本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP25 感応種

 何もない平凡な日常。

 いや、アラガミが出現してから平凡と言える日はなかったが、概ね平凡な日の昼頃。アナグラのラウンジで昼食をとっていた第一部隊は緊急アラートと共に慌ただしい放送を聞くことになった。

 

 

『オープンチャンネルで救援要請がありました。サテライト拠点にて感応種を発見。第一部隊、楠シスイ隊長はすぐに受付まで来てください。繰り返します―――』

「呼び出しみたいだね」

 

 

 シスイは食べかけの昼食を残して立ち上がる。

 ラウンジで美味しい昼食を作ってくれているムツミには悪いが、これは仕方ない。

 

 

「コウタ、このオムライスはあげるよ」

「お、そうか。頑張れよー」

「頑張ってください隊長」

「く……僕にも力があれば共に行けるというのに……っ! いや、ここは僕の騎士道で―――」

「感応種は気合でどうにかなる相手じゃないからエミールは大人しくね。じゃあ、ムツミちゃんごめんね」

「はい、気を付けてくださいね」

 

 

 まだ九歳にも関わらずムツミはしっかりしている。

 シスイは残してしまうことを謝罪して受付へと向かった。一応、コウタが代わりに食べてくれるのでムツミも特に言わない。それにどちらにせよ緊急案件なのだから、昼食如きに構ってられない。

 シスイとしても腹半分目ぐらいしか膨れていないので不満は残る。

 しかし感応種が出て来たのなら仕方ないのだ。今のところ、極東支部ではシスイしか感応種と戦うことが出来ないのだから。

 感応種は他のアラガミに干渉することが出来るので、アラガミの一種である神機は機能を停止してしまう。自身でオラクル細胞を操っているシスイにしか相手にできない。

 受付に辿り着いたシスイはすぐにヒバリへと話しかけた。

 

 

「感応種ですよね。どこですか?」

「はい、詳しいデータは端末に送信しておきます。すぐに出撃してください。ヘリの用意も出来ているので出撃ゲートから出ればすぐに向かえるはずです」

「了解。では行くよ」

「はい、気を付けてくださいね」

 

 

 緊急の救援要請なので情報共有も殆どできないままだ。

 ヘリの中で端末を眺めながら状況把握することになるのは仕方ない。感応種が出現したときにはよくあることなので、シスイも慣れて来た。

 すぐに出撃ゲートを出たシスイはヘリに乗り込み、全速力で目的地のサテライト拠点へと向かう。その途中で情報端末を眺めていると、救援を出したのがアリサだと分かった。

 アリサ・イリ―ニチナ・アミエーラ。

 元第一部隊で現在はクレイドル所属となっている。サテライト拠点建設のために各地を飛び回り、勉強を繰り返しながら、さらに現地の人と折衝しながら仕事に励んでいる。この前はオーバーワークで倒れたとも聞いているので、少し心配だった。

 そして感応種はおそらくイェン・ツィー。更にオウガテイルと思わしきアラガミも多数みられるという。サテライト拠点の対アラガミ装甲壁はオウガテイルならどうにかなるだろう。しかし、イェン・ツィーは難しいかもしれない。

 そうなると、先に倒すべきはイェン・ツィーで、残りをアリサと共に殲滅することになるだろう。

 

 

「あとは救援にブラッド隊が駆け付けるって点か……」

 

 

 追加情報でフライア所属の特殊部隊ブラッドがやって来るという項目があった。ユノとともに訪れた際には三人ほど隊員と思われる少年少女にあったが、情報では六人で駆けつけるとなっている。残り三人はまだシスイも知らないメンバーなのだろう。

 顔ぐらいは見ておきたい。

 

 

「隊長さん、そろそろ到着だ! とりあえず近くのサテライト拠点に着陸するぜ!」

「あ、僕はここで降ります。帰りもヘリを利用しますので、サテライト拠点で待っていてください」

「そうか! 頑張りな!」

 

 

 シスイの言葉でこのまま飛び降りると分かったのだろう。パイロットは出来るだけ感応種反応の近くまでヘリを寄せて、ホバリングした。下を見れば、既に戦闘中の者たちが六人。あれがブラッドだろう。

 

 

「到着だ隊長さんよ!」

「ありがとうございます。気を付けてくださいねー!」

「おう!」

 

 

