無口な美少女の幼馴染みは、超肉食系でした   作:御堂 明久

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どうも、ミスター赤点量産機こと御堂です!
この作品が週間ランキングにランクインしているのを見かけてリアルに「ふゃっ⁉︎」って声が出ました。ありがとうございます!
3話目にして早くもタイトルパロ。元ネタは分かりやすいと思います······。
では、能書きはこのくらいで。どうぞー!


水無月さんは断れない!

キーンコーンカーンコーン。

 

 

「············有里。一緒にお昼ご飯、食べよ?」

「有里さーん、ウチと一緒にお弁当食べましょー?」

 

 

午前中最後の授業が終わり、いざお昼ご飯を食べようと思っていたところで二人の女子生徒からお誘いを受けた。

自分の席から弁当箱を持って歩いて来たのは幼馴染みの白崎(しらさき)(みお)。普段は無口だけど、一皮剥けばピッキングやら変わり身の術やらよく分からないスキルを発動し出す······僕の好きな女の子、だ。

そして隣の席でヒラヒラと手を振りながら言ってきたのは、クラス委員を務めるサイドテールの少女水無月(みなづき)(かえで)さん。気怠げな様子が目立つけれど、本当はとても真面目で頼れるクラスメイトである。

 

 

「あ、うん。皆で食べよっか」

 

 

僕はそんな二人のお誘いを受け入れ、弁当箱を広げる。

いつもならこの三人のメンバーに加えて、クラスメイトの江藤(えとう)さんと入賀(いるが)くんがいたりするのだけれど、江藤さんは今日は図書委員のお仕事があるので図書室へ向かい(お昼と放課後、両方にカウンター業務のシフトが割り当てられているんだとか)、入賀くんは「ハハァ。俺は大人の取引って奴をしてくるぜぇ」とか言って何処かへ行ってしまった。その際に何冊かの雑誌サイズの本を抱えていたような気もするけど、アレは一体何だったのだろうか。

 

お弁当の内容としては、(まぐろ)のステーキにレタスとミニトマト。あとは肉じゃがと白米(ふりかけでハートマークが描かれていた)といった感じだ。

······ハートマークで察したと思うけれど。

 

 

「む。量は違えど、有里さんと澪さんのお弁当のメニューが一緒ですね。今回も澪さんが有里さんのお弁当を?」

「············ん。愛妻弁当」

「まだ僕は君の夫じゃないんだけどね」

「まだ?」

「············まだ。じゃあ、いつかは」

「こ、言葉の綾だってば······」

 

 

片方は何故か頬を不満気に膨らませて、片方は無表情ながらもどこか満足気にそう言ってきた。そ、そりゃあ僕だっていつかはとか考えたりはしないこともなくなくないけれども。いやどっちなのさ。

僕が脳内で一人ボケツッコミを展開していると、頬を膨らませていた水無月さんがそのまま溜め息を吐いた。

 

 

「ふぅー······」

「? どうしたの······か、え、······水無月さん」

「おや、有里さんってばちゃんとウチのことを名前で呼ぶように努力してくれてるんですねー?んもぅ、嬉しくなっちゃうじゃないですかー」

「わきゃうッ⁉︎ ちょ、急に抱きつかないでよ水無月さん!って、どこ触ってんの⁉︎」

「はふぅ。相変わらず有里さんって何か良い匂いしますねー。香水付けてる訳でもあるまいにー」

「············ん。柑橘系の爽やかな香り(ギュッ)」

「澪まで⁉︎ ちょ、待ってぇぇぇぇっ⁉︎」

 

 

〜 しばらく弄ばれます 〜

 

 

「「············ふぅ······」」

「ふぅ、じゃない!三分間ぶっ続けで撫でくり回された僕の気持ちにもなってよ!」

「············ん。すべすべで気持ち良かった」

「ほっぺぷにっぷにでしたねー」

「どこまでも主観的ですねぇ!もー、髪の毛も制服もグチャグチャになっちゃった······」

 

 

二人にグッチャグチャにされた髪を適当に整えながらそう嘆く。······何かちょっと感じが違ったけれど、見た目麗しい女の子二人に密着されたので顔が熱い。でも、頼むから僕をオモチャにするの止めてよね······。

 

 

「あー。それで、ウチの溜め息のことですが······ちょっと疲れが溜まってましてねー」

「············楓、疲れてるの?」

「眠れないとか、そんな感じ?」

「いえ、単純に動き過ぎだからだと思いますねー。最近色んな人の頼みを聞いていましたしー······というか、現在進行形で聞いてますしー」

 

