バカとテストと緋想天   作:coka/

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第2話

私と明久はFクラスの教室に向かっている。

文月学園には新旧二つの校舎が有り、その真ん中の渡り廊下でつながっている。

 

「確か、私たちの教室は三階の旧校舎側だったわよね?」

「そうだね。まぁ、Fクラスの時点で旧校舎なのは確定だったと思うけど」

 

徹底してるわよね~

成績が低かったら校舎まで区別するなんて。

 

「あ、そうだ天子。ちょっとAクラスの方見ていかない?」

 

明久がそんなことを言い出す。

ふむ、確かに興味はあるわ。

それに、どうせ遅刻してるのだし、更に遅れてもあんまり変わらないのよね~

 

「良いわ、見に行きましょ! でも、あんまり騒がないでよ? 迷惑になるから」

「OK! 早速行こう!」

 

明久は元気よくAクラスの方に向かう。

まったく、さっきまでショック受けたりしてたのに、調子がいいんだから。

 

 

 

「「……なんだろう(なによ)、このばかデカイ教室は」」

 

私と明久の声がハモる。

いやいや、これ本当に学校の教室かしら?

普通の教室の五倍くらいあるわよ?

この広さの教室は大学にも無いと思うんだけど……

 

「あ、見てよ天子! システムデスクにリクライニングシート、ノートパソコンまであるよ!?」

「すごいわね。教室の中に図書室並みの本棚がいくつもあるなんて。あ、個別にエアコンと冷蔵庫もあるみたいよ?」

「本当だ! うわ、フリードリンクサーバーにお菓子食べ放題もある! いいな~、羨ましいな~Aクラス!!」

「ちょっとうるさいわよ明久」

 

どうやら設備云々の噂は本当だったようだ。

これは、自分のクラスが心配になるわね。

 

それにしても、コイツは私の話を聞いていたのかしら?

あんまり騒ぐなって言ったのに。

そう思いながら私はため息をつく。

 

「では、クラス代表の紹介をします。霧島翔子さん。前に来てください」

「……はい」

 

Aクラスの担任と思われる教師、確か高橋洋子先生だったかしら? に呼ばれた生徒が、席を離れて前に立つ。

その生徒は、肩まで伸ばした黒髪が綺麗な、まるで日本人形の様な少女だった。

美しく、物静かな雰囲気を持った彼女にクラス全員の視線が集まっている。

 

クラス代表―――つまり、振り分け試験において、このクラスの誰よりも成績の良かった生徒。

それも、学年で最高成績を誇るAクラスでのトップだ。

即ちそれは、二年生全員のトップであると言える。

注目が集まるのは、最早必然と言えるわね。

 

………何故かしら? 彼女から後光みたいのが見えるのだけれど

きっと目の錯覚ね、なんて思いながら彼女の自己紹介に耳を傾ける。

 

「……霧島翔子です。よろしくお願いします」

 

クラス全体の視線を浴びる中、霧島翔子は顔色一つ変えずに淡々と名前を告げた。

ん? 今こっちを見たような? 気のせい?

 

「ねぇ、天子。今霧島さん天子を見てなかった? まさか、あの噂は本当なんじゃ!?」

 

明久が小声でそんな事を言ってくる。

というか、最初からそのくらいの声で話しなさいよ。

 

「多分気のせいよ。それより、噂ってアレのこと?」

「そうそう。霧島さんが同性愛じゃないかって奴」

 

霧島翔子はその学力、容姿、そして性格により一年生の頃から有名人だった。

男子生徒からの告白が絶えなかったとも聞いたが、未だ彼女と付き合えた者はいないと言う。

そこからどんな紆余曲折があったのかは知らないけれど、いつの間にか

『霧島翔子は同性愛者なのではないか』という噂が流れる様になっていた。

 

 

 

まぁ、実際には違ったのだけれど。

 

「その噂、完全なデマよ?」

「え! そうなの!?」

「ええ。だって私本人に直接聞いたもの」

 

そう、私は一年の時その噂が広まり出した頃に、彼女に直接真実を聞きに行ったのだ。

すると彼女は、「……違う。私、好きな人がいるから」と答えてくれた。

勿論、相手は男性らしい。

流石に誰かは聞かなかったわよ?

