Dクラスにも休日をください。   作:くるしみまし

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不定期投稿


SCPー504

「おきろ。異常はないか?」

 

無機質な声が部屋に取り付けられているスピーカーから聞こえてくる

 

「……Dー4218。今起きたよクソッタレ。」

 

俺は上体を起こし、ため息とともに頭をかきながら悪態を吐く。

 

「好戦的ということは、まだ余裕があるということだ。実に素晴らしいじゃないか。それはそうとして、いつも通り4:30までに食堂集合だ。遅れたらそれ相応の罰が降るので気をつけること……以上だ。」

 

するとブツッと音がなり、声は聞こえなくなった。

 

俺はベッドを下りながら机の上にある時計に目をやる。4時を指している時計の針を確認し二度寝という淡い夢は捨て、顔だけを洗い部屋から出る。

 

俺はなんの面白みもない通路を、目にひどいクマをつけ、ボサボサの髪のまま歩き始めた。

 

俺の名前は結城 鬱(ゆうき うつ)

ここは『SCP財団』

 

『SCP財団』とは地球上の異常な物品、存在、現象を確保、収容、保護を専門として活動している秘密組織……らしい。

ちなみにここでは、それらの事をまとめて【SCP】と読んでいる。

 

こいつら曰く『我々は秘密裏に、しかし世界的に活動している』とか『我々のおかげで人は暮らせている』とか『人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない』だとか大層なことを言っている…要は頭のオカシイ集団だ。

 

ちなみに俺が『らしい』という言い方をしたのには理由がある。

 

俺はここの職員ではなく、何も情報を知らされていないからだ。

 

いや…正確には、一応ここの職員ではある。

ただし俺はここで言うところの【Dクラス職員】。元死刑囚だ。

 

先ほども言ったがSCPとはこの世ではありえないような異常なものばかりである。だからこそSCPを観察する上で危険は付き物であり、貴重な職員を危険には晒すことはできない、かといって一般人を使うわけにもいかない。だったらもともと死ぬ予定の死刑囚使えばいい。そうして集められたのがD職員である。

 

しかし、そんなDクラスにも望みがある。1ヶ月間の勤務ののち釈放されるという条件だ。

 

死ぬことが確定していた俺みたいな奴には待ってもない条件だった。

いや、俺みたいなバカじゃなくても1ヶ月の勤務で死刑を回避できるのだ。飛びつかない奴はいないだろう。

 

俺は二つ返事で条件を了承した。

 

まあ………

 

(俺、ここ8年目だけどね……!)

 

実は色々込み入った事情があるため俺と、他に2人ほど長期で勤めてる。

 

一人は黒人の男で、もう一人は白人の男。 二人とも俺の古い友人で、纏めてしょっ引かれた犯罪仲間だ。

 

しかし、今はとある理由で黒人の男としか面識がない。

 

「はあ………。」

 

今更ながらここに来たことを深く深く後悔する。

 

そんな中で俺はふと友人二人の顔を思い出し、懐かしさを覚えてしまう。

 

(久しぶりにあいてぇなぁ………)

 

 

そんな事を考えながらフラフラ歩いていると食堂についた。

 

食堂には他にもやる気のなさそうなDクラスの職員達がいる。全員が各自、席に着くと対して美味くもない質素な飯を頬張る。みんながみんな死にそうな顔をしながらも、ある一つの扉をチラチラ見つめている。

俺も席について目の前のパンとスープを口に押し込む。うん。ただのパンとコーンのスープだ。

 

しばらくすると、扉が開き白衣を着た男が出てきた。

 

あれが、俺たちの事をこき使っているSCP財団の正規社員。彼らは見た目の通り、SCPの生態の解明を主な活動としている。要は博士だ。

 

「……おはよう諸君。今日の君たちの担当を努める………まあ名前なんてどうでもいいか。君たちの中には今日初めて勤務の人がいるようだね……誰かな?」

 

博士はだるそうに頭をかきながら話し始める。

 

ふむ。どうやら新入りがいるようだ……が

 

「博士ー。新入りっぽいのはいませーん。」

 

俺の向かい席にいるチャラそうな男が手を挙げ報告する。

 

俺も辺りを見回してみるが見た感じ、最近見たばっかの奴ばかりだ。

 

「ふむ………遅刻かな。」

 

そこで博士が一度無線を取り出し、何かを指示する。

 

「全員ここで待機。不審な動きがあれば罰を下すので注意するように……では。」

 

そう言うと博士は部屋から出て行った。

 

(ああ……恒例行事か)

全員がそんな感じの表情を浮かべた。

 

 

 

五分とせず食堂の扉が開き、大柄の男が大股で歩いてくる。

 

