バカとテストと緋想天   作:coka/

17 / 23
第14話

「それでは、五回戦。最終ラウンドを始めます」

 

高橋先生の宣言で、雄二は腕を組んだまま不敵に笑う。

 

「さて、俺の番だな」

「雄二……」

「まぁ見てな」

 

不安そうに自分の名を呼ぶ明久に、雄二はそう答え前に出る。

向こうからも霧島翔子が歩いてきている。

 

「Fクラス代表、坂本雄二だ」

「……Aクラス代表、霧島翔子」

 

一応形式として二人は、自分の名を名乗った。

普通なら、幼馴染同士の二人にはそんな必要ないんだけどね~

 

「では、教科は何にしますか?」

「……………」

「……? 雄二?」

 

高橋先生の問いに、雄二は黙ってしまった。

………どうしたのかしら?

あれだけ自信満々だったのに、今更どうしたのって言うのよ?

そんなことを考えていると、雄二がその口を開いた。

 

「……ふぅ。勝負は日本史の限定テスト対決でお願いします。内容は小学生レベルで、方式は100点満点の上限あり!」

 

雄二がそう答えると、この教室内がざわざわと騒がしくなる。

まぁ、この内容じゃ驚くわよね。

私も知ってなかったら驚いてただろうし。

 

『テストバトル!? 召喚獣の勝負じゃないのかよ!!』

『それに、テストの上限ありって!?』

『しかも内容が小学生レベルとか、満点確実じゃないの!?』

 

そんな声があっちこっちから上がる中、高橋先生は淡々と、

 

「わかりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま待っていてください」

 

そう言ってノートパソコンを閉じ、教室を出ていった。

流石は学年主任。適応力が高いわね。

 

高橋先生がいなくなったことで、雄二がこちらに戻ってくる。

 

「どういうことだよ、雄二!」

「小学生レベルの問題じゃと、二人共100点を取って当たり前じゃ!」

「それじゃあ、引き分けじゃない!?」

「いいえ、小さなミス一つで負けるってことですよ」

 

雄二に対して明久達が問いかけ、姫路さんがそう言った。

まぁ、全体的にだけ見ればそうよね。

 

「その通り、学力じゃなくて注意力と集中力の勝負になる」

「雄二……」

「心配するな勝算はある」

 

そう言って、自分の策を話し出す雄二。

その間、私はやはりなにか違和感を感じていた。

一体なんなんだろう……

 

「待ってよ、雄二!」

「うん?」

 

ふと、違和感について考えていた私の耳に、明久の声が聞こえてくる。

 

「『大化の改新』って625年じゃなかったっけ?」

「無事故の改新、645年だ!」

 

どうやら、明久は間違えて覚えていたようだ。

もう、それぐらい覚えてなさいよ!

あれだけ勉強してなんで間違えるんだか……

まぁでも、()()()()()()()()()()()()()で…………しょ?

 

 

 

ちょっと待った。

私は今何を考えた?

なんで今まで気がつかなかった?

いや、でも、それなら違和感の正体は……

 

「このクラスのシステムデスク、俺達の物にしてやる」

「………盛り上がってる所悪いんだけど、雄二。ちょっといいかしら?」

「あん? どうした天子?」

「いいからちょっとこっち来なさい」

「あ、お、おい!」

「天子?」

 

私は雄二の腕を引きながら、その場から少し離れる。

そして、私は雄二に背を向けたまま立っていた。

 

「なんだよ天子。そろそろ高橋女史が戻ってくるだろうから、手短に頼むぞ?」

「………ええ、わかってるわ。ねぇ雄二。貴方が霧島翔子に『大化の改新』を間違えて教えたのは、いつ?」

「はぁ? なんだよその質問?」

「いいから答えなさい!」

 

私は背を向けたままで、少し強く言い放つ。

それに少しだけ気圧されたように雄二が口を開く。

 

「あ、ああ。確か小三の頃だったと思うが……」

 

雄二の答えに、私は確信を抱いた。

そして彼にもう一つの質問をする。

 

「ねぇ、雄二。それ以降で、小学校か中学校で『大化の改新』の問題って出てるわよね?」

「出てるんじゃないか? よくは覚えてないが」

 

そう、なら……

 

「なら、なんで霧島翔子はいまだに『大化の改新』を『625年』で覚えているのかしら?」

「っ!?」

 

雄二が驚いたように表情を変える。

 

「霧島翔子は一度覚えたことを忘れないんでしょ? なら、テストで間違いだと知って正確な答え、『645年』だと()()()()()はずでしょ? でも、あなたは彼女が間違えると確信している」

「……何が言いたい?」

 

私の話に、表情をこわばらせる雄二。

その答えは、貴方が一番知っていることでしょう?