私そこまで野暮じゃないし。

 

「うわぁ、天子って本当に行動力あるよね。普通は直接聞きに行ったりしないと思うんだけど……」

「別にいいでしょ、気になったんだから。さてと、そろそろ教室に向かいましょ? これ以上遅れたら洒落にもならないわ」

「そうだね」

 

私達は走り出さない程度に廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

さて、私達はやっと教室の前に到着した……のだけれど。

 

「ね、ねぇ天子。ここがFクラスで間違いないんだよね? 物置用の教室とかじゃなくて……」

「え、ええ。間違いないわ」

 

目の前には、半分に割れた『2-F』……いや、『2-E』と書かれたプレートがある。

今しがた、Fと書かれ貼り付けられていた紙が落ちた。

どうやらこの教室は元々Eクラスだったらしい。

入口の横には上靴用の棚が置いてある。

 

「と、とりあえず、中に入りましょ?」

「そ、そうだね」

 

私は少し動揺しつつも、明久に声をかけながら上履きを脱ぐ。

………場所は決まってないみたいね。

私は空いている所にそれを入れ、入口の前に立つ。

 

「さて、行くわよ」

「うん」

 

私は戸を開け、教室に足を踏み入れる。

 

「すみません、遅れました」

「早く座れ、このウジ虫野……ろう?」

 

遅刻の謝罪をしたら、罵倒された。

そいつは、身長180センチくらいの赤髪の男で、私の友人の一人だった。

 

「あら、ウジ虫野郎だなんて随分な言い草じゃないかしら? 雄二?」

 

彼、坂本雄二はポカーンとした顔をしながら私に声をかけてきた。

大方、私がここに来るのが予想外だったのだろう。

あと、さっきセリフは明久宛だったのかも。

 

「あ~、すまん天子。明久だと思った」

「そんなことだろうと思ったけどね」

「ちょっと待ってよ! 僕はウジ虫野郎じゃないよ!?」

「「黙れ(黙ってなさい)、ウジ虫」」

「ううっ……。二人とも酷い」

 

あらら、拗ねちゃった。

流石に言いすぎたわね。

 

「ごめんなさい、明久。貴方はウジ虫じゃなかったわよね」

「て、天子!」

「貴方はゴキブリだもの」

「フォローになってないよ!」

 

ふふ、明久をからかうのは楽しいわね♪

 

「おい、そこのバカ二人、イチャついてないで席に付け」

「雄二はこれのどこがイチャついてるように見えるのさ!」

 

バカとは失礼ね。

それは私じゃなくてそこのバカ(親友)だけでしょ?

 

「……ねぇ、天子。今バカと書いて親友って読まなかった?」

「あら、よくわかったわね」

 

普段鈍感なくせに、こういう時だけ鋭いのよね~

 

「そういえば、雄二はなんで教壇に立ってるのよ? 担任の先生は?」

「ん? ああ、先生が遅れてるらしいからな代わりに教壇に上がってみた」

 

ふむふむ、先生の代わりにねぇ。

 

「つまり、雄二がこのクラスの代表ってことね」

「流石天子、察しがいいな。そのとおり俺がこのクラスの最高成績者だ」

 

そう言いながら、雄二はニヤリと口の端を吊り上げる。

 

最高成績者=クラス代表。

それなら、先生の代わりに教壇に立っているのも頷けるわ。

むしろ違ったら、お前は何してるんだって言われてる所でしょうけど。

 

「これでこのクラス全員が俺の兵隊だな」

 

ふんぞり返ってクラスメイト達を見渡している雄二。

さて、ここで教室を見てみましょうか。

 

床はフローリングやシートとかではなく畳。

椅子は無く、代わりにボロボロの座布団がある。

そして、机はなんと卓袱台だ。

 

いつの時代の教室だろうか……

完全に、学校ではなく寺子屋といった感じね。

これは噂以上だわ。

 

「こ、これがFクラスの教室……くそぅ、これが格差社会というやつか!」

「予想以上にひどいわね」

 

ここで一年過ごすのは流石にキツイわね~

………あ、外のプレートが落ちた。

 

「ふぅ。それで? 僕らの席はどこなの?」

「ああ、好きなところに座れとさ」

「席も決まってないの!?」

 

一々リアクションが大げさね。

まぁ、それだけショックなのでしょうけど。

 

「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

 

不意に背後から声をかけられる。

どうやら担任の先生が来たようだ。

その先生は、寝癖のついた髪とヨレヨレのシャツを着た、いかにも冴えない風体だった。

 

………担任の先生にもクラスの影響が出るのかしら?

そんな失礼なことを考えていると、席についてくださいと言われたので適当な所に座る。

 

明久は窓側の一番端。

雄二はその二つ隣の席。

後、空いている席は二人の間と、明久の前ね。

無難に間でいいわよね?

