でも自分が一番好きなのは2599です。
20XX年X月X日
「おはよう。異常はないか?」
寝ていたところを、隣から声がかけられ目がさめる。
嫌味を言うために体を起こし、隣を見る。
ベッドのそばにはいつか見た博士が朝食を持って立っていた。
「……お母さん、今何時?」
「お母さんではない。午前3時だ。今からSCPの検査を行う。着替えてすぐに出てこい。」
博士はそれだけ言うと、部屋の外に出て行った。
なんの面白みもない回答に舌を鳴らし、朝飯をかきこむ。
(4時間か……かなり寝れたな。)
いつもよりも1時間半ほど長く寝れたおかげか、体が軽い。
朝飯は目玉焼き、食パン(生)、コーンスープ、ミルクだ。
実の所、ここの飯はそこそこいける。ただ、代わり映えのないメニューなので特に感動などはない。
飯を食い終わった俺は作業着に着替え、部屋の扉を開ける。
ドアを出てすぐのところに博士が立っていた。
「Dー4218。準備完了でぅぁぁ……す。」
ビビってるとか思われたくないので、いつも通り欠伸をしながら報告する。
「……ついてこい。」
それだけ言うと博士は、スタスタと歩き始める。
どこ行くかくらい伝えて欲しいものだが、これもいつものことなのでスルー。まあ、博士が直接呼びに来たってことは少人数での作業になるだろう。
「……だるっ。」
「何か言ったか?」
「何も〜。」
「「……」」
少しの間、沈黙が流れる。することもないし博士にちょっかい出そう。
「博士は何食べた?」
「……フレークだ。」
「へー……ところで博士は彼女いる?」
「…………」
「……いないのか。」
「私語は慎め。」
博士を煽りながら移動すること、約5分。
一つの扉の前にたどり着く。
扉の周りには何もなく、あえて言うなら管理室だろう場所に登るための階段だけだ。
扉の前にはDクラス職員が2人。警備員が二人立っていた。
見たことのない場所なので、どんなSCPかは知らないが、警備の状況と長年の経験による推測から【safe】もしくは【Euclid】だと推測する。
「おはよう諸君。君たちの今日の任務はこの中のSCPの排泄物の掃除だ。この中にいるSCPの正式名称は【SCPー173】だ。君たちに言うことは一つ『絶対に目を離すな』。面倒なので説明は省かせてもらう。」
ざっくりと説明を受ける。
もうちょっと詳しい説明が欲しいものだが、『詳しいことは伝えず自然体のままの情報を取る』いつもの常套手段なので、最低限の質問で済ませよう。
「絶対目を離しちゃいけないなら、どうやって掃除をするんだよ?」
「二人が【SCPー173】を監視。残った一人が清掃だ。」
「……了解。」
とりあえずわかったことは『姿を視認さえしていれば恐らく安全』ということだけだが、清掃活動のみということは、ある程度の生態が判明していると思っていい。危険度は低いほう……だと思いたい。
(今日は早く帰れるかもな)
いろいろと考察しているとDクラスの二人組が俺の方に寄ってくる。
片方はロン毛の男、片方はショートボブの黒人。 二人とも見たことある顔だ。
「よお。あんたもここの担当なんだな。」
ロン毛が話しかけてくる。
「まあ、ただの清掃だ。手っ取り早くすませようぜ。」
ボブの方も笑顔で話しかけてくる。
「おう、よろしくな。……清掃の仕方は聞いたか?」
二人とも頷く。
「じゃあ役割決めるか。 監視を二人、清掃係一人。まずは清掃係は俺からでいいから、疲れたら交代しようぜ。」
「「OK」」
二人の了承も得れたので、警備員にドアを開けるように言う。
「監視は行っているので行動次第によっては罰を受けてもらう。気をつけるように。」
「りょうかーい。」
博士に対してプラプラと手を振り、部屋の中に入る。
部屋に入った瞬間目に入ったのは、床に広がる無数の赤黒いシミとそれを出したであろうSCPの姿だった。
そのSCPは鉄筋コンクリートでできたような見た目をしており、体毛などは全くなかった。顔にスプレーか何かでペイントしており、動く気配は全くない。
見た目はSCPの中ではマシな方だが、本当に動かないので気味が悪い。
(直接何かしてくるんじゃなくて、同じ空間にいると発動するタイプのSCPか?……さっさと終わらせるか。)
■■■■博士サイド
「Dー4218、Dー555872、Dー365748。入室確認しました。」
「分かった。監視を続行してくれ。」
Dクラスが全員収容所に入ったのを確認し看守に指示を出す。
Dクラスの男どもは特に問題なく作業を始める。滞りなく進むのは良いことだ。私が楽で済むからな。
あいつらはクズがゆえによく問題を起こす。そんな奴らの担当をするのは非常に面倒で私は好まない……まあ、中にはそんな問題を起こしたクズへ■■■の処置を与えるのが好きな奴もいれば、自分の✖️✖️✖️✖️にする奴もいるがな。
