アナグラのロビーでは新生第一部隊のメンバー三人がソファで待っていた。誰を待っているのかといえば、新しく隊長となる人物である。副隊長に任命された藤木コウタは既に知っているが、研修が終わったばかりでこれから実地演習となる新人のエリナ・デア・フォーゲルヴァイデとエミール・フォン・シュトラスブルクはまだ隊長を知らない。
痺れを切らしたエリナはタブレット端末を操作するコウタに尋ねた。
「コウタ副隊長。私たちの隊長さんってまだなんですか?」
「もうちょっとだよ。丁度、榊博士から辞表を貰ったらしい。すぐにこっちに来るってさ!」
「ふーん。どんな人なんですか? 前隊長の神薙ユウさんは有名ですけど、極東にユウさん以外で隊長を務まる人っているんですか?」
「いるぜ?」
自信満々で答えるコウタに対して、エリナは懐疑的な視線を向ける。
それだけユウの名声は凄いのだ。
ただ、シスイの実力を知っているコウタは、下手すればユウよりもヤバいと分かっていたので、こうも自信をもって言い切ったのである。
「ふむ。僕も新隊長は気になるところだが、やはり前隊長の神薙ユウ殿に勝るとは思えない。彼はこの暗黒の時代に光をもたらす騎士だ。彼以上の光などいないと……僕は思うよ」
「……こればっかりはエミールに同意」
普段は喧嘩ばかりのエミールとエリナだが、今日は意見があったようだ。相変わらず微妙に腹の立つ話し方をするエミールに苦笑を禁じ得ないコウタだが、次の瞬間には真面目な顔に戻って口を開く。
「……ここだけの話、ユウが世界最強なことは認めるよ。リンドウさんやソーマもいるけど、やっぱりユウは別格だって思わされる。でも……これからお前たちの隊長になる奴は本当にユウ並みだ。というか、一対多の戦闘においてはユウよりも遥かに上手い」
「冗談ではないのか副隊長?」
「正気ですか?」
「マジだ。そして俺は至って正気だよエリナ」
地味に傷ついたコウタは、それでも持ち前のポジティブさで堪えた。そして遠い目をしながら二年前の出来事を少しだけ話す。
「そうだな……これは特に防衛班の奴らの中では有名な話なんだけど、二年前に極東支部をアラガミの大軍が襲ったことがあったんだ」
「聞いたことがある。確か接触禁忌種すら現れる大災害だったと……恐怖に覆われた極東は誰もが嘆き、死を感じたと! そして僕はその時思ったんだ。どうして僕に力がないの―――」
「はいはいエミールうるさい! それがどうしたんですかコウタ副隊長?」
「ああ、俺たちは東西南北に分かれてアラガミを撃退した。当時のユウは任務で大怪我を負っていてな。戦力も大幅に低下していたんだ。東部は防衛班が全員で迎撃した。北部は偵察班すら出撃して食い止めた。そして西部はソーマが一人で時間を稼いだ。で、南はどうなったと思う?」
『……』
話しの流れからして例の新しい隊長が対応したのだと分かる。それならユウに並んで三強と呼ばれるソーマが一人で食い止めたという話から、凄さが伝わってくる。
しかし、コウタからはそんなチャチな話では済まないという凄みが伝わってきた。
ゴクリと唾をのんだ二人にコウタは答えようとして―――
「何を話しているのかなコウタ?」
『おわあっ!?』
やってきたシスイが声をかけたことで三人とも跳び上がった。話に集中し過ぎてシスイが近づいていることに気付かなかったのだ。
コウタは話しかけてきたのがシスイだと気付いて、すぐに紹介を始める。
「あ、コイツだよコイツ! 第一部隊の隊長はこの神z……じゃなくて楠シスイだ!」
「君たちがエミールとエリナだね? よろしく」
「宜しくお願いする」
「お、お願いします……」
驚いたがエミールとエリナもすぐに持ち直して改めて自己紹介をする。
「僕は栄えあるフェンリル極東支部でゴッドイーターとなったエミール・フォン・シュトラスブルクだ! この世に蔓延る闇の眷属共を打ち滅ぼし、民たちの笑顔を取り戻す騎士として――」
「エリナ・デア・フォーゲルヴァイデです。エミールがウザかったら無視してくださって結構ですので」
「酷いじゃないかエリナ! 僕の自己紹介を遮るなんて!」
「煩いエミール!」
「く……これが反抗期……だが僕は君の兄として――」