 

そう言って苦笑する水無月さん。

水無月さんは人の頼みを断れない人だったりする。自分から「私がやります!」などと言い出すタイプではないのだけれど、頼まれたら「了解でーす」とか言って引き受けてしまうのだ。いや、別にそれが悪いことという訳ではないけれど······。

 

 

「沢山の人から色んなこと頼まれて、それを捌き切れてないってこと?······駄目だよ、そういう時はちゃんと断っておかないと······」

「············体調を崩す」

「あははー······分かってはいるんですけど、つい。面目ねーです」

 

 

再び困ったように水無月さんが笑う。それでも、少なくとも今引き受けている分の誰かの頼みを断る気は無いようで······。

僕がチラと横に視線を向けると、澪がこちらを向いてこくん、と小さく頷いてきた。うん、まぁそうするよね。問題は水無月さんがそれを承諾してくれるかだけれど······。

 

 

「ねぇ水無月さん。良ければ、僕たちにお手伝いさせてくれないかな?」

「ふぇ?え、えっと、それはどういう······」

「君が頼まれた用件の中で僕たちでもこなせそうなモノがあったら、それを僕たちに任せてくれないかなって。······迷惑かな?」

「い、いえいえ!それはとても助かるんですが、そんなの悪いですよっ⁉︎」

「············ん。楓」

「ほほふぉひっはははひへくははいひほはんっ」

 

 

澪が突然水無月さんの柔らかそうな頰をむにー、と横に引っ張りながら話し出した。水無月さんが泡を食ったように何か話しているけど、ちょっと何を言ってるのか分かんないね。

 

 

「············頼られてばかりじゃ、疲れる。······私たちを信じて、頼ってみて?」

「ひほはん······はひはほふほはひはふ」

 

 

うーむ、何か感動的なシーンっぽいけれど、水無月さんの台詞の九割がハ行なおかげで実に締まらない。

僕がそんな少し失礼な感想を抱いていると、澪のほっぺむにむにホールドから解放された水無月さんが。

 

 

「······それじゃー、今回はお言葉に甘えさせて頂きます。んふふー、こういう所で自然に女の子に手を差し伸べられる辺り、有里さんは格好良いですねー♪」

「べ、別に格好良くはないし、女の子じゃなくても困ってる人がいたら助けるよ······」

「照れなくてもいーじゃねーですか」

「············有里、かわいい」

「むぅ······」

 

 

二人の美少女に頭を撫でられる男子生徒。人によっては羨むようなシチュエーションなのだろうけど······見てこの緩み切った表情。きっと僕のことは小動物みたいな感じに認識してるんだろうね。······複雑な気分だよね。

 

とりあえず、今日の放課後は水無月さんに代わって、僕たちが生徒たちのお悩みを解決しよう。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

帰りたい。

 

 

「ほらもっと声張りたまえジュリエット!女の子らしさが足りないよジュリエット!ジュリエットー!」

「ジュリエットジュリエット連呼しないで下さい部長さん!あぁもうっ······あぁ、ロミオ!貴方はどうしてロミオなの?」

「「「ぶふぅッ‼︎」」」

「笑ってないで演技して下さいよ⁉︎」

 

 

放課後になったので、僕、澪、そしてこれだけ量が減ったら捌けますよー、と言って結局動くことになった水無月さんの三人は、各生徒からの頼み事を消化すべく学校中を奔走していた。

で、今僕が何をしているのかというと······欠席した演劇部員の穴埋め。元々ウチの高校の演劇部員は少なく、三人程休んでしまうと演劇の通し練習が出来なくなってしまうのだと言う。その穴埋めを演技力にも長けているらしい水無月さんに頼んでいたのだと言う演劇部長さん(♀)。

 

 

「あははははっ!素晴らしいよ相原くん!水無月くんの代わりに君が来た時は少々驚いたけれど、うん、中々の逸材だ。演劇部に入らないかい?」

「良いから演技して下さい。ていうか、何で穴埋め要員の僕なんかがジュリエットみたいな大役なんですか?水無月さんからは村人Aみたいな脇役担当だって聞いてたんですけど」

 

 

そう、今の僕はかの有名な『ロミオとジュリエット』におけるヒロインである、ジュリエットの役を務めていた。化粧をしてヒラヒラのドレスと金髪のウィッグを身に付けて、塔のセットの上からあぁロミオー。······僕、男なのに。

 

 

「あぁ、当初水無月くんにはその役をお願いする予定だったよ。ジュリエット役の彼女は別に欠席してなかったからね」

 

 

部長さんがそう言うと、僕が担当するはずだった役を代わりに務めていた先輩がこちらに笑いかけてきた。······えっ?