 シスイはそんなことを言いつつヘリから飛び降りていく。極東ではゴッドイーターがヘリから飛び降りることはよくあるので、パイロットも特に気にせず送り出した。極東ではこれぐらいのことが出来なければやってけないのはゴッドイーターだけではない。あらゆるスタッフが常軌を逸しているのである。

 シスイが飛び降りた時、丁度イェン・ツィーは上空へと跳び上がっているところだった。そこでシスイはヴァリアントサイズの咬刃を伸ばし、重力と共に攻撃を叩き付ける。不意打ちを喰らったイェン・ツィーは驚くような速度で地面へと叩き付けられ、視界を塞ぐ程の土煙を上げた。

 

 

『はっ……?』

 

 

 ブラッド隊が間抜けな声を上げているのが聞こえたが、シスイは気にせず着地して土煙へと突っ込む。視界が悪くても、風の流れや気配、音を利用すれば十分に戦える。流石にこれは極東でも隊長や副隊長クラスでしか出来ない離れ業だ。

 シスイはクルリとヴァリアントサイズを回し、一瞬でイェン・ツィーの片翼を斬り飛ばす。そのまま追撃しても良かったが、ここは一度引き下がることにした。先に戦っていたブラッド隊に一言あった方が良いと思ったからである。

 イェン・ツィーを挟んで対峙したシスイとブラッド隊。向こう側はかなり驚いていたので、シスイが声を張り上げつつ簡単に自己紹介する。

 

 

「僕はフェンリル極東支部所属のゴッドイーターだから怪しい者じゃないよ! 救援チャンネルを見てここに来たんだけど?」

「フェンリル極致化技術開発局所属ブラッド隊隊長ジュリウス・ヴィスコンティだ! ここは我々に任せて下がってくれ! 感応種相手では普通のゴッドイーターは……って普通に切り裂いているだと!?」

「生憎、僕は普通のゴッドイーターじゃなくてね。まぁ、それならここは任せるよ」

 

 

 片翼を潰したのでブラッド隊だけで余裕だろう。シスイはそう考えて別の場所へと向かうことにした。ヒバリの指示に従ってアリサのもとへと急ぐ。どうやら一人でオウガテイルの大軍を始末しているらしい。そちらも彼女一人で問題ないだろうが、大軍が相手ならこちらも多い方が良い。

 風のように走るシスイはすぐにオウガテイルを発見した。

 

 

「邪魔」

 

 

 ヴァリアントサイズで軽く切ってそのまま去る。オウガテイルはそのまま真っ二つになって崩れた。真っ白な白衣だけが薄っすらと見え、白い閃光となってオウガテイルを蹂躙していく。

 そのままシスイは走り抜け、アリサと合流することに成功した。

 高台でアサルトを撃っているアリサに下から声をかける。

 

 

「救援に来たよアリサ」

「シスイ! 久しぶりですね。では前衛を頼みます」

「勿論そのつもりだよ」

 

 

 足に力を込めて思いっきり踏み込む。

 すると、シスイはその場から消えるようにして移動し始めた。高台にいるアリサにオウガテイルを近寄らせないよう、近場の数体を一瞬で葬る。そして流れるように咬刃を伸ばし、少し離れたところで固まっているオウガテイル数匹を同時に引き裂いた。

 咬刃を伸ばしたことで隙が出来たと思ったのか、別のオウガテイルがシスイを狙う。しかし、アリサがそれを逃さず、アサルト弾で穴だらけにしてしまった。

 ここに集まって来ていたオウガテイルは六十八匹。

 しかし、シスイが参戦したことであっという間に数を減らし、残りは十体もいない。

 

 

「アリサは奥の六体を足止めお願い!」

「任せてください!」

 

 

 二年半ほど前にシスイが開発したオラクル回収弾が放たれ、オウガテイル六匹が足止めされる。難しい複数相手の足止めをアサルトだけでこなしてしまうあたり、アリサもかなりの腕だ。クレイドルの中でも実戦に出ることが少ないアリサでさえ、このレベルである。ユウやソーマ、リンドウはどれほど強くなっているのだろうとシスイは想像するだけで苦笑いが出そうだった。

 しかし、そうやってアリサに見とれているわけにはいかない。

 シスイはサクサクと三体のオウガテイルを倒し、アリサが足止めしてくれていた残りも倒す。

 やはり二人で分担すると楽だった。

 

 

