私の母は、見惚れるほど美しく、清々しいほどに醜悪な存在だった。
いつなんどきでも、「あなたはいつかブリテンを統べる王になる」などという戯言を抜かし続けていた。赤ん坊のころから、私はそれを枕詞に、子守歌の代わりに聞き育ってきた。そして言語を理解し、人と物と動物を区別し、識別できるようになったころに、私はようやく理解した。この母は、この女性は、狂っているのだと。この母親はどうしようもなく壊れていて、どうしよもなく淀んでいるのだ。人間の悪性の集合体のような存在だと、幼いながらに恐怖した。そして、我が母の歪さに気付くのと同時に、この世界が何なのかを理解した。
アーサー王物語。
この物語には四つのストーリーがある。第一幕は『アーサー王の誕生、そして選定の剣を引き抜き、ローマ皇帝を倒しヨーロッパの王となるお話』。第二幕は、『アーサー・ペンドラゴンと13人の円卓の騎士の冒険』、第三幕は『突如現れた聖杯を探求するお話』。そして、円卓崩壊が始まる第四幕は、『ランスロット卿とギネヴィア王妃の不倫が原因で始まった「カムランの戦い」とそしてアーサー王の死』、これがアーサー王のお話の全てだ。
このイギリスで作られた、全世界でもその名を知らない人間はいないほど有名なファンタジー小説。その知名度と流用しやすい設定などが相まって、日本ではアーサー王がくぁいい少女になったり、海外では変形ロボの祖だったりと、派生しすぎて収拾がつかないことになってしまっていたりする。
要するに何が言いたいかというと、私はどうやら、アーサー王物語の世界に転生、または登場キャラに憑依をしてしまったようなのだ。しかも、私の母の名を聞く限り、もっとも転生してはいけないキャラに転生・憑依してしまったらしい。
そんな我が麗しき母の名は、サブカル糞女として名が高い『モルガン』という。
終わった。人生詰んだ。まさか母親が嫉妬で国を滅ぼそうとしちゃうやばい人だなんて。
そしてその子供といえば、ブリテンを二分させ、最終的にアーサー王と刺し違えて死亡してしまうあの『叛逆の騎士モードレッド』ではないか。
まさか、叛逆者としてこの世に生を受けるとは思いもしなかった。しかもこのままいけば、よくわからないままアーサー王とそりが悪くなって、円卓の騎士と仲が悪くなってしまう。しかもお兄ちゃんであるアグラヴェインが、ランスロットの浮気をチクろうとしたところを、逆上したランスロットに殺されてしまう。
よくない。非常によくない。この運命を変えないと、もれなくおなかに風穴があいて丘の上で死んでしまう。そんな無残な死に方はお断りだし、実の父を裏切るのもたばかるのもお断りだ。
ならば、やることは決まった。
母であるサブカル糞女狐を殺し、ランスロットの不倫を止め、父上に私の事を認知してもらう。
そして、私が死ぬという結末を変える。ブリテンも崩壊させないし、アグラヴェインも殺させない。このバッドとトゥルーエンドしかない世界を、この私が、叛逆者たる私が変えてやる。バタフライエフェクトなんのその、私は叛逆系で反抗系なキャラなんだ、アーサー王伝説なんざ、根本からひっくり返してやるさ。それが叛逆ってもんだろ?
「それじゃあ、一丁派手にいきますか!」
あ、でも私、アーサー王伝説は読んだことないから、原作知識とかもってないや。どうしよう。
貧乏神が‼の決め台詞、いいですよね。