本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP3 二人目の新型

 シスイが初めての特務を終わらせた数日後、アナグラのロビーで気を落とした神薙ユウを発見した。任務を失敗でもしたのかと思い、声をかけることにする。

 

 

「ユウ君。どうかした?」

「ああ、シスイか。ちょっとね……」

 

 

 話を聞くと、目の前で先輩のゴッドイーターが喰われたということだった。エリック・デア=フォーゲルヴァイデという人が、オウガテイルの不意打ちでやられたのだという。

 先輩が死んだこともそうだが、不意打ちに気付けなかったことでユウは悩んでいたのだった。

 

 

「君……意外と傲慢なんだな」

「なんだよそれ」

「いやだって、ユウ君はまだ新人だろう? 期待の新型だからと言って何でもできる訳じゃない。それにエリックという人が死んだのも個人の責任だろう? 話を聞く限りだと油断していたのが悪いと思う」

「俺はそんな風に割り切れないよ」

 

 

 シスイにとって人の死は割と経験のあることだ。アラガミ化した神機使いを人と定義するなら、殺人をしたこともある。

 今のユウは人の死を初めて見た者のようだった。

 

 

「人が目の前で死ぬのは初めて見た?」

「……うん、まぁ」

「忘れろとは言わないけど、引きずるなよ。次は自分が死ぬことになる」

「分かった」

 

 

 正直、シスイは人を励ますのが得意ではない。ただ、経験は積んでいるのでアドバイスは可能だった。慰めるのは隊長であるリンドウの役目だろう。普段サボっているのだから、これぐらいはするべきだ。

 シスイはそう判断し、受付のところにいるヒバリの元へと近づいていった。

 すると、小さな女の子がヒバリに何かを言っている光景に出くわす。

 

 

「ねぇ! エリックは? なんで帰ってこないの?」

「あの、その、えっと……」

「帰ったら私とお出かけしてくれるって、服を買ってくれるって言っていたの! ねぇどこなの?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 それを見てシスイは状況を察する。

 先程聞いたユウの話を統合すると、ヒバリに話しかけている少女はエリックというゴッドイーターの親族ということだろう。年齢を考えれば妹といったところか。

 ヒバリはとても悲しそうに、どうすれば良いか模索していた。

 小さな子にエリックが死んだことを告げて良いものか、悩んでいたのである。すぐに知られることになるだろうが、どうしても伝えることが出来なかった。

 仕方ない、と溜息を吐きつつシスイが近寄る。

 

 

「あ、シスイさん」

「どうもヒバリさん。今朝、僕の神機が届いたのでリッカさんと調整していたのですが、試運転したいので手頃な任務はありませんか?」

「わかりました。嘆きの平原にヴァジュラがいるようですので、それでどうでしょう」

「ヴァジュラを手頃とか言っちゃうのはどうかと思います」

「え? 違うんですか?」

「欧州ではヴァジュラ討伐に大隊が組まれますよ」

「す、すみません。なら愚者の空母付近にコンゴウが六体ほど居るので―――」

「欧州ではコンゴウ一体を一人で討伐出来て一人前だそうですが?」

「え、ええっ!?」

 

 

 シスイは少し面白いと思ってしまった。

 極東と欧州でのギャップが激しすぎて、オペレーターの感覚も狂っている。そもそもヴァジュラを一人で討伐出来て一人前という時点で色々おかしいのだ。

 電撃を操り、縦横無尽に動き回る巨体を猫と表現する極東人は感性が狂っている。

 

 

(ああ、でも血筋的には僕も極東人だったか)

 

 

 それに、シスイも本気を出せば極東人もビックリな戦闘能力を発揮できる。こうしてヒバリを弄っているシスイこそ極東人らしいビックリ人間なのだ。

 そして一通り弄り終えたシスイは依頼を受けることにする……が、その前にヒバリに言い寄っていた少女に向かって口を開いた。

 

 