 

「つまり、その『625年』を教えた時の貴方との出来事は、彼女にとって上書きできないほど大切な思い出ということじゃないの? 今も間違え続けるぐらいに」

「……………」

 

雄二に対して一途な霧島翔子のことだ、彼との思い出は何物にも変えがたいものなのだろう。

だから、今でも答えを間違え続けているんだと私は思う。

そして、雄二はそれを今回利用する気なんだ。

………こういうのは当人達の問題だから、私はこれ以上深入りはできない。

でも……

でも、もう一度これだけ……

 

「ねぇ、雄二。昨日のこと蒸し返すようで悪いんだけどね? でも、あえてもう一度言うわよ?」

「……なんだよ」

 

 

 

 

 

「貴方は本当にこれでいいの?」

 

 

 

 

 

私が彼にそう告げると、高橋先生が戻ってきた。

そして、二人を連れて視聴覚室に向かう。

私達はこのAクラスの教室の巨大ディスプレイで、その映像を見ることができるようだ。

 

「ねぇ、天子。雄二と何話してたの? 出て行くときなんか変な顔にしてたけどさ」

「あの素直になれないツンデレ男にちょっと助言をしたというか、お灸を据えたというか」

「本当に何したのさ?」

「まぁ、全ては雄二しだいってことよ」

「わけがわからないよ」

 

明久に聞かれ私はそう答えたが、どうやら更に意味がわからなくなってしまったらしい。

でも明久、その言い方はやめて。

あのアニメのナマモノ思い出すから……

 

 

 

まぁ結局、どうするかは全部貴方次第なのよ。

私がどうこう言った所で、貴方は納得しないでしょ?

自分が本当に欲しいものは自分で見つけなくては意味がない。

いや、自分じゃないと見つけられない。

だからね、雄二。

少しは自分に素直になりなさいよ。

他人がどうとか関係ない。

自分が本当に満足できるやり方で。

学力だけが全てじゃないんだと、証明しなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、私にはそんなやり方無理だけどね」

 

 

 

 

 

 ―――――side雄二―――――

 

 

俺は迷っていた。

昨日、屋上で天子と話をしてから、心のどこかでは「本当にこれでいいのか」と悩んでいた。

 

そして、一回戦の時に偶然聞いたあの言葉。

 

『過ちを改めざるを、これ過ちという。』

 

古典が得意だからなのかはわからないが、なんでアイツはああいう言葉に詳しいんだろうな?

 

 

あの言葉を聞いたとき、俺は天子に聞いてみたくなった。

 

「俺は今も過ちを犯し続けているんだろうか?」

 

だが、聞いたところで答えなんて返ってくるわけがない。

アイツは察しはいいが、心まで読めるわけじゃない。

俺の過去をすべて知っているわけじゃない。

あの頃の俺のことを知らない。

 

『ちょっと他より成績が良いからって、他人を見下していてはダメよ? そんなことをしてたら足元を掬われるわ。』

 

ああ、お前の言う通りだ。

その言葉を昔の俺に聞かせてやりたいぐらいだ。

 

それは、俺が一番よくわかっていることだ。

それは、俺の罪だから。

それは、俺の後悔だから。

それは、俺が犯した過ちだから。

 

俺は小学生の頃に一度失敗した。

だからバカで何も考えずに行動できるやつになりたいと思った。

そう、誰かの為に自分を顧みず行動できるあいつ(明久)みたいに。

 

そして、昔の自分に教えてやりたかった。

世の中は学力が全てじゃないんだと。

他人を見下していても良い事なんてないんだと。

バカの方が楽しいぞと。

 

だが、俺はそれで本当に改めたと言えるんだろうか?

俺は未だに過ちを犯しているんじゃないか?

俺はどうすればいい?

 

 

 

そんな考えが頭の中をグルグルと回り続ける。

 

「制限時間は五十分。満点は100点です」

 

ふと、高橋女史の声で我に返る。

いつの間にか、俺は視聴覚室で答案用紙を配られていた。

色々考えているうちに、もう始まる直前だったようだ。

 

「不正行為等は即失格となります。いいですね?」

「……はい」

「わかっているさ」

 

俺が高橋女史をに言うと、彼女は時計を見た。

そして……

 

「では、始めてください」

 

ついに俺と翔子の勝負が始まる。

俺は問題用紙を表に返した。

今更色々考えたってしょうがない。

もう勝負は始まったんだ。

あとはアレが出れば!

