メインヒロイン回だと言ったな。あれは(半分)嘘だ。
そういえばもう一人ヒロインいましたものね。他二人のキャラが濃いめなので素で忘れていました。ハハッ(甲高い声)
さて、今回は季節に合わせた前後編形式のお話です。
では、どうぞ!
季節は夏だ。
朝、燦然と輝く太陽の光が大地に降り注ぐと、茹だるような暑さに眉をしかめていた登校途中の生徒たちはより一層生気を吸われたかのような表情になり、通学路を歩いていく。あとセミの鳴き声が凄い。ミーンミーン、ヂーヂー、シシシシ、バェヴァァァァ······(デスボ)と、そんな感じでそれぞれ思い思いに鳴いている。というか最後のは本当にセミなのか疑わしい。
僕が奇妙な鳴き声の発生源を探すべく周辺の木々を見渡していると、隣を歩いていた幼馴染み······
「澪、大丈夫?」
「············だいじょぶ」
「そっか。まぁ今日も僕の部屋に忍び込んだ上にパジャマの上半身を強奪、それを自らの下着の上から着用して朝ご飯を作るくらいの元気はあった訳だし、澪にとってはこの暑さも見た目程大したことないのかな?」
「············それはどんなに体調が悪い時でもこなしてみせる。······有里のお嫁さんとして」
何故不法侵入にそこまでの執念を燃やすんだ。
「············けど、暑いのは確か」
「あはは、そうみたいだね」
「············有里は暑くないの?」
「暑いよ」
僕も平然としているように見えて実はこの暑さにかなり参っている。さっきなんて暑さで脳が溶けかけていたのか、隣を歩く澪の姿が三重くらいに見えていたくらいだ。あれ、これ結構末期の症状なんじゃ······?
「············ん。水分はこまめに取るのが良い」
「うん、そうするよ。喉が乾いてから飲むのは遅いって言うからね」
澪の言葉に従うように自分の水筒を通学鞄から取り出して、中に入っている麦茶を一口飲む。程良く冷えた液体が喉を滑り落ちていき、瞬く間に潤いを与えた。
「ぷはっ。······おいし」
「············ん、私も喉乾いた。······少し、ちょーだい」
「え?自分の水筒あるでしょ?」
「············忘れてきた」
「えー。仕方ないなぁ」
本当に忘れ物ばかりする子だ。仕方ないので僕の水筒を······いや、干からびたりしたら困るしね。本当仕方なくだよ、仕方なく。
「············間接キス」
「せっかく僕が気にしないようにしていたことをあっさりと言わないで!」
「············こくこく······ぺろぺろ······」
「効果音がおかしくないですか⁉︎」
「············ごちそうさまでした」
「何故君はナチュラルに僕の水筒を自らの鞄にしまい込むことが出来るのさ」
「············ん、代わりにこっちあげる( ←静かに差し出される澪の水筒)」
「自分の水筒持って来てるじゃんか!」
とんだ茶番だ。······もう僕の水筒を澪から取り上げて使用する訳にもいかないので、澪の水筒を受け取る。まぁ、大きさや型も同じだし不自由はしないだろうけど······アレ?この水筒っていずれ澪に返さないといけないんだよね······ということは。
「············ラウンド2は、約束されている」
「この水筒はウチで洗って返すからねー」
「············自分の水筒は、自分で洗う」
「僕の水筒を強奪しておいて!このっ······」
「············ふにゅぅ」
いつまでも澪の傍若無人っぷりに振り回されてばかりの僕ではない。お仕置きと言わんばかりに、以前澪がクラスメイトの
「············ふふ」
「······な、何さ澪。嬉しそうにニヤニヤして」
気付けば僕に頬を引っ張られていた澪が、何故か満足そうに微笑んでいた。え、何······。
とりあえず何か澪が話したがっているようなので彼女の頬から手を離す。すると澪は、
「············ん。好きな人のことを弄びたくなるのは、自然な欲求。······もっと触る?」
「弄ぶっていう言葉はやめない?何かこう、ちょっとエッチな感じがするよ。僕にそんな気はないし」
もしかしたら僕が思春期だからこその、過ぎた考えなのかもしれない。けれど、高校生離れした妖しい色気を放ち、唇をペロリと舐めながら微笑む澪の姿からそういうイメージを連想してしまうのは仕方ないと思うんだ。一応ここ通学路だからね?人目結構あるからね?
