バカとテストと緋想天   作:coka/

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第13話

「そ、それじゃあ、行ってきます!」

 

姫路さんが緊張した面持ちで、そう言う。

現在、2勝1分けでこちらがリードしている状態。

そんな中での大事な試合だから、緊張するのもわかる。

でも、何故か私の不安が拭えないのよねぇ。

 

「姫路さん頑張って!」

「はい!」

 

明久に応援され、彼女は微笑みながら返事をする。

しかし、その笑みは少し強張って見えた。

本当に大丈夫かしら……?

 

 

 

 

 

「では、三回戦を始めたいと思います。両者前へ」

「それでは、僕が相手をしよう」

 

そう言って前へと出てくるのは、学年次席の座にいる久保利光。

元々は姫路さんの方が実力は上だったのだが、彼女が振り分け試験でリタイアしてしまった為、今は彼が二年の次席になっている。

 

「さて、ここが一番の心配どころだな」

 

雄二が苦い顔をしてそう言った。

それもその筈だ。

いくら姫路さんの方が、元は成績が上とは言ってもその差は数十点程度だからね。

今回の戦いで何度も見ている通り、召喚獣の操作技術次第で点数の高い相手を倒すことだってできる。

まぁ、だからといってAクラス陣よりも操作に慣れている姫路さんが簡単に負けるとは思えないけど。

 

 

普段通りなら……

 

 

「教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

高橋先生にそう聞かれ、久保利光が答えた。

ちょっと!? 勝手に何言ってるのよ!

 

「そんな勝手に! 選択権は僕らが―――――」

 

明久が抗議をしようとすると、それまで黙っていた姫路さんが口を開く。

 

「構いません」

「姫路さん……」

 

姫路さんは覚悟を決めたように言った。

 

「少しマズイな。総合科目は学年順位がそのまま点数になる。今の姫路で久保の点数を超えられるかどうか……」

 

雄二が僅かに焦りを見せた。

総合科目はその名の通り、他の教科の合計点だ。

学園長先生が言うには、センター試験とかを意識してあるから、純粋な合計点ではないらしいけど……

 

「第四回戦、試合開始!」

「「『試獣召喚(サモン)』」」

 

高橋先生の合図で、姫路さんと久保利光が召喚獣を召喚する。

久保利光の召喚獣は、剣士風の服に鎌のようにも見える二本の戦斧といった装備だ。

対する姫路さんの召喚獣は前と同じ装備だが、また腕輪がついていた。

あら? 確か総合科目の腕輪って……

 

フィールド[総合科目]

久保利光 3997点 VS 姫路瑞希 4409点

 

 

『4000点オーバー!?』

『嘘だろ!?』

『あの点数、学年主席の霧島翔子に匹敵するレベルだぞ!』

 

一般科目とは違い、総合科目で腕輪が使えるのは4000点以上である。

姫路さんの召喚獣が腕輪を持っていたという事は、その点数を超えているということだ。

それにしても、久保君と400点以上差があるのは予想外だったわ。

 

「ぐ……。いつの間にこんな実力を……!」

 

久保利光が悔しそうに言った。

まぁ、次席の自分より点数が高かったら、そりゃ悔しいでしょうね。

それも、今まで実力が拮抗していた相手だから余計に……

 

「……私、このクラスが好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

 

久保利光に対して、そう返す姫路さん。

 

 

 

………彼女はなんで勘違いしてるのかしら?

明久とかならいざ知らず、Fクラスの奴らなんて、ノリと勢いとあと設備の為にやってるようなものだし。

私だって、皆と一緒に何かをやるのが楽しいから参加しているだけ。

人の為にとか考えているのは、あのバカみたいな極一部だと思うんだけど……

 

「Fクラスが……好き?」

「はい。だから頑張れるんです!」

「そうか……」

 

久保利光は姫路さんの返答を聞いて、何かを考える。

そして、

 

「そういうことなら、僕もAクラスの為に負けるわけにはいかないな!」

 

久保利光も覚悟を決めたようで、姫路さんの召喚獣に向かって飛び出した。

そして、その二本の戦斧を振り彼女の召喚獣に攻撃をする。

姫路さんはそれを大剣で受け止め、両者の召喚獣がその反動で後ろに下がった。

しかし、すかさずもう一度接近して、互いに攻撃を続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールド[総合科目]