 

 

 

俺は次々と問題を解いていった。

天子に言われ、事前に勉強をしておいたおかげかスラスラと問題の答えを書いていく。

ここまでは順調だった。

そしてついに、その問題が現れる。

 

《『大化の改新』は何年に起きた出来事?》

 

勝った!

俺はそう思い、横目でチラリと翔子を見た。

このまま行けば、確実に俺は満点を取れるだろう。

ある意味、天子のおかげだな。

復習をしていなかったら、所詮小学生学校の問題だと油断して、60点にも届いていなかっただろう

 

そんな時、俺は試合前にアイツに言われたことを思い出す。

 

 

 

『貴方は本当にこれでいいの?』

 

 

 

 

 

……………良いわけがない。

 

 

 

ああそうだ! 俺だって本当はわかっている!

こんなのが……こんなことで掴んだ勝利に何の意味がある?

こんなのはただ翔子を悲しませるだけなんじゃないのか?

俺はまた過ちを繰り返すのか?

それも昔よりも酷い過ちを……

 

それに自分で集中力や注意力がどうとか言ったが、そんなのは自分に対しての言い訳にすぎない。

こんなもの、結局は相手の弱点を付いただけの学力勝負じゃないか。

 

 

『こんなやり方で勝って貴方は満足なの? 』

 

満足なわけがない。

だが、こうでもしないと俺は……

 

 

『学力が全てじゃないと証明できたと本当に言えるの?』

 

言えは、しないだろう。

結局、周りの奴らだって元神童だからとか言って、学力でしか判断しないだろう。

それじゃあ、ダメだ。

 

そう、ダメなんだ。

結局、俺は翔子に、Aクラスに勝つことだけを考えすぎていた。

『最弱でも最強に勝てる』

そんな、アニメや漫画のヒーローや主人公みたいなことをして見返したいと思っていたわけだが、やはり俺には向いていなかったらしい。

 

 

 

むしろそういうのは、明久や天子の方が向いていそうだな。

 

 

 

同時に、アイツ等が主人公だなんて似合わねぇなとも思う

俺は声が出るのを必死に我慢しながら笑った。

 

 

 

 

 

よし、腹は決まった。

 

勝つためには騙し討ちだろうがなんだろうがやってやるさ。

利用できるものは全部利用する。

たとえ何度やられようとも、這いつくばって何度でも挑んでやる。

 

いまだ自分が一番欲しいものは見つからねぇが、そんなのは正直今更だ。

見つからないなら、見つけられるまで足掻けばいい。

俺は自分のやりたいようにやる。

今までも、そんでこれからもな。

 

 

 

……だから、今回のこれは俺のケジメだ。

 

 

 

そう思いながら、俺は問題用紙に回答を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《日本史勝負 限定テスト 100点満点》

 

 

《Aクラス  霧島翔子     97点》

 

       VS

 

《Fクラス       (坂本雄二)     97点》

 

 

 

 

 

俺はこの試合、無記名により翔子に敗北したのだった。

 




またも大遅刻。
もうすみませんとしか言いようがないです。

と言ったところで、いかがだったでしょうか。
今回はAクラス戦の最終決戦である、雄二VS翔子でした。

正直、今回はけっこうな難産でした。
というのも最後までどっちを勝たせるのか悩みに悩んだからです。
最終的には、順当に雄二の負けで収まりましたがね。
(ここだけの話、無記名にするのはこの後書きを書いてる時に思いつきました。)
今回の話は天子の気づきと、雄二の考えがメインです。
その為どうしてもいつもより短くなてしまいました。
まぁ、勝負の内容が内容ですからね。

雄二はある程度吹っ切れた感じですが、まだ自分が一番欲しいモノがわかっていません。
すぐ傍にあるんだから、素直になえばすぐ見つかるんですがねぇ。
まぁ、そのお話はまたの機会に。
(詳しく言うと、雄二と翔子の如月ハイランド篇で)

と言ったところで、今回はここまで!
次回はAクラスとの戦後対談!
引き分けとなったことによる、その対談の内容とは!?
次回、いよいよ第一章最終回!?
どうぞご期待下さい!

それではまた次回~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。