 

 

「本来のジュリエット役の方いたんですか⁉︎ てっきり僕はジュリエット役の方も急に欠席になったからその穴埋めだと······」

「いや、あまりに女装が似合いそうな人材が寄越されたものだから、こんな子に男性の役をさせるのは勿体無いと思ってね」

「「「似合ってるよ」」」

 

 

酷い先輩たちだ。後輩に対する優しさというものが微塵も感じられないよ。

 

 

「もうっ!遊んでないで早く練習しましょう!欠席していないならジュリエット役の人もちゃんとやって下さい!」

「「「えぇー」」」

「皆さん演劇部でしょう⁉︎」

 

 

結局、まともに練習が開始されるまで10分かかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「············加藤(かとう)先生」

 

「ん、白崎か。どうした」

 

「············楓の代理。プリント運びを手伝いに来た」

 

「何?確かに水無月にはプリント運びを手伝ってくれと頼んではいたが······代理が必要な程余裕が無かったのか?」

 

「············ん。ヘトヘトだった」

 

「そうか······水無月には何となく物事を頼みやすいから今まで甘えてきてしまったが、今思うと教師として生徒への気遣いが足りなかったな。水無月にすまなかったと伝えておいてくれないか」

 

「············ん。ちゃんと反省出来るのは、いいこと。······楓はあまり気にしてないと思うけれど」

 

「そ、そうか」

 

「············とりあえず、今日は私が手伝う」

 

「ふむ、あぁ言っておいて早速生徒に頼るのも気が引けるのだが······せっかく来てもらったのだし、な」

 

「············他人の厚意は素直に受けるもの」

 

「では、そちらのプリントの束を持って俺に付いて来てくれ。お前が来る前から始めていたのだが、いかんせん枚数が多くてな」

 

「············了解」

 

 

 

 

 

「······む?第二学習室の鍵が閉まっている。さっきまでは開いていたのだが······誰かが閉めてしまったか。すまない白崎、急いで鍵を取ってくるから少し待っててくれ」

 

「(ガチャッ)············開いた」

 

「白崎。今何を使って鍵を開けた?ヘアピンか?ヘアピンだな?何故ピッキングの技術などを」

 

「············花嫁修業の成果」

 

「白崎、花嫁修業の意味を明日までに辞書で調べて来い。特別課題だ」

 

「············何故」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「えーと、次は校内の花壇の手入れの手伝い、コンピューター部の動画素材管理の補佐······詰め込み過ぎでしょ。断れなかったというより、ここまで頼まれ事をされたこと自体凄いなぁ······」

 

 

演劇部の練習の手伝いが終わった後もいくつかの手伝いをこなして行った僕は、校舎内の廊下を仕事内容が書かれたリスト片手に歩いていた。うん、もうすぐで終わるかな······と思っていると、突然ピピーッ!とホイッスルの音が前方から聞こえて来た。何⁉︎ 敵襲⁉︎

 

 

「へーい有里さん。働いてますかー?」

「水無月さん?······って、何してるの?」

 

 

顔を上げると、そこにはホイッスルを持った水無月さんがニヤニヤと笑いながら立っていた······何故かミニスカポリスのコスプレをして。

 

 

「何って、見回りですよ見回り。風紀委員の見回り要員が足りないっつーんで、ウチが代わりに」

「いや、コスプレの方」

「あー、気分ですよ気分。見回り、パトロールといったら警察でしょう?そんな訳で演劇部から借りてきたんです。見て下せーこのスカート。制服のそれより遥かに(みじけ)ーんですよ(ピラッ)」

「わああああ!めくらなくて良いから!」

 

 

思わず顔を赤くして目を背けた僕に「初心(うぶ)ですねぇ」とからかうように笑ってくる水無月さん。くぅ、また僕で遊んで······こっちだってやられっぱなしじゃあないぞ!少し脅かしてやるっ。

 

 

「ふ、ふんっ。別に初心なんかじゃないし。ちょっと驚いただけだから!僕だって男なんだし、そういうことばかりしてると、お、襲っちゃうからね!」

「············へぇー······?」

 

 

