バカとテストと緋想天   作:coka/

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第11話

「それでは、二回戦を始めます。選手、前へ」

 

高橋先生の声を合図に、Aクラス側の生徒が前に来る。

レンズの大きいい丸メガネを掛けた黒髪の女子生徒。

たしか、佐藤美穂ね。

 

「Aクラス、佐藤美穂です」

 

彼女は、丁寧にお辞儀をしながら召喚獣を召喚した。

装備はネイティブアメリカン風の衣装に、鎖鎌ね。

 

 

「ご丁寧にどうも。私はFクラスの比那名居天子よ」

「知っています。あの『地学の天使(アース・エンジェル)』と戦えると思うと光栄です」

「そ、そう」

 

どうやら、彼女は私のことを知っているようだ。

なぜか、少しキラキラしたような目で見られている。

やめて! 私をそんな目で見ないで!

私別に、地学が得意なわけじゃないから!

 

「対戦科目は何にしますか?」

 

高橋先生がそう聞いてきた。

 

「本当ならここで、貴女の得意科目で戦ってあげるとか格好良いコト言ってみたいんだけど……ごめんなさいね? 今回私、全力で行くって決めてるから」

「いいえ、構いませんよ。私も貴女の全力が見てみたいですし」

「そう? なら、私の本気見せてあげるわ!」

 

私はそう言って高橋先生に対戦科目を告げる。

 

 

 

「高橋先生! 科目は――()()でお願いします!」

「なっ!?」

『なにーーっ!』

「分かりました。教科の変更をします」

 

私が告げると、佐藤美穂と会場にいる殆どの生徒が驚愕する。

Aクラス側では、あの霧島翔子や久保利光まで驚いている。

なんだか新鮮だわ。

そんな中でも、高橋先生は淡々と教科の変更を行っていた。

因みに、驚いていないのは去年クラスメイトだった明久達五人と事前に教えていた姫路さん、そして私の得意科目を知っている優子だけだ。

 

 

皆、私が地学で挑んでくると思ってたんでしょうね~

その証拠に……

 

『何だと、地学じゃないのか!?』

『地学の天使って呼ばれてるのに!?』

『おいおいどういうことだよ! 比那名居さんの得意科目って地学じゃなかったのか!?』

『天子ちゃんマジ天子』

 

と言った風に、あっちこっちから声が上がっている。

皆、目の前の情報に騙されすぎじゃないかしら?

 

 

私の得意科目は古典や日本史、次いで現代国語といった文系教科だ。

今あげたこの三つに関しては、常に400点を超えているぐらいにね。

さて、そんな私が何故地学が771点という高得点を取れたのかというと……

前にも言ったけど、私の得意な分野の問題、つまり地震や天気、後は天文学関係の問題が多く出たからだ。

そのおかげと言うか、そのせいと言うか、私は地学で自分の得意科目である古典を上回るほどの点数を取ることができた。

 

寧ろ、地学の点数のインパクトが大きすぎて、古典の点数が霞んじゃったのよね~

あの時は古典でも一位だったのに……

 

 

そんなんことを考えていると、どうやら教科の変更が終わったようだ。

 

「まさか、地学ではないとは驚きました」

 

佐藤美穂がそんな事を言う。

 

「あの時は偶々問題との相性が良かったのよ。私の得意科目はコッチ」

「そうだったんですか。ですが、だからといって負ける気はありません!」

「そう、でも今回は私が勝つわ」

 

私がそう言うと、高橋先生が片手を挙げて宣言をする。

 

「それでは、二回戦、始め!」

「『試獣召喚(サモン)』っ!」

 

開始の宣言と共に、私は召喚獣を呼び出した。

 

「それが貴女の召喚獣ですか」

「そうよ? 可愛いでしょ?」

 

私の言葉に合わせて、召喚獣の私が腰に手を当てて胸を張った。

因みに、今回はちゃんと『緋想の剣』も持っている。

 

そんなことを考えていると、ディスプレイに私達の点数が現れた。

 

 

フィールド[古典]

佐藤美穂 274点 VS 比那名居天子 780点

 

 

『な、780点!?』

『そんな馬鹿な!』

『これ、教師の点数より高いんじゃないの!?』

 

私の点数を見てAクラスの生徒から声が上がる。

まぁそれはそうよね、700点超なんて先生でもあんまりいないし。

 

そして、Fクラスの方はというと……

 

『すげーっ! 俺あんな点数初めて見たよ!』

『俺だってそうだ! 比那名居さんあんなに点数高かったんだな』

『天子ちゃんマジ孔子』

 

といった感じで、こちらもかなり驚いていた。

………最後の奴は孔子と講師でもかけたのかしらね?

