本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP34 マルドゥーク討伐作戦

 

 レイジバーストシステムもブラッドレイジとして確立し、シスイの研究は一旦の収束を見せた。他にも幾つかのテーマを持ってはいるが、あまり積極的ではなく、他の研究チームの解析を手伝ったり、リッカの手伝いをしたりと支援に回ることが多い。

 今日も頼まれていたデータ解析を終了してデバイスに保存すると、丁度ユノから連絡が入ってきた。メールボックスを見ると、会って相談したいことがあると書いてある。

 大抵のことはサツキに相談するユノがシスイに話を持ち掛けるのは珍しい。これでも彼女のことは女神の森(ネモス・ディアナ)時代から気にかけているので、すぐにゲストルームへと向かうことにした。

 研究棟を出て区画移動エレベーターに乗り、ゲスト用の区画へと向かう。今はブラッドが使っているのでブラッド区画とも呼ばれているが、まだゲスト用としての機能も残っているので、ユノもアナグラではここに滞在しているのだ。

 ノックをすると、すぐに返事が入ってきた。

 シスイは扉を開けて中に入る。

 

 

「呼び出してごめんなさいシスイさん」

「いいよ。僕に相談何て珍しいね」

「うん。ちょっと困っていることがあって……サツキにも言ったんだけど、やっぱり不安だったの」

「何があった?」

 

 

 普段は凛としているユノが弱っている姿を見るのは珍しい。本当に何か拙いことがあったのだろうと考えて真剣な表情になる。

 

 

「実はね、アスナちゃん……えっとサテライト拠点で黒蛛病に罹っていた子なんだけど、その子と連絡が取れなくなったの。ジュリウスさんの提案でフライアに黒蛛病患者を収容できるようになったのは覚えているかな?」

「うん。ただ、黒蛛病の研究成果は全く公表してくれないけどね」

「それでね、私もアスナちゃんとはメールで連絡を取る仲だったんだけど、最近になって急に途絶えちゃって。フライアに問い合わせても、全く取り合ってくれないの。もしかしたら……」

 

 

 アスナが既に黒蛛病によって亡くなっている可能性を考えていたのだろう。ユノは悲痛な目をシスイに向けた。

 しかし、シスイは首を横に振って否定する。

 

 

「いや、死亡者情報は秘匿されることがないよ。そういう風にフェンリルの法で決められているからね。フライアは本部との繋がりも強いし、そこは徹底していると思う。もしも死亡者情報を隠すとすれば、まず生まれすらなかったという風に根本から情報改竄してくるよ。少なくとも、アスナちゃんの戸籍記録は残っているんでしょ?」

「うん、一応。生存って書いてあるけど……」

「戸籍情報が残っているなら大丈夫だよ。もしも消されていたら拙いだろうけどね」

 

 

 シスイはフェンリルの闇の部分を多く見て来たが、目に当たる光の部分も良く知っている。基本的には公正を意識する組織なので、表立った不正や裏切りは許さない。

 だからこそ、フライアが不正をしているという可能性は限りなく低かった。

 特に、グレムスロワ局長はそういうものに敏感な人物だ。色ボケな部分はあれど、アレはアレで優秀な人物である。管理するフライアにはしっかりと情報網を張り巡らせているだろう。逆に、その網目を掻い潜って不正をしている人物がいるとすれば、相当なやり手である。

 

 

「一応、確かめてみようか。僕の研究室に来てくれ。少しフライアを覗く」

「え? それって……」

「まぁ、いわゆるハッキングだね。でも不安なんだろう? なに、心配しなくてもこれぐらいは普通さ。それにバレるようなヘマも有り得ない」

 

 

 ユノは少し悩んでいたようだったが、シスイの提案を受けることにする。二人は部屋を出て区画移動エレベーターに乗り、研究棟へと移動してシスイの部屋に向かった。

 カードキーと暗証番号で研究室を開き、ユノを招き入れる。

 内部に揃った解析機や並列接続で処理を高めている専用コンピューターを見てユノも言葉を失っていた。

 

 