「ふぅ、終わったね」

「ええ、助かりましたよシスイ。救援要請に来てくれたのはやはりシスイでしたか。いつもありがとうございます」

「いや、構わないよ。ただ今回は僕の他にもブラッド隊が来てた」

「ブラッド……例の特殊部隊ですか?」

「うん。イェン・ツィーをボッコボコにしていたよ。あれって神機さえ使えれば柔らかい雑魚だからね。ああなるのも仕方ない」

「そ、そうですか……ともかく救援に来てくれたようですし、お礼ぐらいは行きましょう」

「分かった。僕も行こう。さっき一度挨拶だけしたんだけど、改めてね」

 

 

 二人は走ってブラッドのもとへと行く。

 シスイはイェン・ツィーにかなりのダメージを負わせていたので、今頃は倒せていると予想した。そして予想通り、到着したころにはイェン・ツィーの死体からコアを抜き取るブラッドの姿があった。

 シスイとアリサは近寄っていく。

 先に声をかけたのはアリサだった。

 

 

「貴方たちがブラッド隊ですか?」

 

 

 抑揚に頷いたジュリウスが返答する。

 

 

「自分はフェンリル極致化技術開発局ブラッド隊隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。救援要請があったので参りました」

「フェンリル極東支部所属のアリサ・イリ―ニチナ・アミエーラです。救援要請への御対応、ありがとうございました」

「改めて、僕はフェンリル極東支部第一部隊隊長、楠シスイ。よろしく。そっちの三人は前にフライアで会ったことがあるよね?」

 

 

 そう言ってシスイはヒカル、ナナ、ロミオへと目を向ける。三人はシスイの顔を見ると、驚いて口々に答えた。

 

 

「ユノさんと一緒にいた……覚えてる覚えてる」

「凄いよねー。まさか隊長さんだったなんて驚きだよー」

「そうか……隊長にもなればユノさんと一緒にいられるんだ……」

『ロミオ先輩?』

「あ、いや、何でもない」

 

 

 そんなロミオに苦笑しつつ、ジュリウスはシスイとアリサに向き直る。そして首を振りながら申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「部下が済まない」

 

 

 軽く頭を下げて謝った。

 そうして頭をあげると、シスイは首を振って問題ないと言い、アリサはナナと共にロミオをジト目で睨んでいるヒカルへと目を向けていた。そんなアリサにジュリウスは尋ねる。

 

 

「……うちの副隊長が何か?」

「いえ、少し知り合いに似ている気がしただけです。その……なんというか気配? オーラ? みたいな漠然としたものですけど」

「もしかしてユウのこと?」

「はい。そうですシスイ」

 

 

 シスイの言葉にアリサは頷いた。

 しかしジュリウスはそれを聞いて少し驚く。

 

 

「ユウ……と言えば神薙ユウ殿のことですか?」

「ええ、そのユウです」

「世界最強とも言われる彼と雰囲気が……確かにヒカルは不思議な奴です。神薙ユウ殿を知る貴方たちのお墨付きとなれば期待できますね」

 

 

 ぽつりと名前が聞こえたからか、ヒカルはこちらを見て首をかしげる。黒髪を後ろで縛っていることもあり、中性的な雰囲気がある。見た目はユウと全く違うが、確かにユウに似たオーラを感じることは出来た。

 ブラッド隊は期待できるとシスイも考える。

 それはそうと、シスイはエミールのことでジュリアスに話しかけた。

 

 

「そういえばウチのエミールが世話になったよね。ヒカルに騎士道の片鱗を見た! なんて言って喜んでいたよ。何か迷惑をかけたりしなかったかな? というか迷惑かけたはず」

「いえ、我々も彼から学ぶところはありました。隊員たちにも良い刺激となったようです」

「ははは……ありがとね」

 

 

 エミールから学べることは少ないだろう。ジュリウスは気を使ってくれたようだった。

 そうしたところで、少し離れたところに居た銀髪の少女がジュリウスに話しかける。

 

 

「隊長、帰投準備が整いました」

「ご苦労シエル。今行く」

 

 

 シエルと呼ばれた少女は一瞬だけシスイの方を見て表情を変えたが、すぐに戻してジュリウスと共に行ってしまった。

 その瞬間を見ていたアリサはシスイに話しかける。

 

 