何だ。何か水無月さんの笑みが深くなった気がするぞ。馬鹿な、僕としてはかなり危ないこと言ってるつもりなんだけど。

僕が内心焦っていると、心無しか妖艶な雰囲気を纏い始めた水無月さんが僕との距離をグイッと詰めてきた。

 

 

「ッ⁉︎」

「······襲っちゃう、ですかー?ふふ、ウチとしては歓迎モンなんですけどぉ······」

「え、ぁ······うぅ?」

「おやおやぁ?顔が赤いですよ有里さん。そんなのでウチを襲えるんですかねー?」

「ごめんなさい調子に乗りました!」

 

 

僕のターンなんて無かった。

やたら短いスカートから覗く太ももに女の子特有の良い匂い、妖しい光を宿して僕の理性を嬲ってくる瞳。そのどれもが彼女の魅力を増幅させ、一瞬にして僕の土下座を誘発させた。もう二度とあんなこと言わないので許して下さい。

そんな僕を見下ろしてまたもカラカラと笑う水無月さん。うぅ、絶対この人Sの気質があるよ······。

 

 

「まーまー有里さん、頭を上げて下せー。じょーだんですよ、じょーだん」

「······うぅ。何かもう、水無月さんには一生勝てない気がするよ······」

「あっはっは。んじゃ、ウチはまた見回りに戻るんで。終わったら何か奢りますから、もう少しだけお願いします」

「あ、うん。任せてっ」

「ふふ、頼りにしてますよー」

 

 

先程のいたずらっぽい笑みとは違う、どこか愛おしむような笑顔でそう言いながら彼女は廊下をテクテクと歩いて行った。······ミニスカポリス姿のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュンッ‼︎

 

 

「ボール!」

 

「ひぃっ⁉︎ か、掠めた!あり得ない速度の投球が俺の鼻先を掠めたぁッ‼︎」

 

「うおおお速ぇ!さっきからホームランを連続でかっ飛ばしたりしてたから、もしやと思ってピッチャーも任せてみたら······!白崎凄ぇ!」

 

「·········むぅ。手元が狂った」

 

「おい、白崎をBチームに入れるのは反則だろ!ソイツが一人いるだけでレギュラーメンバーが全員三振して練習にならねぇんだよ!」

 

「元々助っ人なんだから白崎は俺たち補欠組のメンバーだよ!白崎がいねぇとこっちが弱過ぎて練習にならねぇくらいなんだし······良いから早くバット構えろよ!」

 

「············むむぅ」

 

「? どうした白崎?もしかして、やっぱり男子野球部の助っ人なんかはむさ苦しくて嫌だったか?」

 

「············何か、ラブコメの波動を感じる」

 

「は?」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「はい。では今日の風紀委員の活動は終了です。各自荷物を纏めて帰宅して下さい」

「「「御意」」」

「······いやー、相変わらずウチの高校の風紀委員はまるで忍者集団みてーですね。澪さんとか割と適正があるんじゃねーでしょーか」

 

 

校内の見回りを終えたウチこと水無月楓は風紀委員室にて、風紀委員長の間宮(まみや)先輩の指示に従い瞬時に解散した委員の皆さんを姿を見て苦笑していた。

そんなウチを見て、間宮さんが。

 

 

「水無月さん。今日は急な頼みを聞いて下さり、ありがとうございました」

「いえいえー、このくらいは別にお礼を言われるよーなことでもねーですよ」

「それでも、ですよ。見回り途中に貴女の友人の相原さんと白崎さんをやたらと見かけたので話し掛けてみれば、貴女が捌き切れない程の頼まれ事をしているので、代理として動いていたとか······そんなに忙しい中私の頼みを聞いてくれたこと、本当に感謝します」

「あー」

 

 

こうして聞くと、ウチってやっぱり人の頼みを安易に請け過ぎだったんですかねー。何やかんや今までこなせてたモンだから気付きませんでした。······まぁ、パンク寸前でしたけど。

まぁでも、やっぱり。

 

 

「それについては自業自得ですしねー。······でも、感謝されるのは悪い気はしませんし、もっと感謝して褒め称えてくれてもいーですよー?」

「······ふふ。それでこそ水無月さんです」

 

 

ウチが冗談めかしてそう言うと、間宮先輩はクスクスと口元に手を当てて笑いながらそう言った。何かオトナのオーラが凄いですね、ウチもあと一年でこんな感じになるんでしょうか。······ねーですね。

 

 

「······と、噂をすれば影ですね。アレ、相原くんでしょう?とても頑張っているご様子」

「えっ?」

 

 