「……凄い」

「色んな解析をするからね。僕の研究はシミュレーションが殆どだし、そうなると処理能力の高いコンピューターが必要になるんだ。必然的に他の研究チームからも解析の協力を頼まれたりしてね。それで余計に能力を強化しているって訳だよ。ごちゃごちゃしているけど、適当な場所に座ってくれ」

「うん。わかった」

 

 

 シスイも自分の椅子に座り、コンピューターを立ち上げる。そして慣れた手つきでキーボードを操作し、大量のプログラムを並列で立ち上げて複雑な操作をし始めた。

 高速で流れる文字列にシスイが修正を加えていき、まずは逆探知や反撃に備えた防壁を構築する。そして多くの中継地点を迂回して、ようやくフライアのシステムに侵入した。

 何が起こっているか分からないユノは目を白黒させている。

 

 

「す、すごい……」

「このぐらいなら榊博士でもやるよ。それに僕のハッキングスキルは榊博士に少しだけ伝授してもらっているからね」

「あの人、やっぱり凄いんだ」

「どうみても胡散臭いおっさんだけどね。実力は本物だよ」

 

 

 シスイとしても色々と便宜を図って貰っているので、頭が上がらない思いだ。ただ、厄介な特務を押し付けたりしてくるので完全に相殺されているが。

 なんとも飴と鞭の使い方が上手い人物である。前支部長だったヨハネスとは別の意味でやり手だった。

 

 

「さてと……色んなファイルがデータベースで混在しているね。アナグラのデータベースは僕が整理している上に強烈なプロテクトをかけているけど、フライアにはその人員が少ないのかな?」

「つまりどういうこと?」

「探すのは面倒だけど、割と簡単に見つかりそうだってこと」

「ごめんね。面倒なことを頼んで」

「いいよ。ユノの頼みだ」

 

 

 シスイは条件検索によって黒蛛病のファイルを拾っていき、特に患者名簿を探す。名簿については意外と早く見つかったので、シスイはそれを開いた。

 何人かはフライアの中で亡くなっており、ファイルには『Dead』と記されている。しかし、何枚目かのファイルで見つけた名簿の中にアスナの名が記されていた。無事に生存しているらしい。

 

 

「生きてはいるみたいだね」

「良かった……でも、どうして連絡も取れなくなったのかな?」

「患者のカルテはないみたいだね。もしかして紙の資料で保存しているのか? 今どき珍しい。重要書類ならまだしも、カルテぐらいなら電子保存が一般的だろうに」

 

 

 ピックアップしたファイルを次々と調べるも、やはり患者のカルテは見つからない。試しに黒蛛病以外のデータ群からカルテを探したが、そのどれもがフライア職員のものだった。

 そんなとき、シスイは厳重にプロテクトされたファイルを見つける。他のデータに比べるとガードが異様に堅く、フライアのデータベースを管理している人物とは別の誰かが個別に組んだ防壁のようだ。反撃プログラムこそ見当たらないが、攻撃を仕掛ければあっという間に探知されてしまうだろう。あまり触れたくないと思わせてくる。

 シスイの手が止まったのを疑問に感じたのか、ユノが問いかけた。

 

 

「どうかしたの?」

「いや、無駄に高度な防壁を組んでいるファイルがあってね。どうしたものかと思って」

「それは重要なものだからかな?」

「そりゃそうだろうね。でも、これぐらい厄介な仕組みだと、アナグラからの遠隔操作では解除できないかもしれない。直接フライアでやれば別だろうけど」

 

 

 これだけ厳重なファイルだとすれば、それは神機兵関連のデータだろう。フライアは神機兵を生産するファクトリーでもあるので、この手のデータは流出を絶対に防ぐはずだ。専門家によって別システムのロックが掛けられていても不思議ではない。

 黒蛛病とは関係ないだろうと考えて無視することにした。

 

 

「……一通りは漁ってみたけど、戦果はゼロってところか。カルテが見つからないのだけは気になるけど」

「そっか。でもアスナちゃんが生きているって分かって良かったわ。ありがとう」

「いや、あまり役に立てなくて悪いね。電子的な手法では調べきれないとなると、サツキさんみたいな現地調査が必要になるかな。取りあえずはサツキさんの情報を待ってみるといいよ。それでもダメなら、もう一度相談してくれないか?」

