無口な美少女の幼馴染みは、超肉食系でした   作:御堂 明久

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もう秋じゃないですかやだー!
どうも、受験勉強をしようとした際、物理の内容が完全に頭からすっぽ抜けていたことに驚愕を隠せない御堂です!
何日も跨いでダラダラと書いていたら前の話と比べてやたら文章量が多くなり、だれてしまいました······次回から直すので許して······。

と、とりあえずどうぞ!


図書室の幽霊VS頑張る幼馴染み2

深夜の図書館に一人の男子生徒がいた。

 

彼は今日の昼休みの時間に明日提出するべき課題をここで進めていたのだが、間抜けなことにその課題を忘れ、そのまま帰宅してしまったのである。

誰か届けてくれれば良かったのにと愚痴が漏れ出たが、よくよく思い出すと自分は面倒臭がってその課題に氏名を記入していなかったのだった。その事を思い出すと、自分の不用意さに軽く苦笑してしまう。

とにかく、せっかくたまたま見回りのためだとかで残っていた教師に図書館に入る許可を貰ったのだ、ちゃんと課題の回収をしなければならない。このまま課題を家に持ち帰り、それを終わらせる時には既に日が昇っていそうではあるが、それは自業自得だろう。

 

 

「さて、確かあそこの机で······」

 

 

少年は昼休みに使用していた机がある位置にその歩を進めていく。そして、間もなく目的地に着いたは良いが。

 

 

「げ、課題無くなってるじゃんか」

 

 

考えてみれば当たり前なのだが、昼休みから放置されていた課題がこんな深夜まで置きっ放しになっているハズもない。課題は先ほど通り過ぎたカウンターの辺りに移されているか、図書館を管理している教師が回収して保管しているといったところだろう。

大した距離を歩いた訳でもないが、自らの行動が徒労に終わったことに対し少し溜め息が出てきて、少年は何の気なしに本棚に寄りかかった。

 

 

「––––––あ?」

 

 

······その辞書は、余程雑に本棚へ押し込まれていたのだろう。少年が寄りかかった途端にスルッ、と他の本を巻き込みながらそれなりの重量を持った辞書が本棚から落下し······彼の、頭上へと。

 

 

············ある日を境に、深夜の図書館にとある男子生徒の幽霊が現れるという噂が流れるようになった。

 

その霊の特徴などは特に噂されていなかったのだが、件の霊は蔵書の一つであると思われる辞書で彼を目撃した生徒を撲殺しようとするという。その辞書は、まるで既に誰かに叩きつけた後であるかのように角に血の跡が付いていて––––––。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「············きゅぅ」

「あ、ダウン?」

 

 

僕の対面で勉強用具を広げていた僕の幼馴染みである白崎澪が、僕と彼女が通う天堂高校にて出回っている『図書館の幽霊(♂)』の噂をあらかた話し終わるかな······というところで恐怖が許容地を突破したのか、青い顔で机に突っ伏した。

······つい一時間ほど前に澪から、僕が江藤さんに同行を依頼された図書館の幽霊の噂検証取材に、自分も同行させてくれと頼まれ、それに向けて彼女の幽霊嫌いを克服させようと手始めに件の噂を適当に勉強しながら話してあげたのだけれど。

 

 

「やっぱり、話だけでも怖いんだ?」

「············ん」

 

 

どうやら、問題はかなり根深いようだ。僕は手に持っていたシャーペンをクルクルと回しつつ。

 

 

「時間を掛ければお化けだって克服出来るかもだけど。明後日までにってなると難しいかもね······」

「············(ぐすっ)」

「ズルいズルい!泣くのはズルいよ!分かったよ何とかするよ!だから澪、泣かないで?」

 

 

僕の言葉に涙目になり始めた澪を宥めながら、僕は澪の幽霊嫌いに対する対策を必死に考え始める。今までの反応を見るに、普通の方法では治るまでにかなり時間が掛かってしまうことが予想される。何か手っ取り早く克服出来る画期的な方法を······。

 

············。

 

························。

 

 

「ねぇ澪。幽霊を怖がる澪もそれはそれで可愛いし、もう別に克服しなくても良くないかな?」

「············(ぐすっ)」

 

 

デジャヴ。

再び瞳を潤ませ始めた澪の頭を撫でる僕。うん、今回の取材に同行したいという理由で幽霊嫌いの克服を望んだ澪だけれど、それはそれとして、割と本気で幽霊嫌いは治したいらしい。だって怯え方が尋常じゃないしね。高校生にもなって······みたいな気持ちが少しはあるのかもしれない。

