バカとテストと緋想天   作:coka/

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第9話

夕日が綺麗に映る放課後。

私はまだ屋上にいた。

 

明久は先に教室に戻ると言っていたし、秀吉は部活。

康太と島田さんも用事があるとか言って、今はここにいない。

まぁ、康太の方は商会関係でしょうけど。

 

ということで、今この屋上には私と雄二の二人だけである。

 

「それで、なんだよ話って?」

「まぁ、ちょっとね~」

 

私は屋上の柵を背にして言う。

 

「はっ、まさか俺に告白でもする気か?」

「ふふふ、もしそうだと言ったらどうするのかしら?」

「おいおい、お前はそんなタマじゃないだろ」

 

あら失礼ね?

もしかしたらがあるじゃない。

まぁ、今のところそんな予定はないけど。

 

「そうね、それじゃあ早速本題」

「おう」

 

私はずっと気になっていたことを雄二に聞く。

 

 

「どうやってAクラスの代表に勝つつもり?」

 

私が気になっていたこと。

それは雄二が考えている霧島翔子への策だ。

きっと彼は、それを彼女への必勝策としているんだと思うけれど、内容が解らないんじゃ、それを信用することができない

 

「ああ何だ、そんなことか」

「ええ。内容を知らないままじゃ不安だからね。と言うか、あなたは何の話だと思ったのよ?」

「いや何、俺はてっきり……」

 

てっきり何よ?

さっきの流れからして、私からの告白とかって思ってたわけじゃないだろうし。

なんだと思ってたのかしら?

 

「まぁ、それは置いといてだ。翔子への策についてだったな」

「あら、名前で呼ぶくらい仲が良かったの?」

 

去年は、一緒にいる所とか見なかった気がするんだけど?

 

「別にそんなんじゃねぇよ。アイツとは小学校からの幼馴染なだけだ」

 

へぇ~! それは面白いことを聞いたわね!!

ふむふむ、小学校からの幼馴染ね~

 

………あら? あらあら~?

もしかしてそう言う事?

だとしたら……

 

「ねぇ、雄二。話は変わるんだけどね?」

「あん? なんだよ急に」

「もしかして雄二って、霧島さんに告白されたことある?」

「はぁ!? 本当になんだ急に!?」

 

おっと、どうやらこの反応は図星のようね。

てことは、霧島さんの好きな人は雄二ってことか。

ふ~ん。へぇ~。なるほどね~。

 

「お、おい天子? なんだよその顔は!?」

「いや~? 何でもないわよ~?」

 

私はニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「いや、絶対なんでもなくはねぇだろ! お前何考えてやがる!?」

「べっつに~? ただ、霧島さんがあんな条件を出した理由がわかったような気がするだけよ~?」

「うっ。そ、そうか」

 

どうやら雄二も気づいてはいるみたいね~

多分、霧島さんは勝った時のお願いで雄二と付き合うつもりなんだろう。

雄二のこの態度とかを見れば何となく解るが、彼は霧島さんを振っているんだと思う。

それに痺れを切らしたのかは知らないけど、彼女は『言う事を聞く権利』を使って強引に攻める気なんだと思う。

 

いや~、やっぱり一途な女の子は強いわね~

 

「ああ、話が逸れちゃったわね。続きをどうぞ?」

「お、おう。具体的に言うとだな、フィールドを限定する」

「フィールドの限定?」

「ああ、教科は日本史。レベルは小学生程度で、方式は100点満点の上限あり。そして、召喚獣勝負じゃなく純粋な点数勝負とする」

 

………確かに試召戦争は、両クラスの合意の上で、かつテストの点数を用いていれば別の方法で戦うこともできる。

今回の様な一騎打ちとか5対5みたいにね。

だから、今雄二が言った内容に限定して戦うこともできるだろう。

何より、教科の選択権もこちらにあるしね。

 

「それって、集中力や注意力の勝負をするってこと? でも、貴方の事だから、霧島さんがミスをする『運』に賭けるってわけじゃないんでしょ?」

「ああ、そうじゃない。俺はあいつが確実に間違える問題を知っている」

「………その問題って?」

「『大化の改新』、その年号だ」

 

