皆さんに頼まねばならなかった。」

 

その後ろでオスカー、メルキオル、テレサ、そして一等対魔士が彼の話を聞いている

 

「"理"による苦痛に耐えてくれと。"意志"という枷で自らを戒めてくれと。なぜなら、揺るがぬ理と、それを貫き通す意志。これが厄災を斬り祓う唯一の(つるぎ)だからです」

 

アルトリウスが左腕をあげる

 

「今ここに、その剣がある。私は誓おう!我が体と命を、全なる民のために捧げることを。すべての人々に聖主カノヌシの加護をもたらし、厄災なき世に導くことを!」

 

左腕を振り払い前に向ける

 

「世界の痛みは!私が必ずとめてみせる!」

 

アルトリウスの宣言に民衆は一層沸き立つ。ベルベットは左手を握りこむアルトリウスの言うことに嘘はないだろう。だが具体的な内容は明言していない、あくまで式典というのもあるだろうが。仮に宣言した事をそのまま実行するのであればそこには意志はない

 

「でもお前は・・・」

 

ベルベットが言いかけた時、後ろからロクロウの手が頭を掴み押さえ込み姿勢を低くさせる

 

「バカ!見つかるぞ!」

 

後ろからライフィセットとケンが合流する

 

「ライフィセットを殺した・・・!!」

「え・・・!?」

 

その言葉がライフィセットの耳に入る。ベルベットの握りこんだ手から血が滴り落ち、ケンがそれを横目にアルトリウスを見る、その時指を弾く音と共に周囲、いや世界が時を止める。ケンにはそれが誰なのか分かっていた

 

「あれが導師アルトリウス、どうだ?感想は」

「・・・確かにあの人はこの世界を救おうとしている。国民の殆どが彼について行くでしょう」

 

ルシフェルが縁の上に立ちケンの横で腕を組みながらアルトリウスを見ている

 

「そうだな。客観的な立場から言えば彼のやろうとしていることは極立派だ、民たちも活気が出るのも当然だ」

「ですが。具体的な事は何も言っていない。仮に彼の言葉どうりに平和を体現するならば・・・」

「そこに意思や感情はないってことかい?」

「・・・」

 

ルシフェルの言葉に口を閉ざすケン

 

「まあいいさ。現状ではああ言わないと団結は難しいからな。それじゃ私は行くとするよ」

「またどこかに?」

「そんなところさ、じゃ」

 

ルシフェルが後ろを向きながら指を弾く。それと同時に時が動きだす

 

 

ベルベットたちは一度見張り台から降りる

 

「・・・導師アルトリウス。あれがお前の標的か」

 

アイゼンの問いにベルベットが何も言わずに目を閉じる

 

「いきなり飛びかかるかと、ヒヤヒヤワクワクしたわい」

「それじゃ無駄死にでしょ。"理"と"遺志"の剣が要るのよ」

 

マギルゥの煽りに冷静に答えるベルベット、あの状況で飛び込まない程度の冷静さはあったようだ

 

「アルトリウス様を・・・殺す・・・」

 

ライフィセットは殺すという言葉に少しショックを受けているようだ

 

「手堅くてつまらんの~。そろそろ、儂はおいとまするかの。なごりおしいじゃろうが、捜し物があるでな」

「お好きにどーぞ」

「さよなら」

 

ベルベットはどうでもいいと言わんばかりに手を振りライフィセットは残念そうに別れを言う

 

「じゃあの。皆の大願成就、七転八倒を祈っとるぞ♪」

 

それを最後にマギルゥが去っていった

 

「敵は導師様とやらだ。姿を隠すような相手じゃない。じっくりいこうぜ」

 

ロクロウの言葉どうり導師である以上こそこそできない。十分爪を研いで首を掻っ切ることもできる

 

「奴の後ろにいたジジイがメルキオルだな」

「そう」

 

アイゼンがライフィセットに確認を取る

 

「奴らの情報を集めよう。なにをしているかわかれば隙を突ける」

「といっても、王国の最重要人物だ。探るにも手掛かりがないとな・・・」

「アイゼン、王都に裏の知り合いはいないの?船着場の時みたいな」

「内陸には疎いが・・・アイフリードが懇意にしていた闇ギルドがあったはずだ。バスカヴィルというジジイが仕切っていて、確か、王都の酒場が窓口だと」

「闇ギルド・・・そんなものがあるのか?」

 

ベルベットが小さく呟いたと同時にライフィセットの腹の虫が鳴く

 

「わっ!?」

「ははは、とにかく酒場へ行ってみよう。腹ごしらえはできるだろう」

「そうね」

 

 

「あの式典、導師のお披露目だけあって、対魔士軍団勢揃いだったな」

「お前が追ってる奴はいたのか?」

 

アイゼンがロクロウに聞く

 

「いや・・・ああいう場に、すまし顔で並ぶ奴じゃない」

「勢寮の上位対魔士なんだろう?」

「あいつには関係ない」

「そうか」

「ところで、ベルベット、あの導師様は右手をケガでもしてるのか?」

「あいつは昔、大ケガを負って・・・利き腕は使えない」

「やっぱりな」

「でも、左腕だけでも超一流よ」

「動きを見ればわかる。体に無駄な力みがなく、ぶれもないし、意識も丹田に置かれていたからな」

「タンデンってなに?」

 

聞き慣れない言葉にライフィセットがアイゼンに聞く

 