 

 

「······あ、というかそもそも江藤さんに澪が同行していいか聞いてなかった······。澪、ちょっと江藤さんに電話してくるね」

「············ん」

 

 

一応勉強中でもあるので、澪の邪魔にならないように一旦リビングから寝室の方へ移動して江藤さんに電話を掛ける。2コール目で電話が繋がり、どこか大人びたクラスメイトの声が聞こえてくる。

 

 

『相原くんから電話が来るなんて珍しいわね。何か用·······まぁ、今回の取材についてかしら?』

「あ、うん。実はそうなんだ。えーと、図書館の取材についてなんだけど······澪も同行させてくれないかな?」

『? 私としては大歓迎だし、新聞部の方も特に問題は無いと思うけれど。肝心の澪ちゃんの方は?幽霊とかは苦手なんでしょう?』

「その事なんだけどね······」

 

 

そこで江藤さんに、澪が今さっき僕の部屋に来て、取材の同行の申し出と共に幽霊嫌いの克服に乗り出したこと、そしてそれが難航していることを話した。するとそれを聞いた江藤さんはカラカラと笑い。

 

 

『澪ちゃんは努力家ね。何なら私が手を貸しましょうか?とりあえず、今回の取材の間だけなら克服は可能になると思うのだけれど』

「えっ?」

『まぁ、物は試しよ。ちょっと澪ちゃんと替わって貰えるかしら』

 

 

怪訝に思いながらも江藤さんの言葉に従い、僕は澪がいるリビングへと戻ってスマホを彼女に手渡した。

 

 

「············もしもし?」

『澪ちゃん?こんばんは、奈緒さんよー』

「············ん」

 

 

二人の会話が少し聞こえてきたので、あまり聞き耳を立てるのも申し訳ないと思い再び寝室へと舞い戻る。それにしても、江藤さんは一体何をしようとしているんだろう?彼女は頭は良いけれど、いつも何か悪戯じみたことを企んでるから······と、そこまで考えたところで、澪が寝室の扉を開いて僕にスマホを返してきた。

 

 

「············有里。私、頑張るから。······ご褒美も、期待してるから······もう何も怖くない」

 

 

––––––先程まで怪談に怯え切っていた表情とは一転して、これ以上ない程の真剣な表情と共に。

そんな澪の様子に驚きつつ、スマホを耳に当てる。

 

 

「す、凄いね江藤さん。一体どんな手を使ったの?澪の気迫が物凄いことになってるんだけど」

『ちょっとエールを送っただけよ?「取材中に一度も悲鳴を上げなければ、ご褒美として相原くんがキスをしてくれるって言ってたわよ。頑張って」って』

「何てことしてくれるのさ江藤さん!」

『まぁ良いじゃない。コレで澪ちゃんの精神面の安全は約束されたわ』

「お願いだから僕の身体の安全も考慮してよ!」

 

 

断言するけれど、僕から彼女にキスなんてした日には絶対にそれだけじゃ事は済まない。そして僕はそれを拒める自信が全くと言って良い程に無い。情けないと言えば情けないけれど、澪が相手だと僕の心のATフィールドは金箔よりも薄っぺらくなってしまうのだ。

そんな意思を込めた僕の言葉に江藤さんは。

 

 

『相原くんの貞操なんて、澪ちゃんの前ではあってないようなものでしょう?』

「どういうこと⁉︎」

 

 

ふへっ、とどこか呆れる様な笑い声と共にそんなことを言われた。いやもう、本当どういうことなの······。

 

 

『まぁそんなことは一旦置いといて』

「勝手に置いとかないでよ!僕にとっては最重要案件なんだから!」

『きっと後々どうにかなるわよ(爆)』

「大爆笑してない!? してるよね⁉︎」

『ふふ、ごめんなさいね。相原くんの反応が面白くて、ついからかい過ぎてしまったわ』

「酷いよ江藤さん!」

 

 

それにしても······同じクラスメイトの水無月さんもそうだけれど、最近僕は同年代の女の子たちに遊ばれ過ぎなんじゃないだろうか······?