と言うか、「し」しか合ってないじゃない!

 

「す、すごいよ天子!」

「ああ、古典が得意なのは知ってたが、まさかあそこまでとはな」

 

明久や雄二も驚いてくれたみたいだ。

うんうん、褒められると嬉しいわね~

 

「そ、そんなまさか!」

「どう? 驚いた? これが私の本当の実力よ」

「くっ……」

 

佐藤美穂とその召喚獣は少し後ずさる。

そんな及び腰で大丈夫かしら?

私の全力はまだまだこれからなのに。

 

「それじゃあ、始めましょう? どっからでもかかってきなさい!」

 

私はそう言い、剣を構えた。

 

「行きます!」

 

彼女の召喚獣は、大きくジャンプしながら私に向かってくる。

ふむ、操作の方はまずまずってところだけど、やっぱりまだ慣れてはいないみたいね。

私は、着地と同時に振り下ろされた鎌をバックステップで避ける。

武器で受け止めてもいいんだけど、今は点数を減らしたくないしね。

その後も何度か鎌を振り、私の召喚獣に攻撃を仕掛けてきたが、私はそれを全て躱してみせた。

 

「くっ、当たらない!」

「明久程じゃないけど、私も召喚獣の扱いには慣れてるの。貴女の攻撃なら簡単によけられるわ!」

 

そう言って彼女の攻撃をさらに避け続ける。

だけど、相手はAクラス。

そんなに単純にはいかない。

 

「それなら、これで!」

「無駄よ!」

 

片方の鎌で私を攻撃し、それを躱した方向にもう片方の鎌を投げる。

私の召喚獣はそれを上にジャンプすることで回避する。

投げた鎌は、もう片方と鎖でつながっているため、彼女の召喚獣の手元に戻っている。

流石、頭が良いだけのことはあるわね。

鎖鎌をこんな使い方するなんて。

 

 

なんて、そんなことを考えていたからだろう。

私の召喚獣に一瞬だが隙ができる。

そして、彼女がその隙を見逃す訳がなく……

 

「そこっ!」

 

相手の鎌が、私の召喚獣の首を狙って振り下ろされる。

 

………このまま鎌で切り裂かれれば、私の点数はかなり削られるだろう。

最悪、一瞬で0点になるかもしれない。

ああ、やっちゃった。

優子に油断したから負けたとか偉そうに言ったくせに、その自分がこれだ。

まったく、我ながら呆れるわ。

誇ってもいいわよ? 佐藤美穂。

貴女は二年生の中でも十分強いと思うわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、残念だったわね。

言ったでしょ? 私は全力で行くって。

 

 

 

『無念無想の境地』っ!」

 

 

 

私がそう叫んだところで、私の召喚獣に鎌が振り下ろされた。

その衝撃が、フィードバックによって私に伝わって来る。

 

「ぐっ……!」

 

痛い!痛すぎるわ!!

流石にこればっかりは慣れない。

身を裂くような痛みとはこういう事を言うのだろうか?

あのバカにはよく耐えれるもんだと感心するわね。

 

「やった、これで……なっ!」

 

佐藤美穂が嬉しそうに言うが、何かに気がつく。

彼女が気がつけた事に私は素直に感心する。

でもね? まだ高橋先生が終了の宣言もしていないのに、その油断は大敵よ?

 

 

私の召喚獣は消滅してはいなかった。

それどころか、あの攻撃を食らったのにも関わらず、点数が減っていない。

つまり、無傷でその場に立っていた。

 

私の方はフィードバックで無傷じゃないけどね……

 

「な、なんで!? 確かに当たったのに!」

「そうね、今のはかなり効いたわ。すごく痛かったもの。でもね、何か忘れてないかしら」

「忘れていること? ……っ! ま、まさかこれは!」

 

どうやら気が付いたようだ。

 

「そう、これは私の腕輪の能力よ!」

 

 

覚えているかしら?

400点以上の点数を持つ召喚獣は、特殊能力を使うことができる。

その証として、私の召喚獣にも腕輪がついている。

つまり、私の召喚獣も腕輪の能力を使うことが出来るということだ!