「腹の底・・・臍下から指二本ぶんくらいのあたり、全身の気が集まる場所だと聞いたことがある」

「なにより、殺気を微塵も感じさせないくせにどこにも隙がない・・・あの導師様は、強い」

「・・・」

「"あいつ"がアルトリウスのそばにいる理由は、おそらく・・・」

 

ロクロウがそこまで言った途端に目がぎらつく

 

「俺もあいつを斬りたくなってきたぜ」

 

 

それからしばらくして一行はアイゼンが闇ギルドがあるという酒場に入る。中はいかにもな感じでテーブル席とカウンター席、その奥に酒が入っているであろう大型の樽が並べられている。そのまま注げる様に蛇口が付いている。ベルべットがバーテンであろう男に近づく

 

「いらっしゃい」

「この子になにか食べ物を」

 

横にいた老婦人が話しかけてくる

 

「あら、小さなお子様連れなんてめずらしい。ここは酒場だけど、食事もなかなか美味しいわよ。この店の名物はマーボーカレーよ。一週間も煮込んでつくるの」

「マーボーカレー・・・」

「じゃあそれを」

 

ベルべットがそれを注文するライフィセットは初めて聞く言葉に食いつく

 

(マーボー・・・カレー・・・。普通のカレーとは違うのかな?)

 

聞き慣れない言葉にケンは思考していた

 

「ところで、バスカヴィルって人を知らない?ここで会えるって聞いたんだけど」

 

バーテンの男が話始める

 

「・・・そのジイさんは勢寮の規律に逆らった悪人だ。とっくに処刑されたよ」

「・・・そう」

 

ベルべットは短く答えた

 

 

その後ベルべットたちは食事と取ることにした。ベルベットとライフィセットとケンは例のマーボーカレーをロクロウとアイゼンはその横で心水を立ち飲みしている。ライフィセットはマーボーカレーをがっついている。

 

「ベルベット、マーボーカレー美味しいよ」

 

それを言った後またかっ喰らい始める。ベルベットもスプーンをとりカレーを口に運ぶ。ベルベットの表情が変わる

 

「・・・おいしい。」

「でしょ!こんなの食べたの初めてだよ!」

 

ベルベットの感想にライフィセットも賛同する。ベルベットはチラリとケンの方を見る、当人はというと

 

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

 

ライフィセット以上にカレーを掻き込んでいる

 

(うまい。豆腐入りのカレー聞き慣れなかったけど逆にそれがアクセントになって食えば食うほど癖になる)

「あらあら、そんなに美味しそうに食べてくれるなんて作った方としてうれしいわ。お代わりはいかが?」

「え?ああはい、ありがとうございます」

 

勧められるままに皿を婦人に渡す姿を見ながら食事を続けるベルベット。お代わりを出したあと婦人が話しかけてきた

 

「仲がいいのね。ご姉弟?」

 

婦人はベルベットとライフィセットを見ながら言う

 

「いえ・・・」

 

ベルベットがライフィセットを見ながら短く答える

 

「そうよね。あなたの弟さんは殺されたんですものね」

 

婦人の一言で場の空気が一瞬で変わる。ベルベットがそれを聞いた途端すぐに立ち上がる

 

「なぜそれを!?」

 

アイゼンとロクロウも警戒する。ライフィセットも婦人を見る。ケンはそのままカレーを食べている

 

「闇は、光を睨む者を見ているものよ」

「バスカヴィルが捕まっても闇ギルドは動いているのか?」

 

アイゼンの質問に婦人が答える

 

「ええ。船長が消えてもアイフリード海賊団がとまらないように」

「・・・あなたが窓口なの?」

 

今度はベルベットが尋ねる

 

「御用はなにかしら?」

「アルトリウスの行動予定が知りたい」

「それは、ちょっと値が張るわね」

 

婦人はそういったあと一枚の紙を出す

 

「非合法の仕事よ。"これ"を全部こなしてくれたら、こちらも情報を提供するわ」

 

仕事内容は全部で三つ

 

・ゼクソン港の倉庫に集められている"赤箱の物資"の破壊

・"メンディ"という学者を捜索してもらいたい。彼は"ガリス湖道"に向かった後、行方不明に。

・"ダーナ街道"のどこかで"王国医療団"が襲撃されるとの情報あり。襲撃者を排除してもらいたい

 

一通り確認した後婦人はもう一つの紙を渡す

 

「”通行手形(これ)"を持っていって。偽造だけど、まず見抜ける者はいないはず」

 

ベルベットがそれを取り確認するが

 

「『マギルゥ奇術団』って書いてあるんだけど」

「あら、門前でそう名乗っていたでしょう?」

 

婦人は微笑みながら面白そうに話す

 

「・・・そっちの力は、よくわかった」

「達成したらここに報告にきてね。でも、失敗した時は・・・」

 

それにベルベットが口を挟む

 

「あたしが勝手にやったこと、でしょ。迷惑はかけないわ」

「その心がけに応じて今晩は宿をサービスするわ。依頼は明日からになさいな」

 

ベルベットがその言葉に頷く。その後ろでロクロウとアイゼンは心水の続きをしていた。ケンも新たにカレーのお代わりをバーテンに頼んでいた

 

 

 

第13話 終わり

 




文章は急ぎで書きましたがどうでしょう。ご意見ご感想誤字がありましたらよろしくお願いします

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