私の付き人はストーカー   作:眠たい兎

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今回4人分の視点を書いて見ました、OVAの話になります
(何度この話ほっといて次の秋の選抜書こうと思った事か⋯⋯)

2019年10月11日 修正完了


九皿目 鯛尽くし

 地獄の宿泊研修が終わり、生徒にはしばしの休暇が与えられた。もっともこれはご褒美ではなく、運営の都合上できた休暇なのだが。地獄を無事突破し、休暇が与えられれば羽を伸ばしたくなるのが人情というもので、多くの生徒が街に遊びに行ったり帰省をしていたりする。

 

「さて、美作。準備はいいか?」

 

「勿論だぜ、っても移動は殆どあっちの車だがな」

 

「まぁこの学園広いからな」

 

 目的地の薙切邸まで大体5キロくらいだ、比較的中心寄りの我が家でコレなのだから遠月の敷地の可笑しさは異常の一言に尽きよう。しかし持参物に包丁を指定されたのには驚いた。

 

「それじゃ、荷物を飛ばさねぇように気をつけろよ」

 

 そう言うと彼はバイクを走らせる、サイドカーの胃のあたりがヒュッとなる乗り心地にももう慣れたもので、包丁や日頃も持ち歩いている荷物を抱き抱えて乗る。因みに今の格好は美作はいつもの、私は男装だ。

 

「しかし美作、折角の休暇を良かったのか?もし彼女か彼氏とかがいるなら⋯⋯」

 

「彼女も彼氏もいねぇよ...つか美咲さんの付き人してる時点で察せるだろ」

 

「悪い」

 

 しかし私が最近先輩に聞いた男のからかい方を実践して見たのだが、そう上手くはいかないらしい。彼氏の辺りを勢いたっぷりに否定したところを弄れと言われたのだが⋯⋯まさか⋯⋯

 

「謝られるのも微妙なんだけどな、美咲さんはどうなんだ? 言い寄られた事とかねぇのか?」

 

「一度も無いな、なにせ中等部の頃からこの身長だぞ?」

 

「美咲さんの場合身長は関係ないと思うんだが⋯⋯まぁいいわ」

 

 私の上げる最も女性らしくないポイントだったのだが美作には別の心当たりがあるらしい。やはりこの仕事しない表情筋とコミュ力だろうか?

 

「いいのか。ほら目的地が見えてきたぞ」

 

 薙切邸の屋根が木々の合間から見える。歩けば意外と掛かるだろうがそこはバイクなのですぐだ。正門が見えるあたりに来ると、如何にも高級といった様子な黒塗りの車と屈強なサングラスのSP(?)、制服姿の美少女が2人いる。言わずと知れた彼女達だ。

 美作がバイクを止めるとヘルメットを脱ぎ(蒸すので正直好きではない)、彼女達に挨拶をする。

 

「おはよう、やはり2人とも制服なんだな」

 

「えぇ、おはよう。美咲は男子の制服⋯⋯それは特注なの?」

 

 緋沙子さんが頭を下げ、えりなが言う。女子用の制服は学校がある日こそ着ているが、動き難さとスカート丈の都合で余り好きではなく、男子のズボンと手頃なカッターシャツの組み合わせだ。それに私がミニスカなんか穿いても誰も喜ばないだろうし。

 

「動きやすいからな、やはり美作もスーツか何か着せた方が良かったか?」

 

 一応仕事との事なので正装(?)をしたのだが、美作は生憎そんなものは持っていないとの事であり、本人は最悪近くで待機すると言っていた事もあり普段着だ。

 

「いえ、大丈夫よ。3人が遠月の格好をしていれば舐められる事も無いでしょうし、私達はお願いされて行く立場なのだから多分文句も言われないわ」

 

 飲食業を営む店のスタッフが彼女に文句を言うとすれば元十傑や、彼女の事を知らないモグリだろう。いるなら是非見てみたいものだ、飛び火しないレベルで。

 

「そうか、一応言われた通りの物は持ってきたが私は何をすればいいんだ?」

 

「後で話すわ、さぁ乗って頂戴」

 

