グッドモーニング,オーバーロード   作:びこーず
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お待たせしました。今回はコキューなんとかさんが頑張ります。


・前回のあらすじ
死を撒く剣団の団長であるラックは協力を要請してきた八本指の提案を断わり、単独でガゼフ達戦士団を叩くべく準備を整えていた。
しかしそこに急を知らせる見張りが転がり込んでくる。



憑物

「以上がエ・ランテルの詳細と三国の兵力の詳細です。」
「ふむ。悩ましいな。」
ナザリック第九階層の会議室に集まったプレアデス以上のシモベとモモンガ達はゼッドの報告を確認していた。
「まとめると三国の精鋭を皆殺しにしても当初の想定を下回る可能性があるのか。」
彼らが討議しているのはナザリック強化の作戦"ラグナロック"の詳細だった。
当初の計画では三国の精鋭をある程度殺すことで経験値を確保する予定だったが、プレアデスや守護者の持ち帰ったデータでは圧倒的に基準を満たす人物が足りなかった。
「やはりビーストマンを襲撃した方が簡単なのではありんせんか?」
シャルティアはエントマが持ち帰ったビーストマンの情報を重視していた。
人間よりも遙かに個として強く数もいるビーストマンは格好の食材とプレアデス達もうなずく。
モモンガは机の上で指を動かしながら考えをまとめる。
「確かにビーストマンは経験値としておいしい。であればこそこの世界のレベリングシステムが明らかになってからにしたいのだ。それに人間を押さえる事は経験値とは別に情報網強化としても必要になるだろう。早期の警戒網と強化は並行して進める方が良い。」



モモンガ達が調べた範囲でもこの世界のレベリングはまだ解明されていない点が多々ある。
同じレベルのゴブリン二匹を撲殺した際は最初に殺した方が経験値が高く、逃げるもう一匹を殺した際は経験値が若干目減りしていた。
さらにある程度レベルが近くなると取得できる経験値が割り増しされている。
逆に開きがありすぎると経験値が入らない。

特に問題なのは魔法で殺す場合だ。
完全不可知で接近して、即死魔法を使った場合に経験値がほとんど得られなかったのだ。

これらを総合してデミウルゴス達が出した仮説は"敵意"のような意思が経験値の量に関係しているという説だ。
デミウルゴスはあえて"生への渇望"という言い方をしているが、つまり両者の感情が激しくぶつかり合うほど殺した際の見返りが大きいということだ。
エンリのレベルが急激に上昇したのはまさにこの点にあるとモモンガたちは考えた。


これに頭を抱えたのはモモンガやコキュートス、シズといった感情があまり変動しない面々だ。両者の感情がキーになる以上は彼らの経験値効率は低くなってしまう。
ましてや即死攻撃や召還した下僕に攻撃させるモモンガはそれらを封印する必要がある。


「そのレベリングシステムの解明と経験値量確保のために一つ提案があります。」
ゼッドはコキュートスを見据えて話を始めた。



『"感情ヲ煽レ"、私ニハ難シイ試練ダ。』
当初この作戦を説明された際、コキュートスは困惑した。
煽るような挑発行為は武人として設定されたコキュートスにとっては相手を侮辱する行為であり、褒められたものではない。
だからという訳ではないが、感情を操作する意味ではデミウルゴスのような存在が適任ではないかと考えたのだ。
それを説明役だったデミウルゴスに相談した所、彼は少し驚くと予測していた様な返事をする。

「コキュートス、これは御方の勅命です。更にその質問も予測されていたように、この相手はコキュートスにこそ相応しいともおっしゃいました。すべて御方はお見通しなのです。」
コキュートスは驚き、自らの浅慮を恥じた。自分は剣でありただ御方の敵を切り捨てれば良い。
自分の考えの遙か先を見通して御方は考えておられる以上、苦手とする分野で指名した理由は以前から掲げている“変化”を期待しての試練なのだと考えれば全て辻褄が合う。
「スマナカッタ、勅命トアラバ全力デ答エルノミデアルトコロ。」
「構わないさ。さっきも言ったとおり、こうなることを御方は予測しておいでだ。多分これから私が君を一杯誘うこともお見通しだろう。今回の任務で役に立つかわからないが一案を説明させてくれ。」
そういってナザリックに唯一のバーへ向かうデミウルゴスに表情のないコキュートスが付き従うのだった。


任務:野盗の塒に襲撃を仕掛け、伝言を伝えよ
付随:彼らの戦闘意欲を折らないように交戦すること


コキュートスにとって最難関は付随の項目である。
もし自分の手で人間の首を握ればたやすく首の骨が折れてしまう、それを締め上げろと言うのは案外むずかしいものである。
さらに彼はこの作戦においてナザリックの威信を一身に背負っている。格下相手に一傷でも許す訳にはいかない。