僕が自身の境遇について思いを馳せていると。

 

 

『それじゃ、そろそろ切るわね。これ以上相原くんと話してたら、澪ちゃんの嫉妬が怖いもの』

「何言ってるのさ江藤さん······澪だって子供じゃないんだし、この程度で嫉妬だなんて」

 

 

バタン!パタパタパタ······。

 

 

「··················」

『慌ててドアを閉めた音と誰かが走り去っていく音が聞こえたわ。間違いなく覗き見してたわね』

「あ、あはは······。えっと、ばいばい、江藤さん」

『えぇ、また明日ね』

 

 

僕は苦笑しながら電話を切ると、寝室を出て澪が待っているはずのリビングへ戻った。するとそこには()()()軽く息を弾ませつつも、頬を膨らませている彼女が座っていて。

 

 

「············やっぱり、今日は有里も一緒のベッドで寝よ。······有里にソファで寝てもらうなんて申し訳ない」

「だったら自分の部屋で寝てよっ⁉︎」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「えぇっ!?澪さんも取材に同行するんですか⁉︎」

「············ん。頑張る」

 

 

翌日のお昼休み。いつもの五人メンバーでお昼ご飯を食べている中で僕に続いて澪も図書館の取材に同行することを話すと、サイドテールが似合うクラスメイトの水無月(みなづき)さんが驚いた様な声を上げた。そしてそのまま心配そうな表情になり。

 

 

「いや、常識的に考えて無理じゃねーですかね······自慢じゃねーですが、ウチと同じくらい怖がりな澪さんじゃ最悪恐怖で心停止の危険性がありますよ」

「お、大袈裟じゃないかな······」

「············当日はAED(自動体外式除細動器)を有里に託す。問題はない」

「なんだ、それなら安心ですね」

「大袈裟じゃないかな⁉︎」

 

 

深夜の図書館を訪れるに当たって、そんな生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた際に使用する機械を僕に託すのは色んな意味で心臓に悪いからやめて欲しい。

僕が頬を引き攣らせていると、江藤さんがそんな僕を面白がるように笑った。

 

 

「ふふ。澪ちゃんなら大丈夫よ、今回は気合いが違うもの。······ね?相原くん」

「ナンノコトデショウカ」

「ハハァ。今、相原の視線から『余計なこと言わないでよ江藤さん!』という意思を感じたぜぇ」

「? 何か隠してるんですか有里さん」

 

 

くそぅ!入賀(いるが)くんめ、無駄に鋭い!

水無月さんと入賀くん、二人の視線から逃れるように目を逸らす。ご褒美のキス云々の話は黙っていた方が良いだろうし、ここは黙秘権を行使するのが得策と見た。僕は何も知らなーい。

 

 

「············うん。今回の取材を乗り切ったら有里が······お、大人のキスをしてくれる、から······」

「有里さんちょっとこっち来てくだせー」

「ハハァ、俺も詳しい話聞かせてくれよぉ」

「誤解だよ二人共!僕は無実なんだってば!」

 

 

内部告発の可能性を考慮していなかった。あっという間に二人に両脇をホールドされてしまう。というか最悪頬に軽くキスして済ませようと思ってたのに、大人のキスってどういうことかな。地味に話が大きくなってきてないかな。

 

 

「まぁまぁ楓ちゃん。なら、あなたも取材に同行する?相原くんのキスも付いてくるわよ」

「僕の唇の価値お手頃すぎない⁉︎」

「取材は怖くて行きたくねーので、キスだけ貰っておくことにします」

「水無月さんも何を言ってるのさ⁉︎」

「············楓、それはずるい。有里のキスは苦難を乗り越えて勝ち取るからこそ価値がある」

「澪、その言い方だとまるで普段の僕の唇には価値が無いように聞こえなくもないんだけど」

「もう昼休みが終わるのに全然昼飯食ってねぇな」

「長々と変なこと話してたからじゃないかなぁ!」

 

 

僕も人のことは言えないけれど。

そんなこんなで本当に昼休みが終わってしまった。全員何とか時間ギリギリで昼食を完食し、いそいそと弁当箱を片付け始める。

 

 

「······ぶー」

「ハハァ。不満そうだなぁ、楓ちゃん」

「入賀さん······べ、別に何も不満なんてねーですよ?」

「『お化けは怖いけど愛しの有里さんと一緒に行けないのは悔しい!しかも恋敵は同行するって言うし!ウチも深夜の図書館で有里さんとあんなことやこんなことしたいっ!』」

「誰の声真似をしたのか言ってみてくだせー入賀さん!返答によっちゃー酷い目に合わせますよ!」

「がふぅッ!?殴りながら言うことじゃぶはぁッ⁉︎」

 