「極東はね。世界でも一番アラガミが強い最前線だよ。そんなところでゴッドイーターをしていたエリックさんはとても凄いということさ」

「っ! そうよ! エリックが凄いのは当たり前なんだから!」

「そういうわけで、僕もエリックさんのようになるべく、頑張って(ヴァジュラ)を討伐してくるよ」

「ふん! 精々エリックの足を引っ張らないように頑張りなさい!」

「そうだね。僕も頑張るよ。じゃあ、ヒバリさん」

「はい。シスイさんはヴァジュラ討伐をお願いします」

 

 

 シスイは少女――エリナ――に手を振って出撃ゲートから出ていく。

 神機の調子を確かめつつ、一人でヴァジュラを始末したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「新しい新型?」

「ああ、シスイは聞いていないのか?」

 

 

 シスイに与えられた研究室でユウのデータを測定していると、暇を持て余したユウが話を振ってきた。今のユウは測定器を接続されて寝ているだけなので、非常に暇なのである。

 だが、シスイとしては思わず作業を止めてしまうほどに衝撃的な話題だった。

 

 

「聞いてないんだけど」

「俺もリンドウさんからちょっと聞いただけなんだよね。シスイなら詳しく知っていると思ったんだけど」

「シックザール支部長曰く新型の研究は僕に回すそうだけど……なんで知らされてないんだ?」

「さあ?」

 

 

 シスイはまだ若いが、新型神機の研究に関しては世界的に注目されている分野もある。それはシスイの能力が元になったアラガミバレットの研究だ。更に元を辿り、バレットエディットの研究についても有名である。

 つまり、シスイに連絡が行っていないのは研究者としての実力が問題ではなく、別の理由が働いていると考えた方が妥当だ。

 もしくは、リンドウがサボっているというのが一番しっくりくる。

 

 

「あとでリンドウさんに聞いておくよ」

「そうしたらいいんじゃない? 多分、隊長だしパーソナルデータの書類ぐらいは持っているでしょ」

「あの人のサボりは本当に……」

「まぁ仕事するときはしているからいいんじゃない?」

「実務はね。書類は溜めっぱなし。そして何故か僕の所に持ってこられる」

「おい隊長」

 

 

 本人のいない場所でツッコミを入れるユウはかなりノリがいい方なのかもしれない。

 ただ、リンドウがいない場所でそれを言っても虚しいだけだ。

 故にシスイは話題を変えることにする。

 

 

「それにしてもユウ君は適合率が色々おかしい。戦闘中に適合率が上がるってどういうことよ」

「えぇ……俺も必死でやっているだけだし」

「普通はこんなハッキリ上がったりしない。多少の変動はあるけどね。これが才能か」

「いやいや。そんなまさか」

「才能……神機に好かれているという言い方も出来るね。新型は今までとは違う偏食因子も使っているし、感応波と呼ばれる波長を有している。それが関係しているのかもしれない」

「感応波?」

「偏食因子の持つ波長の一種だよ。他の偏食因子に干渉できることがあるとされている。まだ研究段階だから詳しいことは分かっていないけどね。君も持っているよ」

「自覚ないけどなぁ」

「そもそも神機自体もよく分からないまま使っている部分がある。よく分かってなくてもいいさ。取りあえず、君たちは難しいことを考えなくてもいいよ。考えるのは僕たちの仕事だ」

「そうするよ」

 

 

 シスイはデータ収集を終えてユウを解放する。起き上がったユウは眠そうにしながら部屋を出ていった。新型は謎に包まれた部分が多く、研究課題は無数にあるのだ。こうしてデータ収集するだけでも意義が見いだせるほどに。

 そしてデータを眺めながらシスイは呟く。

 

 

「やっぱりユウ君だけではサンプルとして不足が過ぎる。新しい新型に期待するしかないね」

 

 

 比較対象が無いデータ解析ほど面倒なものは無い。

 今できることは、精々ユウのデータを多角的に集め、ノウハウを蓄積することだろう。そして、あとは新型と仲良くしてデータ収集に協力してもらうことだ。

 

 

「さーてと。リンドウさんに二人目の新型のデータを貰いに行きますか」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 そして更に数日後、シスイは極東支部二人目の新型神機使いアリサと出会うことになる。

 が、第一部隊と新型神機使いアリサ・イリ―ニチナ・アミエーラの出会いは最悪だった。

 

 