『デハ行クゾ。』
『お任せを。コキュートス様。』



「ん?」
最初に異変を感じたのは森を出ようとしているホワイトだった。
見上げれば上空を飛ぶ鳥の気配がかろうじて確認できる。
夜に飛ぶ鳥は不吉の証。何かから逃げる以外は寝ているはずだからだ。

咄嗟にレンジャーの心得がある部下の一人が地面に耳をつけ静かに報告する。
「随分先から木の倒れる音。複数向かってきます、トロールの群れ?」
木の倒れる音は矢継ぎ早に上がっており、それに遮られて足音は聞こえないが一体ではないしゴブリンなどでは木を倒す程の力はない。それを総じての判断であった。
ホワイトは部下の指し示す方向に死を撒く剣団の塒がある事に気づくと部下の一人を手で呼ぶ。
「剣団のアジトを確認に行け、状況を持ち帰って接触はするな。」
頷いた部下はスッと木陰に消えるといつの間にか木の上に登ってアジトの方向へと消えていった。さらに一人に向かったホワイトは淡々と告げる。
「お前も向かい、ブレインが負傷しそうなら助太刀に入れ。それ以外では手出しするな。」
消えた二人を目で追った後、巡ってきた幸運にニヤつきながらホワイトは近くの岩にどっかりと腰を下ろす。

「俺達はここで待機だ、あいつらに被害があれば再交渉のしようがある。」



剣団の緊張はホワイトの想像よりも大きかった。
準備を終えたラックが外に出て見渡すと、森の動物やモンスターが我先にと逃げていく洪水が確認できる。
「おいおい、トロールの大移動か?」
偵察の怯えようからしてできる最大の対策を施したつもりだが、この光景を見ると冷や汗が流れる。
それを悟られないように煙草に火をつけながら木より僅かに高い見張り台への梯子に足をかける。
「団長!危険です!」
慌てる手下にいつもの笑顔を見せながらラックは煙草をふかす。
「まずは相手の姿を拝見しないと始まらねぇ。」
そう言ってさっさと登る団長を見た手下は落ち着きを取り戻して周りに喝を入れていく。
こういった好循環を無意識にもやってのけるところが団長の団長たる所以でもある。
ブレインは頬をかきながら眼前の闇に目を凝らす

一分も立たない内に団長から声が上がる。
「おいでなすった!赤の目印、速いぞ!」
目印は塒からの距離を示すために立てている棒である。
赤ということはかなり接近している事を示している。
ブレインは入り口を塞ぐように立ち、軽く腰を落とす。
短い呼吸で精神を整えリラックスすると徐々に自身の周囲が昼間よりも明るくなるように感じる。<領域>が発動したのだ。
たとえ騎兵のランス突撃ですら見切ることが可能な領域を無事に抜けた者は未だない。

剣団の手下はそれぞれの持ち場に付いて息を潜め、団長はブレインの領域を避けて後ろに立つ。
地響きと木々の擦れる音が近づくと、突然森の奥から声がした。

「にんげん~!ヘルプでござる~!!」

次の瞬間森影から飛ぶように現れたのは巨体に蛇の様な鱗の生えた尻尾。頑丈そうな体毛に覆われた魔獣だった。


「某は森の賢王。とにかく手を貸すでござる!」


手下の緊張はピークに達していた。こんなにも強さがにじみ出ている魔獣は見たことがない。
しかし噂には聞いていたので、森の賢王という魔獣のテリトリーを避けてこの塒を構えたはずだった。
あの鋭利な爪にかかれば自分たちの剣すら容易に両断されてしまうだろう。

団長は相手を刺激しないようにゆっくりと、丸腰を示すために手を上げながら賢王に近づく。
「待ってくれ森の賢王殿!争うつもりはない。俺はここの代表でラックという。手を貸すにしてもまず説明をしてくれ。賢王ならわかるだろう?」

森の賢王は何かに怯えているのか、必死に顔を上げて鼻をひく付かせている。
「そんなに時間は無いでござる。恐ろしい化物が近づいて来るから迎撃に手を貸すのでござる。」
「相手は何だ?トロールか?」
ブレインが刀の近くに手を浮かせたまま問いかける。
賢王は首を振ると森の奥を見据える。
「知らない化物でござった。某よりも大きい、青い甲羅と刀を装備した虫のような化物でござる。」

偵察と情報が一致した事で、利害が一致していると考えた団長は頷きながら答える。
「わかった。森の賢王殿、加勢しよう。」
「正気か?こんな化物に。」
小声で警戒するブレインだったが、たしかに殺気を感じない。
「コイツが恐れる化物が来たとして、援軍無しで戦えると思うか?」
同じく小声で返した団長は再び森の賢王に向かう。