 

げ、元気だなぁ······。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

そして更に日は流れ、ついに取材当日となった。学校も終わり今は午後11時。いつもなら既に就寝しているくらいの時間帯なのだけれど、今日は12時に図書館に集合して取材を開始する予定なのでそうもいかない。そんな訳で今は眠気覚ましも兼ねてシャワーを浴びています。お風呂はもう入った後だけれど、この後人と会うのだから少しでも身体の汚れを落としておくに越したことは無いだろうと思う。

 

 

「(ガラッ)············有里。そろそろ出発しよ」

「きゃあああああああ––––––ッ⁉︎ み、みみみみ澪サン!?今僕シャワー浴びてるんだけど!?」

「············うっかり。······偶然。······不慮の事故」

「なら目を逸らしてくれないかな⁉︎」

 

 

突然浴室の扉が開き澪が現れた。

もうね、傍目から見たら同棲しているかのように自然と登場したけどね、例の如く僕が浴室に入る前に君は僕の部屋にはいなかったし、部屋のドアには鍵が掛かっていたんだけどね!というか本当にそろそろ目を離してくれないかな!?

 

 

「もう少しで上がるからちょっとリビングで待ってて!というかまずは浴室の扉を閉めて欲しいな!」

「············一緒に入る?」

「話が通じない······!」

 

 

まるで異星人を相手にしているようだ。何故いつもは普通なのに一番話を聞いて欲しいタイミングで彼女はこうなってしまうのだろう。

結局この後服を脱ぎ始めた澪を必死に押し止め、何やかんやあって彼女を麻縄で縛り上げるまでに十分ほど時間を費やした。最近捕縛術のスキルが物凄い勢いで向上してきた気がする。嫌な成長だ·······。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくもう······澪にはそろそろ自制心というか何というか、感情を抑える努力をして欲しいよ······」

「············有里の裸を前にして?······それは無理な相談。無呼吸でフルマラソンを完走するくらい、無理な相談」

 

 

しばらくしてシャワーを浴び終え、浴室を出て着替えた後にリビングで待機(拘束済)していた澪に呆れつつ言うと、彼女は即座にそう返してきた。······とりあえず絶対不可能だと言いたいのは分かった。

 

 

「············お風呂上がりの有里は普段の五割増しでセクシー理論をここに打ち立てる」

「却下」

「············あうっ」

 

 

縄で縛られつつも頬を染め、熱に浮かされたような表情でそんなことを言い出した澪の額にデコピンを打ち込む。本当にこの子は······いやまぁ、そういうところも含めて好きなんだけどね?まだちょっと色々早いじゃない?

いい加減時間も危ういので澪の拘束を解いてその場に立たせる。彼女も彼女できちんと用意をした上で僕の部屋に来ていたようなので、このまま学校に向かっても問題無いとのこと。

 

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。江藤さんたちも出発し始めてるかもだしね」

「············ん」

「大丈夫?何か忘れ物とかしてない?」

「············必要なものは全て持った」

「そっか。それじゃ、出発!」

「············おー」

 

 

気が抜けるような掛け声と共に腕を挙げる澪を微笑ましく思いつつ、僕は部屋の扉を開くのだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「くぅおぉぉぉぉぉ、離して下さい江藤先輩!目の前に大スクープがあるかもしれないのに、このままジッとしていろなどとぉぉぉぉ!」

「貴女が集合時間を指定したんでしょう。大人しく二人を待って······あら、二人共来たわね。こんばんは」

 

 

·······一応学校に行く訳なので制服姿の僕と澪が夜の学校に到着し、集合場所に指定されていた図書館の前に行ってみると、一眼レフカメラ片手に図書館内に突貫せんと身体を全力で前のめりにしている女子生徒と、その女の子の襟首を掴みつつこちらに挨拶をしてくる江藤さんに遭遇した。二人共僕らと同じく制服姿だったけれど、その腕部分には「新聞部」と書かれた腕章が掛けられていた。

 

 

「············奈緒。こんばんわ」

「こ、こんばんは。もしかして、遅れちゃったかな」

「いえ、きっかり十分前よ。この子がそそっかしいだけ」

「ちょ、江藤先輩······首が締まるッス」

「前に進むのを止めればいいじゃないの·······(パッ)」

「ぷへーっ、気道確保完了ッス」

 