「うん、ありがとね」

 

 

 ユノは笑顔でお礼を言うが、不安が除けたわけではない。

 この時から、シスイもフライアの動向を注意するようになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ユノに頼みごとをされてから数日後、極東支部の調査隊から大きな報告がもたらされた。広範囲に感応波を展開した例のマルドゥークが見つかったのである。大量のアラガミを従えており、実際に観測できたのは一瞬だけだったが、解析された映像には確かに傷のあるマルドゥークが映っていた。

 極東支部に所属する各部隊の隊長は会議室へと集められ、討伐に向けたミーティングが行われている。

 資料となる映像が終了すると、ペイラー榊は真剣な面持ちで口を開いた。

 

 

「以上が観測班の持ち帰ったデータだよ。現在は極東支部の遥か北西にある山岳地帯にいるらしい。勿論、感応波の影響で周囲には無数のアラガミが集まっている状況だね。中には感応種もいるときた。マルドゥーク討伐はブラッド隊に担当して貰うとして、他の感応種についても対策を取らなければならない」

 

 

 ペイラーが映像を切り替えて幾つかの画像データを映す。

 

 

「シユウ神属イェン・ツィー、ハンニバル神属スパルタカス、サリエル神属ニュクス・アルヴァ。この三体が確認されており、特にニュクス・アルヴァは五体もいるようだ。ザイゴートとサリエル種を率いているらしい。マルドゥークの支配能力は範囲だけじゃなく質もあるということだね。まさか感応種まで従えているとは予想外だったよ」

 

 

 この三体はブラッド隊なら戦ったことのあるアラガミなので倒すこと自体は難しくない。しかし、距離が離れすぎているため、ブラッドの負担が途轍もなく大きなものとなるのだ。

 普通の神機使いは感応種を相手に戦うことが出来ないというのは痛い。

 その事実はペイラーだけでなく各部隊の隊長も認識しており、今回の作戦におけるブラッドの重要性が濃密に漂い始めていた。神機が動かない以上、サポートすることすら不可能となる。感応種本体から遠く離れた場所なら、感応波の範囲でも神機を動かせる者は何人かいるだろう。しかし、殆どは感応波の範囲で神機の機能を奪い取られてしまう。感応波の範囲が広いマルドゥークがいる以上、極東に所属する殆どのゴッドイーターは今回の作戦で使えないのは明白だ。

 そこでペイラーは苦い表情を浮かべつつ、一つの作戦を提示した。

 

 

「極東支部で感応種と戦えるのはブラッド隊、そして楠シスイ君だけ……感応種は彼らに任せるとしても、周囲にいる他のアラガミをどうにかして対処しなければ、マルドゥークの元まで辿り着けないだろう。感応種から離れた位置なら感応波の範囲内でも神機を動かせるのは、恐らく第一部隊のメンバーのみ。それを加味しても戦力不足過ぎるのは明白だ。だから私はフライアに神機兵の出動を要請した」

 

 

 それを聞いた隊長たちは誰もが嫌な表情を浮かべる。そのことは予想していたので、ペイラーは彼らを納得させるべく、スクリーンに幾つかの資料を提示した。

 

 

「君たちの気持ちも分かる。あの事件があった以上、信用は出来ないだろう。だが、あの事件以降に神機兵が改良されたのも事実だよ。皆知っていると思うけど、最近は中型種以下のアラガミは神機兵が狩るようになってきた。防衛班も出動回数が減り、第一部隊も大型種や接触禁忌種を相手にするだけになってきたと感じているハズだ。それはラケル・クラウディウス博士が受け継いだ神機兵計画が順調に進んでいることを意味している。成長するAIによって徐々に戦闘が効率化され、今では破損なくコンゴウ程度なら狩れるほどにまでなったそうだ。何より、ブラッドの偏食因子を組み込むことで感応種相手でも戦闘可能というのが一番の目玉だろう。強力な能力を持つ感応種を直接倒すことは出来ずとも、感応波の範囲内で他のアラガミを倒せるという事実が意味することは大きい」

 

 

