「死にさらせ、雄二!!」
「おっと、何すんだ明久」
Fクラスの教室まで戻ってくると、明久が雄二に殴りかかった。
雄二はそれをヒラリと避けてみせる。
「このクソ野郎! 天子が助けてくれなきゃ、僕は今頃ボコボコにされてたぞ!」
「やはりな、そう来ると思っていた」
「やっぱり使者への暴行は予想通りだったんだな!!」
「当たり前だ。それぐらい予想できなくては代表は務まらん」
「少しは悪びれろよ!」
雄二も雄二だけど、簡単に信じたお前も悪いわよ? 明久。
「さぁ、これでもう後には引けなくなった。覚悟はいいか、明久、天子?」
「「え?」」
覚悟? そんなの―――――
「「ああ(ええ)、いつでも来い(来なさい)!!」」
私と明久の声がハモる。
覚悟なんてのはとっくに出来ている。
まったく、つまらない事聞くわね~
「よし、じゃあ今から空き教室に移動するぞ。主要メンバーでミーティングを行う」
雄二はそう言って教室を出ていく。
そう言えば、いつものメンバーと姫路さんがいないわね。
もう向かってるのかしら?
「天子、行こう!」
「ええ、そうね」
私達は雄二の後を追いかけた。
☆
さて、今私達は空き教室にいる。
メンバーは雄二、明久、私、康太、秀吉、島田さん、姫路さんの7人だ。
ここに来たとき、姫路さんと島田さんが明久の心配をしたりしていた。
………島田さんが「ウチが殴る余地はまだありそうね」とか言っていた気がするけど、私はもう気にしないことにしたわ。
「天子、明久。宣戦布告はしてきたな?」
「ええ、一応今日の午後から開戦予定だと告げて来たわ」
「というか雄二、開戦時刻決めてなかったけどこれで良かった?」
「ああ、上出来だ」
珍しく雄二が明久を褒める。
何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのは、私の悪い癖なのか彼の日頃の行いのせいなのか……
「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」
「ああ、そうなるな。明久、今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」
「そう思うなら、パンでも奢ってくれると嬉しいんだけど」
「えっ? 吉井君ってお昼食べない人なんですか?」
姫路さんが驚いたように明久を見ている。
まぁ学生が、それも食べ盛りの男子高校生がお昼をまともに食べていないと聞けばこんな表情にもなるだろう。
実際は違うんだけどね。
「いや、ちゃんと食べてるよ」
「……あれは食べていると言えたんだろうか?」
それには私も激しく同意する。
あれは食べているとは絶対に言わないわ。というか言わせない。
「何が言いたいのさ、雄二」
「いや、お前の主食って―――塩と水だったろ?」
「失礼な、きちんと砂糖だって食べてい
調味料と水だけの時点で食とは言えないわよ?
「ま、飯代まで遊びに使い込んでるお前が悪いよな」
「し、仕送りが少ないんだよ!」
嘘をつくな!
ゲームや漫画を自重すれば、色々差し引いても十分な額貰ってるじゃないの。
「……あの、良かっ―――」
「安心しなさい雄二。今日
そう、一時期本当に水と塩と砂糖と油だけで過ごしていた明久を見かねて、私が明久の分のお弁当を作るようになった。
一応、もう明久の食生活はある程度は改善されているのだが。
いつの間にか習慣になってるのよね~
まぁ、一人分増えてもあんまり変わらないから良いけど。
「本当!? いつもありがとう天子! 僕には君が本物の天使に見えるよ!」
「いつもいつも大袈裟よ? というかそのセリフも聞き飽きたし」
「良かったな、明久。今日も天子の愛妻弁当が食べれて」
「はいはい、愛してる愛してる」
「ちょ、雄二に天使! 誤解を生みそうな冗談やめてってば!」
因みにここまでがいつもの流れだ。
別に私は明久の妻でも彼女でもないんだけどね~
あと明久、ナチュラルに天使って言わないで?
「あ、あの! 吉井君と比那名居さんって付き合ってるんですか!?」
「「へ?」」
姫路さんがいきなりそんな事を聞いてきて、私と明久が声を上げる。
何故か雄二が面白いものを見るかのようにニヤニヤしていた。
………ああ、なるほど。そういうことね。
「別にそういうわけじゃないわよ? あれは雄二の冗談だし、私の愛してるってのも友愛って意味でだしね」
「え、そ、そうなんですか? でもお弁当……」
「それは成り行きだし、なんか習慣みたいになってるからよ。何なら姫路さんが明久のお弁当作る?」
姫路さんはきっと明久に気があるんだろう。
そう思った私は、そんな提案を姫路さんにする。
「え!? 良いんですか?」
「いや、良いもなにも」
何度も言うが、別に私は明久と付き合っていない。
だから姫路さんが明久に好意があるなら応援するのも吝かではない。
………それに、島田さんよりは色々と心配なさそうだし。
「ねぇ、明久? 姫路さんのお弁当食べてみたいわよね?」
「勿論!!」
即答だったわね。
「じゃあ、今度作ってきますね」
「本当に? ありがとう姫路さん!」
笑顔でそう言う明久。
うんうん、いい雰囲気じゃないかしら?