「森の賢王殿、ここは俺達の塒で罠も充実してる。ここに誘い込んで迎撃するので賢王殿はそこの剣士と一緒に相手の攻撃を防ぎながら後退してほしい。」
いくら強大な力でも作戦がなければ協力する意味がない。
それを理解したのか、森の賢王も頷いて答える。
「了解したでござるよ。某はハムスケと呼ぶでござる。」
「感謝するハムスケ殿。ところでその名前は?」
妙に気の抜ける名前にハムスケは自慢げに鼻を鳴らすとブレインの隣に並びながら答える。
「某の殿に頂いた名でござる。」
「良い名付け親がいたのだな。」
にこやかな会話は近づく地響きと木のしなる音でかき消される。

「ハムスケ、俺の周りには立たないようにしてくれ、気が散る。」
ぶっきらぼうに告げるブレインだったが、ハムスケは距離を取って並ぶ。
「そなたはどこか懐かしい感じがするでござる。某の尻尾に巻き込まれない様に気をつけるでござるよ。」



木の倒れる音が近づき、目の前の枝が揺れている。
ゴクリと息を呑む全員の前に最後の木が倒されて、相手の姿が月明かりに照らされる。

人の倍近くある身長、二足で歩き、四本の腕がある青い虫の化物。
その一本の腕には骨が蔦のように絡みつき、二の腕の辺りに紫の宝石が見て取れる。その先には人間の背丈ほどの大太刀が握られていた。
ブレインはその刀の美しさに一瞬呼吸を忘れる。

その長さでは考えられない細身に波状の文様が浮かんでおり、その境目は月明かりを紫色に反射して、金属だと言うのにヌラヌラと光って見える。
恐らくこれで木を切り倒してきたのだろうが、刃こぼれの一つもない。
その素晴らしい曲線は抜き放ち、相手を両断するまでを考え尽くされた芸術であり、月明かりを受けて煌めく刃は吸い込まれる様だ。

「おいブレイン、物欲しそうなところ悪いが、アレを奪うことが目的じゃないからな?」
ラックが冗談交じりにブレインを現実に引き戻す。
「わかって・・・」

「森ニ巣食ウ有象無象共ヨ。」

ラックは頭をかきむしりたくなるような不快な音が声であると認識するまでに一瞬かかかった。
目の前の怪物は二本の腕で大太刀を構えると名乗りを上げる。
「我ガ名ハコキュートス。コノ名ヲ忘レズ、我ガ刀ノ糧トナルガイイ。」
厳かにそう言い放つと上段に構えた刀を一振りする。
上から下へ、一筋の残光が走り、紫の直線が空間にひかれた様に見えた次の瞬間。

ピィッ

一瞬の疾風は入り口を固める全員を通り抜け、まるで刃が飛んてきた様な鋭さに全員の呼吸が止まる。
もし間合いにいたとしてあの振りを受けられただろうか、否。盾を持ってしても盾ごと真っ二つに切り裂かれるイメージが強く焼き付く。

ブレインは相手の技術が自分と同等であると悟り、驚愕する。刀だけでなく全身の動きが対象を切り裂くべく無駄のない動きを連動させている上に力強い。
周りの手下とは違って受けられない剣ではなかったが、まともに受ければこちらの刀が粉々になるだろうとは思った。


微動だにしない周囲を睥睨したコキュートスは落胆する。
聞いた話では目の前の剣士が居合を使うそうだが、今の“他人任せ”の振りで驚くようではたかが知れている。

「滾ランナ・・・」

その一言がブレインの頭を激しく打ち据える。
『ヤツの目と同じだ。』
同情のような、哀れみのような。
御前試合の直後にかけられた言葉。“幼い頃から正当な剣の指導を受けていれば”
これはガゼフが対戦相手の剣があまりに我流であり、癖がある事を指摘したものだったが、ブレインにとってはこの上ない屈辱であった。
その時の彼の目を思い出せばこそ、命を晒した特訓の日々さえ可愛いもののように思えた。

「思い知らせてやる。」

そうつぶやいたブレインは領域を発動させたまま一歩前に出る。
篝火と月明かりの中、倒れた木から飛ばされた木の葉がその前にゆらゆらと落ちてくる。
それが領域に触れた瞬間。一枚の葉は4つに分かれて散った。
いつの間にか抜き放たれていた刀を再び回して鞘に戻しつつブレインはジリジリと間合いを詰めていく。

