ちなみに今回はコメントにあったSCPを採用してます。よければリクエストにも答えようと思います。
20xx年x月x日
SCPー173 検査後
俺はSCPー173に襲われ気を失ったのか、気がついたら通路のベンチの上に寝かされていた。
「次の任務はこいつだ。」
例の博士からそう言って俺に紙の束が渡される。
「……」
起きて2分で次の仕事を渡される。こんなブラック企業はなかなかないだろう。
せめてもの抵抗で俺はガン無視を決め込む。立場にこれだけの差がなければどつきまわしていた。しかし、そんなことしたら何されるかわかんないから黙って資料に目を通す。
ちなみに俺の首には、SCPー173に首を掴まれたときにできた赤黒い痣がくっきりと付いている。正直、呼吸をするだけでもズキズキ痛む。湿布くらいよこしてもいいと思うんだ。
「先程は詳しい説明が無かったが、まあ気にするな。命があるだけでも良しと考えてくれ。」
博士はDクラスが負傷したときの定型文をなんの感情もなく口にする。
かまってられないので、俺は俺で資料に書いてある情報を簡潔にまとめる。
クラスは【safe】
SCPー020ーJP 【翼人】か。
でほかには……なんか読むのもめんどくさいな。
適当に読み飛ばしていると一番最後に任務が書いてあった。
一文をみて固まる。
今、声を大にして言いたいことは「こいつら頭イってんじゃねぇの?」
「思ったことは口の中に止めておくことをオススメする。」
声に出てたみたいだ。しかしそんなことは関係ない。
「…………おい」
博士を睨みつける。
「なんだ?手短にすませろよ。」
博士は資料と思われる紙の束をペラペラとめくりながら気だるそうに答える。
「今日はSCPを2体相手にしなきゃいけないとか、適当な謝罪とか、お前の顔面を見飽きたとかはもうどうでもいい、慣れてるからな。」
「おい。最後のはただの嫌味ではないか?私はまだ君とは2回しかあっていないのだが?」
そんなことはどうでもいい。
思いっきり博士の顔を睨みつけながら資料を突き出す。
「《SCPと3日間の間、寝食を共にする。》てどういうことだよ!?」
博士は少し驚いた顔をしたが、直ぐに薄ら笑いを浮かべる。
「ああ。めでたいことだな。我がSCP財団でも初めての試みだ。君はその体験ができるんだ、とても名誉なことじゃあないか。それにオブジェクトクラスは【safe】なんだろ?そんなに気負う必要はないさ。」
(こ、このやろう……!安全だと思うならわざわざDクラスを使うなよ!?)
俺は知っている。【safe】が別に『安全』ではないことを。
【safe】とはあくまで、『収容可能』なだけなのだ。
『収容可能』と『安全』は全く違うということに、ここにきてから嫌という程知らされた。前のトマトもいい例だ。
俺は少しでも生存率を高めるために、資料に目を通すことにした。
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結果
かつてないほどヌルい仕事のようだ。
〜移動〜
とある扉の前にたどり着く。扉にはSCPー020ーJPと書いてある札がかけられていた。
一応施錠されてはいるが、やはり【safe】クラスだからかSCPー173に比べたらかなりゆるい警備だ。
「なあ。」
博士に呼びかける。
「どうした。」
博士は退屈そうな顔でてきとうに返してくる。
無気力な顔を見る限り、今回の実験が退屈で仕方ないのだろう。博士もついさっきこのSCPについて知ったみたいだし。
「本当に俺でいいのか?」
なぜ俺がこんな心配をしているのかというと、SCPー020ーJPは『両手が翼なだけで体の弱く、知能の低い、ただの少女』だからだ。
俺は仮にも死刑囚だ。何かやらかすとかは考えていないのだろうか?
「お前は今『自分が何かやらかすとは考えないのかこのアホどもは』とか考えているな?」
なん……だと……!