そして、私は先ほどその能力を使用した。

 

「私の腕輪の能力『無念無想の境地』は簡単に言えば無敵モードになれる能力よ」

「無敵モードですか?」

「ええ、つまり攻撃を受けても点数が減ることがなくなるわ」

「な、そんな能力反則じゃ!?」

「そうなのよ。だから、制限時間を付けられたわ」

 

因みにその時間はたったの16秒。

これでも長くなった方なんだけどね。

学園長先生なんか最初、10秒にしようとか言ってたし。

まぁ、おかげで消費点数も減ったからあまり文句は無いけどね~

 

最初は300点だったのが、今では十分の一の30点である。

そりゃ、無敵になるくらいだからそれぐらい消費するわよね。

なんてったって、その効果が、『科目を変えるかフィールドから出るまで続く』んだから。

あまりにも頭のおかしい性能過ぎて、即学園長室行きになったし。

 

「まぁ、そういうわけだから、能力の効果が続いてるうちにさっさと終わらせるわ」

「そんなに簡単にはやられませんよ! それに、能力が切れるまであなたに攻撃しなければ良いだけです!」

 

そうよね。

攻撃が通らないのならば、効果が切れるのを待つ。それが普通だ。

でも、私がそれを許すと思うのかしら?

 

「見せてあげるわ。『緋金の腕輪』の力をね! 『緋想天(スカーレット)』っ!」

 

私が右の手首に手を添えてそう叫ぶと、剣が赤く光り、それが私の召喚獣の周りに《気》の様なものになって霧みたいに漂う。

 

「なっ!?」

「これぐらいで驚いてちゃダメよ?」

 

そう言って私は佐藤美穂の召喚獣に急接近した。

そして、剣で彼女に切りかかる。

 

「させません!」

 

そう叫ぶと同時に、鎌で私の剣を受け止めた。

しかし、私の剣の方が威力が高かったのか、彼女の召喚獣が後ろに押され、少しだけ仰け反った。

だがすぐさま体勢を立て直す。

 

フィールド[古典]

佐藤美穂 260点 VS 比那名居天子 750点

 

今ので少し削れたみたいね。

さて、もう16秒経っちゃうし、そろそろ終わりにしましょうか!

 

「悪いけど、そろそろ終わりにするわ」

「何を言っているんですか、まだまだこれからですよ!」

「いいえ、終わりよ!」

 

私がそう言うと同時に、腕輪の効果が切れる。

その瞬間、私の召喚獣は大きく飛び上がり、剣を左手に持った状態で前に突き出す。

そして私は、もう一度自分の右手の腕輪に触れた。

 

「言い忘れてたんだけどね? 私実は―――左利きなのよ」

「はい?」

 

私がそう宣言をすると、彼女は何言ってんだコイツといった顔をする。

まぁ、特に理由はないんだけどね。

 

「喰らいなさい! これが私の全力全開!!」

 

私がそう言うと、召喚獣の周りに漂っていた赤い気のようなものが、全て剣に集束していく。

 

「っ!」

 

佐藤美穂が危険を察知したみたいだが、もう遅い。

そこは私の()()()()だ。

 

 

 

 

 

『全人類の緋想天』

 

 

 

 

 

私がそう言った瞬間、集束された《気》が赤いレーザーのようになって剣から放たれる。

そしてそれは、佐藤美穂の召喚獣に直撃し、彼女の点数を削りきったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょ、勝者! Fクラス、比那名居天子!」

 

高橋先生が私の勝利を宣言した。

しかし、先程の明久のように、歓声は上がらない。

唯一人、

 

「やった! 天子の勝ちだ!」

 

明久だけが声を上げた。

お前は少し空気を読みなさいよね?

そう言って喜んでくれるのは嬉しいんだけどさ。

 

 

このAクラスに居る生徒は全員、唖然としていた。

そしてその視線は、正面のディスプレイに集まっている。

まぁ、それはそうでしょうね。

なにせ―――――

 

 

フィールド[古典]

佐藤美穂  0点 VS 比那名居天子  1点

 

 

ダメージを食らわなかったはずの私の点数が、1()()になっていたのだから。

 

 

 

『緋想の剣』から発生するオーラのようなもの。

一応、形式的に《気》と呼んでいるそれは、その実、私の点数が剣によって赤色に気化したものらしい。

どうゆう原理でそうなったのかは、開発者の学園長でも分からないらしい。

だが、私が使っているこの『緋金の腕輪』はオカルト要素をかなり強めに設定して作られているため、何が起きても不思議ではないらしい。

 

いや、不思議すぎるわよ!

なによ点数を気体化するって。

剰えそれで攻撃できるなんて、色々おかしいんじゃない!?

そもそも、なんで作った本人が原理分かってない上に、そんなものを生徒に預けるのよ!

研究と実験のためでしょ! 言われなくてもわかってるわよ!

