THE STRANGE FATE   作:諸行無常マン

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第2話

 はっきり言おう。正直に打ち明けよう。なめていた。心の底から軽視していた。いくらキチガイな母親とはいえ、子を愛さない親はいないだろうと高をくくっていた私が馬鹿だった。

 今、私は母の「修行」と称した虐待を受けている。

 

 事の始まりはこうだ。

 私はモルガン家内の自室で、一人考え事にふけっていた。

考え事の内容は、どうすればブリテン崩壊を防げるのかということについてだ。私は残念なことにチート能力を持っているわけでもなければ、人の心を鷲掴みにする卓越した料理スキルも当然ながらもっていないただの人間だ。なので悠々自適な歴史改変生活などおくれないし、家事や人間力で誰かを丸め込んだりもできない。最初こそ『二次小説の主人公たちは特にこれといった苦労もなく、なんやかんやでチート能力や謎のオカン力を駆使して異世界の定説を変えていくものだから、もしかして私でも軽く歴史を変えることができるほどのチート能力をもっているんじゃないか?』とかなんとか思っていたが、そんなことはなかった。

 私に俗に言う「特典」がないとわかった時点で、私は能力に頼らず生きるしかないのかと少しがっかりしていた。だって、せっかく異世界転生?の様な何かを体験しているというのに、テンプレも何もないなんてつまらないじゃないか。

 しかし、ないものにぶつぶつ言っても仕方がない。おとなしく割り切り、今やるべきことを考えていた。

 だが、再度思考の海に飛び込もうとした瞬間、母がいきなり部屋に訪れ、「一度ブリテンに住んで来い。これも修行だ」と言い、私をブリテンのどこかにある小さな小屋に飛ばしやがったのだ。

 

 もう、普通にドン引きした。いくらキチガイだからと言って、そんなことするか?あなた仮にも母親でしょ?もっと子供のためになることをしなさいよ。他にもいろいろ言いたいことはあったが、ついぞ言えずに、私は小汚く薄暗い小屋の中で一人寂しく座っている。

 

―――もぅマヂ無理、自殺しょ。

 

 素で言いそうになるほど、私の心は絶望で満たされている。どうすんだよ、これから。金もない、食料もない、衣服もなければ靴もない。あるのは雨風がやっとこさしのげる程度のあばら家と、腐食し壊れかけた小さな机と椅子のみ。あとは小屋の中で散らばっているカビむした藁くらいのものだ。

 いや、どう生活しろと。まさかとは思うが、かび臭い藁に埋もれて夜を過ごし、昼はわずかな水で飢えをしのげとでも言うつもりか、あの母親は。無理に決まっているだろう、そんなの。こちとら齢5歳のぴちぴち幼女だ、いくら胃袋が小さいからと言い、飲まず食わずで生活できるほど、聖人じみた身体構造はしてしない。

 もう無理。絶対に殺す。たとえあの女が母の愛を見せたとしても、私は笑いながら首ちょんぱしてやる。

 

 が、女狐を屠る算段を考えるより、私はやらなくてはいけないことが山ほどあった。

 実は、このあばら家に飛ばされてから少し経ったとき、外に出て少しばかり様子を伺ったのだが、ここはどうやらキャメロットの外にある中規模の村らしい。とりあえず人がいるところでよかったが、状況は最悪だ。おとぎ話の世界とはいえ、ここは不可思議と不条理が跋扈するアーサー王物語の中。いくら村内とは言え、安心安全なキャメロット城内ではない。散歩してたら魔物に襲われるなんてことが現実に起こりうるし、何より死の可能性がそこかしこに落っこちている。しかもこの村を見た感じ、この村には人外が通った跡がある。そればかりか家も何軒か半壊していたりした。この状況から察するに、この村にはときたま家をぶっ壊せる程度の化け物がやってきて、人を食うか殺すかしているのだろう。

 

 やっべぇよ、これは死んじまう。

 

 もはやなりふり構っていられない。私はあぐらをかいて、今私がしなくてはいけないことを考える。いったいぜんたい、異世界に飛ばされる系主人公はどやってあんな危険が全然ないルートを選べるんだ。天性の直感か何かを有しているのか。

異世界転生系の主人公のことを思いながら名字も、とりあえず考えついたのは、村を見て回り、村の方々に話を聞いて回ることだった。我ながら転生主人公としては地味な作業だと思う。

 だが、地味だからと言って侮ってはいけない。これをする理由はちゃんとある。

 その理由は、うかつに動けないからだ。

 先ほど人外の通った後があると言ったが、もしかしたらそうじゃないかもしれない。単純にここらで一度戦争があって、ここも戦場となったからこうして家が壊れていたりするのかもしれない。あきらかに人間や動物のものではない足跡があったりするのも、もう結構昔の話かもしれない。

 それなら戦争孤児を偽って誰かの家にお節介になればいいのだが――最悪なパターンは、あの糞親の策略で「人間に化けた化け物の村」に送られたのかもしれないということだ。あのモルガンが「修行」と言ってきたのだから、生ぬるい修行ではないのは容易に想像できる。

 だからこそ、事前の情報収集がひつようだ。憶測だけでこの場を危険と判断し、行動してはいけない。後で必ず痛い目を見る。今は村民たちの様子をうかがって、すこしでも危険が存在し、きな臭いと感じたらこの村からおさらばしよう。逃げることがかないそうにもないなら、この村を拠点に強くなるしかない。本音を言えば今からでも逃げたいのだが、この村の内情もわかっていない状態でうかつな行動をするわけにも行かない。気は進まないが、やるしかないのだ。

 

 仕方なく、私は護身用に落ちていた木の枝を広い、渋々といった感じで私は村を徘徊するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あーあ、面倒だ。アグラヴェインお兄ちゃんが「妹よおおおお!!」とか叫びながら迎えに来てくれないかなぁ。

 




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