「誰があんたの妹よ!? 私のお兄ちゃんはエリックだけよ!」
そして言い争い始める二人にシスイは唖然とする。ペイラーから渡された資料にも、二人は良く言い争っていると書いてあった。しかし、そんな些細なことで発展するレベルだとは思わなかったのだ。
コウタはシスイの様子を見て苦笑しつつ小さな声で話しかける。
「どんまい」
「コウタに隊長を押し付けてクレイドルに行こうかな……」
「止めて!?」
ユウたちが抜けた今、極東の戦力はガタ落ちだ。個にして大軍を相手にできるシスイがいなくては窮地に陥ってしまうことになる。
コウタも半分はクレイドルに所属しているので、ユウが抜けると第一部隊が穴だらけとなる。エース部隊がこれでは示しがつかないだろう。特に新人二人はこれから実地演習なのだから。
「はぁ……分かったよ。ほら二人とも落ち着いて」
「だってエミールが悪いんだもん!」
「む? 僕がどうしたというのだ? 改善点があるなら是非とも言ってくれたまえ」
「あーもー。静かに。ここはゴッドイーター以外のお客さんも来る場所だから静かにしてくれ」
そこまで言ってようやく黙った二人にシスイは溜息を吐く。隊長就任初日から前途多難な空気が流れ始めていた。
ともかくこの二人に喋らせてはいけないと思い、シスイは会話の主導権を握ることにする。
「はい、最後にコウタも自己紹介」
「俺も? 二人には済ませたんだけど?」
「ならいいか。じゃあ、早速だけどこれからの第一部隊がどう動くかを軽く説明するよ。資料を配るから無くさないように」
シスイは持ってきていた資料を三人に配る。そして資料が行渡ったところで説明を始めた。
「まず、僕とコウタは実地演習で新人二人の教育をする。二人とも模擬演習では高い評価を出しているから、落ち着いていけばすぐに終わると思うよ。初めはオウガテイルとかコクーンメイデン、それに最近発見された新種ドレッドパイクとかの小型種だから戦場の空気を確かめる感じで。たまにヴァジュラとかが乱入してくるけど、それは僕かコウタが潰しておくから安心してほしい」
「なんと! 乱入!?」
「しかも大型種!?」
「大丈夫だよ。極東じゃよくあることだから」
全く大丈夫じゃないことをサラリと言い切るシスイにエリナどころかエミールすら戦慄する。ヴァジュラは一人前なら一人で倒せるというのが極東の一般常識だが、他の支部では複数部隊による大規模作戦が展開されるような相手だ。幾ら何でも新人にはキツイ。
不安な表情を見せる。
しかし副隊長となったコウタは流石と言うべきか、しっかりとフォローして見せた。
「心配すんなって。シスイは足止めと一対多のスペシャリストだからな。アラガミの大軍が乱入して来てもお前らが逃げるだけの時間は稼いでくれるさ! 新人のお前たちは自分のターゲットだけに集中していれば問題なし! 俺が保証するぜ」
「まぁ働くのは僕だけどね」
「ちょっ!? 俺が役立たずみたいに言うのは止めてくれないシスイ!?」
「別にそんなことは行っていないよ。そう聞こえたのなら少なからず自覚があるんじゃない?」
「辛辣!?」
そんな二人のやり取りを見たからか、エミールとエリナの表情も幾分か柔らかくなる。どうやら緊張もほぐれて来たらしく、エリナはシスイに質問を投げかけた。
「えっと
「何かなエリナ。あとシスイでいいよ」
「はい。シスイ隊長は今まで何してたんですか? 私たちが研修中も隊長の名前は全然聞いたことがないんですけど」
その質問にはシスイも少しだけどう答えるべきか考える。
一応、嘘のプロフィール上は支部長が拾ってきた人材で、特務のようなあまり表に出ない仕事をしていたが、リッカと結婚したことを機に部隊に組み込まれるようになったということになっている。そしてペイラー榊博士の影響を受け、研究分野にも造詣が深いという設定だ。
一応、嘘は言っていない。
シスイは(ヨハネス前)支部長が本部から拾ってきた人材であり、(クレイドル計画のためにネモス・ディアナの人たちと仲良くなる……という後付け設定された)特務をしていたが、リッカと結婚したことで戻ってきた。
昔から極東にいるメンバーはシスイの事情も知っているが、新人たちはこの真実を微妙に隠した嘘で誤魔化していくことになる。一応、神崎シスイは死んだことになっているからだ。
