20xx年x月x日
朝、誰に起こされるわけでもなく、自然と目をさます。
時計に目をやると午前10時を指していた。いつもならもっと早くに博士が叩き起こしに来るのだが、今日は自分のタイミングで起こしてもらえた。
バッチリ熟睡することができ、体も軽い。
「・・・・よし!」
俺はベットから起き上がり。
椅子に座り、紙とペンを準備し
「お父さん。お母さん。先立つ不幸を・・・」
遺書を書き始めた。
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「失礼するぞ。準備はできたか?」
扉から博士がノックも無しに入ってくる。
「・・・・できたぞ。」
俺はあからさまに低いテンションで返事を返す。
「そうか・・・もう貴様ならわかっていると思うが、今日担当してもらうSCPのオブジェクトクラスは【safe】でも【Euclid】でもない。オブジェクトクラス・・・【keter】だ。」
「・・・・・・・。」
これが俺のテンションが低めの理由だ。
皆はもう知っていると思うが、例外を除いてオブジェクトクラスは大きく3つに分けられている。
一つ目は【safe】。
収容方法が確立しており、比較的安全なクラス。
二つ目は【Euclid】。
収容方法が確立しておらず、超危険なクラス。
そして3つ目は・・・【keter】。
収容不可能。もし施設の外に出たりしたら『人類』の危機になるであろうSCPにつけられるクラス。
こうやって叩き起こされる事なくゆっくり寝れたりした日はだいたい『体力万全の方が長くデータ取れるからね☆』みたいな理由があり、十中八九【keter】を担当させられる。
ここの財団そんなヤベェのがいんのかよ!と思う奴も多いと思う。だがそんな君たちにこの言葉を送ろう「メチャクチャいる。」
俺もそんなに多くは担当したことがないが、確実に二桁は担当している。
更に言うと、その殆どで俺は死にかけている。
だが【keter】だからと言って今すぐヤバい奴だけではない。俺が担当したときは運良く活動していなかったとか、危険性がまだなかったなんていうのもある。
「ちなみになんて奴なんだ?」
遺書を書きはしたものの、まだ助かる可能性だってある。今までだって何とか生き延びてきたんだ。相手によってはもしかしたらなんとかなるかもしれない!
「【SCPー682 不死身の爬虫類】だ。」
「イィヤァあだああああああああ!!」
前言撤回。最高にやばい奴だった。
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「はぁ〜〜〜・・・」
思わず何度目かもわからないため息を吐いてしまう。
「そう何度もため息を吐くな。こちらまで憂鬱になる。」
博士も暗い顔で話しかけてくる。いつも死んだ魚の顔をジャガイモに貼り付けたような顔面をしているが、今は腐った卵を焦げたフライパンに落とした時の様な絶望的な表情をしている。
いつもなら博士はニヤニヤ俺たちが苦しむ様を楽しむ所だろうが、【keter】ばかりはそうも行かない。
博士たちが余裕を持てるのには理由がある。
それは『自分の安全が保障されている場合』だ。
しかし【keter】は『収容不可能』なのだ。形だけの収容をしてはいるものの、基本的には意味がない。つまり、いつ脱走するかは気分次第なのだ。
ここで簡単な問題だ。
化け物の近くにいる奴と遠くにいる奴。どっちが死ぬ可能性が高い?
Dクラスの俺はもちろん、職員も監視、観察が必要になる自然と近くの監視室にいなければならない。
まあ、そういう事だ。
「あぁ、おい。」
「何だ?」
博士が俺に急に話しかけてくる。
「お前は【SCPー682】について知っているみたいだな。なぜ知っている。」
いやっ・・・知ってるもなにも
「俺【682】を2回担当したことあるし。」
「は?」
博士がアホヅラを浮かべる。こいつのこんな間抜けな顔は初めて見たので心地が良い。
「じ、じゃあ貴様は二度【682】の前に立ち、生きて帰ったというのか?」
珍しく博士は取り乱している様子だ。
あー・・・確かに普通の人間がアレの前に立って、まさか生還するなんて思わないよな。
「うん・・・生きて帰ったというよりは、死んで見逃された感じだけどな。
「はあ?お前は何を言って・・・?」
「ほら着いたぜ。あんたにはあんたの仕事があるだろ?お互い頑張ろうぜ。」
博士と駄弁っているとある扉の前に着いた。
その扉は恐ろしく重厚な作りをしており、監視が二人ほど扉の前に立っている。扉には単純なつっかえ棒から、構造が全く分らないようなロックが数多にかけられていた。
【Euclid】の【173】と比べても、こちらの方が遥かに強固である事が分かる。
ただ俺は知っている。
【682】の前ではこの設備が意味をなさないことを。
「・・・待っていました。」
監視が話しかけてくる。その目には憎悪がこもってる。
俺なんかしたっけ?
「・・・ここ3日程【682】が貴方に合わせろと暴れていまして・・・奴は収容室からは出ていませんが博士が2人、職員が5名程食い殺されています。ここの監視は私が3人目です。」
「な、なんかすまん。」
「・・・さっさと終わらせてください。」
そう言うと監視はカードキーのようなものを取り出し、壁に設置されたパネルにカードキーを当てると扉が横にスライドして開いた。
あんだけロックしてあるのにカードキーだけかよ・・・
「・・・・意味がないですから。」
こいつも心を読んできやがったよ・・・
そんな顔に出やすいのかな、俺?
そんな事より、こいつも無駄だって分かってるんだな。
なぜ無駄なのかはすぐ分かる。
俺は監視の横を通り部屋に入る。
それと同時に強烈な激臭が漂ってきた。
これは【682】の収容方法に関係している。
【682】は縦5メートル、横5メートルの強酸で満たされたプールに沈められている。そのせいでこの部屋にはいつも激臭が漂っている。
あいつはまだ出ていない。後ろを見るとすでに扉は閉められている。
もう、外には出れない。
「・・・・・ぅし。」
俺は覚悟を決め息を大きく吸い込み。
「クソトカゲェ・・・出て来いヤァ!?」
全力で叫ぶ。 部屋の中で俺の声は何度も反響し、響き渡る。
すると
酸のプールからコポコポと気泡が浮かんでくる。
俺は気泡が出てる位置をじっと見つめる。すると黒い影がだんだんと浮かんでくる。俺の動悸も影が大きくなるにつれて加速する。
思わず逃げてしまいたくなったが目を離したら余計に危険だ。俺は体の震えを止め影を睨む。
陰が最大限大きくなり、水面が膨らんだと思った瞬間
パァアン!
弾けた。
出てきたのはトカゲだった。
ただしサイズは4メートル近くあり、見た目は酸に浸かっていたせいで至る所の骨が見えている。しかし恐ろしいことに全身の酸によって溶かされたであろう傷がみるみる内に回復していく。
そう。この再生力こそ奴の不死身たる所以。
こうして俺の前に現れたこの巨大な爬虫類こそ、俺が知る限り最も強力なSCP。
『よく来た・・・忌まわしき男。』
「・・・おはよう。だいぶヤンチャしたらしいな。」
【SCPー682 不死身の爬虫類】だ。
今回使用させていただいたSCP
http://scp-wiki.net/scp-682
著者:Dr Gears 様
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