 彼女がそう言うと黒服の男性が車のドアを開ける、正直こんな高級車に乗る日が来るとは夢にも思わなかったので内心びくびくしている。まぁビビッててもしょうがないので出来る限り自然に乗り込んだが。

 車の内装は豪華⋯⋯というか行き過ぎて無駄を感じる次元で、車内というより高級宿泊施設のようだ。美作も珍しいのかキョロキョロとしており、未経験なのが私だけでない事に安心しつつも、車とは思えないような座席に着く。

 

「それでは行きましょう。午前中は都内のホテル4件、午後は料亭2件が今日の予定です。えりな様、犬神さんよろしいですか?」

 

「勿論よ」

 

「あぁ」

 

 緋沙子さんがえりなの所で秘書業をしているのは知っていたが、素人目に見ても優秀なのが分かる。実際口にすると頭悪い扱いをされかねないので言わないが、今かけている眼鏡と手帳が本人の生真面目な雰囲気と合わさってとてもそれっぽいのだ。

 

「そうだわ、美咲に包丁を持ってきてもらった理由を説明しておきましょう」

 

 車が走り出すとえりなが説明を開始する。私としても今一番気になる事でもあるので、早く説明してもらいたい所、現場で唐突な無茶振りをされるのは宿泊研修でもうこりごりなのだ。

 

「まぁ他にないとは思うけれど少し包丁を振るって貰いたいのよ。とは言え振るって欲しいと思っているのは現状一軒だけなのだけど」

 

 私が包丁を振るう理由はよく分からないが、その程度ならば別に良いだろう。人に包丁技術を伝授しろと言われても無理な話であるし、そもそも現場の人間に私程度の技術が必要とも思えない。包丁技術に関しては自信がないわけでは無いが、関守先輩にもまだ拙いと言われる様に学生の域は出ていない。

 

「何にだ?」

 

「多分鮮魚になるわ、日本料亭だし」

 

 肉類で無いならまぁ無様は晒さないだろう、肉類とスイーツは私の苦手分野なので遠月では生きていくのが精一杯なレベルである。加熱調理や味付けなんかは何とかならなくも無いが、肉の味を云々となるとさっぱりなのだ。是非また水戸さんには食戟をして欲しい。

 

「分かった、それでなんだが⋯⋯それは?」

 

 視線の先にあるのはトランプである、車の内装の所為で凄く雰囲気に合っているのだが、普通トランプは走行中の車内で使う物ではない筈だ。

 

「トランプだけど⋯⋯到着まで時間があるし暇でしょう?」

 

 だから暇潰しにトランプをしようと、まぁ言いたい事は分かるが⋯⋯確かに本当に車内なのか分からないくらい揺れないし空調が完璧だが⋯⋯

 

「で、何をするんだ?ババ抜きは美咲さんが確実に負けるぞ?」

 

「そうですね、犬神さんが絶対に負けます」

 

「そうね⋯⋯美咲が圧倒的に弱いものね」

 

 散々な言われようだが否定出来ない、何故なら宿泊研修時の私の勝率は0%。その殆どでジョーカーを終始握り締めていたのだから、何かこれと言って敗因があるわけでは無いと思うのだが。

 

「ポーカーとかはどうだ?」

 

「セブンブリッジなんかもいいですね」

 

 この後ルール説明を受け、ゲームをプレイしたのだが、どうやら私はポーカーだけは異常に強いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美咲さんとポーカーはしてはいけない、恐らく彼女を除く全員の総意だろう。駆け引きも何も無く、常にジョーカーを二枚手札に持っていたのはただジョーカーに愛されているのからなのか。何はともあれ、無事に午前の予定をクリアし、午後の予定に備えて休憩をしようとなった。因みに薙切が一口食べて罵倒するのを見ているだけだったので俺は勿論、美咲さんも何もしていない。

 

「しかしまぁ、情け容赦の無い辛口コメントだったぜ」

 

「当然でしょう、レシピを何処から仕入れたのかは知らないけれど、遠月だと高等部進学も危ぶまれる下処理のレベルだったんだから」

 