ちなみに、本部にバレないように、論文も『S・Kusunoki』で掲載している。
「ちょっと支部長の特務をこなしていてね。元々、僕はそういうのを担当してフラフラと色んな所に行っていたんだけど、所帯を持ったから極東に留まることにしたんだ。それで第一部隊の隊長って役職が回ってきた訳さ」
「所……帯?」
首をかしげるエリナにコウタは小さく囁く。
「神機の整備員に楠リッカっているだろ? あれ、シスイの嫁さん」
「え……?」
「ちなみにシスイは俺と同い年なんだぜ? いいよなぁ。俺なんて恋人もいねぇのに」
「えぇっ…………?」
エリナはチラリとシスイの左手を見る。薬指にはキラリと光る何かが嵌っていた。
つまり、コウタの言ったことは冗談でも何でもないということになる。
そしてコウタと同い年ということは、シスイも十七歳だ。
混乱しかけていた頭の中を整理できたところで、エリナは改めて驚く。
「えええええええええええええええええええええええっ!?」
新隊長、楠シスイ。
極東に置いて一対多のスペシャリストであり、研究分野でも一流である。ゴッドイーターと研究員という二足わらじを履いているが、本業は研究だ。最近はゴッドイーターとしての仕事が増えつつあるとはいえ、何と言おうと本業は研究だ。
そして彼は既婚者である。
「女性、いや妻のために戦う……まさに騎士道ぉぉぉぉっ!」
と叫ぶ人物がいたとか居なかったとか。
◆◆◆
新生第一部隊の顔合わせが済んだ翌日、早速とばかりにエミールとエリナの実地演習を行っていた。今回の目標はオウガテイルを一匹ずつ狩ること。シスイとコウタはその露払いである。
任務地である贖罪の街へと辿り着いた四人は、現地でのブリーフィングを開始していた。
「そろそろ時間なので確認しておくよ。今日の目標はオウガテイルを各一匹。つまり新人が二人いるから二匹を狩る。僕とコウタで回りのアラガミを掃除するから、出来るだけ一対一で戦うように。取りあえず、今日はオウガテイルを援護無しで倒すことが目標だから」
『了解』
そう返事しつつも、エミールとエリナの二人は物足りなさそうな表情をしている。二人は演習場での成績が良かったので第一部隊への配属となったのだ。ダミーアラガミのオウガテイルなら何度も倒している。
初めは簡単な所からと分かっているが、これは簡単すぎるだろうと思っているのだ。
隠しつつも溜息を吐き、通信のスイッチを入れた。
「ヒバリさん。こちら第一部隊。これより任務に入ります。周囲の状況は?」
『はい。贖罪の街ですね? 今のところ大型種は確認されていません。少し離れたところに中型種がいるようなので注意してください』
「了解。今日も頼みます」
『はい。気を付けてくださいね』
そこでコウタ、エミール、エリナの方へと向き直り、改めて告げた。
「では任務開始だ。いくよ」
「おう」
「騎士道おおおおおおっ!」
「はい」
若干一名ほど気合が入り過ぎているようだが、油断しているよりは良い。ただ、アラガミは音に反応するので余計な雑音を立てるなと注意するべきだろう。シスイがアイアンクローでエミールを締めながら静かに注意すると、以降大人しくなった。
「エ、エミールがまともになった……ですって?」
と戦慄するエリナを笑うことは出来ないだろう。
何故なら、エミールは『そこかっ!(バレットを何もないところに撃つ)』『ふっ……ネズミか』を素でやる男なのだ。歩くだけで騒がしい上、寧ろ邪魔になる。
室内演習でも良くあった言動なので、エリナはそれを不安に思っていた。教官――ツバキの後釜――に何を言われても『騎士たる者、いつ何時も油断してはならないのです!』と謎の熱弁をする始末。最後には教官にも呆れられていた。これで成績が良くなければ本気でキレられていたことだろう。
「索敵時の注意だけど、決して音は立てないこと。コンゴウやヤクシャみたいな音に敏感なアラガミがいるからね。アラガミは不意打ちで倒すのがベストなんだ。そこは覚えておいて。僕が前方、エミールが右方、エリナは左方、そしてコウタが後方警戒。いいね?」
三人は声を出さずに頷き、シスイの指示通りに警戒しつつ移動する。