久保利光 2381点 VS 姫路瑞希 2793点

 

 

久保利光は操作は甘いが、その知識と判断力を大いに生かして戦う。

姫路さんも、少しだが操作に慣れているため、相手の隙を付きながら攻撃を繰り出す。

二人の勝負はほぼ互角で、試合開始から数十分以上経った今でも接戦が続いていた。

それでも、まだ姫路さんの方が点数は高い。

けれど……

 

「……はぁ、はぁ」

 

姫路さんは額に汗を浮かべ、少し辛そうに息をしている。

 

 

召喚獣の操作には集中力はもちろん、僅かだが体力も必要になってくる。

私や明久、先生達の様にフィードバックがあるとかなりの体力が消費され疲労感や脱力感を感じるのだが、普通の生徒であれば、「ちょっと疲れたかな?」程度で済む。

しかし、あまり体力が無く、少し身体の弱い生徒が長時間召喚獣で絶えず戦い続ければどうなるか……

それは、今の姫路さんを見てもらえれば一目瞭然だろう。

 

「ね、ねえ雄二。さっきから姫路さんかなり辛そうだけど……」

「ああ、もうすぐ開始から一時間位経つからな。体力の少ない姫路にはキツイだろう」

「そんな、それじゃ瑞希は……」

 

隣では、明久や島田さんが姫路さんを心配している。

私が戦っている二人に視線を戻すと、いまだ二人の力は拮抗していた。

しかしそれも、時間の問題だろう。

そして、ここで姫路さんが手札を切った。

 

「これでっ!」

「何!?」

 

姫路さんがここで腕輪の能力である『熱線』使用する。

容赦ないその一撃が久保利光の召喚獣を襲った。

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

「くっ……! ここで負けるわけにはいかない!」

 

 

久保利光がそう叫び片方の戦斧をおもいっきり地面に叩きつけ、棒高跳びの要領で上空に飛び上がる。

それにより、姫路さんの『熱線』は彼の召喚獣には当たらず、彼が手放した片方の戦斧のみを飲み込んだのだった。

 

「そんな、まさか武器を片方捨てることで回避するなんて!?」

「多分、私達の試合を色々と参考にしたんでしょうね。彼、意外と度胸あるじゃない」

「…………普通できることじゃない」

 

あんな躱し方した康太には言われたくないと思うわよ?

むしろ、彼のあれは康太の行動力を参考にした結果だろうし。

しっかし、今のでかなり戦況が不利になったわね。

 

フィールド[総合科目]

久保利光 1521点 VS 姫路瑞希  933点

 

 

能力の使用により、姫路さんの点数は1000点程消費された。

実力が拮抗している中で、色々と消耗している今の姫路さんでは勝つのは難しいだろう。

 

 

そして、更に数分後……

 

「これで終わりだ!」

「あっ――――――」

 

 

フィールド[総合科目]

久保利光  606点 VS 姫路瑞希  0点

 

 

 

最後は隙を突かれ、久保利光が姫路さんの召喚獣を、一本だけとなったその戦斧で切り裂いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者! Aクラス、久保利光!」

 

 

『おお、やったぞ!』

『これで首の皮一枚繋がったわね!』

『流石、学年次席なだけはあるな』

 

高橋先生が彼の勝利を告げると、Aクラスの生徒達から歓声が上がった。

まぁ、やっと1勝取ることができたんだから嬉しいわよね。

 

「姫路さん、大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫、です……」

 

試合が終わり、久保君は姫路さんを気遣うように声をかけていた。

 

「いい勝負だった。あの時、腕輪の能力を躱せていなかったら負けていたのは僕の方だろうね」

「そ、そんな……私なんて……」

「卑屈になることなんかないさ。君は十分強敵だったから」

 

彼はそう言って優子達の居る方へと戻っていった。

ふむ、プライドは高そうだけど、他の奴らみたいに他人を見下したりとかするような人ではないみたいね。

 

そんなことを考えていると姫路さんもこちらに戻ってくる。

 