「そんな浮ついた考えでよく今まで生きてこれましたね? これが極東支部の第一部隊? たるんでいるんじゃないですか?」

 

 

 それが一言目である。

 だが、そのセリフにも理由はあった。

 コウタである。

 このお調子者は、あろうことか『可愛い子なら大歓迎』などと言い張ったのだ。完全なセクハラである。この場合はコウタが絶対的に悪い。

 確かにアリサに言い過ぎな部分はあるのだが、シスイはコウタに非難の視線を送りながら呟いた。

 

 

「セクハラで査問会行きだな」

「ひでぇ!」

「いや、シスイ。これはコウタだから仕方ないよ」

「ああ、そう言えばバカラリーだったな。なら仕方ない」

「それはそれで失礼だなユウにシスイも!」

 

 

 そんな風にじゃれ合う三人を見て、アリサは呟く。

 

 

「ホントたるんでいる……」

 

 

 これ以上は険悪になりそうだと判断したリンドウは、パンパンと手を叩いて注目を集める。これからアリサを加えたメンバーで任務に行くのだ。遊んでいるわけにはいかない。

 

 

「んじゃ、任務を振り分けるぞ。俺とユウ、アリサ、シスイはシユウ二体の討伐だ。で、サクヤとソーマとコウタはグボログボロの討伐だな。今日も生き残れよ?」

『了解』

 

 

 声をそろえて返事をするシスイ、ユウ、コウタ、サクヤ、ソーマの後に、アリサは遅れて小さく答える。

 

 

「了解……」

 

 

 新生第一部隊は纏まり切らないままスタートしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 シユウ二体の討伐は贖罪の街が任務地となる。だが、リンドウとシスイには支部長から下された特務をこなすために、鎮魂の廃寺にいた。今回は接触禁忌種アイテールのコアを入手することだ。強毒性サリエルを従えているという情報があり、二人は注意しつつ進んでいた。 

 

 

「リンドウさん」

「どうしたシスイ?」

「アリサってロシア支部から来たんですよね。ロシア支部って殺伐としているんですか?」

「んー。軍規は厳しいが、殺伐としているってほどでもないな」

「じゃあ、アリサが特別あんなんだってことですかね。精神的に不安定だと資料にもありましたし」

「その辺はユウの奴に任せる。新型同士、上手くやるさ」

「投げ槍ですね隊長殿」

 

 

 しかし手に負えない感じがしたのも確かだ。周囲を見下す態度が強く、協調性で言えばソーマ以下だといえるだろう。ソーマも単独プレイが目立つ問題児だが、やる時はしっかりやっている。シスイはまだソーマと任務に行ったことがないため、これはユウからの伝聞だった。

 

 

「メンタルケアは僕の専門外ですからね。隊長がしっかりしてくださいよ?」

「まぁまぁ。俺もやれることはやるさ。それに、アリサには専属の精神科医が付いているそうだからな。取りあえずはそちらに任せよう」

「ああ、大車ダイゴでしたっけ?」

「おう。確かそんな名前だったな」

 

 

 今の時代、親族がアラガミに殺されて精神不安定な子供は珍しくない。フェンリルが早急に保護することである程度の治療は可能だが、トラウマがこびり付いている子供も多い。そんな中、割とあっさり納得できたシスイは幸運だったのだろう。

 冷たいようだが、死者にしがみ付いていては生きていけない時代なのである。

 もう少しリンドウと会話していたいシスイだったが、ここでターゲットを視認する。浮遊するアラガミとしては最大の大きさと言われるサリエル種だ。アイテールと強毒性サリエルは並んで何かを捕食しているらしく、こちらに背中を向けている。

 つまりチャンスだった。

 

 

「さて、お仕事だシスイ君」

「了解です。取りあえず頭狙いますね」

 

 

 シスイは左手にオラクルを集め、圧縮して回転をかける。更に射出方向へと負荷を掛けながら、アイテールと強毒性サリエルの頭部に狙いを定めた。

 弾丸となるオラクルの塊は二つ。

 その分だけ制御は難しくなるが、この程度なら慣れている。そしてそのまま、狙撃弾として二つのオラクルを発射したのだった。

 真っすぐに空気を裂いて飛んでいくオラクル弾がアイテールと強毒性サリエルの頭部を破壊する。強毒性サリエルの頭部は吹き飛んだが、アイテールの方は結合崩壊で終わってしまった。