僕が額に汗を滲ませながらそう言うと、澪は先程までの妙に色っぽい表情をキョトンとした表情に移行させ。
「············そうなの?」
「むしろ君は本気でそう思ってたの······?」
「············ん。だって、私は有里のことを弄びたいし、有里に弄ばれたいから」
「なるほど。澪、しばらくお口チャックね」
「············あぅっ」
澪のそんな言葉を聞いた僕は、彼女の額に一発デコピンを打ち込んだ後、口にチャックをするジェスチャーを以って暫しの沈黙を促した。
澪は今日も朝から絶好調のようだが、僕からしたらブレーキが壊れた暴走列車とそう変わらない。制御出来ない列車はいずれ終点の壁に衝突するなり何なりして大破する。問題なのは、その事故には乗客(=僕)まで巻き込まれる可能性が非常に高いというところなんだけど。
そんな感じでいつも通り澪と戯れながら通学していると、僕たちの通う天堂高校へ到着した。今日もまたウキウキルンルンのスクールライフが始まる訳だ。頑張るぞっ。
「············(ちょんちょん)」
「? どしたの澪?······あ、もう喋っても良いかって?」
「············(こくこく)」
「駄目」
「············(·········Sな有里も、いい)」
◆ ◆ ◆
僕と澪(発言権回復)が教室に入ると、三人のクラスメイト······頼れるサイドテール少女の水無月
と、三人が僕らが入ってきたことに気付いたようでそれぞれ僕たちに朝の挨拶をしてくる。
「あ、有里さんに澪さん。おはよーごぜーまーす」
「ん。おはよう、二人共」
「ハハァ。おはようさぁん」
「うん。おはよう皆」
「············おはよう」
僕と澪も挨拶を返し、僕は自分の席に座り、澪は自分の荷物を席に置いた後にこちらに歩いてくる。いつものメンバーが集結したという感じだ。
「皆、何の話をしてたの?」
「············気になる」
僕と澪がそう問うと、代表するように江藤さんが苦笑しながら肩を竦め。
「別に大したことじゃないんだけどね。ただ、ウチ······図書委員の方に新聞部が取材に来るのよ」
「新聞部が?」
「えぇ。何でも最近話題になってる『不可視の図書館の幽霊(♂)』について調査したいらしいわ」
「あ······そういえば最近、クラスの皆も幽霊がー、図書館がーとか何とか話してたような」
その話がどんなものだったのかというと。······午前零時に図書室を訪れると、かつてこの図書館で高所から落ちてきた辞書が頭部に直撃して亡くなった少年の霊が現れ、ポルターガイストを引き起こして訪れた人を件の辞書で撲殺しようとする、というもの。図書館で立つ噂にしては随分と本に優しくない噂だなぁ······。
この学校の図書館は設立時の校長先生が本好きだったのか何なのか妙に大きい。蔵書の種類も豊富で、毎日中々の人数の生徒が集まる。そして、人が集まればそこについても話題も増えるのは自明の理······それが今回の怪談だった、という訳なのだろう。
「ま、そこそこ有名だったみたいね」
「それにしても、不可視なのに性別は分かるんだね」
「野暮なことは言うものじゃないわよ?」
江藤さんはそう言うと僕の唇にそっと人差し指を当て、片目を閉じて微笑んだ。え、あの、近い······。
「············」
「······相原くん、この程度で赤くなっちゃうのね。そんな顔されるとこっちまで恥ずかしくなるんだけど······」
「ぶぇちゅに赤くなってなんきゃないよ?」
「ハハァ。動揺はしてるみたいだなぁ」
「············有里」
「有里さーん、ハーレムメンバーはそうポンポンと増やしていいモンじゃねーですよー?」
「滅多なこと言わないでよ水無月さん⁉︎」
とんでもないことを言い出した水無月さんに否定の意を示すため、彼女の方へ視線を向ける。すると、
「「···················(カタカタカタ)」」
何か澪と水無月さんが凄い震えていた。
「······二人共、どうしたの?そんなに震えて」
「············何のことだか分からない(カタカタ)」
「あはー、ウチらが震えてる?何言ってるんですか有里さーん(カタカタ)」