 スクリーンが示す神機兵の討伐実績では、かなりの中型種以下が三桁の数字を示している。大型種も数体ほど狩った実績があるらしく、数字としてそれをみた隊長たちの方から関心の声が薄っすらと上がっていた。

 ペイラーは良い空気になり始めたと内心で安堵しつつ、説明を続ける。

 

 

「現在、神機兵の教導をしているジュリウス・ヴィスコンティ大尉も今回の作戦に前向きで、現開発責任者のラケル・クラウディウス博士からも了承の返事を頂いたところだ。極東からは第一部隊とブラッド隊を出動させ、防衛班はアナグラやサテライト拠点で待機して欲しい。また、シスイ君は一時的に第一部隊とは別行動をして貰う。その間、第一部隊の指揮を執るのは藤木コウタ君だ。ここまでに異論はあるかね?」

 

 

 ペイラーが会議室を見渡すと、隊長たちは顔を見合わせて小声で議論している。戦力が少なすぎる、本当に神機兵は信用できるのか、長期任務のせいで偏食因子の投与限界が来てしまうのではないか、などの声が多数挙がっていた。

 マルドゥークの従えるアラガミは尋常ではない数で、一気に突破しなければ次々とアラガミが集まってしまう。何度も極東支部と現地を行き来するわけにはいかないので、戦場でのキャンプを強いられることになるだろう。

 如何に神機兵を多数導入しようとも、アラガミの数が多すぎるのである。

 万全を期すペイラーにしては個の力に頼り過ぎな作戦だと言えた。

 やはりというべきか、第八部隊の隊長が手を挙げる。

 

 

「千堂マサト君だね。発言を許そう」

「博士、流石に無茶が過ぎるんじゃないですかね? 第一部隊とブラッド、あとは役に立たねぇ神機兵だけで千体以上のアラガミを相手にするのは無茶だ」

「分かっているよ。だから、侵入ルートもしっかりと考えてあるさ。可能な限りアラガミが少ないルートを割り出している。シスイ君を除いた第一部隊と神機兵で露払いし、シスイ君は一人で壁となって引き寄せられるアラガミを食い止めて貰う。そしてブラッドが先に進み、マルドゥークを討伐するんだ。そのルート上で避けられないのがさっき示した感応種というわけさ。あまり時間を掛けると割り出したルートも意味がなくなってしまうものでね。他の支部から援軍を待てない状況でもあるのさ」

「俺たちの中からも数人は弱い感応波の中で活動できる奴はいるはずだ。流石に感応種相手は出来ねぇだろうが、そいつらを連れて行くだけで十分に戦えるぜ。例えば第四部隊のカノンは適合率が高いから、行けるんじゃねぇか?」

「ちょっと待って貰おうか、マサト。お前はカノンちゃんを一人で戦場に送る気か? 俺たち遊撃班の仕事からすりゃアリかもしれねぇが、隊長の俺が行けない以上は一人で向かわせるのは許可できないな」

「例えばの話だハル。別にカノンを名指ししてるわけじゃねぇよ」

 

 

 マサトはそういうが、今の意見が通れば必然的にカノンは出撃することになるだろう。ゴッドイーターの中でも第一部隊並みに適合率が高い者はやはり少なく、一度候補になれば間違いなくそれで決定となる。

 流石にカノンをこのレベルの戦場へと送り出すのは気が引けた。

 第四部隊としてハルオミも共に行くのならまだしも、他部隊の人間と組まされて行くのでは連携にも差が生じる上、カノンの性質を考えれば適当な人とは組ませられない。

 諸々の事情もあり、ペイラーも乗り気ではなかった。

 

 

「それについては今回は辞めておこうと思っているよ。マサト君の言い分も確かな所はある。しかし、連携の準備をする間もなくアラガミの群れに飛び込ませるのは無闇に死亡率を挙げるだけになってしまうと、私は思うね」

 

 

 ペイラーの言葉に納得したのか、マサトも引き下がった。

 それ見て他の隊長たちも納得する。第一部隊にブラッド隊と極東を代表する強力な部隊が抜ける以上、防衛の方にも力を注がなくてはならない。普段はどちらかの部隊がアナグラに留まっていることが多いので、緊急で接触禁忌種が迫ってきた場合でも対処できるのだ。