顔に不機嫌という文字を貼り付けたかのような表情を浮かべ威圧してくる。

 

体格から見てプロレスでもしていたのか腕っ節は強そうだ。

 

「……人が気持ちよく寝てたところを叩き起こしやがって……テメェら俺が誰だかわかってねぇのか?いいか俺は人を5人も殺してやった!全員女や子供だ!どいつもこいつもギャーギャー泣きわめいててなぁ………思い出すだけで笑いがとまらねぇぜ!他にもなぁ………」

 

それから男は自分がどれだけワルなのかを長々と説明してくる。

 

今まで何十人と聞いてきた常套句なので、俺は話も聞かずにただただ飯を頬張りつづけた。他の奴はこのあと何が起こるのか分かっているのでニヤニヤしている。

 

しばらくすると

 

「ああ、来ましたね。」

 

博士が帰ってきた。

 

しかし先ほどとは違うことが一つ。

 

手にトマトを1つ携えて帰ってきた。

 

(あのトマト……もしかしてアレか?)

 

俺は思い当たる節があり視線の端で事の成り行きを見守る。

 

男が博士に近づいて行き、睨みつける。

 

「あんたがここの責任者か?あんたは俺が誰だ「遅刻の理由を」おぉ………。」

 

博士の動じない冷静な対応に、男は少し引き下がる。

 

「Dー138674。遅刻の訳を。」

 

「ッ……寝てたんだよ。」

 

男は出だしを潰されバツが悪そうな顔を浮かべる。

 

「そうか………」

 

博士は顔に満面の笑みを浮かべる。

うわぁ………鳥肌。

 

「君はここが初めてだから仕方ないだろう。 今回はこれを読むだけで罰は無しだ。」

 

そう言うと博士は、男に紙を渡す。

男は目を見開いたあと、顔を歪ませる。

 

「ん?………おいおい、なんの冗談だ?馬鹿にしてるのか?」

 

「いやいや。軽い友好を深めるための軽いジョークさ。」

 

そう言われると男は「チッ」と舌打ちをした後、紙に書いてあった言葉を高らかに読み上げる。

 

 

 

「布団が吹っ飛んだ」

 

 

バチャァ!

 

男の顔が赤いものを撒き散らしながら弾かれた。

 

一瞬の出来事だった。

 

男がダジャレを言った瞬間、男の顔めがけ目で追いきれない速度で飛んで行った。

 

何がって?

 

トマトが。

 

 

「うわああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

実はあのトマトもSCPの一つ【SCPー504 批判的なトマト】

遺伝子的には普通のトマトだが、SCPー504の聞こえる範囲でくだらないことを言ったら、SCPー504は時速百数十キロを記録して音源の方向に飛んでいく。成熟したトマトだけがつるから離れ、腐ったものでも、たまに反応を見せるようだ。

ちなみにトマトはスライスされていても反応し、なぜか食べられたものは反応しない。

 

ジョークのくだらなさの度合いにより速度が変わり400キロを超えた記録もあるそうだ。

 

俺がなぜ詳しいかというと、半年ほど前に担当したことがあるからだ。

 

トマトがぶつかった男は顔に果肉をつけたまま失神してしまったようだ。

 

人が気絶するほどの威力を出すSCPだが、SCPの危険度を表すオブジェクトクラスでは【safe】に認定されている。

 

オブジェクトクラスは数段階に分かれており、俺が知っているのだったら、

 

【safe】収容可能:まあまあ安全

 

【euclid】収容方法未確定:ヤベェ

 

【keter】収容不可能:マジヤベェ

 

がある。

 

そう。人が気絶したりするが、ジョークさえ言わなければただのトマトなので、財団からは安全だと判断されている。

しかしその際にもDクラスの尊い犠牲があったので覚えておいてもらいたい。

 

 

 

Dクラスの男たちが騒いでいる中、博士が咳払いをし注目を集める。

 

「と、まあこのように、遅刻などの違反行為には罰がくだる。各自気をつけるように……………ああ、そうだ。今日はめでたいことがある。Dー4218。」

 

「え、俺?」

 

急に名前を呼ばれ、立ち上がる。

すると、寝不足のせいか眩暈起こし、こけそうになってしまう。

だいぶ疲労が溜まってんなぁ………。

 

「Dー4218。君はめでたいことに……。」

 

「めでたいことに?俺が一体なんだと?」

 

 

 

このお話は

 

 

 

 

 

 

 

「2000日連続出勤だ。これからも励むように。」

 

他のDモブ「「「4218が倒れたぁ!!」」」

 

 

世界最高のブラック企業で働く男のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 




ボチボチ投稿

http://scp-wiki.net/scp-504
著者:BlastYoBoots 様

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