でも、島田さんが面白くなさそうな顔してるのよね~
私が初めて明久にお弁当渡した時とかも、確かこうだったし。
「……ふーん。瑞希って随分優しいのね。吉井
と、そんなことまでを言い出す島田さん。
………いつの間に名前で呼ぶようになったのかしら?
あと、そんな風に言うくらいなら貴女も作ってこればいいじゃない。
こういうのって積極的になった方が良いってよく言うわよ?
それに、恋の山には孔子の倒れとは言うけれど、貴女は誤まり過ぎなんだし。
ここらへんで挽回をしないと、ねぇ?
「あ、いえ! その、よかったら皆さんにも」
「俺達にも? いいのか?」
「それは楽しみじゃのう」
「…………(コクコク)」
「……お手並み拝見ね」
「わかりました。それじゃ、皆に作ってきますね!」
いつの間にか姫路さんが全員分作ることになっていた。
私や姫路さん本人も入れると七人分。
………流石にそれはキツいんじゃないかしら? 作るのも持ち運ぶのも。
重箱か何かで持って来るなら別だけどね~
「姫路さんって優しいね」
「そ、そんな……」
「今だから言うけど、僕、初めて会う前から君のこと好―――」
「おい明久。今振られると弁当の話なくなるぞ」
「―――きにしたいと思ってました」
今明かされる衝撃の真実。
私の親友は度し難い変態だった。
と、冗談は置いといて。
このバカは一体何を口走ってるんだか……
「明久。それだと貴方、欲望をカミングアウトした只の変態よ?」
「明久、お前はたまに俺の想像を超えた人間になる時があるな」
「だって……姫路さんのお弁当が……」
だからってあれはないでしょうが。
「さて、かなり話が逸れたな。試召戦争の話に戻ろう」
「そうだね」
雄二はチョークで黒板に図を書いていく。
というか、この教室にはチョークあるのね。
「戦闘の立会いには長谷川先生を使う。丁度、五時限目にEクラスに向かうところを確保してな」
雄二ったら、先生は物じゃないんだから使うって表現はどうにかならないのかしら?
それにしても、長谷川先生か……
「長谷川先生というと、科目は数学?」
「数学ならウチの得意分野ね」
「その島田が得意な数学を主力にして戦う」
「瑞希、数学は?」
「苦手ではないですけど」
「じゃあ、瑞希も一緒に戦えるね!」
島田さんが嬉しそうに言う。
でも、それは無理だろう。
「いや、ダメだ」
「どうして!?」
雄二の発言に明久が叫ぶ。
どうしてって、お前が一番よく知ってるでしょうに。
「一番最後に受けたテストの点数が召喚獣の戦闘力になる。俺たちが最後に受けたテストは―――」
「?……振り分け、試験……っ!」
明久は言った後で、姫路さんの方を見る。
どうやら思い出したようだ。
「私は途中退席したから0点なんです」
「あっ……」
「でも戦争が開戦したら回復試験を受けることができるだろ? それを受ければ姫路も途中から参戦することができるさ」
「はい……」
姫路さんが申し訳なさそうに呟く。
因みに、私は、いくつかの科目で名前を消さなかったテストがある。
その中には数学も含まれている為、回復試験を受ける必要は無い。
「頑張ってくれ」
「……はい!」
雄二が励ますと姫路さんは笑顔でそう答えた。
「……くっ……はぁ」カッカッカッ
………あら? 今誰か廊下に居たような?
気のせいかしら?
そんなこんなで私達の会議は続いていったのだった。
☆
あれから数時間。
今は昼食も取り終わり、教室で待機している状態だ。
その前にまた色々と一悶着があったんだけどね~
既に昼休み終了のチャイムは鳴っている。
もうそろそろ、長谷川先生が来ると思うのだけど……
『長谷川先生を確保ーー!!』
っと、考えてたら来たみたいね。
「開戦だ!! 総員戦闘開始!!」
『おおーーっ!!』
私達は拳を上げながら気合を入れる。
さぁ、始めましょうか!