この隠密移動というのは意外にストレスが溜まるもので、新人の二人は十分程で集中が切れ始めていた。初めての実戦ということもあり、やはり緊張しているのだろう。自分の担当を忘れ、キョロキョロと周囲を見渡している。
仕方ない部分もあるので、シスイは優しく注意した。
「集中が切れているよ。仲間を信頼して任された方向に注意をするんだ」
「り、了解だ」
「ごめんなさい……」
「まぁ、討伐任務は防衛任務と違って逃げてもいいからね。まずは気楽に」
そう聞くと、二人とも気を引き締めたようだった。
逃げても良いから気を楽にしてくれと言ったつもりだったのだが、騎士道大好きエミールとプライドの高いエリナは試されていると思ったらしい。絶対に撤退は有り得ないとばかりに集中し始めた。
本当は気を抜きつつも注意するという絶妙なところがベストなのだが、やはり新人ということもあってその辺は難しいようだ。このままではアラガミと戦闘が始まることには精神的に疲れてしまっているだろう。
ただ、今回はそれも勉強なので、シスイとコウタは敢えて言わないことにした。フォローしやすい簡単な任務の内に失敗した経験を積んでおくべきだと思ったのだ。若いうちは失敗しないとなかなか理解できないからである。これが大人ならば危険予測も充分になってくるのだが……
(コウタ……)
(オーケー、シスイ。任せろ)
シスイとコウタはアイコンタクトで互いの意思を伝えあい、新人二人の様子に注意する。
そうして次のエリアへと移動していると、不意に鳴き声が聞こえた。シスイはすぐに立ち止まり、ハンドサインで停止の合図を送る。だが、集中し過ぎていた二人はシスイのハンドサインに気付いていなかった。
後ろからそれを見ていたコウタは咄嗟に小さく声を上げる。
「おい! エミールにエリナ! 停止のハンドサインだ!」
「しまった!」
「あ……ごめんなさい」
「全く……ちゃんと隊長の命令には気付けよ?」
早速固くなりすぎている弊害が浮き出て来た。今日は初めての実戦なので強くは言わないが、戦闘中に隊長の命令を聞き逃すことがあれば命に関わりかねない。
ここはしっかりと直すべきところだ。
「まぁ反省点は後でしっかり見直そう。それより鳴き声は聞こえたね? この先にアラガミがいる。まずはそこの物陰まで移動して様子を確認するよ。僕のハンドサインには注意してね?」
三人が頷いたのを見てシスイは前へと進んで行く。そしてシスイとエミール、コウタとエリナで別れて二つの物陰から覗き込んだ。
すると、オウガテイルが六匹も広場に集まっているのが見える。
予定通りなら、シスイとコウタで四匹を始末し、エミールとエリナは一匹ずつ相手にする。シスイにとって、オウガテイルなら十匹でもニ十匹でも大差ないので、このまま突撃することにした。
(三、二、一……GO!)
ハンドサインでカウントしてから突撃の合図を出す。間髪入れずに自分も飛び出し、黒を基調として赤い刃を持つ不気味なヴァリアントサイズを構えた。
(コウタも援護にいるからアラガミの力は必要ないか)
そう考えたシスイは速度を上げて一番近いオウガテイルを擦れ違いざまに両断する。赤い飛沫を挙げて倒れたオウガテイルには見向きもせず、二体目を咬刃を伸ばすことで撃破した。そしてコウタが足止めしている三体目と四体目も流れるように伸ばした咬刃で同時に斬る。
これで新人二人はオウガテイルを一対一で相手に出来るだろう。
シスイとコウタの役目は見守るだけとなった。
「流石だなシスイ隊長!」
「茶化すなよコウタ……」
「いやー。相変わらずの手際だからな! 俺の援護なんかいらないんじゃないか?」
「まぁ、確かに援護がなくても倒せる程度の相手だったのは確かだよ。結局はオウガテイルだし。でも、大型のアラガミが……まぁざっと百体ぐらい来たら援護も欲しいかな?」
「何その状況恐い」
二年前は偶にあったことだ。
命を狙われていたシスイは、アラガミを呼び寄せる集合フェロモンを利用した暗殺を仕掛けられたこともあるのだ。それによって百体近い大型アラガミを相手にしたこともある。
その時は本気で援護が欲しいと願ったものだ。