「············別にお化けが怖いとか、そういう訳じゃない。私は強い女。······有里を守れるくらい」
「ですです。そもそもウチは幽霊とかその類は信じてねーですしねー」
なるほど、どうやら二人共さっきの図書館の幽霊(♂)の話を聞いて怯えてしまったようだ。矢継ぎ早に怖くない怖くないと言い連ねる二人を見ると、少々微笑ましい気分になる。
「············(こそこそ)」
と、そこで入賀くんが静かに二人の背後に回り込んでいることに気付く。その動きを不審に思って声を掛けようとしたその時、彼が二人の傍に顔を寄せ––––––、
「俺のコトを呼んだかァ······?(掠れ声)」
「「きゃあああああああ––––––っ⁉︎」」
「ふぐぅッ⁉︎」
幽霊を模して二人を驚かしてやろうとでも考えていたのか、やたらおどろおどろしい声音でそう囁いた入賀くんの鳩尾に女の子二人の可愛らしい声と共に放たれた、全く可愛くない威力の拳が突き刺さった。うわ、痛そう······。
「ゲハァ······ナイスボディ······」
「あわわわ、すみません入賀さん!つい驚いて······」
「············ごめん、入賀。大丈夫?」
「二人共良いのよ。自業自得なんだし、その阿呆は教室の隅にでも退けておきましょう。他の人の通行の邪魔になるわ(ゲシッ)」
「ごふぅっ」
「え、江藤さん、容赦ないね······」
入賀くんと同じ中学に通っていたという江藤さんは、彼に対する慈悲というものが完全に欠如している。江藤さんに蹴り飛ばされて教室の隅に転がった入賀くんが少し哀れだった。後で保健室にでも連れてってあげよ······。
「それにしても、二人がそんなに幽霊が苦手だったとは知らなかったわね。でも、隠す程のことでもないでしょう?」
「あはは······ちょっと見栄張っちゃいました。実は子供の頃からそーゆーのは苦手で······」
「············同じく」
「そういえば澪も意外と怖がりだったよね。確か昔は寝る時も部屋の電気は豆じゃないと眠れなくて」
「············」
「あ、今も?」
「············ばか」
あまり皆には知られたくない事だったのか、澪が軽く頬を染めながら僕の胸にぽすっ、と拳を打ち込んできた。相変わらず羞恥の基準が分からないけれど、とりあえず恥ずかしがる澪は可愛かった。
「私としては相原君の方が意外ね。貴方もこういうのは苦手だと思ってたわ、イメージ的に」
「んー、読書が趣味でホラー系も沢山読んでたから耐性が付いたのかもね。所詮は文章だけど」
「お化け屋敷とかは?」
「一応、入っても平気かな」
不思議なことにこの話をすると、皆「意外······」というような表情をする。むぅ、僕が幽霊に怯えて乙女のような悲鳴をあげるような男だとでも思っているんだろうか。まぁ、つまりは。
「僕にも男らしいところはあるってことだね」
「本当、ちょっとね」
「基本は皆無じゃねーですかー?」
「············微々たるもの」
「ひどいよ!澪や水無月さんまで!」
三人のあんまりな物言いに思わず声を上げる。そんな僕を見てクスクスと笑う三人。くぅ、いつか僕の男らしさを認めさせてやる······!と、江藤さんが笑いつつこんなことを言ってきた。
「ま、今のはからかっただけだけれど。何なら明後日の夜、図書館の取材に相原くんも同行してみる?その場合は零時集合になるけど」
「「「えっ」」」
「どういう手を使ったのか、そんな夜遅くに図書館に赴いて噂の幽霊を撮影する······その試みを学校側が許可してね。明日新聞部の子(一年生)と夜に会って、取材を受けた後実際に検証することになってるの」
「「「えっ」」」
「私としても学年も違う子と二人きりというのは少し息苦しいのよね。······それに、相原くんは男らしさを証明したいんでしょう?割と適当な条件なんじゃないかしら」
「「「えっ」」」
つまるところ、江藤さんは先程話していた「図書館の幽霊」の噂の検証に付き合ってくれないか、と言っているのだろう。隣で澪と水無月さんが頬を引き攣らせているけれど、僕とて男らしさの証明のチャンスと聞いては黙ってはいられない。––––––僕の答えは決まっている!