「フム。」
コキュートスはそれに応じるように大太刀を大上段に振りかざしながら同じく間合いを詰めていく。
この構えは横に薙ぐ居合を得意とするブレインに有利な構えである。
胴体を晒したコキュートスは先程の居合でブレインの剣をある程度見切ったうえであえて攻撃させようと誘っている。

「ブレイン!作戦を忘れるな!」
焦ったのはラックだ。当初の後退しながら罠にかけて疲弊させる作戦が台無しになる。
相手の歩みを遅滞させるブレインやハムスケがいなければすぐに突破されて全滅だ。
「わかってる。一振りだ。」
そう返したブレインの目には相手しか写っていない。ラックは舌打ちすると手を挙げる
「用意しろ!ブレインには当てるなよ。」


お互いに近づく中、会話はない。
ブレインは頭のなかで戦闘を組み立てる。
相手の大太刀は懐に飛び込まれると弱い。そのために間合いギリギリで一太刀目が来る、そして避けられた際にはもう一太刀の返しがある。
この二つを攻略さえすればブレインに勝機が巡ってくる。
彼の刀と相手の足の太さから考えればコキュートスに肉薄して一閃を見舞わなければ切り落とせない。
『大上段から言って一太刀目はそのままの振り下ろし。』
ブレインは迷うこと無く振り下ろしにベットする。そして命を賭けてにじり寄る。

ガチッ

コキュートスはそれをあざ笑うかのように、顎を鳴らす。
それが合図に鋭い振り下ろしがブレインを襲う。

刃が領域に入る瞬間、ブレインは想定通りに刀を一閃。一の太刀を防ぎ切る。
しかし相手の剣圧が予想以上に重く、手に電流のような痛みが走る。
『本気で受け止めるのは10回が限度だな。』
そう考えつつブレインは流れる水のように素早く間合いを詰める。

横に打ち払われた刀を返したコキュートスは二の太刀を袈裟斬りとして放つ。
その動きも読んでいたブレインは早めに抜刀して相手の剣を後に流すように頭から腰の後へと構える。
これを流せば相手の腕は自分の後へ流れて足はがら空きになるはず。

そう思った瞬間、目の前の大太刀が不思議な軌道を描く。
まるで腕が伸びたかのように刀の中ほどを中心に回転し、斜め上からの突きとして襲い掛かってきたのだ。

懐に飛び込んだブレインからは見えなかったが、ラック達には見えた。
腕に絡んだ骨が繋がったまま手の先へ伸び出し、結果として刀の方向が変わったのだ。
ブレインの構えは相手の剣閃をそらすための構えで、刺突に関しては無防備であった。
意外なところで賭けに負けたブレインは死を覚悟する。

ギイィン

「惜しかったでござるな!」
激しい金属音とともにコキュートスの刺突が弾かれる、それは蛇のような尻尾の突きであった。
助かったブレインは即座に身を引くと、コキュートスも追撃を諦める。
距離を取るブレインを見たラックは手を振り下ろす。
「撃て!」
入り口に備えられた巨大なボウガンから唸りを上げてボルトが空中を疾走する。
一直線にコキュートスを捉えたボルトの先は不自然に丸い形状をしていた。
「フン。」
同時に迫るボルトをコキュートスは横薙ぎ一閃で全て両断する。
しかしそのボルトが地面に落ちると大量の煙を吐き出したのだ。
更に入り口にいためいめいが袋を投げ込み、入り口を煙で包む。
「よし、移動だ!ブレイン!」
そう言ってラックはブレインの襟を掴んで走る。
それを振り払ってブレインとハムスケも後退する。
「・・・助かった。」
ブレインはそれだけ呟くと洞穴の中へ走り込んだ。
ハムスケはそれを聞いて少し首を振ると同じく駆け出す。
「人間というのも様々でござるなー。」


「退イタカ。イヤ、罠ニ誘イ込ム手ハズカ。」
コキュートスは先程の戦闘を思い返してブレインの思い切りだけは評価していた。
この振り下ろしは最初からそれに備えなければ受けきることはできない。
「フム、人間ノ評価ヲ少シバカリ改メル必要ガアル。シカシ・・・」
コキュートスは右腕に目をやる。二の腕に装備された宝珠が紫の光を返していた。
デミウルゴスの提案にのって特別に魔化されたこの武器を使ってみたが、刀が不自然に動くのはあまり良い気分ではない。
「所詮ハ死ノ宝珠ヲ使ッタ戯レニスギヌカ。」
彼は自身の腕で剣を振るえない事を少しばかり後悔していたが、それを表には出さなかった。



経験値システムに関して色々捏造してますが、細かいツッコミは許してください、おねげぇしますだ。

今回はミギーこと死の宝珠さんが登場です。
ブレインはご機嫌斜めなコキュートスに一矢報いることはできるのか!
次回をお楽しみに。