『大化の改新』

645年の飛鳥時代に、孝徳天皇が発布した改新の詔に基づいて行なわれた政治的改革。

通称『()()()の改心』

 

多分、年号だけでいいなら明久だって知っているはずだ。

………別の語呂合わせと間違えて覚えていなければね。

しかし、霧島さんはその問題を絶対間違えると雄二は言う。

 

小学生程度の問題なら、確かに『大化の改新の年号を答えよ』といった様な問題が出る可能性は高いだろう。

その問題が出れば霧島さんに勝つことが出来るのだろう。

 

 

 

だけど私は、それに何かが引っかかる。

 

 

「いくつか聞きたいのだけど、いいかしら?」

「ああ、何だ?」

「まず最初に、何故霧島さんはその問題を間違えるの?」

「ああ、それはだな。俺が昔、大化の改新は625年だと間違えて教えたからだ。アイツは一度覚えたことは忘れないからな」

 

なるほどね。

それなら納得はできる。

間違えて教えられたことを()()()()()()()()()()()なら、その問題を間違えるのは確実だ。

()()()()()()()()()()()()のなら尚更ね。

 

………あら? やっぱり何か違和感が……

 

………とりあえず話を進めましょうか。

 

 

「じゃあ、次に。仮にその問題が出て、霧島さんが間違えるとしましょう。点数配分がどうなるかわからないけれど、それでも霧島さんは99~95点は取るでしょうね。それを考えたときに、雄二、ブランクのある貴方に満点を取れるの?」

「はっ、馬鹿にするなよ天子? 小学生程度の問題ならよっぽどのことがない限り間違いようがねぇ。それにお前だって知ってるだろ? 俺が『神童』って呼ばれてたのをよ」

 

確かに雄二は小学生の頃に『神童』と呼ばれていた。

当時、水無月小学校とは別の小学校に通っていた私でも知っていたくらいに、彼は有名だった。

だが、それは過去の栄光に過ぎない。

 

「貴方がそう呼ばれていたのは昔のことでしょ? 小学生レベルの問題だと侮ってたら、確実に足元を掬われるわよ?」

「分かったわかった。明日に向けて、帰ったら復習しとくさ。それでいいだろ?」

 

これで話は終わりだとでも言うように、雄二は踵を返す。

 

「まだ私の話は終わってないわよ?」

「なんだよ? さっさと作戦会議して、帰りたいんだが?」

「まあまあ、待ちなさいってば。次の質問よ」

 

私は一度言葉を溜め、Eクラス戦の時からずっと思っていたことを言う。

 

「ねぇ、雄二。貴方は一体何を焦っているの?」

「っ!? ……なんのことだ?」

 

私が質問をした瞬間、ほんの一瞬だったが図星を突かれて驚いた様な顔をした。

 

「恍けたって無駄よ? たった一年ちょっとの付き合いだけど、今の貴方が焦っていることぐらいわかるわ。何かを探している感じだということも。………流石に、何を探して焦ってるのかまでは解らないけどね?」

「……………」

 

私がそう言うと、雄二は黙ってしまう。

 

 

私がそれに気づけたのは殆んど偶然だった。

戦争を計画する前、雄二が自分の目標を語ったあの時の顔に違和感を覚えて、私は彼を少し観察していた。

その時に判ったことだけれど、彼の瞳には何か焦りの様な物があることに気がついた。

自分でもよく解らない、自分が一番欲しい物を一刻も早く見つけようとしているかのような、そんな焦り。

自分の空いた隙間を埋めようと、必死になっている様なそんな姿。

 

だから、それを感じ取った私は彼に聞いた。

何をそんなに焦っているのかと。

一体何を探しているのかと。

 

でも、返って来たのは無言。

………きっと彼自身もまだ解っていないのだろう。

きっと彼は、ずっとそれを探し続けているんだろう。

 

 

………私は考える。

あの時、『世の中は学力だけが全てじゃないと証明してみたい』と言っていた雄二の顔には、確かに含みや陰りのようなものがあった。

そう、それはまるで……

 

「―――まるで、自分を責めるかのように」

「何?」

 

雄二の声で、自分が声に出していたことに気がつく。

だけど、もし私の推測が正しかったなら……

 