「あの子、シエルという子はシスイの知り合いですか? 貴方を見て表情を変えていましたよ?」

「……さぁ、どうだろうね」

「その間はなんですか。絶対知り合いですよね?」

「まぁ、顔を合わせたことはある」

「それだけですか?」

「話したことがある」

「それだけですか?」

「ご、ご飯を一緒に食べたことがある」

「それだけですか?」

「……わかったよ。昔に少しだけ一緒に暮らしていた時期がある。彼女の名前を聞いて本人だと確信したよ」

 

 

 徐々に視線が冷たくなるアリサに耐えかねたシスイは遂に白状する。

 シエルはマグノリア・コンパスにいた頃、少しだけ一緒に暮らしたことがある仲だ。しかし、それは彼女に勉強を教えるためだった。

 父親の影響もあり、幼いころから勉強に意欲的だったシスイは、多くの知識を吸収して天才とまで呼ばれるほどだった。そして、アラガミに襲われて両親が死んだ後、マグノリア・コンパスでもシスイに勉強を教えられるような者はいなかったのである。自分で勉強した方が良いと考えたシスイは書物を読み漁り、論文を自分で理解して更に知識を深めていく。

 そんな時期に、シスイはラケルから一人の少女を教育して欲しいと言われた。その少女を教える代わりに秘匿級の論文も用意するとラケルに言われたのである。勿論、シスイは了承した。

 それがシエルである。

 下手な大人よりも賢かったことからシスイが抜擢されたのだった。シエルは元々軍派閥の子で、様々な英才教育が施されており、多くの教養が求められた。質の良い教師を探した結果、シスイが選ばれたのである。

 教育者の腕と賢いことは別物だが、幸いにもシスイには教える才能すらあった。

 結果として数か月ほどシエルに勉強を教え、都合上、共に住むことになったのである。厳しい訓練と勉強で表情の乏しくなったシエルと、本の虫だったシスイの間に会話もなく、二人は知り合い程度の関係で終わってしまったが、まだ七年ほど前のことなので覚えていた。

 サテライト拠点へと帰投しながらアリサにそれを説明すると納得したように答える。

 

 

「そういうことでしたか。幼馴染と思わぬ形で再会し、リッカさんと修羅場……なんてものを想像したのですけど……」

「ちょっ!? 冗談でもやめてくれ」

「ふふ、すみません」

 

 

 したり顔でそんなことを言うアリサに溜息を吐く。

 そこで、シスイは仕返しとばかりに口を開いた。

 

 

「それよりもユウとは進展したの?」

「な、なななななんでここでユウの話が出てくるんですかぁ!?」

「その慌て方で全てを察したよ」

「誤解です! 絶対に誤解です!」

「はいはい」

 

 

 そんな会話をしながら二人はサテライト拠点へと入っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「シエル、最後にシスイという隊長を見ていたようだが、どうかしたのか?」

 

 

 帰投用ヘリの中で不意にジュリウスが尋ねる。

 それを聞いたヒカル、ナナ、ロミオ、ギルバートは興味深げにシエルへと目を向けた。ちなみに、ギルバートは紫のジャケットと帽子を被った男で、背が高く、一見すると怖い。しかし内面は情に厚く、他人に優しい性格の持ち主だ。通称ギルである。

 ジュリウスから質問を受けたシエルは皆から見つめられている事で緊張したのか、言葉を失う。その隙にロミオがニヤニヤとしながら口を開いた。

 

 

「もしかして一目惚れとか?」

「ロミオ、テメーとシエルを一緒にすんな」

「なんだとギルーっ!」

 

 

 いつも仲の悪い二人が喧嘩を始める。

 その一方でナナとヒカルも興味深げな様子だった。

 

 

「やっぱりシエルちゃんも女の子なんだねー」

「確かに、颯爽と登場してイェン・ツィーに致命的な一撃を喰らわしていたし、凄い動きも良かったよな。下手すればジュリウス隊長より凄かったかも。あんなの見せられたら惚れても仕方ない」

「い、いえ違います!」

 

 

 流石にこのままでは拙いと判断したシエルはすぐに否定する。

 そして間髪入れずに説明した。

 

 

「彼とは七年ほど前に会ったことがあります。マグノリア・コンパスで色々な勉強を教えていただきました。数学、物理学、オラクル基礎学、機械工学、塑性力学……他にも語学ですね。数か月程度のことでしたが、幅広く多くの基礎を教わりました」

「それは本当かシエル? 彼はかなり若く見えたが……?」

「ええ、隊長の言う通り、恐らく彼はまだ十代でしょう。私が勉強を教わった時、彼は十歳か十一歳だったはずですから」

「なるほど……天才というやつか」

「はい、当時のマグノリア・コンパスでは彼以上の知識を持つ先生はいませんでした。それで彼に教わることになったのです」

 