 

 

「すみません。破壊しきれませんでした」

「いや、上等だ。行くぞ」

「分かりました」

 

 

 流石に今の一撃でアイテールにも気づかれている。

 シスイとリンドウは物陰から飛び出し、一気に負傷したアイテールへと接近した。チェーンソーのようなリンドウの神機が唸りを上げ、アイテールのスカートに叩き付けられる。そしてギリギリと嫌な音がして、アイテールは地面に叩き落された。

 アイテールは急いで飛び上がろうとするが、それよりも先に影が差す。

 崩壊した頭部で上を見つめると、開咬状態のヴァリアントサイズが振り下ろされてきた。アイテールはそのままヴァリアントサイズに叩き付けられ、行動不能になる。

 そしてそれをやったシスイは、容赦なくヴァリアントサイズを引き寄せた。これによってアイテールの体はズタボロになるまで削り取られる。バーティカルファングからクリーブファングへと繋げるヴァリアントサイズの基本技だった。

 

 

「えげつないねぇ」

「まだ試作段階の刀身ですけどね」

 

 

 シスイが使用しているのは旧型神機刀剣タイプであり、本部で余っていたものだ。どんな神機でも扱うことが出来るシスイは大抵の場合、余り物を使用していたのである。本当は新型を使いたいのだが、流石に新型神機の余りはない。

 従って、戦死したゴッドイーターが使っていた神機を適当に貰っていたのである。

 尤も、オラクル弾を自在に操れるシスイに銃形態は不必要で、旧型神機刀剣タイプがあれば新型に近い戦闘を行うことも可能である。

 そしてシスイが使用している刀身は、現在試作段階のヴァリアントサイズというものだ。今までのショート、ロング、バスターから追加され、現在はスピア、ハンマー、ヴァリアントサイズの研究が行われている。シスイはその中でもヴァリアントサイズに可能性を見出し、自分で使っていたのである。

 やはり研究者と使用者の感覚は異なるので、開発した者は実際に使ってみなければ分からない。そういう点で、シスイは少しだけ有利なのだ。

 

 

「まだアイテールは活動停止していませんよ。リンドウさんお願いします」

「おう、任せな!」

 

 

 満身創痍なアイテールは、逃走を図ろうとする。だが、その前にリンドウが追い付き、背後の尾状器官を破壊してしまった。これによってアイテールは力尽き、オラクルの活動も停止する。

 

 

『リンドウさん、シスイさんお疲れ様です。このまま贖罪の街に移動になりますが、よろしいですか?』

「おう、問題ないぜヒバリ」

「僕も大丈夫ですよ」

『分かりました。すぐに迎えを送りますね』

 

 

 迎えを待つ間に倒したアイテールと強毒性サリエルのコアを回収し、次に任務に備える。新型二人と共に行くシユウ二体の討伐任務だ。アリサの実力を測る意味も含まれているので、中型種二体というのは中々に良いチョイスだといえるだろう。

 勿論、極東基準の話だが。

 

 

「それにしてもシスイがいると特務が楽だねぇ。デートも早く終わっちまう」

「いいじゃないですか。本命(サクヤさん)のために時間を割いてあげてください」

「言うじゃねぇのシスイ君。そういうシスイは誰かいないのか?」

「好きな人って意味ですか?」

「そうそう。で、実際どうなのよ?」

「好きな女性はいませんかね。嫌いな女性ならいますけど」

「ちなみに誰?」

「金髪黒服無表情女です」

「なるほどなるほど。極東じゃ見かけないから、本部の奴ってところか?」

「そういうことですよ。彼女のプライバシーのために名前は伏せさせて頂きますが」

 

 

 迎えのヘリがくるポイントまで歩きながら、二人は会話を続ける。シスイは秘密の多い出自をしているが、絶対的な秘密主義ではないのでそれなりに会話が弾む。リンドウも過去話を交えながら、人生の先輩として色々と話すので、二人の相性はかなり良かった。