 

江藤さんによる拘束から解放され息を吐く女の子。腕章やカメラから察するに恐らくこの子が江藤さんから聞いていた······。

 

 

「えっと、相原先輩と白崎先輩でしょうか?」

「あ、うん。そうだよ」

「初めまして!自分、新聞部所属の一年の八木坂(やぎさか)香鈴(かりん)と言いますっ」

 

 

やっぱり彼女が江藤さんの言っていた新聞部員のようだ。天然なのか明るい茶に近い色の髪はウェーブの掛かったボブカット。同色の瞳はくりっとしていて、小柄な体躯と合わせてまるで子犬のような印象をこちらに抱かせた。

と、そこでその女の子······もとい、八木坂さんが満面の笑みを浮かべつつ。

 

 

「お二人共、今回は取材のお手伝いを志願してくださったと聞いてるッス。人手がちょっと少ないかなーと思っていたところでしたので助かりましたっ。ありがとうございます」

 

 

どうやら僕と澪の同行理由はそのように説明されているらしい。当初は自分の男らしさを示すためという随分個人的な理由で参加することを決めた僕だけれど、僕に出来ることならば協力したいという気持ちもあるので、ここは話を合わせておく。

 

 

「うん、よろしくね八木坂さん」

「············よろしく」

「よろしくッス!ではでは、早速ですが今回の取材内容について説明させてもらうッスね」

 

 

そう言って八木坂さんが説明を始めた。中には初めて聞く情報もあったので、それらを中心に要約すると、

 

◎取材目的はもちろん「図書館の幽霊」の噂の検証

◎可能であれば幽霊本体及び怪奇現象の撮影を行う

◎撮影ならずとも何かあればその情報を共有すること

◎念のため決して一人にはならないこと

 

 

こうなった。······幽霊って写真に写らないイメージがあるけれどどうなんだろう。いやでも心霊写真とかはあるし······可能であればってことだから別にそこまで気にすることでもないのかもしれないけれど。

僕と澪は八木坂さんにデジカメを渡され、それの動作を確かめるように電源を入れたり試しに写真を撮ったりし始める。うん、大丈夫そう。

 

 

「んじゃ、早速取材開始ッスよー!ここの図書館はやたらと広いですけど、じっくりと回っていきましょう!」

「図書館内では静かにしなさい」

「············ところで、図書館内の電気は······」

「気分的に暗い方が出そうなのでつけないッス。懐中電灯ならあるッスよ」

「····································そう」

 

 

あ、澪がちょっと涙目になってる。ついさっきまでお化けなんて怖くなーい!みたいな感じだったけれど、暗闇の中、いつもと違う雰囲気の図書館を見て少し尻込みし始めているのかもしれない。

ちなみに図書館の構造としては二階建てで、一階は蔵書といくつかのテーブルのみ、二階はそれらに加えて蔵書検索のためのコンピュータが数台設置されており、勉強用スペースも設けられている。大学ならばいざ知らず、高校の図書館にここまでの設備が揃っているのはそこそこ珍しいのではないだろうか。

 

 

「えっと、まずは一階から回っていく感じかな?」

「そうッスね。最悪幽霊とかを発見出来なかったら、単純に図書館特集とかにする予定なので、隅々まで見ていきましょう」

「············終わったらキス終わったらキス終わったらキス終わったらキス終わったらキス······」

「澪ちゃん、もう少し落ち着いて···········」

 

 

それじゃあ、探索を開始しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「············あ。有里、この本私も持ってる」

「『空き巣の手口大解説』。ねぇ澪、君は防犯のためにその本を買ったんだよね?決して空き巣側じゃないんだよね?」

「江藤先輩、今あそこのカーテン揺れませんでした!?」

「ただの風ね」

「············有里、この本も私持ってる」

「『怪しい薬の作り方(合法)』。こんな本が図書館にあること自体どうかと思うけれど、帰ったらその本は僕が引き取るからね」

「へぶぅっ!自分今転んだッス!恐らくこれは幽霊からのこれ以上近付くなという警告······」

「つまづいただけね」

 

 

······どうしよう、何かただの図書館見学みたいになってきた。よくよく思うと幽霊探しとか一度もやったことないし、具体的にどんなことに目を向ければ良いのか分からないや······。

そんなことを八木坂さんに言ってみると。

 

 