「はあ……この仕事辞められたらどれだけ楽か。」
ここはブラック企業だ。
毎日毎日Dクラスのお守り、危険生物の観察、休暇もない。給料はとんでもない額だが、まず外出が許されない。
というよりSCPについて知りすぎてしまったため、辞めるにしても〇〇〇〇の処置を受けるだろう。
「……早く部屋に戻りたい。」
俺は椅子に腰掛け、テーブルに置いてあったコーヒーの入れてあるカップを手に取り口に運ぶ
「は、博士! Dー4218がっ!?」
看守が急に大きな声を出す。
「ん?どうしぶふぉっ!?!?」
「ヘアッ!?」
そして看守に盛大にコーヒーを吹きかけた。
しかし、そんなことは気にしていられず、モニターに視線を釘付けにする。
「と、止めますか?」
本来なら止めるべきなんだろうが……
「……いや、続けろ。 久しぶりに笑えることをしてくれる。」
俺はこの施設で数少ない珍場面を目に焼き付けることにした。
結城 鬱 (Dー4218)サイド
「(ゴシゴシ)落ちねーなぁ……この汚れ。」
俺は一生懸命磨いていた。
(▪️$▪️)\ (・ω・=)ゴシゴシ
SCPー173の顔面を。
床の汚れはすぐ落ちたのに、こいつの顔についてる汚れが全然取れない。あんまりにもしぶといのでイライラしてきた。
「おまwあぶねーぞw」
「あぶねぇってw」
ボブとロン毛は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
俺がこんなにも頑張っているのに失礼な奴らだ。
しかし、俺はこんなときのために覚えていた【汚れ落とし48の秘儀】を行使して全身全霊を持って汚れ落としにかかる。
・
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『ご苦労。もういいぞ。』
両足にたわしを挟んで大回転をする38手目でせめている時、急にスピーカーから音声が流れる。
「ゼェゼェ……ま、まだ、汚れが。」
『いや、それは油性だから落ちない。いいから離れろ。』
「…………おまっ。」
大幅に体力を消耗したせいか、それともわかった上で20分以上放置した激しい怒りによってか知らないが目眩がする。
仕方ないので俺は、散らかっているタワシやモップを拾い上げトボトボと部屋の出口に向かって歩く。(ちなみに他の二人はすでに出口付近に立っており、SCPの監視をしている。)
『最後に命令がある。』
またもスピーカーから声が流れてくる。
これ以上俺に何をしろというのか、流石にもう体力が無いんだけど。他の二人も面倒くさそうな顔をしている。
『そこで全員《瞬き》をしろ。』
「「「……はあ?」」」
声が綺麗にハモった。
俺も長いこと働いてるけど、いままでの中でもトップクラスに馬鹿馬鹿しい命令だ。
「瞬きだけでいいのか?危険性は?」
『そこなら恐らく問題ない。タイミングは任せる。それではよろしく頼む……ククッ。』
そう言うとスピーカーはブツッと音を立て声は聞こえなくなった。
「……どうする?」
ボブが俺の顔を覗き込んで聞いてくる。
皆最初は苦笑いだったが、余りにも不気味なのでためらっているようだ。
「まあ、やるしかないだろ。安全……かどうかは分からんけど、しない限り出してもらえないだろうし。」
俺は投げやり気味に二人に尋ねてみる。
「それもそうか……。」
ボブもロン毛も納得してくれたようだ。こいつらも死刑囚なだけあって肝が据わっている。
俺らはSCPー173の方向を向いた。
一度ゴクリと唾を飲み込み掛け声をかける。
「いくぞ……せーの。」
暗転
からの
「「「ッッッッッッ!!!???」」」
173の顔面ドアップ
俺たちが瞬きをした瞬間に、確かに部屋の角にいた173が移動してきた。
俺たちの目の前に。
それだけではなく173は手を俺の首に回していた。
その手は無機物らしい見た目の通り異様に冷たく。しかし怪物らしい殺意が手から伝わってくる。
ああ……こいつは間違いなく。
(【Euclid】だ……)
ドタっ
「「4218が倒れたぁ!!?」」
【SCPー173 彫刻ーオリジナル】
SCPー173はコンクリートと鉄筋で構成された彫刻のような形をしています。顔の模様はクライロン社製のスプレーです。SCPー173は誰かに見られているときはただの彫刻です。しかし、実際には生きており非常に好戦的である。
SCPー173から目を離すと高速で対象に近づき、首を絞めるか首をへし折るかの方法で殺害します。瞬き程の短い間でも目を離すと攻撃されます。
SCPー173はコンテナに保管されており、コンテナに入らなければならない場合は、必ず3人以上で入室してください。
コンテナ内のシミは血と排泄物の混合物です。職員は定期的に清掃してください。入室した職員のうち2人は常にSCPー173を注視していてください。
死亡例は■■■人です。