間宮先輩がそう言って窓の方に視線を向けたので、ウチもそちらを釣られるようにして見る。すると、確かにそこには花壇の管理を園芸部の先輩と共に行っている有里さんがいて。

 

 

『おーい相原ー。そっちにスコップ無かったー?』

『あ、僕が使ってますよー。丁度作業が終わったので今そちらに持っていきますねー』

『サンキュー。代わりにコレを貸してやろう』

『······何ですかコレ』

『何ってお前、エロ本だよ。ついさっき入賀(いるが)······もとい、とある後輩から貰ってな。まだ俺は読んでないんだけど、二日くらいなら貸してやるぞ?』

『いりませんよ!というか、学生がこんな所にこんなモノ持ってきちゃあ駄目でしょう⁉︎』

『固いこと言うなよ。風紀委員にでも見つかったりしなけりゃ大丈夫だって』

 

 

何か色々最低な会話が聞こえてきた。

隣で無表情のまま「あの生徒は後で懲罰房に収容しておきましょう」と呟く間宮先輩が地味に怖い。というか、風紀委員室に近い位置にある花壇で風紀委員に見つからなければ大丈夫と言うなんて、この人はかなりお馬鹿さんのよーですね。それにノらない有里さんは素敵です。

 

 

「まったく······では、水無月さん。私も下校するにあたってここを閉めますので······」

「あ、はい。お疲れ様でしたー」

 

 

簡単に挨拶を済ませて間宮先輩と別れる。さて、これでウチの仕事は終わった訳ですが。

······有里さんに会いに行きましょーかね。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「ひぃぃぃ!嫌だ!懲罰房に入るのは嫌だぁ!チクショウ、何故俺のエロ本の所持がバレたんだ、入賀か⁉︎ 入賀の野郎が裏切ったのか⁉︎」

「貴方が阿呆なだけです。······では、相原くん。花壇の管理、お疲れ様でした」

「あっはい」

 

 

卑猥な本の所持が突然現れた風化委員長の間宮先輩にバレて連行されていく園芸部の先輩を横目で捉えつつ、僕は間宮先輩にそう返した。園芸部の先輩を見て、こんな三年生にはなりたくないなと思いました。まる。

これで僕に割り当てられた仕事は終了。何とも言えない終わり方を迎えたけれど、とりあえず澪や水無月さんと合流しないと······と、後ろを振り返ると。

 

 

「ばぁっ」

「にゃッ⁉︎」

「あはは、にゃっ⁉︎ ですって。猫さんみたいでしたね」

「み、水無月ひゃん······」

 

 

また君か!

背後にいつの間にか忍び寄って来ていた水無月さんが軽く僕を脅かしてきた。割と恥ずかしいから、そういう時に出した声について言及するのはやめて欲しい。

というか、水無月さんがここにいるってことは。

 

 

「水無月さんも仕事終わったんだね。お疲れ様」

「ウチは自分がやるべきことをやっただけですよー。有里さんこそ、お疲れ様ですー」

「いや、水無月さんも頑張ったのは確かだし」

「それを言うなら手伝ってくれた有里さんが」

「水無月さんの方が」

「有里さんの方が」

「············何の譲り合い?」

「「にゃあぁッ⁉︎」」

 

 

突如僕たち二人の傍から聞こえてきた声にビックリして再び変な声を上げてしまう。水無月さんも似たような声を上げていた。後でからかってやろう。

 

 

「み、澪。澪も仕事は全部終わったの?」

「············ん。頑張ってきたから、褒めて」

「うんうん、澪は頑張ったよ。偉い偉い」

「············そのまま頭を撫でて」

「······ま、まぁそのくらいなら(ナデナデ)」

「············抱き締めて。唇を奪って。欲望のままに私のことを滅茶苦茶にして······」

「「アウトー!」」

 

 

いきなり現れたと思ったら順当にとんでもないことを言い出した澪の口を水無月さんと二人で塞ぐ。見事なコンビネーションだった。

 

 

「············むぐ。······何するの、二人共」

「えっ、何ですかその不満そうな顔」

「諦めて水無月さん。澪はこれが普通なの」

 

 

少々不満気にこちらをちろっと見てくる澪に水無月さんが頬を引き攣らせる。もう僕は慣れちまったよ······へへ······。

と、そこで澪が妙に水無月さんを凝視していることに気付く。どしたの?