 そしてヘリが来たら二人とも乗り込み、贖罪の街へと移動する。

 少しばかり遅刻しそうなので、アリサが面倒臭そうだと二人で話し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 思った通り、遅刻したシスイとリンドウはアリサの怒りに触れていた。

 

 

「隊長が遅れてくるってどういうことですか? それに旧型の平隊員が遅刻なんてあり得ないと思います。二人とも神機使いとしての自覚が足りないのではないですか?」

「ははは、すまんすまん。ちょっとばかりデートしていてな」

「ドン引きです」

 

 

 リンドウがアリサに弁明している間、シスイはユウへと近づいて小声で話しかける。

 

 

「アリサってユウと二人きりのときもあんな感じだったの?」

「いや、遅れているリンドウさんとシスイに悪態ついていたけど、俺には別に。ただ、同意を求められた時はどうしようかと思った」

「じゃあ、僕も嫌われちゃったかな? データ収集は難しそうだね」

「うん。そうかもね。ほら、今も『旧型は旧型なりの仕事をして下さい』とか言っちゃってるし」

「ああ、これは手厳しい」

 

 

 実際、遅刻に関しては言い訳出来ないので文句を言われても仕方ない。重役であるリンドウが重役出勤だといえば筋が通らなくもないが、シスイは残念ながら平隊員だ。墓穴を掘るだけである。

 それでもアリサが言い過ぎな部分もあるので、肩の力を抜けと、リンドウがアリサの肩に触れたところで事件は起こった。

 

 

「きゃああっ!?」

 

 

 突然、触れられたアリサが悲鳴を上げながら大きく飛び下がったのである。どう見てもセクハラだった。シスイとユウはジト目をリンドウに送りつつ呟く。

 

 

「ギルティ」

「サクヤさんに報告ですね」

「ちょっと待て二人とも」

 

 

 これは拙いとリンドウが焦る。

 ジト目故に本気さを感じてしまったからだ。

 だが、仮にも上官に対してオーバーリアクションだったと反省したアリサが意外にも謝罪する。

 

 

「いえ、あの……すみません」

 

 

 結局、そのまま任務開始時間となり、リンドウはアリサに落ち着いてから来るように告げる。空を眺めて動物の形でも見つけていろと上官命令を下したのだった。

 無理やり感も否めないが、上官命令では仕方ない。

 アリサは渋々といった様子で空を見上げ始める。案外、真面目なようだった。

 

 

「じゃあ、シスイはアリサに付いていろ。アリサが落ち着いたら二人でペアになって探索だ。目的を発見したら通信で情報共有すること。いいな?」

「わかりましたリンドウさん」

「じゃあ、ユウは俺と一緒に行くぞ」

「はい!」

 

 

 リンドウとユウが探索を始めるのを横目に、シスイは溜息を吐く。確かに、こんな場所でアリサを一人残しておくのは拙いし、肩に力が入ったまま任務を受けさせるのも良くない。

 だが、嫌われた感のある自分を置いていかなくてもと内心で文句を言っていた。

 会話のない微妙な空気を破るべく、シスイは適当に話題を振る。

 

 

「アリサが神機使いになったのは最近なのか?」

「話しかけないでくれますか旧型?」

「あ、はい」

 

 

 取り付く島もないとはこのことである。

 アリサは動物の形をした雲を見つけようと躍起になっており、全く力が抜けていなかった。変に真面目なせいでリンドウからの課題をサボるという選択肢はないらしい。

 

 

「ああ、もう! 動物の形をした雲なんて見つかる訳ないじゃないですか!」

「そうかな? 羊だと思えば全部動物でしょ」

「黙っていて下さい!」

「お、おう」

 

 

 仕方なく黙ってシスイも動物型の雲を探すことにする。このままだとリンドウとユウだけで任務が終わってしまいそうな気もしたが、アリサに付いていろと言われているので動くことは出来ない。

 

 

(動物の雲……動物の雲……動物の雲……動物の雲……)

(お、あれなんか猫っぽい。あっちは馬だな)

 

 

 結局、十分後にアリサがコクーンメイデン型の雲を見つけ、二人は任務に入る。

 よりにもよってアラガミ型の雲だったことで、かなり機嫌が悪かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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