窓側は窓枠ボロボロで隙間風が寒そうだし。

………そういえばこの教室カーテンもないわね。

 

「えー、私がFクラス担任の福原慎です。皆さん一年間よろしくお願いします」

 

そう言いながら先生は黒板に名前を書こうとして、やめた。

本当にチョークすら用意されてないのね。

 

「皆さん、全員に卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出てください」

「せんせー、俺の座布団ほとんど綿が入ってないです」

 

クラスメイトの誰かが設備の不備を申し出た。

 

「あー、はい。我慢してください」

「センセ、隙間風が寒いんですけどー」

「我慢してください」

 

今度は窓側の前の方の生徒が申し出るが、答えは同じだった。

すると、左隣からバキバキッという音が聞こえる。

見ると、明久の卓袱台の足が折れていた。

 

「先生、僕の卓袱台の足が折れたんですけど」

「我慢してください」

「無理だっつの!」

 

明久も申し出たが同じ答えが返ってきて、反論する。

うん、私も流石に無理だと思うわ。

 

「はっはっはっ、冗談ですよ」

 

福原先生はそう言いながら、木工用ボンドを取り出した。

………自分で直せってこと? 厳しいわね~

 

「では、自己紹介を始めましょう。廊下側の人からお願いします」

 

福原先生の指名を受けて、廊下側一番前の席の生徒が立ち上がる。

あら? あれって……

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

やっぱり。私の去年のクラスメイトで友人の一人、秀吉だった。

 

独特の言葉遣いと小柄な体。

その整った容姿は、双子の姉によく似ており、格好良いというよりは可愛いに部類される。

そのせいで、ぱっと見は女の子に見えるだろう。

 

「「「「「秀吉、愛してるぅぅぅ!!」」」」」」

「ワシは男じゃ!」

 

そう、そんな可愛い容姿の彼は、紛う事なき男子である。

しかも、演劇部のホープと言われるまでの技術を持っている為、知名度は高い。

噂では女子だけでなく、男子にまで何度も告白されたことがあるらしい。

まぁ、噂もなにも本人に聞いたのだけど。

その為、一部のFクラス男子のこの絶叫も頷ける。

………彼の方が実の姉よりも人気があるのは、なんの皮肉かしらね。

 

まぁ、私は両方見慣れているから、余程間違えることはないと思うわ。

入れ替わったりしてたら微妙だけど。

 

「はぁ……まぁなんじゃ、今年一年よろしく頼むぞい」

 

秀吉は疲れたよう言いながらに席に着いた。

なんと言うか、ご愁傷様。

 

「…………土屋康太」

 

次の生徒も立ち上がり、名前を告げる。

彼も友人の一人で去年のクラスメイトだ。

 

言葉数の少ない彼は、小柄だがかなり運動神経が良く、外見も悪くない。

にも関わらず、普段はすごくおとなしいのよね~

まぁ、彼の趣味から推測して、目立つとイロイロ都合が悪いんでしょうけど。

そういえばこのクラス男子ばっかりね。

女子は私ともうひとりだけか。

 

なんて考えているとそのもうひとりの女子が自己紹介を始めていた。

 

「島田美波です。ドイツ育ちで、日本語は会話は出来るけど読み書きが苦手です。後、英語も苦手です。趣味は―――――」

 

帰国子女の彼女、島田美波も去年のクラスメイトである。

というか、知り合いが廊下側に固まりすぎてない?

 

女子にしては高い身長とスレンダーな体型。

茶色の髪をポニーテールにしている。

だが、この後に言うつもりであろう趣味が問題なのよね~

 

「趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

明るく、そんな物騒な事を言う。

 

彼女はどうやら明久のことが気になっている様で、照れ隠しで明久を殴ったり、関節技を決めたりしている。

流石に色々危険だから私が止めたりもしてるけど。

個人的には、あれをツンデレと呼んだらダメな気がするわ……

 

そんな彼女は明久見つけ、彼に手を振っていた。

 

「……あう。し、島田さん」

 

手を振られた本人は少し怯えていた。

………うん、やっぱりダメね。

 

 

 

さて。そんな感じで自己紹介が続いていき、私の座っている列に入ったのだけれど……

 

「はい、では次―――」

 

 

パキパキ―――ズドンッ バラバラバラ……

 

 

先生が次を促しながら教卓に手をついった瞬間、教卓が音を立てながら崩れてしまった。

私を含め、クラスメイト全員が唖然としている。

確かに教卓もボロボロだったけど、流石に手をついただけで壊れるなんて思わなかったわ。

 

