本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP12 アラガミの少女

 支部長室にて、ヨハネス・フォン・シックザールは本部の人間とテレビ電話をしていた。相変わらず画面にはunknownと表示されており、顔が分からないようになっている。後ろめたいことを話すための秘匿回線だからだ。

 

 

『首尾はどうだシックザール支部長?』

「順調だ。神崎シスイのお陰で大量のコアが集まっている。この調子なら必要以上にコアを集めることも出来るだろう。そうなればノヴァシリーズを予定以上に生産することも出来る」

『ふん。全ては化け物のお陰ということか。気に喰わん。なぜ奴に新しい神機を与えた?』

「このままアラガミにぶつけるだけでは神崎シスイを殺すことは出来ない。私がそう判断を下した」

『ならばどうするのだ?』

「ノヴァシリーズをぶつける。アルダ、メビウスは既に形成段階だ。上手くいけばステラも完成できるだろうと予想している」

『なるほど、急ぎノヴァシリーズを完成させるためにコアを集めるのだな。そのために神機を……』

「そういうことだ。どうせノヴァシリーズをぶつけるなら、今は神機を与えた方が効率が良い」

『ならば良い』

 

 

 電話の相手は満足そうにそう答えた。

 自分は箱舟に選ばれた人間だと思ってるからだろう。

 優越感が透けて見えるようだった。

 

 

『既に我らは箱舟へ搭乗を始めている。ノヴァの完成を急ぐことだ』

「分かっている。だが特異点が見つからない」

『はははは。心配ないとも。君が言っていた特異点だが、それらしきものがあるという情報が上がってきたのだよ』

「……なんだと? 何故それを先に言わない」

『元々、君に連絡したのはこれが理由だよ。化け物のことを言って話を逸らしたのは君だ』

「そうだったか。それで特異点は?」

『まぁ、落ち着け。ちょっと散らかっていてな。探すから少し待ってくれ』

 

 

 すると電話の向こうでガサガサと何かを探している音が聞こえる。報告書などを無造作に置いている弊害なのだろう。碌に仕事もしないせいで資料が溜まっていくのだ。

 自分たちに直結する話や、金の絡む話には敏感なくせに、他支部からの支援要請や外部居住区からの要求などは一切目を通さない。まさに老害である。

 

 

『おお、あったあった。これだよ』

「それで特異点はどこに?」

『何やら普通のアラガミと異なる……ようだな。本部のゴッドイーターの報告書だ。専門家ではないので私もよく分からないが、ともかく普通のアラガミとは違うらしい。君の言う特異点は、普通とは違うアラガミなのだろう?』

 

 

 まるで要領を得ない答えにヨハネスは目頭を押さえる。

 所詮は金漁りに全力を尽くす老害ということだろう。少なくともヨハネス自身で赴かないことには始まらなさそうだった。

 無駄になるかもしれないが、僅かな可能性でもある。

 

 

「分かった。私が本部に出頭して確かめる。エイジス島の完成度合を報告することも含めて、そろそろ本部に顔を見せるべきだろう」

『ああ、そうしてくれたまえ』

 

 

 その言葉を最後に回線は途切れる。

 静かになった支部長室でヨハネスは一人呟くのだった。

 

 

「ふっ……馬鹿め。掻き集めた本物のロケットは全て極東に置いてある。最期まで精々贅肉を溜めることだ。それに……リンドウの遺志を継ごうとしている者もいるようだからな。時間はない」

 

 

 ヨハネスが別の画面を開くと、そこには橘サクヤの部屋が写っていた。ターミナルの前にサクヤが立ち、部屋には神薙ユウとアリサ・イリ―ニチナ・アミエーラもいる。そしてリンドウの腕輪をキーとして開く記録ディスクを開き、アーク計画について調べていた。

 この部屋を監視してる者がいる可能性を述べ、サクヤは『このことを忘れる』と言っているが、それはユウとアリサを巻き込まないようにするために方便だろうと予想できる。

 

 

「せめて神薙ユウには正しい選択をして欲しいものだ。次世代の英雄たる素質の彼には」

 

 

 そしてヨハネスは出張準備を始める。出張中の支部長業務を別の者に引き継ぐ準備や、その他エイジスの工事責任者への連絡も忘れない。

 最後にペイラー榊を含めた上層部に、自分が本部に出頭することをメールで一斉送信した。

 その日の内に、ヨハネスはフェンリルの高速ヘリで本部へと向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ヨハネスが本部へ出張して数日後、シスイはソーマと共にペイラー榊のラボへと呼び出された。どうせ面倒な内容だろうな、などと話しながら部屋に入ると、案の定、ペイラーは二人に無茶を要求してきたのである。

 

 

「やぁ二人とも。すまないが私を鎮魂の廃寺に連れて行ってくれないかね?」

「寝言は寝ていえおっさん」

「寝ているかと勘違いするほどの糸目ですから寝言なんじゃない?」

「酷いなソーマ君。それと辛辣だねシスイ君」

 