しかし、最近はマルドゥークと呼ばれるアラガミの感応種が、大型のアラガミを率いることが分かっているので、感応種と戦えるのがシスイだけという現状では一対百の大型種祭りも絶対にないとは言えない。
そのことをコウタに話すと頬を引き攣らせていた。
「お前……やっぱすげぇわ……」
「本業は研究者なんだけどねぇ。もうちょっと僕の仕事を減らして欲しいよ」
「いやもう本業はゴッドイーターだろ」
「でも研究で稼いだお金の方が多いんだよね……」
「マジで?」
「うん」
シスイの研究は神機に関することが多いので、必然的に特許も増える。そのため、研究によって稼いだお金はかなり多いのだ。
また、シスイは神機を自分のオラクル細胞で形成しているため、メンテナンス費も強化費用も掛からない。ゴッドイーターとしても普通の人より稼いでいた。
「なんだよそれ。すげぇ羨ましいな……」
「そんなにお金をもらっても使い道がないんだけどね」
二人が警戒しつつもそんなことを話していると、無事にエミールとエリナはオウガテイルを狩り終えたようだった。
エミールはブーストハンマーという火力と速度重視の武装を使い、オウガテイルを翻弄しつつも重い一撃を与えて倒していた。ただ、スタミナ管理に慣れていないのか、倒した瞬間に息切れを起こしてしまう。ここに二体目がいたら間違いなく喰われていただろう。ここだけは今後に期待だ。
エリナはチャージスピアという長物装備だ。中距離から安全に堅実に攻め、最後にはチャージグライドという切り札でオウガテイルを仕留めた。しかし、最後に焦ったのか、チャージグライドの制御に失敗して槍に振り回されているようにも見えた。相手がオウガテイルだから良かったが、俊敏なヴァジュラなら回避されていたかもしれない。
改善点もあるが、実戦での初戦であることを考慮すれば及第点だろう。
シスイとコウタは二人に近寄った。
「お疲れ」
「良かったぜ二人とも」
隊長と副隊長にそう言われたからか、エリナはホッとして胸を撫で下ろす。年少のゴッドイーターであることもあり、なんだかんだで自信が無かったのだろう。逆にエミールは深く頷いて語り始めた。
「当然だ。我が神機は僕の思いに答えてくれたのだから。恐らく僕一人ならあの卑怯な闇の眷属を葬ることなど出来なかったことだろう。しかし、僕の神機は応えてくれた! そしてその瞬間、僕の頭の中に相棒に相応しい名が浮かんできたのだ! 彼の名はポラーシュターン! 天より僕たちを見守るポラーシュターンの如く、人々を守って欲しい。そんなポラーシュターンは―――」
『緊急通信です。想定外の大型種がそちらのエリアに向かっています。戦闘区域に侵入するまで十秒です。この速さ……恐らくはヴァジュラです!』
エミールの演説を見事にぶった切ってきたヒバリの通信でシスイは動き出す。侵入まで十秒しかないのなら迎え撃つしかない。幸いにも相手は極東の猫ことヴァジュラだ。シスイならば時間を掛けずとも勝てる相手である。
すぐに命令を下した。
「僕が倒すから、エミールとエリナは見学だよ。コウタは二人を頼む」
「オーケー隊長。さぁ行くぞお前ら」
「でもコウタ副隊長……」
「大丈夫だ。シスイならヴァジュラ十体でも余裕だからな! 任せたぜ!」
「我が相棒ポラーシュターンで―――」
「エミール、お前もだ」
シスイと一緒に迎撃しようとする二人を抑え、コウタは下がった。それと同時にヴァジュラがエリアへと侵入する。
「ガアアアアアアアアアアッ!」
「さぁ、じゃれようか猫さん?」
そう言ってシスイとヴァジュラはぶつかり合う。
しかし、その戦いは呆気ないモノだった。
シスイが即座にヴァジュラの首を撥ね、コアを回収して終了である。五秒もかからなかった。これにはエミール、エリナも唖然とする。
そんな二人にコウタは自慢げな様子で話しかけた。
「二年前、極東がアラガミの大軍に囲まれた話はしたよな? あの時、四方から来るアラガミをどうにか足止めするのが精一杯だったんだ。でも、シスイだけは違った。南方を一人で担当したシスイは、全てのアラガミを殲滅したんだ。ヴァジュラ一体如きじゃ相手にならないぜ」
だがしかし、コウタは言い忘れていたことがあった。
シスイの本業は研究者。
ゴッドイーターの仕事はついでなのである。