―――――side明久―――――
『戦死者は補修室に集合!!』
『助けて~、鬼の補習はいや~』
Eクラスとの試験召喚戦争が開戦されて数分後、急に鉄人の声と女子生徒の悲鳴が聞こえてくる。
「どうやらEクラスから戦死者が出たみたいね」
「ああ、そのようだ」
試召戦争のルールの一つに、戦死者は補修室送りにされるというものがある。
また、敵前逃亡も戦死扱いにされるらしい。
味方と交代して逃げるのはOKみたいだけど。
鉄人の鬼の補習を受けると、趣味は勉強、尊敬する人は二宮金次郎といった人間に仕立て上げられるといった噂がある。
絶対洗脳だよね、それ。
「ちなみにその噂、半分は本当で半分は嘘よ?」
「ナチュラルに心を読まないでよ天子! とゆうか半分ってどういうこと?」
「鉄人先生がそ~ゆう生徒を作りたいってのが本当で、無理矢理仕立て上げられるってのが嘘。実際は大量のプリントを戦争終了までやらされるだけらしいわ」
「よく知ってるね」
「本人と、あと補習を受けた生徒に何人か聞いたから」
天子の趣味なのかなんなのかは知らないけど、彼女はよく色々な噂を集めてその真相を探ったりしている。
その為、天子に聞けば学園での噂の真相を大抵知ることが出来る。
ある意味、天子も情報通ではあるんだよね。
ムッツリーニ程じゃないけどさ。
「むしろ康太のは異常すぎると思うわ」
「僕もそう思うよ」
現在廊下では、島田さんと秀吉、ムッツリーニの三人を筆頭にEクラスとの交戦が行われている。
因みに、姫路さんは補給室で回復試験。
僕と天子は護衛役として、雄二や他のクラスメイトと一緒に教室にいた。
数学に強い島田さんが居るからまだまだ大丈夫だとは思うけど……
「はぁ~あ」
クラス代表である雄二は仰向けで寝転がり、眠むそうに欠伸をしている。
緊張感なさすぎない!?
「ねぇ雄二、どうゆう作戦で行くの?」
「作戦なんかねぇよ」
「へ?」
作戦を聞いたら予想外の答えが返ってくる。
「力任せのパワーゲームで、押し切られた方の教室に敵が流れ込む。そして代表を倒された方の負けだ」
「まぁ、Eクラスとは教室が隣同士だから、細かい作戦なんて決めても役に立たないでしょうね」
雄二がそう言うと、隣に座っていた天子が同意する様に説明してくる。
「……まさか、押し切られたりはしないよね?」
僕がそう聞くと突然、廊下から島田さんの声が聞こえる。
「大変、押し切られるわ!!」
「ええ!?」
「まぁ、当然でしょうね」
「Eクラスの方が成績は上だからな。ストレートにぶつかれば、負けるのは時間の問題だ」
「そ、そんな~!」
僕は頭を抱えながら叫ぶ。
もうどうしようもないじゃないか!
「だが、向こうも所詮はEクラス。ウチとの差は大きくない。押し切るには時間がかかる」
「つまり、その時間が勝負の鍵ってことね?」
「ああ、そうだ」
雄二と天子が何かを言っているが、僕の頭じゃとても理解できない。
何となく、時間稼ぎが必要ってのは解ったけど……
「あら、明久がそれを理解するなんて。明日は雪かしら?」
「いや、槍だろ」
「僕にだってそれぐらいわかるよ!」
雄二と天子が僕をからかってくる。
まったく失礼しちゃうよね!
「まぁ、心配するな。こっちには天子って言う切り札があるだろ?」
ニヤリと口の端を上げながら雄二はそんなことを言った。
あれ? 確か天子って……
―――――sideout―――――
島田さんの声が聞こえてから更に数十分後。
あの後、先頭に立っていた三人が回復試験を受けに行ったことにより、防衛線は破られた。
そして今、
「戦死者は補習!!」
『ひーーっ!』
残っていた最後のクラスメイトが戦死した。
これで、この教室にいるのは私と明久、そして代表である雄二だけだ。
目の前には三十人ぐらいいるEクラスの生徒。
完全に囲まれていた。
「どうしよう、雄二~」
隣の明久が、雄二の肩を揺する。
これで慌てるなっていう方が無理だろうけど、ちょっとは落ち着きなさいよ明久。
すると、誰かが私たちの前にやって来る。
「もう終わりなの? これまでのようねFクラス代表さん?」
そう言いながら現れたのはEクラスの代表、中林宏美(康太に聞いた)だった。
「おやおや、Eクラス代表自ら乗り込んでくるとはな。余裕じゃないか」
「新学期早々宣戦布告だなんて、バカじゃないの? 振り分け試験の直後なんだからクラスの差は点数の差よ。あなたたちに勝ち目があるとでも思っていたのかしら?」
「さぁ、どうだろうな?」
「そっか、それがわからないバカだからFクラスなんだ」
中林宏美はここぞととばかりに嫌味を言ってくる。
まぁ、否定はしないけどね?