「こいつ……心を読んだ……!」
博士は俺を見てフッと鼻で笑う。
「顔にそう書いている。……私は、まだ君と会って2日しかたっていないがなんとなく君が選ばれた理由は分かるぞ?」
博士は自信満々の顔でそう言ってくる。
「理由ってなんだよ?」
博士は俺を指差す。
「君はもう折れているだろう?」
一瞬固まる……言葉が出なくなる。まるで自分の部屋に土足で上がられたかのような不快感が襲ってくる。
しかし……博士の目を見て力を抜く。
(……まあ、考えてみればそりゃそうか。)
口を開けようとしたときに横から声がかけられる。
「開錠はした。すぐに入るように。」
「ん?おう。」
監視員に連れられ部屋に入る。
扉が閉まり切る前に振り返り博士の方を向き一言。
「あんたもな。」
そして扉は閉まった。
「さてと……」
部屋の中には机と椅子。簡易トイレ、ベットがあり、少々の木が生えていた。部屋の真ん中には10代前半ほどに見える少女がいた。
ある一点を除いたらどう見てもただの女の子だが、両腕が鳥のような翼になっていた。
見た感じ俺と同じ日本人のようではある。
少女は不思議そうにこちらを見ている。
特におびえた様子はないので、人には慣れているみたいだ。
何も言わずこちらを見てくる少女に少々きまずさを感じる。
(どうする……おれから話しかける方がいいのか?)
今まで年下の女の子と話したことなどないので、中々言葉が出ない。
「……?」
少女が首をかしげる。やはり急に来たおれを不審に思っているのかもしれない。
「き、今日から君と3日間一緒に住むことになった結城 鬱て言うんだけど……よ、よろしく。」
変に緊張してしまい口が回らない。
少女は何も言わずに俺を見つめる。
(ああ……そういえば喋れないんだっけ。)
資料には言葉を話した記録が無いと書いてた事を思い出す。話せないとは書いてないが記録がないなら話せないと考えていいだろう。
少女は結局、俺から視線を外し部屋の奥にある椅子に座る。
俺は俺で少女とは対局の壁に背を預け、座り込む。
沈黙によって嫌な空気が流れる。
(ああ……この任務意外ときついかも。)
少女どころか女性と話したことすら基本無かった俺にはわりときつい任務なんじゃないかと後悔する。
だがしかし
ここで引いたら『女の子にすら話しかけられない童貞』の称号を得てしまう。
俺がそんな不名誉な称号が似合う男な訳がない。
こうなったら、こんなときのために温めておいて俺の圧倒的ユニークなギャグで腹筋爆発させてやる。
「むうんっ!」
「……!」
俺は覚悟を決め立ち上がる。少女も急に立ち上がった俺に驚いてか、こちらを振り向く。
(言うぞ……言ってやる!)
覚悟を決めたというのに動悸が上がり、呼吸も激しくなる。
まだ覚悟が足りない! もっと心を燃え上がらせるんだ!
「はあ……はあ……!」
この程度で息を荒げるな!一秒間に10回の呼吸を意識しろ!
お前はコミュ症でいいのか?否、断じて否!
「お、お嬢ちゃん……今から、お兄ちゃんが、面白いことするからね? えへ……えへへ。」
笑みを作れ!まるで無垢な少年時代に戻ったかのような笑みを浮かべるんだ!
一歩一歩ゆっくり距離を詰める。怖がらせないように忍び足で近づく。
少女が震えているように見えるのは恐らく気のせいだろう。
残り3mほどの距離にまでなった時に覚悟を決め上着とズボンに手をかける。
「エントリーナンバー1番 結城 鬱! 2秒で服を全部脱ぎ去った後に腹芸をします!結城……行きまあああァァァあふん……。」
首に何か当たったと思ったらおれの意識はそこで切れた。
目が覚めてから博士に見せてもらった映像には、涙目でふるえ上がってる少女に変質者の様に近づく男が映ってた。てか俺だった。