「もちろん!喜んで同行させてもらうよ!」
「「えぇっ⁉︎」」
「ふふ、良い返事よ」
僕のその言葉に、澪と水無月さんは驚いたように声を上げ、江藤さんは待ってましたと言わんばかりに微笑みつつ、パチンと指を鳴らした。そして教室の隅でボロ雑巾になっていた入賀くんが先程のダメージがぶり返してきたのか、白目を向いたままビクン!と震えた。
––––––かくして僕は自らの尊厳を守るため、図書館の幽霊の噂検証隊のメンバーとなったのだった。
◆ ◆ ◆
江藤さんからのお誘いを受けたその夜。
彼女にしては珍しく(ここ重要)、澪が普通にインターホンを鳴らして僕の部屋を訪問してきた。まだ夕飯前だったけれど、とりあえずお・も・て・な・しのためにコップに数個の氷を入れ、冷たい麦茶を注いで僕の対面に座る彼女の前に置く。
「············ん。ありがと、有里」
「どういたしまして。それで、何か用?」
「············ん」
僕が問うと彼女は一度麦茶を軽く煽り、僕の目をじーっ、と見つめ出したと思うと、こんなことを言ってきた。
「············私の特訓に、付き合って欲しい」
「えっ?」
「············あと二日で、私は恐怖を克服する。······そして、私も図書室の取材に同行する」
「あ、幽霊の噂のこと?······いや、無理はしない方が良いんじゃないかな?それで更に幽霊が苦手になってトラウマになったりしたら本末転倒だよ」
「············有里と一緒に行きたいの。······だめ?」
「僕に任せて」
自分で言うのも何だけどちょろい。
澪の上目遣いに一瞬で篭絡させられた僕は澪に話の詳細を聞くことにした。
「つまり、澪は幽霊とか暗闇とかを怖がるのを克服したい······ってことでいいのかな」
「············(こくり)」
「うーん、突然のことだから具体的に何からしたら良いかわかんないね。正直な話、こればかりは慣れだと思うから、根気強くそういうのに触れていって耐性を付けていくのが一番無難かつ確実な方法なんじゃないかなって思うんだけど」
「············事態は一刻を争う」
やたらキリッとした表情で澪がそう言うけれど、要は「お化け怖いから早くたすけて」ということだ。と、そこで対面に座っていた澪が真面目な顔のまま立ち上がり、何故かの僕の隣に腰を下ろした。彼女の身体からふわりとラベンダーの香りがして、若干緊張してしまう。馴染みの香りのハズなのに、不思議だ。内心の動揺を悟られないよう、努めて冷静に僕は彼女に問うた。
「ど、どうしたの?澪」
「············実は、対策は既に考えてある」
「えっ、ホントに?」
「············ん。私は暗闇及び、その中で起こる非日常的現象を恐れている」
「ま、そうだね。幽霊だって朝に見ても怖さは半減する気がするし」
「············よって」
「よって?」
「············恐怖の象徴たる暗闇に、安心の象徴たる有里をぶつけて中和を図る方法を提案する」
「······ん?」
なんか雲行きが怪しくなってきた気がする。先ほどから万力もかくやという程の恐ろしい握力で僕の腕を掴む澪の右手と並んで説明を要求する。
すると、澪はいつも無表情な彼女にしては珍しい、満面の笑みを浮かべ、言った。
「············今日の夜、一緒のベッドで寝よ?······オトナに、なろ?」
「放して!この手を今すぐ放すんだ澪!僕は一刻も早く眼前の肉食獣から距離を取らないといけないんだ!」
「············肉食獣なんていない。ここにいるのは、未来の夫婦だけ」
「わー!わーっ!たすけてお巡りさーん!」
······結局、いつも通りナチュラルにズレている幼馴染みの襲撃に遭った僕は、せめて同じベッドではなく、僕は同室にあるソファに寝かして欲しいという旨を彼女に承諾させるまでに三十分の時間を費やすことになったのであった。
いかがでしたか?
江藤さんを前面に出していこうと思ったらなんやかんやで澪が持って行ってしまった無情。どう見ても自業自得?いえ、これは神の意志です。適当言いましたすみません。
次は新聞部所属の後輩キャラとかが出る気がします。気分で予定は変わります。プロットも何も書いてませんし仕方ないよね。
では、今回はこの辺で。ありがとうございました!感想待ってます!