 確かに上手いとは微塵も思わなかったが、恐らくそれはここにいる全員が美咲さんの包丁技術を見慣れたからだろう。世間的に見てそう程度が低いわけでは無いだろう、多分。

 

「まぁレシピそのものは良かったみたいだから後は練習あるのみだろう」

 

「美咲さんクラスならな⋯⋯流石に50近いおっさんに高校野球ばりの練習量を求めるのは酷だぜ」

 

 暇さえあれば食戟の観戦、朝から晩まで黙々と試作を繰り返す美咲さんと同じ練習量をこなせと言われても、学生ですら一月と持たずに体を壊すだろう。ましておっさんなら最悪過労死する可能性すらある。

 

「人にはその人に向いた練習方法があるからな、私みたいに能率無視して包丁振るうのが向いている人もいれば理屈から入るのが向いている人もいる」

 

「それでも美咲さんはおかしいだろ」

 

「美咲は普段からどんな練習をしているの?」

 

 彼女の試作風景を知る者はそう多くない、精々が一部講師や俺くらいだろう。過去にストーキングをした時はあまりの覗き難さ、何故か何時になっても途絶えない人の足に難儀したが、あれのせいで誰も覗こうにも覗けず、またたまたま見る事も無いだろう。

 

「大した事じゃない、長々と調理し続けるだけだ」

 

「美咲さんの作る量の所為で俺は太ったぞ」

 

 美咲さんの料理の消費先は保存の利くものは近場の児童養護施設に引き取ってもらい、そうでない物は自分で消費していたらしい。後者の消費に俺が加わったのだが、今まで彼女が太っていないのが何故か分からない程の量に驚き、このままだと不味いと思い積極的に運動をするようにしている。

 

「⋯⋯?」

 

「そんな事はどうでもいいんだ、この後はどうするんだ?」

 

「余り移動するのは望ましくないので出来れば近場で時間を潰したいのですが⋯⋯」

 

 近場で時間を潰す、となると観光もしくは喫茶店等になるのだが、とてもではないが【神の舌】と【神の包丁】を連れ込める場所が早々ある訳もなく、ほぼ観光一択だ。

 

「ねぇ緋沙子、あの⋯⋯ペンギンを」

 

「「ッ!?」」

 

 唐突にペンギンを所望する【神の舌】に一同唖然とする、味のイメージなのか食べるつもりなのか、はたまた何かの隠語なのか。もし最後のケースならば新戸が分からない筈が無いので、イメージなのか食べるつもりなのかだろうが、どちらにせよ意味が分からない。ペンギン料理なんて日本で出そうものなら大バッシング必須だろう。

 

「そうだな、ペンギンもアリだな」

 

「「え!?」」

 

 美咲さんには通じている、謎の隠語説が有望になったが、彼女ならペンギンを難なく捌いても驚かないだろう。流石に止めはするが。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 そう言うと二人は水族館へと入って行く、よく分からないものの主達に置いて行かれるわけにもいかない俺と新戸は、2人を追いかけて水族館へと入っていった。そもそも俺達がいなければ支払いのシステムが良く分かっていない様子の薙切と、券購入のタブレット相手にボタンを探す美咲さん相手では置いて行かれる心配は不要だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペンギンを堪能した後、目的の料亭に向かう。ペンギンと触れ合っていた時、美作君と緋沙子の私達を見る視線が(ペンギンの)親鳥のそれだったのが気になるが、水族館も堪能した所で今度は彼女の腕を堪能させてもらう事にしましょう。

 

「私の出番は次か?」

 

 やはり並ぶと大きい、彼女が周りに近寄りがたい雰囲気を感じさせるのはこの所為もあるのだろう。第一の要因は他にあると思うけど。

 

「えぇ、新人のプライドを圧し折るのが貴女の仕事よ。期待しているわ」

 

 彼女は前を向くと口元に獰猛な笑みを浮かべ、「あぁ」と呟く。彼女はきっと料理勝負や技比べが好きなのだろう、食戟をしないのは単に相手が居ないからだと見ている。

 

「さぁ、えりな様、犬神さん、こちらです」

 