「あー······自分が前に調べてみた情報だと、幽霊が近くにいる時はスマホとかの電子機器に異常が出たりするといる、らしいッスよ?」

「朧気じゃないの。後は寒気がしたり視線を感じたり異臭がしたり、その人自身にも変調を来たす場合があるらしいわね」

 

 

江藤さんが八木坂さんに追従してそう補足した上で、ほとんどネットの情報だからそこまで信憑性がある訳ではないけれどね、と苦笑する。まぁ、そう簡単に見つけられたら苦労は無いよね––––––。

 

 

「············スマホ。電源が入らない」

「「「えっ」」」

「············充電はしたし、家で確認した時は正常だったはず。·······というか、さっきから誰かの視線を感じるような·······」

「あぁ、言われてみればそんな気もするわね」

「何というかこう、まとわりつくような視線っていうか·······変な感じッスね?」

 

 

澪は基本的に感覚が鋭い方で、人の視線などにも敏感だったりする。そんな彼女をはじめ、残りの二人も何らかの視線を感じるという。僕は特に何も感じないけれど·······。

 

 

「··············有里は鈍いから」

「む、そんなことないよっ。ね、江藤さん」

「·······そうね」

「えっ、何でそこで目を逸らすの?」

 

 

何故か暖かい目と共に微笑を向けてくる江藤さんを訝しんでいると、八木坂さんがパシャリと図書館内の写真を一枚取りつつ人差し指を上に向けた。

 

 

「まー、一階の探索はこれくらいにしとくッスよ。そろそろ二階に行きましょう!この視線の正体も掴めるかもッス!」

「··············確かめなくてもいい気がする」

「澪、覚悟を決めようね」

「··············さー、いえっさー(泣)」

 

 

 

 

異変が起き始めたのは二階に上がってからすぐのことだった。

 

 

「ひゃうっ⁉︎」

「わ、びっくりした。どうしたの八木坂さん」

 

 

本棚と本棚の間を縫うように歩いていると、先行していた八木坂さんが突然悲鳴を上げた。同時に制服のスカートの裾を両手で押さえつつ、僕に何故か潤んだ瞳を向け。

 

 

「あ、あのぉ·······相原先輩。確かに相原先輩は魅力的な男性だとは思いますけど、自分、そういうのはまだちょっと·······お尻派なんですか?」

「相原くん、両手を出しなさい」

「ちょっと待って⁉︎ 何で僕がまるで八木坂さんにエッチなことをしたみたいになってるの⁉︎」

 

 

どこに隠し持っていたのか、おもちゃの手錠を取り出しつつ僕の肩をポンと叩いてくる江藤さん。断じて僕は八木坂さんのお尻を撫で回していたりはしない!冤罪だ! 弁護士を呼んで!

狼狽えつつも弁明しようとしていると。

 

 

「··············ん。有里は何もしてなかった」

「み、澪·······!」

 

 

横に立っていた澪が僕を庇うようにそう言った。流石僕の幼馴染み、何て頼もしさなんだ!

 

 

「··············私はそう信じてる。だから有里、今度女の子にえっちなことしたくなったら·······私にして?」

「分かってない!君は何も分かってないよ!」

 

 

その後、実質一人で僕の無実を証明させてもらった。元々そこまで本気で疑っていた訳でもなかったのだろうか、皆は割とすぐに納得してくれたけれど·······。

 

 

「じゃあ、自分のお尻揉みしだいてきたのは誰なんスかね·······」

「··············気のせいとかじゃなくて?」

「いや、その。もう有り得ないくらいガッツリやられてて。最初は気のせいかなとも思ってたんですけど、もう·······」

 

 

そこまで言って、八木坂さんがかあっと頰を赤らめた。かなり凄い触られ方をしたようだ。·······一体どんな「··············有里。その先が気になるなら、私が教えてあげる」いや、余計な詮索はやめようそうしよう。

·······これ以降も異変は連続して起きたのだけど、全部書き記すには少々長いため、それらをダイジェストでお送りすることにする。

 

 

「うひゃあっ!う、上から辞書が落ちてきたッス!あっぶな!というかどっから落ちてきたんですかコレ、周りに本棚なんて無いっスよ⁉︎」

「何か『怖い·······』とか『静かにしねぇと·······』とかいう声が聞こえた気がするわね。私たち以外の生徒がこんな時間に·······?」

「·······視線が増えた·······二人·······?」

「誰もいないように見えるけど。·······本当に幽霊なのかな」

「··············え·······?」

「澪ちゃん、しれっと逃げようとしないの」

 

