バーサーカーしかいねえ! 作:安珍
ついにミッション10まで到達した立香、茨木、清姫、ロマンの四人パーティ!
時間は残りわずか、果たして1/3になってしまったチームでクリアなるか!
というか四人残して全員リタイアするってどういうこと?
ーー深夜二時
金色の髪がひょこひょこと不可思議な動きをする。あっちへこそこそ、こっちへキョロキョロ、その持ち主が夜のキッチンを漁っているからだ。
「確かここにマシュが作ったお菓子の試作品が……」
茨木童子、好きなものは甘いもの。
今日も今日とて盗人のようにお菓子を漁っている鬼の首魁だ。
「昼間はマシュが鉄壁の防衛を行なっているからな。夜は吾の時間だ」
鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌な茨木は、業務冷蔵庫上段の隠された場所にある冷やされたチーズケーキを発見する。
「おほっ、見つけたぞぉ……」
ヨダレを垂らしながらニヤリと笑みを浮かべ、そーっと皿を取り出す。
皿に触れたその瞬間、ぱちりとキッチンの明かりが灯された。
「何奴!?」
バッと振り返ると、そこには呆れ顔の清姫がいた。
「なんだ、焼き殺しの蛇ではないか。こんな時間に何の用だ」
「それはこちらの台詞です。ますたぁを困らせる行いはほどほどにしろと、あれだけマシュさんに叱られているでしょう?」
「む、それはマシュが悪いのだ。吾に甘いものを供物するよう言っておるが、あれでは全然足らぬ。いつもの二倍、いや三倍、もっと寄越さぬのならこうして奪うまでよ」
「……それでいつもの量を減らされては本末転倒というものではないですか」
「ならばもーっと奪うまでではないか」
意見は平行線を辿り、反省の気のない茨木に清姫はさらに深くため息を吐く。
そんな様子を茨木は愉快そうに笑った。
「……話が通じないようであれば、実力行使しかないようですねぇ」
「ククク、やってみるか……龍もどきが鬼の吾にかなう道理はないと教えてやる」
「そうですか、では……私はこれを燃やしましょう」
「なっ、それは!?」
それは、茨木が大切にしているチョコボールの銀のエンゼルであった。その数は四枚。五枚貯まれば缶のお菓子が貰えるのだ。
「私もこのような外道な行いはしたくないのですが……ですがそれもますたぁを思ってのこと。おいたの過ぎる鬼は退治しなければなりません」
「ま、待て! 話せばわかる!」
「では、ここで私に嘘偽りのない約束を交わしてくださいな。もうお菓子を盗まないと」
「ぬおおおおおお、き、貴様……人質とは卑怯だぞ!」
涙目で清姫を非難する茨木。
立香に頼んでチョコボールの発注し、ようやく集まった四枚だ。ここで手放すにはあまりに惜しい代物、しかしこの夜食を食べられないのは嫌だ。特にこのチーズケーキは食べたい! 今!!
そんな葛藤が生まれる茨木は、咄嗟にあることを思い出した。
それはオンラインゲームをしていた時のこと。
トレードと呼ばれるアイテムの交換の際に茨木はどうしても欲しいアイテムがあり、どうすれば手に入るのか立香に聞いていた。その際に立香はこう言っていた気がする。
『欲しいものがあるけど手に入らない? そういうときは値引き……まぁ交渉してみたらいいんじゃないかな? 自分と相手が妥協できる範囲を相談して決めるんだ。話ができる相手ならもしかしたら安値で手に入るかもしれない』
交渉!