「らしいぜ」

 

 この2人も随分と仲良くなった様子だ、やはり付き人同士感じるものがあるのだろうか。

 

「ふふ、遠月の名を馬鹿にしたとか言うお馬鹿さんのプライドを粉砕しに行くわよ」

 

「えりな様⋯⋯あくまで圧し折るくらいに」

 

「さっきのおっさんの前に言ってやれよ⋯⋯」

 

 料亭の門を潜ると芸者の方が出迎えてくれる、彼女達の案内は慣れたもので、此方に一切の不快感が無いように気遣っている。お馬鹿さんは兎も角彼女達はきっと一流なのだろう。

 奥の一室に通されると一人の男性が待っていた、彼の顔は自信と覇気に満ちており、明らかに此方を見下しても居る。

 

「こんにちは、遠月から来ました薙切えりなです」

 

「おや、お付きの方が3人も居るとはお聞きしていませんでしたが?」

 

「そちらの2人は貴方の料理への指導を手伝って貰う事になっていますので、まぁお気になさらず」

 

 彼の表情がピクリと動く、一先ずは挑発は十分だろう。

 

「それはそれは⋯⋯楽しみにしていますよ」

 

 そう言うと彼は厨房に向かったのだろう。しばらくすると私の前に鯛で作られた料理が並んでいく。鯛尽くし、時期でもあり、また脂の乗った上質な鯛が誇る身の張りは上々だ。包丁も火入れも煮込みも上々、遠月の学生と比べても間違いなく上位に食い込む実力はある。

 

しかし。

 

「それではどうぞ、ご賞味あれ」

 

 部屋に入ってきた彼が言う、「えぇ」と返事をすると一口ずつ箸を付けていく。確かに美味い、素材の味も殺す事無く調理されているがやはりだ。

 

「そうですね⋯⋯60点と言った所ですね。合格ではあるでしょう」

 

「はぁっ? 俺の料理が60点だと?」

 

 恐らく彼の素はこっちなのだろう、表面だけ取り繕ってもそれが表面だけのものなのは一目瞭然だ。

 

「えぇ、私から合格を貰ったのですから誇っていいでしょう」

 

「⋯⋯あんたが俺の料理を越す100点満点の料理を見せてくれるってのかぁ?」

 

「私は料理しませんよ、するのは彼女です」

 

 そう言うと美咲に視線を向ける、部屋中の視線が彼女に向くが、彼女は表情を崩すことなく鞄を持って立ち上がる。

 

「彼女を厨房へ」

 

 芸者の方に連れられて彼女は姿を消した、目の前には此方を射殺さんばかりに睨みつける男。左右で溜息まじりに哀れな子犬を見る目を向ける付き人達の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかの挑発からのバトンタッチを喰らった。調理をする事になるとは聞いていたが、挑発して憤怒の形相を浮かべた相手のヘイトを丸投げされるとは思っていなかった。

 

「しかし⋯⋯多分これは美作の方が適任だよな」

 

 えりなの頼みたい事は分かるが、同じ料理で上を行くならばどう考えても適任は美作だ。寧ろ彼はその手の専門家なのだから、事前準備が無くとも今の彼なら容易くやってのけるだろう。

 内心で愚痴りながらも厨房と食材を使う事をスタッフの方に告げ、貰い受けた2匹の鯛の内、大きい鯛を捌く。最小の手数で捌く、生で食べる時の一手分の差は言うまでも無く、また加熱調理しても差は現れる。

 

「先ずは炊き込みだな」

 

 捌いた鯛の中から淡白な部位を切り離し、土鍋で米と共に火にかける。味付けは『薄口醤油と再仕込み醤油を合わせたもの』をベースに白昆布、加塩みりんを加えたものだ。これは時間は掛かるが待っていれば出来るので、仕掛けるだけ仕掛けて続きを行う。いつもの氷水を準備し、手の感覚が遠くなると身に沿うように皮を剥ぐ、ぶつ切りにした部分を衣に馴染ませ、薄切りにした部分は昆布でしめる。数日掛けたいがそんなに待っても居られないので、昆布の表面にざらつきを造り早く馴染んでもらう事にする。