 

 

 

 

––––––気付けば僕たちは、四人で背中合わせの隊形を取り、周囲からの襲撃に備えるようにそれぞれが自らの正面を睨みつけていた。

 

 

「良いッスか先輩方。先ほどから感じる妙な気配·······自分はこれが噂の幽霊だと考えているッス。撮影チャンスッス」

「物怖じしないその姿勢は評価するけれど」

「··············全身黒タイツの人が闇夜に紛れて」

「そんな変態さんと幽霊の存在、どっちが信憑性があるんだろうね·······」

 

 

などと話しつつも全員が緊張した様子で前方を見つめ続ける。隣の澪は既に今にも泣いてしまいそうな表情になっていた。

そんな状況が数分続き–––––。

 

 

ガタッ

 

 

「あ、いたわね」

「江藤さんが消えた⁉︎」

「あそこにいます!流石江藤先輩、標的を見つけたようッスよ!幽霊だったら撮影、人間だったら拷問の末に教師に突き出しましょう!」

「拷問云々は冗談だよね⁉︎」

 

 

僅かに聞こえた物音に反応した江藤さんが物陰に向かっていったと思えば、笑顔でとんでもないことを八木坂さんが言い出したので声を返す。もしかしたらお尻を触られたことに対して内心かなりご立腹なのかもしれない。

 

 

「二人確保したわよ。というか貴女たち·······」

「だから言ったじゃねーですか、絶対バレるって!」

「ハハァ。いや、イタズラ心を抑え切れず·······」

 

 

すぐに僕たちが江藤さんに追いつくと、彼女はその両腕で抱え込むようにして二人の人影を捕まえていた。·······妙に聞き覚えのある声だ。っていうか、この二人。

 

 

「··············入賀と、楓?·······何してるの?」

「「·······こ、こんばんわ·······」」

 

 

·······どう見ても僕たちの級友、水無月楓さんと入賀和彦くんの二人だった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「·······で。これは一体どういうことなのかしら?」

「ハハァ、甘いぜ奈緒。俺たちがそう簡単に口を割るとでも思って「入賀さんが普段飄々としてる奈緒さんの怯えた表情を見たいから、取材中に脅かしてやろうぜーって」楓ちゃんお口かっるーい·······」

 

 

一瞬で自らの犯行動機を共犯者に明かされた入賀くんが頬を引き攣らせながら言う。きっと彼は間もなく江藤さんに折檻されるだろうけど、僕にそれを止める手立ては皆無だ。せめて刑執行後の彼の看病に全力を尽くそうと思う。

 

 

「つまり今までのあれこれは全て幽霊の仕業ではなかったと·······まぁ、内心妙にチープというか、お化け屋敷みたいだなーとは思ってましたけど·······ちなみに、自分のお尻を触ったのはどっちなんです?」

「「··············」」

「えっ。ちょっと待ってください、何で黙るんですか。まさか男性の方の先輩なんですか⁉︎ 自分、男の先輩にあんないやらしい触られ方したんですか!」

「··············確かに、あまり怖くなかった」

 

 

澪はまずその未だに治まらない身体の震えをどうにかした後に発言すべきだったと思うな。·······それにしても。

 

 

「水無月さん、暗い所とか苦手だったんじゃなかった?いくら入賀くんに頼まれたからって·······」

「えっ?あ、そ、そーですね。いや、確かに断れなかったってのもありましたし、あくまで遊びの延長線上だったから協力してた訳ですが·······」

「相原、楓ちゃんは澪ちゃんとお前との吊り橋効果を恐れt「シャラップ入賀さん」はい、ごめんなさい」

 

 

水無月さんの猛禽類のように鋭い視線を受け、入賀くんが身体を震わせつつ謝罪する。入賀くんの言葉の真意について聞いてみたかったけれど、そこも詮索をすると僕も色々危なそうなのでやめておこう。と、そこで八木坂さんが。

 

 

「えっと、水無月先輩と入賀先輩でしたっけ。別に驚かすのは良かったんスけど、流石に辞書を落とすのはやめて欲しかったッスよ·······マジで当たりどころによっては怪我してましたッス、あれ」

 

 

そういえばそんなこともあった気がする。確かに辞書は重くて固いしちょっと危ない。しかし二人は何故か不思議そうな表情をしていた。

 