 しかし、今回は最低二週間にも及ぶ長期ミッションだ。その間に接触禁忌種が現れたとしても防衛班だけで対処しなくてはならない。これもこれで大変なことである。

 負担がかかるのは第一部隊とブラッド隊だけではないのだ。

 

 

「さて、納得してくれたようだね。では具体的な作戦を詰めよう。まず、現地では戦闘続きで、大量の偏食因子を消費してしまうと思われる。だから、簡易投与キットによる偏食因子投与を行いつつ、作戦をして貰うことになるだろう。勿論、向こうではキャンプ生活だよ。さらに遠距離での任務だから極東からの電波も通じにくい。そこでヒバリ君にも同行して貰い、現地で働いて貰うことになるね。その間の極東は育成中の見習いオペレーターが担当してくれる。普段よりも辛いのはアナグラも同じというわけさ」

「嘘……だろ……」

 

 

 ヒバリに毎日アタックを仕掛けている第二部隊隊長の大森タツミはショックを受ける。しかしペイラーはそれを無視して話を続けた。

 

 

「ルートはこれだ。輸送ヘリ三台で兵站、人員、更には車も送る。この平原になっているポイントで簡易基地を建設する予定だね。フライアは移動要塞だから、現地まで赴いて神機兵を解放するそうだ。だから私たちは私たちのことだけを考えておけばいい。そしてこの基地から車でマルドゥークの所まで移動していくという寸法さ。キャンプを繰り返しながら――」

 

 

 ペイラーはスクリーンに映る地図に赤いラインのルートを指で示す。

 

 

「――このルートで進んでいく。ブラッドが先端を開き、シスイ君は感応波に釣られてやって来るアラガミを押さえつける。コウタ君が率いる第一部隊は背後から残りを掃討しつつ援護だ。マルドゥークに近づけばコウタ君たちも動けなくなるだろうし、この第三中継地点までが限界だろうね。残りの第四から第八まではブラッドとシスイ君、そして神機兵だけで行って貰うことになる。その間、残りの第一部隊は戻って基地の防衛に努めて欲しい。あと、相性を考えてニュクス・アルヴァ五体だけはシスイ君が担当して欲しいね。構わないかな?」

「僕は問題ありませんよ。ニュクス・アルヴァは斬撃が効かないだけの雑魚ですから、五体同時でも全く支障はありません」

 

 

 いや、シスイはブレードタイプの神機使いだろ……

 そんな言葉が込められた視線が一斉に集まった。しかし実情を知るペイラーは満足気に頷いて更に話を進めようとする。だが、それを止めたのはブラッド隊長ヒカルだった。

 

 

「ちょっと待ってくれ博士」

「なんだいヒカル君」

「シスイが感応種相手でも戦えるのは知っているけど、ニュクス・アルヴァは拙いだろ。ブレードタイプの神機を操るシスイじゃ勝てない」

「いや、問題ないよ。シスイ君がブレードタイプの神機を使っているのは、彼に銃型神機が必要ないからなのさ。疑うなら、実際に彼が戦う姿を見せてもらうといい。シスイ君もアレを見せても構わないね? どちらにせよ、そろそろ極東の隊長クラスには公開しようと思っていたぐらいだよ」

「……まぁ、博士がそういうのなら」

 

 

 シスイは溜息を吐きながら了承する。

 基本的にペイラーは胡散臭い。しかし、決して悪いようにしないのも事実だ。シスイもそこは信用しているので、両腕のことはブラッドにも公開することに決める。ラケルの下で育った以上、シスイのこともある程度は知っているのかもしれないが、本来の戦い方を知らせる良い機会だ。

 感応種を狩れる貴重なメンバーとして、最低でもブラッドにはそのことを共有しておく方が都合も良いと、ペイラーは考えたのである。

 

 

「さて、では今回のサバイバル特殊ミッション『朧月の咆哮』をこれにて可決。各部隊長は準備に入ってくれ」

 

 

 極東支部に甚大な被害を与え、ジュリウスやロミオを黒蛛病で侵す原因となったマルドゥーク。その討伐のために極東全体が動き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトル通り、作戦だけです。
実行するとはだれも言っていない。

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