「え~、替えを持ってきます。自習でもしながら待っていてください」

 

福原先生は肩を落としつつそう言って、教室を出ていった。

 

 

 

「……はぁ。本当に酷い教室だよなぁ」

 

明久が折れた卓袱台の足をボンドで直しながら言う。

 

「そうね~、ここで一年過ごすと思うと憂鬱になるわよね~」

「文句があるなら振り分け試験でいい点取っとけよ。というか、天子。お前はなんでFクラスなんだ? 欠席とかしてなかっただろうに」

 

自己紹介を終え、座布団を枕にしていた雄二が聞いてくる。

 

「そうだ、雄二聞いてよ。天子ってば僕がFクラスなの最初っからわかってたって言うんだよ? 酷いと思わない?」

「お前がFクラスなのは俺を含めみんなわかってたと思うぞ?」

 

明久がまたショックを受けていた。

 

「私がここに来た理由は、殆どのテストの名前を消したからよ」

「ふーん。つまりわざとここに来たってことか。お前も物好きだな」

「そういう雄二こそクラス代表だなんて、点数の調整とかでもしたのかしら?」

「はっ、俺がそんなことするわけねぇだろ? 偶々だよ」

 

私は気になっていたことを聞いてみたのだが、どうやら違うみたい。

 

「それに、代表になれなくても関係なかっただろうしな」

 

………代表になった人を脅したりするつもりだったのかしら?

雄二はかつて『悪鬼羅刹』と呼ばれるほどに有名な不良だったから、腕っ節には自信があるんでしょうけど。

 

「なんの話をしておるんじゃ?」

 

私達が話していると、秀吉、康太、島田さんの三人が声をかけてくる。

こっちに来ていいのかしら? と思ったが、教室を見渡すとゲームをしている人や寝ている人、あとなんか覆面をした怪しい集団が目に入った。

うん、これなら問題ないわね

 

「なんでもないわよ? ただの世間話だから」

「秀吉たちはどうしたの?」

「なに、せっかくまた同じクラスなのじゃから挨拶でもと思ってのう」

「…………今年もよろしく」

「よろしくね、吉井、坂本、比那名居!」

「こちらこそよろしく! しっかしさすがは学力最低クラス。見渡す限りむさい男ばっかりだなぁ」

 

明久が教室を見渡しながら言う。

貴方もその一人じゃない。

 

「お前もその一人だけどな」

 

どうやら雄二と意見が一致したみたい。

 

「でも良かったぁ。唯一の女子が秀吉みたいな美少女で!」

 

あら~? それはちょっと聞き捨てならないわよ?

 

「明久、私もいること忘れてない?」

「それにさっきも言うたが、わしは男子じゃ」

「あとウチも女子よ?」

 

三者三様に明久に反論する。

百歩譲って秀吉が美少女なのはいいとしても、唯一ってなによ?

 

「わかってないなぁ。女子というのは優しく御淑やかで、見ていて心なごませる存在であって―――――」

 

…………………明久、それは貴方の願望よ。

 

ま、まぁ、冗談で言っていることは私でもわかるけどね?

 

「島田さんのようにガサツで乱暴で怖くて胸が無いのは―――背骨の関節や激しい痛みがぁぁぁぁ」

「明久、今のはお前が悪いわよ」

 

ってこれ以上は流石に危ないわね。

 

「島田さん、それぐらいにしなさい?」

「なんで止めるのよ比那名居! あんたはあんなこと言われて悔しくないの!?」

 

いや、私は明久の冗談だって解ってるからね?

それに、ガサツだなんだって言われたのは島田さんだけだもの。

しかも今の現状を省みるに事実なのよね~

 

 

 

そんなことをしていると、教室の戸がガラッという音と共に開けられる。

 

「あのぅ、遅れてすみません」

 

その声を聞いたクラスメイト全員が声のしたほうを向く。

一瞬、先生が帰ってきたのかと思ったが声が違った。

 

 

 

そこには、息を切らせなががら来たと思われるピンクブロンドの女子生徒が居た。




6000文字超!?

ということで予定より遥かに長くなってしまいました。
もっとテンポ良く行きたいんだけどな~

やっと原作主要キャラと絡ませられました。
そして天子はこれでいいのかな?
おかしな所は指摘してくださいね!
さてさて、一体最後に出てきた女の子はダレナンダロウネ。
気になる正体は次回の冒頭で!

次回は宣戦布告まで行きたいな~
それではまた~

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