「質問を変えるわ。雄二、貴方が戦争を起こした理由って、世の中は学力が全てじゃないって証明したかったのよね?」

「ああ、そうだ。それは前話しただろう?」

「ええ、そうね。でも、肝心なことを聞いていなかったわ」

「肝心なことだと?」

 

これは只の推測に過ぎない。

だけど、今私の中で一番辻褄が合うものはコレしかない。

だから私は雄二にソレを聞いた。

 

 

 

「雄二。貴方はそれを証明して、どうしたいの?」

 

「何だと?」

「もっと踏み込んで言うなら、一体それを誰に伝えたいのかしら?」

「なっ!」

 

私がたどり着いた答え。

只の深読みだと言われれば、それで終わってしまうような推測。

だけど………どうやらその推測は当たりだったみたいね。

雄二は今までにないくらい、目に見えて狼狽していた。

 

「これは私の勝手な推測だけどね? 貴方がそれを伝えたいのは、昔の自分なんじゃないの?」

「……………」

 

 

雄二は小学生の頃に『神童』と、そして中学の頃には『悪鬼羅刹』と呼ばれていた。

その間に何があったのか、きっかけが何だったのかなんて言うのは私が知る余地もないし、知ろうとも思わない。

だが、そこに何かがあったのは確かだと私でも分かる。

 

 

まぁ人間、聞かれたくないことの一つや二つあるしね。

それが黒歴史とも呼べるようなものなら尚更だ。

 

 

「もしも……もしもね? もしも私の推測が全て当たってるんだとしたら、こんなやり方で勝って貴方は満足なの? 学力が全てじゃないと証明できたと本当に言えるの?」

 

それで貴方が探しているものは見つけられるの?

そんな思いを込めて私は言い放つ。

裕二は、只無言でそれを聞いていた。

そして……

 

「はっ、何言ってんだよ天子。そんなわけねぇだろ? そんなのは全部お前の思い違いだよ」

「………雄二」

 

雄二はあっけらかんとしてそう言った。

だが、隠す様に無理やりそう言っているのは明らかだ。

でも私は……

 

「そっか、雄二がそう言うならそうなんでしょうね。ごめんね? 変なこと言って!」

「なぁに、気にすんなよ。明久の馬鹿発言よりは断然マシだ」

「あら、深読みしすぎたとは言え、アレと比べられるのは心外よ?」

「はははっ、すまんすまん」

 

私達はいつも通り軽口を言い合う。

先程までの空気が嘘みたいね。

 

 

 

………雄二がそう言うならそれでいい。

これは本人の問題だ。

きっと、私がこれ以上口を出していいものじゃない。

だから、今は私の胸に閉まっておこう。

雄二が自分に素直になるまでは。

 

 

 

 

 

「さて、教室にいる明久を捕まえて、作戦会議やってから帰ろうぜ?」

「そうね、雄二には日本史の復習して貰わないといけないし」

「ああ、そうだったな。めんどくせぇ」

「こればっかりはちゃんと勉強しなさいよ? 明日負けても知らないんだから!」

「へいへい」

 

私達は教室を目指して、屋上に続く階段を下りていく。

………あ、お弁当箱屋上に置いたままだわ。

 

「ごめん、雄二。先行ってて! 私お弁当箱忘れてきたから」

「ん? そうなのか? 明久じゃないが、やっぱ天子はどこか抜けてるよな」

「大きなお世話よ」

「そうだな。んじゃ、俺は先に行ってるぞ?」

「ええ」

 

私は踵を返して階段を登っていく。

あ、そうだ。最後にこれだけ………

 

「雄二!!」

「あん? どうしたんだよ天子?」

 

階段をさらに下りていた雄二が、足を止めこちらを向く。

 

「道は近きにあり、然るにこれを遠きに求む。貴方の探し物もきっと直ぐ近くにある筈よ!!」

 

私がそう言うと、雄二はポカーンとした顔になる。

そういえば、昨日も見たわねこの顔。

ふふ、面白い顔してるわ!