 

 思わぬ繋がりにジュリウスだけでなくヒカルやナナも驚く。いつの間にか喧嘩をやめていたロミオとギルバートもシエルの話に聞き入っていた。

 しかし、シエルは急に困ったような表情を浮かべる。

 

 

「ですが彼……シスイは死んだはずなのです。私に勉強を教えた後、しばらくしてマグノリア・コンパスからもいなくなってしまい、いつの間にか学者としての地位を得ていました。神崎シスイ博士と言えば第二世代神機開発において大きな貢献をした博士として知られていますよね? 一時とはいえ、私も彼に勉学を教わっていたわけですし、彼の出す論文には注意していました。それに彼の動向もある程度は掴んでいました。どうやらラケル先生も興味があったようなので、情報は簡単に仕入れられましたから」

 

 

 シエルはタブレット端末を取り出し、操作して幾つかの記事を出す。

 そこにはシスイが極東へと行ったこと、そこで殉職したことが記されていた。

 

 

「これです。極東へ行ったあとも彼はバレットに関する大きな開発を見せたりと活躍していました。しかし、見ての通り二年半ほど前に殉職したとされています」

「確かに……では人違いではないのか? それに彼は楠シスイと名乗っていたぞ?」

「でもジュリウス隊長、この神崎シスイさんの写真とさっき会ったシスイさんってソックリじゃない?」

「それはヒカルの言う通りだが……まさか死が偽装とでもいうのか?」

「はい、恐らくは」

 

 

 ここにある情報だけでは真相に辿り着くことなど出来ない。頭の悪いナナやロミオはともかく、賢い部類に入るシエルやジュリウスでも、ここまで情報不足では流石に何も分からなかった。どうして死の偽装が行われたのかなど、分かるはずがない。

 一通り話を聞いていたギルバートは投げやりな様子で口を開く。

 

 

「考えたって分かる訳ねぇよ。ラケル博士にでも聞いてみたらどうだ? 昔マグノリア・コンパスにいたなら知っているだろ」

「それもそうですね。ギルの言う通りかもしれません」

 

 

 シエルはギルバートの言葉に頷き、帰投してからラケルに話を聞くことを決める。ジュリウス、ヒカル、ナナ、ロミオ、そしてギルバートも気になったので、今回の報告は全員で向かうことにする。

 初の感応種討伐でもあったので、不思議ではないだろう。

 ここで、ヒカルは不意にシスイが登場したときのことを思い出した。

 

 

「そう言えばシスイさんって感応種に攻撃してたよな。神機が停止した様子もなかったし」

 

 

 その一言でシスイの謎が追加される。

 本来はブラッド隊のように特別な偏食因子を持つ者たちでしか対応できない感応種。通常は神機が停止してしまうので、感応種を倒すことは出来ないのだ。極東では神機を鈍器として振り回し、撃退するという手法が取られているが、これは中型以下の感応種にしか通じない。マルドゥークと呼ばれる大型感応種はシスイにしか倒せないアラガミだった。

 それはともかく、何も知らないブラッドからすればシスイは特異に映ることだろう。

 しかしやはり情報がない。

 もはや考えても仕方ないと悟ったジュリウスは首を振ってヒカルに答えた。

 

 

「それもラケル先生に聞いてみることにしよう。俺たちの持つP66偏食因子を開発したのは先生だ。何か知っているかもしれない」

「そうですね。ジュリウスの言う通りです」

「あー、仕方ないか」

 

 

 シエルも同意したことでヒカルは納得する。

 そうこうしている内にフライアも見えて来た。

 感応種初討伐の報告を兼ねて、六人はラケルへと会いに行く。

 

 

 

 

 

 

 




 シスイとシエルを過去で絡ませました。マグノリア・コンパス出身ですから、ブラッドの誰かと過去で絡ませようと考えていました。
 小説開始当初はリヴィのつもりだったのですが、彼女はロミオがいるので無し。ナナは現在での絡ませ方が難しいので無し。ジュリウスでも良かったんですけど、ブラッドバレットのところでシエルが出てくるので、研究が本業のシスイを絡ませるならシエルだと判断した次第です。
 当初の予定とずれたのですが、過去の話も出来るだけ違和感がないように調整しました。間違いがあったらすみません、ということで。

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