「雄二、やっぱり作戦も無しじゃ上のクラスに勝てっこないよ」ヒソヒソ
「おっと、そう言えば一つだけ作戦を立ててたっけ」
「え?」
明久が雄二の耳元で話し始めると、雄二がそんなんことを言った。
そうね、最初から一つだけだったけど、これも立派な作戦よね。
「なぜ、お前と天子をここに置いているのか、解らないのか?」
「え? ……そう、か」
明久がEクラスの人達の方を向く。
あ、あれ勘違いしてる時の顔だわ。
「まさか、そいつは!」
「そう、この吉井明久は『観察処分者』だ! 明久お前の本当の力を見せてやれ!」
「ちぇ、しょうがないな。結局最後は僕と天子が活躍することになるんだね」
なんで私も入れてるのよ。
「『
明久がそう叫んだ瞬間、魔法陣のようなものと一緒に明久そっくりの召喚獣が出てくる。
これ、小さくて意外と可愛いのよね。
召喚獣の装備は、学年末試験での総合科目の成績によって変わる。
その為、明久の召喚獣は改造学ランに木刀と言った軽装備だ。
また、点数によって動きが早くなったり、力が強くなったりもするらしい。
まぁもっとも、操作に慣れていないとそう簡単には全力を出しきれないでしょうけどね。
「『観察処分者』の召喚獣には特殊な能力がある。罰として先生の雑用を手伝だわさせるために、物体に触ることが出来る」
雄二がそう言うと、明久の召喚獣は卓袱台を持ち上げた。
すると、Eクラスの生徒達から驚きの声が上がる。
通常、召喚獣は物体に触ることができない。
その理由は、簡単に言えば幽霊や立体映像なんかと同じ存在だからだ。
しかし、雄二が言った通り、明久の召喚獣は《物理干渉能力》を持っている為、今実際にやっているように卓袱台を持ち上げたり、それを上に投げたりできる。
まぁ、それは『観察処分者』の召喚獣だけじゃないんだけどね……
「そして―――――」
雄二が続けて説明をしようとすると、先ほど上に投げた卓袱台が明久の召喚獣の頭に落ちる。
「がっ! ……僕の頭が割れるように痛い!!」
「召喚獣が受ける痛みは、その召喚者も受ける。な? 面白いだろ?」
そう、物理干渉ができる召喚獣には《フィードバック》があり、痛みや疲労がそのまま召喚者にも伝わる。
これが、『観察処分者』である明久の特徴だ。
「て、天子。僕の頭裂けてないかな? 大丈夫かな?」
「安心しなさい明久。裂けてないし、タンコブとかも出来てないから」
私は明久の頭を軽く撫でた。
「いいわ、まずはその雑魚から相手してあげる」
「おっと、そうはいかないわよ? 私のことも忘れないでよね?」
私は前に出て、中林宏美と向かい合う。
「う、比那名居天子。そう、彼女が切り札ってわけね」
「ああ、そうだ」
彼女がそんなことを言い、雄二が同意する。
「貴女の事、いろいろと聞いたわ。まさか、あの『地学の天使』がこんな最低なクラスに居るなんてね」
あ、それ聞いたんだ。
でも、私をそう呼ぶのは止めて欲しいわ。
「最低なクラスねぇ。確かに、この酷すぎる設備とかは気に入らないけど、仲の良い友人達もいるしこんな面白いことにも参加できる。私からしたら最高なんだけどねぇ?」
「はん、落ちぶれたもんだなぁ」
私がそう言うと、中林宏美の後ろに居た男子生徒が声を上げる。
あら、あれって私がホウキで殴った奴じゃない。
「また貴方? めんどくさいわね~」
「お前とはまだ決着がついていないからな! 地学の天使だか電子だか知らねぇが、Fクラスにいるお前なんか敵じゃねぇ! さっさと補習室に送ってやらぁ!!」
まったく、うるさいったらありゃしないわ。
さっさと終わらせましょうか!
「『
私は自分の召喚獣を呼び出した。
はい、と言う事で今回はここまでです。
いや~、いい引きになったんじゃないでしょうか。
因みに前回から出てきているEクラスの彼。
別に重要なキャラとかではなく、名前も無いただのモブです。
いや、モブにすらなれない「かませ」です。
東方にすら関係ありません。
まぁ、そんなことは置いといて。
今回の話はいかがだったでしょうか?
続きが気になると思っていただければ幸いです。
ああ、それと各話のサブタイトルとかってあったほうがいいのでしょうか?
幕間とかの場合は付けていくつもりなんですがね。
一応サブタイトルを思いついてしまったから、今こうやって書いているだけなので、このままでもいいなら付けないほうが楽ですし。
さて、次回は遂に天子の召喚獣が登場します!
やっと、ここまでこれた。
テンポが悪いから地味に長かった様に感じます。
それでは、またお会いしましょう!
バイバイ~