 

「じゃあ、また後でね~」

 

そう言って私は、お弁当箱を取りに屋上へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 ―――――side雄二―――――

 

 

俺は天子が屋上に戻っていくのを、呆然と見ていることしかできなかった。

屋上での事といい、今の言葉といいアイツはこちらのことなんか考えず、自分の言いたいことを素直に伝えてくる。

まぁ、それがアイツの良い所でもあるんだがな。

 

 

『道は近きにあり、然るにこれを遠きに求む。』

 

「たしか、孟子だか孔子だかの言葉だっけか?」

 

俺は幼少時にそんなような本を見た覚えがあり、思い出そうとしてみる。

……ダメだな、思い出せん。

こりゃ帰ったら、本当に日本史の復習しといた方が良さそうだな。

そう思い、俺は少し足を速めながら階段を下りる。

 

 

 

天子が俺に言ったことは、大体的を得ていた。

アイツは本当にこういうことには察しが良い。

……話があるって言うから、てっきり明久の事かと思ったんだがなぁ

 

 

俺は、昔『神童』なんて呼ばれて思い上がっていた。

上級生よりも成績が良いというだけで他人を見下している様な、どうしようもないクズだった。

あの事件がなけりゃ、俺は今でもそういう人間だったのかもな。

そう、今の一部のAクラスの奴らの様に。

 

今日、あの教室に行って実際にAクラスの生徒を見てきた。

全員がそうだというわけでは無かったが、やはり中には昔の俺のような奴らが何人もいた。

目を見るまでもなく、雰囲気だけでそういう奴らなんだと直ぐに判った。

経験者は語るってか? 皮肉なもんだな。

 

 

 

俺は未だに自分に何が足りないのか分かっていない。

あの頃には無かった力をつけて、『悪鬼羅刹』と呼ばれる程に俺は強くなった。

あの時思った通りに、バカみたいな事を色々とやったりもした。

だが、それでも自分の欲しいものが見つけられない。

 

「俺は一体何がしたいんだろうなぁ」

 

呟いてみても、答えは返ってこない。

天子が言ったように、俺は昔の自分を見返したいのだろう。

だが、それで満足かと言われたら、どうなんだろうか?

その時俺は答えを見つけられるんだろうか?

 

「ああ、クソ! 俺の悪い癖だな」

 

余計なことを色々と考えすぎるのが、俺の悪い癖。

試召戦争とかになら役に立つだろうが、こういう時には邪魔になる。

まったく、あの時それを理解したくせに、結局なんにも変わってねぇのか俺は?

………はぁ、もっとアイツみたいにバカになりたいもんだ。

 

 

そんな風に考えていると、いつの間にかFクラスの教室に近づいていた。

すると、丁度教室から明久が出てくるのが見えた。

俺は明久に声を掛ける。

 

「丁度いい所で会ったな、明久。作戦会議始めるぞ」

 

俺がそう言うと、明久は面白くなさそうな顔をして歩き出す。

何で不貞腐れてんだコイツ?

 

「おい、どこに行く。明久!」

 

俺は呆れつつも奴を追う。

 

「僕に近寄るな。一緒に歩くんじゃない」

「どうした明久。何があった?」

 

そう聞くと、突然明久が立ち止まる。

本当にどうしたんだ?

 

「僕は、僕は! 受けなんかじゃなーーいっ!」

 

そう言って、明久はなにかから逃げるように走り出した。

 

「はぁ?」

 

俺は訳が分からず、また呆然としてしまった。

なんだってんだ一体?

 

 




大遅刻しました!
すみません!

ということでいかがだったでしょうか?
今回は天子と雄二の会話がメインでした。

天子が、雄二の焦りなんかに気がつけたのには一応理由がありますが、今回だけを見たら違和感しか無いかもしれませんね。
ま、それはまたいつか話すとして………

雄二の考えなんかは原作を意識してますが、殆んどオリジナルですね。
ずっと何かを求めているけれど、それが何なのか解らない。
自分が欲しいと思って手に入れてみたけれど、それでも自分の空白が埋まることはない。
本当はすぐ近くにあるのに、気づかない。
うちの雄二はそんな感じです。
まぁ、またおかしいと思った所は修正していきますがね。

さてさて、いよいよ次回はAクラス戦です!
一回戦はいったい誰が出るのか。
そしてどちらか勝つのか!
乞うご期待です。

と言ったところで、また次回お会いしましょう!
さようなら~

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