 

「それでアラ煮」

 

 骨と頭を放り込み、『白醤油と薄口醤油』で味を調える。油を温めながらフライパンの準備も整え、揚げ物と酒蒸しの準備を済ませる。暫く待ち、鯛飯の出来る頃合で全ての調理をスタートする、揚げ物と酒蒸しの過熱を開始し、手を冷却すると今度は小さい方の鯛を一息に捌く、半身は刺身にして頭部と盛り、もう半分はカルパッチョにする。彼の料理にカルパッチョは無かったが、余してもしょうがないし、また香りが高い物もなかったので一案として出す。

 

「あとは運ぶだけか」

 

 幾らか香辛料をふりかけバーナーであぶれば完成なので、バーナーを腰に下げ、揚げ物や酒蒸し、刺身に鯛めし、アラ煮を盆に載せると先程の部屋へと持ち込む、どうやらずっと睨み合いを続けていたらしい。

 

「あら、思ったより早かったわね」

 

「急いだほうが良いと思ったからな」

 

「っは!早くても味がなってなきゃ話にならん」

 

 そう言うとカルパッチョに箸を伸ばすので手を掴んで止め、バーナーで炙る。コレをしないと完成しないし、食べる直前にしないと香りが逃げてしまうのが難点だが、その分直後の味は確かだ。手を放すと彼が口に運ぶ。

 

「_______!」

 

 魚の調理に対して助言をくれた卒業生、今回は特に関守先輩には深い感謝をしなければならないだろう、やはり卒業生は偉大だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気持ちのいいものを見た、えりな様に無礼を犯した男が目の前で打ちのめされるのは実に気持ちがいい。犬神さんは追い討ちを掛ける事と逃げ道を塞ぐ事も上手いらしく、相手より素早く調理を済ませる事で早さでの逃げ道を塞ぎ、最後に『この程度は卒業するまでには誰でも出来る様になる』と遠月を馬鹿にした男に対して何を馬鹿にしたかを思い知らせる追い討ちだ。

 

「しかしまぁ、よくあの短時間であそこまでの完成度が出来たな美咲さん」

 

「時間があればもう少しなんとかなったのだがな」

 

 しかもまだ余力は大いにあるのだろう、私もえりな様のお傍に居るためにはアレくらい容易に出来る様にならねばならないのだろうか。

 

「十分よ、少なくとも自分の実力すら測れない男に灸を据えるのにはね」

 

「まぁ⋯⋯別に遠月出身な訳でもない、ただの料亭の跡取り相手に美咲さんはオーバーキルだった気がするけどな。次美咲さんの本気の料理が見られるのは選抜か?」

 

 まったくもってその通りだ、遠月にも愚才な者は未だ残っているので一概には言えないが、あの程度の男はある程度の実力者になれば歯牙にも掛けないレベルだ。

 

「あ、そういえばだけど3人共、少し早いのだけど選抜予選出場決定おめでとう」

 

 秋の選抜、60名の予選出場者に選ばれた事をえりな様が告げるがここに居る全員、自分が選ばれる事を疑っていなかっただろう。犬神さんは相変わらずの無表情だし、美作も当然と言った表情でいる。私とて選ばれなければ自ら付き人の立場を返上するくらいには疑っていなかった。

 

「ありがとうございます、えりな様。先ずは目指せ本戦出場ですね」

 

 当然目指すべきは優勝なのだが犬神さんが居る限り現実的でない。えりな様をして勝てない、底が見えないと言われる人物に私が勝てるとも思えないのだ、せめて彼女以外には負けない事が私の使命だろう。

 

「3人が本戦出場してくれる事を期待しているわよ」

 

 犬神さんが獰猛に笑みを浮かべ、美作がその顔にまた違った笑みを浮かべる。きっと私も笑えているだろう、秋の選抜の課題発表がこれほど待ち遠しいのだから。




誤字脱字報告、感想くださった方ありがとうございます!
近いうちに次も投稿する予定ですので次回もよろしくお願いします。

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