 

「辞書·······?ウチには覚えがねーんですが。入賀さん、そんなことしてたんですか?」

「ハハァ、同じく知らねーぜぇ。何のことだ?」

「え·······?」

 

 

二人の言葉に八木坂さんが首を傾げた時。

 

 

『あ、それ俺』

 

 

男の人の声が聞こえた。

 

 

「··············や、やっぱり入賀だった。もっと早くに白状するべきだったと思う」

「いや、今の声は俺のじゃあ·······」

『いや、本当はちょっと小突いて驚かせるだけのつもりだったんだよ。手が滑って獲物を落としちまってよ』

「「「··············」」」

 

 

もう一度聞こえた。男性の声であることは確かではあるけれど、入賀くんの声にしては高いし、僕だってもちろん当てはまらない。

けれど、どこを捜しても周りには僕たち以外の男性の姿は見当たらない––––––。

 

 

『良い子はこんな深夜に学校に来るモンじゃねぇ。噂の幽霊ってのが誰のことだか知らねぇが、お仕置きかました後に·······強制送還だ』

 

 

多分それは貴方のことなんじゃないでしょうかー!

 

 

「ねぇ、あそこ·······辞書が宙に浮かんでない?」

「シャッターチャンスッス相原先輩ー!」

「ブレないね、八木坂さんは!」

 

 

江藤さんの声に反応し叫んだ八木坂さんに促されるままに、僕はデジカメを構えて身を翻す。けれど、その瞬間僕の視界には猛スピードで飛来してくる分厚い辞書と、いつの間にか昏倒していた水無月さんと入賀くんの姿が映るのみで。

 

––––––今日一番の澪の悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

翌日。僕は額に大きなタンコブを作り、学校に登校していた。隣では無傷の澪が上履きを履いている。しかし、顔色は結構悪い。昨日の出来事がかなり堪えているようだ。

昨日、飛来してきた辞書によるものと思われる衝撃を頭部に受けた僕は気絶し、気付けば自室のベッドに横たわっていた。僕と同じく辞書に沈められた江藤さんたちや、普通に恐怖で気を失った澪も同じくベッドの上で覚醒したと言うので、きっと気絶した僕たちを運んだのは·······うーん。

 

 

「あれが空耳じゃなかったとすれば·······お仕置きが厳しすぎることを除けば、むしろ良い幽霊ってイメージだったね」

「やめて有里昨日のことは話さないでやめて」

 

 

トラウマになってしまったようだ。もう澪がホラーに対して耐性を持つことは二度とないだろう。

 

 

「··············結局キスもしてもらえなかったし·······」

「悲鳴あげたからね!凄く大きな悲鳴!」

 

 

これに関しては澪には悪いけれど助かったと言う他ない。一歩間違えてたらどうなってたことか·······。

と、そこで江藤さんと廊下で鉢合わせた。荷物は持っておらず、既に教室に置いた後のようだ。

 

 

「おはよ、江藤さん。どこかに行ってたの?」

「··············おはよう」

「あぁ、おはよう二人共。昨日あんなことがあったし、香鈴の様子を見に行ってたのよ」

「八木坂さんの。どうだった?」

 

 

もちろん八木坂さんもあの幽霊の襲撃により家に送還されていた。でも一応写真は撮ったので新聞の方には影響は無いと「残っていた写真に幽霊らしきものは写ってなかった上、カメラが全て故障してしまっていたと嘆いていたわ。少なくとも新聞作成は不可能ね」同情します。

 

 

「そういえば、さ」

「何?相原くん」

「今回の同行目的は僕の男らしさを証明するためであった訳だけれど、どうだったかなっ?」

「忘れてたわ」

「··············気にしてる余裕が無かった」

「薄々予想はしてたけどね!」

 

 

何のために行ったのか、とまでは言わないけれど·······はぁ。

 

 

「まぁ、もう一度試してみればいいじゃない。今度は皆で心霊スポットに行ってみましょうか!」

「「遠慮しますっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう二度と入賀さんのお願いは聞かねーです·······トラウマになっちまったじゃねーですか·······!」

「は、ハハァ·······すんません」




昔は幽霊は本気で信じていて、寝ようとしている中風でカーテンが大きく揺れたりしてもビビりまくっていました。はいどうでもいいですね。
次回はなるべくコンパクトに、早く投稿しますので······今回はこの辺りで!ありがとうございました、感想待ってます!

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