「すいません! 負けてしまいました……」

「気にしなくていいぞ、姫路。お前は良くやってくれた」

「そうだよ、姫路さん! すっごく格好よかったよ! それと、体調の方は大丈夫?」

「吉井君……。はい、大丈夫です!」

 

姫路さんは明久に励まされ、少し元気を取り戻しだしたようだった。

 

 

 

「さてと、これで2勝1敗1分けね」

「次の一戦で勝負が決まるわけじゃのう」

「「「ん?」」」

 

急に秀吉の声がして私と明久、康太の三人がそちらを向いた。

 

「「ぐはっ(ブバッ)」」

 

そこには上半身裸で、胸を腕で隠す様に立っている秀吉がいた。

それを見た康太と明久は、また鼻血を出して倒れる。

………男の裸を見て倒れるこの二人もそうだけど、

 

「ねぇ、秀吉。なんで胸を隠してるのよ。男ならもっと堂々としてなさい!」

「む、それもそうじゃな」

『おおーーっ!』

 

そう言って腕を外す秀吉。

すると、それを見た何人かの男子が喜んだり絶望したり、二人のように鼻血を出したりしていた。

 

………ここの男子、もう色々とダメかもしれないわね。

 

そんなことを考えていると、島田さんと姫路さんが急いでやってきた。

 

「木下! アンタ何やってるのよ!」

「木下君! 前! 前隠してください!」

「な、なんじゃ二人共!? ワシは男だから別に隠す必要は――――て、天子! お主からも言ってや―――」

 

もう付き合ってられないわ。

私はもみくちゃにされる秀吉を尻目にその場を離れた。

 

 

 

「あいつらは一体何をやってんだか……」

「さぁ? もう私にもわからないわよ」

 

あの場を離れた私は、雄二とお互いにため息を付き合いながら話していた。

 

「まぁそんなことより雄二。後は貴方にかかってるわよ?」

「ああ、そうだな。だが、俺には策がある。お前も知っているだろう?」

「………ええ、そうね」

 

私は少し不安を含ませながら言う。

実際、私はまだあの時感じた違和感の正体を掴めていない。

そして、この作戦に疑問を抱いている。

本当にそれでいいのかと……

 

「なぁに、心配するな。お前のおかげで復習はバッチリだ! 俺がお前らを勝たせてやるよ」

「………そうね、既に御膳立は済んでいるものね。頑張りなさいよ? 雄二」

「おう、あとは任せろ!」

 

彼は不敵に笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、

 

 

そう言って笑った彼の瞳に、

 

 

迷いの色が写っていることを、

 

 

私は気づいていなかった。

 




はい、と言ったところで今回はここまで!
どうだったでしょうか。
多分、これを読んでくれている殆どの人がこの展開を予想できていたのではないでしょうかね?


今回は久保君対姫路さん。
この話は、正直最初から結果に関しては決まっていました。
ここで久保君が負けたり、引き分けになってしまうとAクラスに後がないからです。
でもどうやって久保君を勝たすのかに結構悩みましたね。
悩みすぎて天子と戦わせようかと考えるぐらいに。
その結果『熱線』を避けて、点数を消費させた所で持久戦で勝つといった感じになりました。

そんな久保君。
彼って明久が強く関わり過ぎてゲイのイメージが強いですが、普通にいい奴ですよね?
さらに意外と度胸もある。
そんな彼を今回初めて見て、天子は彼を良い方に評価しました。
まぁ、その評価も後に少し下がりそうですが……(主に明久関係で)


一応オリジナル設定というかなんというか、
総合科目は4000点オーバーで腕輪を使えるようにしました。
この設定って、二次創作ではよく見かけますが、原作ってたしか出てないよね?
もし今後不都合とかが出たら、この設定自体無くなる可能性もありますが、まぁ大丈夫でしょう。

因みに、総合科目での腕輪の消費点数は普段の10倍となります。
まぁ、このへんも設定集でまた書くでしょうがね……


次回はついに代表戦!
長かったAクラス戦及び第一次試験召喚戦争篇もそろそろ終わりですね。
雄二と翔子の勝負の行方はどうなるのか!?
そして、一体どちらが勝つのだろうか!?
乞うご期待!!

それでは、また次回!

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