そういうのは自分の親友、酒呑童子が悪辣なほどに上手かったのを思い出す。
優しく言っているようで凶悪な脅しであったり、相手の言葉を挙げ足取り自分の呼吸にしたりと、ずば抜けた交渉術の秘訣を茨木は聞いたことがあった。
『んー……相手が何を求めとうて、何を捨てられるか。何を好んでおって、何を必要としとるか、それを見極めんとあかんなぁ。要は相手のことをどれだけ知っとって、どれだけ理解しとるか、それさえ分かりゃああとはこっちの手のひらの上や』
これだ! と茨木は清姫に人差し指を突きつける。
「マスターの部屋にあるマスターの幼い頃の写真本の在処、それを教えてやろう!」
「なっっっ……!?」
その時、清姫に電流走る。
コンマ二秒、清姫の脳内には立香の子供の時の光景が妄想として流れ続けた。
「な、なぜその様なお宝本……ごほん、その様なものの在処を知っているのです?」
「ふふん、さて、それを教えては答えがわかってしまうかもしれんからな。どうだ? 吾を見逃す代わりに、それで手打ちにしようではないか」
「くっ……!」
清姫は天秤にかける。
ここで茨木を止め、ますたぁとマシュさんにお礼を言われるか、それともますたぁのお宝本をこの目に焼き付けるか。
『きよひー、茨木の盗み食いを止めてくれたんだって? 偉いじゃないか、ほら、よしよし』
頭の中のますたぁが優しげな笑みで清姫の頭を撫でる。
そんな傍ら、子どものますたぁがこちに笑いながら手を振っているのが見えた。
清姫は虚空に手を振りながら、鼻血を垂らして笑っていた。
「ま、ますたぁ……そんな、当然のことを……」
「む、うおっ」
「いえ、手を止めないでくださいまし……ふへへ……」
「ち、違う! 吾は悪く、悪くないのだぞ!」
「あぁ、そんな……ますたぁが小さく……あぁ、なんて愛らしい」
「待て! 待て待て! 吾が悪かったからその盾はやめろ!」
「小さいますたぁがまるで我が子の様に……こ、これは、普通のますたぁと小さいますたぁが私と並んで……これはもう親子なのでは!?」
ぶしゅっと清姫の鼻から鼻血が勢いよく噴出する。
そしてそのまま後ろにバターンと倒れた。
「やめっ、やめろーー!!」
ついでに茨木も何者かによってガツーンと殴られ気絶した。
一体何シュ・キリエライトだったのだろうか……謎はついぞ解けることはなかった。
清姫が目を覚ますと、ますたぁの部屋だった。隣では立香が椅子に座りベッドにもたれかかって寝ているのが見える。
「私は……どうして……」
その呟きに、立香がううんと唸り、その目を開けた。
「あ、すみませんますたぁ。起こしてしまわれたのでしょうか?」
「……おはよう、きよひー」
「おはようございます、ますたぁ」
寝ぼけ眼を擦りながら挨拶する立香に、清姫は返答する。
立香は大きくあくびをすると、椅子の下から一冊の本を取り出した。
「……これは?」
「俺のアルバム。きよひーが見たいって言ってたってマシュから聞いたんだ。ちょっと恥ずかしいけど、茨木を止めてくれたらしいし、そのお礼」
「そんな、よろしいのでしょうか?」
「うんまぁ……減るもんじゃないしね。じゃあ、俺はもうちょっと寝るから……」
「あっ、ますたぁ」
「どうした?」
清姫はそっと布団の片方を開けると、ポンポンとそこを叩く。
「座りながらでは姿勢が悪くなってしまいます。お休みになられるのであればここへどうぞ」
「……いいの?」
「えぇ、もちろんです。ここは元々ますたぁのお部屋。何を遠慮する必要がありましょうか」
立香は眠気のせいか、フラフラと布団の中に入った。
そしてそのまま眠りへと着く。
「ふふ……ますたぁ。ゆっくりとお休みなさいませ」
立香の頭を撫でながら、清姫は優しく微笑むのだった。
一方、朝方。
廊下では『もう摘み食いしません』という掛け看板を肩から掛けて正座している茨木の姿が目撃された。
きよひーに潜入ミッションさせてスネーク!ってさせたかったと思ったら眠気と前置きが長くなってやめた。反省も後悔もしていない。
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それではまた次回お会いしましょう。