 

 

閑話休題

つまり、気化された点数をそのまま放つことで、その分の点数を消費して攻撃ができる。

『全人類の緋想天』はその気化した点数の()()()を消費して放たれる。

その為、使用後は私の点数が1桁分しか残らない。

基本的には1点になるのだが、たまに3点や8点とかになる。

 

余談だけど、これは400点を超えていなくても使うことができる。

まぁ、その分威力はかなり落ちるんだけどね。

逆に、今回みたいに点数が高い状態で放てば確実に相手を倒すこともできる。

 

一撃必殺の諸刃の剣。

使い勝手や燃費は悪いし、使いどころも難しい。

でも、だからこそ強い私の最終秘奥義(ラストワード)だ。

 

まぁ、秘密じゃなくなっちゃったけどね♪

 

 

 

 

 

私はあの場を離れて、皆の所に戻る。

 

「お疲れ様、天子!」

「まさか、お前があんな隠し球を持ってるとはなぁ」

 

私が戻ってくると、明久と雄二が声をかけてきた。

 

「どうよ? あたしの全力は」

「ああ、恐れ入ったよ。てか、マジで敵に回らなくてよかったぜ」

「そうだよね。僕も何回か食らったけど、あれは絶対敵に回したくない」

「……お前、あれくらってよく死ななかったな」

「……本当にね」

 

明久には何度か実験に付き合ってもらって試したことがある。

最初、そこまで威力が出るなんて知らずにあれを撃ったら、明久がフィードバックで酷いことになっていた。

まぁそれで、その時だけ明久のフィードバックを外してもらったんだけどね。

 

「でも、あれかなり疲れるのよ。やっぱり点数で攻撃してるからかしら?」

「あとは集中力とかじゃないかな? あれ使うとき、かなり神経使いそうだしね」

 

と、明久がそんなことを言い出して、私達は驚く。

 

「な、なにさ?」

「いや、明久。お前大丈夫か?」

「………明久がそんな分析してるなんて……やっぱり島田さんの関節技とかの後遺症で……」

「失礼な! 僕だってこれぐらい出来るってば!」

「……12と18の最大公約数を答えろ」

「へんっ、馬鹿にするなよ雄二! 僕だってそれぐらい覚えてるぞ! 答えは2だ!」

「「良かった、いつもの明久だ」」

「どういうことだよそれ!?」

 

そんなことを言い合いながら、私は二回戦を終えたのだった。

さぁ次は貴方よ、康太!





どうも、もう22時投稿でいいんじゃないかと考え始めた私です。
いや、それでも30分遅刻なんですけどね。


というわけで、今回の話はいかがだったでしょうか?
私はやっぱり、もっと戦闘描写が上手くなりたいと思いました。

今回は天子対Aクラスのメガネっ子、佐藤美穂でした。
あの子はこんな感じのキャラで本当によかったのだろうか?
まぁ、あまり登場しないのでこんな感じでいいでしょう!

さて、今回は色々と隠されていた情報が出てきましたね。

天子の得意科目は古典と日本史、次いで現国です。
まぁ、天子のキャラ的に考えて、理系よりは文系かなと。
地学で点数が高かったのは、地震学と天候学(気象学もかな?)、そして天文学の問題が出たから。
この辺も一応、原作の天子を意識したものとなってます。

一応、また設定のときに書くつもりですが、補足を入れると、
この物語での文月学園では、天文学は地学と物理学の両方に分類されてます。
まぁ、細かくは決めていないのであれなんですが、地学の方がそういった分野の問題が多く出る程度に考えておいてください。


そしてついに今回二つの腕輪の能力が出ました。
まぁ、こちらも設定の時に詳しく説明しますが……

腕輪の能力『無念無想の境地』は原作だと無敵ではなく、防御力が上がり仰け反らなくなるだけです。
また、他のスペルを使用すると直ぐに効果が切れます。

しかし、『全人類の緋想天』との兼合いを考えると、そのままではどうしても使えなくなるので、制限時間付きの無敵モードとなりました。

『全人類の緋想天』は本編でも説明したとおりです。
原作では発動に周囲の気質を全て使うという点がある為、剣から発生する気質を点数として、その殆んどを使うことで撃てる事にしました。
全部使ったら負けちゃいますしね。

因みに、『無念無想の境地』を使った状態で『全人類の緋想天』を使っても点数は消費されます。
消費されないなら燃費が良すぎて連発できますからね。
しかも威力高いままで。
そんなチートにするつもりはありませんのであしからず。
まぁ代わりと言ってはなんですが、『全人類の緋想天』を撃った後でも『無念無想の境地』は持続します。
その為、残り時間内であれば、1点とかでもまだ戦えるでしょう。
切れたら知りませんがね。


と言ったところで、残りは設定集を上げた頃にでも話しましょう。
話しすぎて後書きが1000文字超えそうなので。

次回はムッツリーニVS工藤愛子です!
しかし、既にFクラスが2勝してしまっている現状。
一体、二人の勝負はどうなるのか!
どうぞご期待下さい!

次回予告で1000文字超えてしまった……
それではまた次回、よろしくね!

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