 

 

「············じー」

「な、何ですか澪さん。ウチの顔に何か付いてますか?」

「············野球部の助っ人を務めていた時、私の有里センサーがラブコメの波動を感知した」

「は、はぁ」

 

 

有里センサーとやらが一体どういうものなのかはこの際スルーだ。きっと聞いても理解出来ないだろうから。

澪は続ける。

 

 

「············私のセンサーは高性能。······ねぇ楓、もしかしたら楓は有里のことが「わーわー聞こえなーい!」

「えっ?澪、僕のことが何だっ「食いつかなくていーんですよ、ちょっと有里さんは耳塞いでて下せー!」

 

 

突然物凄く慌ててまくし立て始めた水無月さんに気圧され、流れるように耳を塞ぐ。なになに、澪はなんて言ったの?僕が困惑している間も澪と水無月さんはパクパクと口を動かして何かを話している様子。······聞こえないけど。

 

 

(澪さん!そういうことは本人の前では言わねーで下せー!いや、本人の前じゃなくても!)

(············どうして?······私は楓となら、有里をシェアするのもアリだと思っている)

(そーいう問題じゃねーです⁉︎)

 

 

二人が話している間退屈なので物思いに耽る。

思えば今に至るまで色んなことがあった。幼稚園の頃に澪と出会い、仲良くなった。あの時は積み木やおままごとをして遊んでいただけで、こんなにも好きになるなんて思っていなかった。小学校中学校と、住む場所が近ければ同じ所に通うことになるのは当たり前であるような所でも、当時は一緒になったのは運命だなんて思っていた。我ながら自分のロマンチストっぷりに苦笑が漏れる。

でも、こうして澪に会えたことは。

愛しい彼女と出会えたことは運命と言えるのではないだろうか。あぁ、偉大なる神よ––––––ここに感謝致します······。

 

 

「––––––りさん。有里さーん?」

「······神よ······」

「······何か、異世界にトリップしてますね」

「············任せて。······ふっ」

「ふにゃあっ⁉︎ な、何⁉︎ 何するの澪⁉︎」

「へぇ。有里さん、耳弱いんですね」

「············中学の時、発見した」

 

 

突如耳に息を吹きかけられ、身体から力が抜ける。······さっきまで何か幻覚のような物を見ていた気がするのだけれど······さっき僕は何をしていたのだろう。記憶が飛んでいる。

僕がむむぅ、と呻き声を上げながら記憶を掘り起こそうとしていると、水無月さんが。

 

 

「では有里さんも正気に戻ったことですし、駅前に行きませんか?あそこのクレープ美味しいですしー。もちろん、ウチの奢りですよ?」

「············?」

「え、でも悪いよ」

「これはウチからのお願いですっ。何度もお願いをして申し訳ねーですが、こればかりは譲れませんよー」

 

 

と、そう言った水無月さんは優しげな表情になり、ぽつぽつと話し始めた。

 

 

「ウチ、嬉しかったんですよ。二人がウチの仕事を手伝ってくれるって言ってくれたことが。元々は自己管理が甘かったウチの自業自得だったっつーのに······」

「それは······水無月さんは大切な友達だからね。友達が困っていたら、助けるのは当たり前だよ」

「······ん。気にすることでもない」

「まーまーそう言わずに。ウチはどんなカタチであれ、借りた物は返すことにしてるんですよ。ここで素直に受け取ってくれねーと、ウチがまた困っちゃいますよ?」

 

 

にしし、といたずらっぽく笑う水無月さん。

それを見て、僕と澪はお互いに視線を交わした後、苦笑しながら肩を竦め。それじゃあ······、

 

 

「「ごちそうさまです」」

「ふふっ、任せて下せー!」

 

 

······僕はどこか嬉しそうに胸を叩く水無月さんを微笑ましく思いつつ、澪と共に彼女の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェア······有里さんのシェアですか······いや、流石にそれは不純なんじゃねーでしょーか。んー、でも今の有里さんは澪さんに惹かれてるよーですし、予防線として·······」

「? どうしたの、水無月さん」

「ふゃいっ⁉︎ にゃんでもねーですよ⁉︎ ほら、ウチのことなんて気にしてないで早く行った行ったー!」

「わわっ、え、何⁉︎」

 

 

 

 




実はタイトルを今のモノか「水無月さんはいつもけだるげ」にしようかと地味に迷ってたりしました。いや、どちらにしろパロディじゃねぇか。
次回は再びメインヒロインの幼馴染みがメインのお話となりそうです。投稿は出来るだけ早めに······。

では、今回はこの辺で。ありがとうございました!感想待ってます!

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