 

 とは言えペイラーは極東支部の技術開発局責任者だ。一応は上司なのである。やれと言われればやるしかないのだ。

 仕方なく、二人はペイラーを護衛して鎮魂の廃寺へと赴くことになる。

 そこには丁度アラガミを討伐した第一部隊のメンバーが揃っており、今まさにコアを摘出しようとしてるところだった。それを見たペイラーは慌てて待ったをかける。

 

 

「ちょっと待ってくれないか?」

「……なぜ博士が?」

「え? 榊博士?」

「どうして博士が……それにシスイとソーマも」

「どういうことかしら? 説明してくださる博士?」

「まぁ待ちたまえ。四人ともちょっと離れて、こっちに来て姿を隠してくれないか?」

 

 

 ユウ、コウタ、アリサ、サクヤは幾つも疑問符を浮かべるが、ペイラーは有無を言わさずに四人を物陰へと連れていく。倒したアラガミが丁度見える場所で待機し、これから起こることを待っていた。

 そんな中でコウタだけが口を開く。

 

 

「で、博士。なんでコアを回収せずに放置するの?」

「まぁ見ていたまえコウタ君。……ほら来たよ」

「何が……っ!?」

 

 

 アラガミの死体の前に姿を顕したのは人。

 フェンリルの旗を身体に巻き付けた肌の白い少女である。こんなところに一般人がやってきたのかと皆が考えたが、ペイラーは間髪入れずに声を上げた。

 

 

「あの子を確保してくれ! 早く!」

 

 

 その言葉に反応し、全員が物陰を飛び出して少女を囲む。

 そして囲まれた少女は首を傾げつつ口を開いた。

 

 

「オナカ……スイタヨ?」

『はぁっ!?』

 

 

 その少女は秘密裏にペイラー榊のラボへと連れていかれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「この子の正体はアラガミだよ。人型のアラガミ」

『えぇっ!?』

 

 

 シスイ、ソーマを除いた四人が驚く。

 コロコロと表情を変えながら首をかしげる姿を見れば、とてもアラガミには見えない。確かに肌の白さなどは異常だが、姿形はどう見ても人だった。

 ちなみに、シスイとソーマは既に気付いていたので特に驚かなかった。

 この二人はともかく、他の四人のリアクションに満足したのだろう、ペイラーは満足気に語り始めた。

 

 

「この子はね。人という形に進化したアラガミだ。つまり、我々と同じく進化の袋小路に入ってしまった存在だろうね。ある種、進化の到達点、つまり完成品とも言える」

「この子が……」

「アラガミ……」

 

 

 アリサとサクヤは茫然としつつ眺めており、コウタは顎が外れたかのようなリアクションを見せている。本当に驚いているらしい。ユウですら言葉を失っていたのだから。

 そしてようやく現実を受け入れたサクヤは途端に言葉を捲し立てる。

 

 

「って駄目じゃないですか博士! アラガミをアナグラに連れてきちゃ。それにアラガミってことは人も捕喰するんでしょ?」

「え、ええっ!? ヤバいって! 神機、神機は……」

「落ち着きたまえサクヤ君にコウタ君。この子は人を食べたりしないよ」

 

 

 一瞬身構えた皆を諭すようにしてペイラーは再び語り始める。

 

 

「アラガミは同種の生命を捕食対象から外しているのは知っているかな? 偏食というものだよ。この子は人と同じ形に進化した訳だから、我々のことは仲間と認識して捕食対象から外しているハズだ。この子の捕食対象は、どうやら自分以外のアラガミみたいだからね。君達には、この子をおびき寄せるために辺り一帯のアラガミを掃討して貰ったんだ」

「最近の任務がやけにキツイと思ったら……そういうことですか」

「悪かったよユウ君。だが、君たちのお陰で彼女をおびき出すことが出来た。お腹を空かせれば姿を見せてくれると確信していたからね」

「オナカヘッタナッ!」

 

 

 ペイラーに同意するかのようにアラガミの少女も声を上げる。

 そこへアリサがふと疑問を投げかけた。

 

 

「そう言えば言葉も話すんですね。どこで覚えたんでしょう?」

「ふむ。確かに疑問だが、僕の推察では任務に出かけているゴッドイーターの話し声からだと考えているよ。アラガミの学習能力は皆も知る通りだからね」

「その割にはピンポイントな言葉ですね」

 

 

 確かにその通りだ。

 だが、ペイラーの仮説以外に説明のしようもないのでここは納得するしかなかった。

 

 

「そういうわけだ。このことは秘密だよ?」

「えーと……支部長には報告した方がいいんじゃ……」

「ははは、サクヤ君。君はこう報告するつもりかね? 『人類の砦であるアナグラにアラガミを持ち込みました』と。こうなった時点で皆が共犯なんだよ」

「あ! 博士きったねー!」

「何とでも言ってくれたまえコウタ君」

 

 

 つまり、第一部隊のメンバーはアラガミの少女を隠し続けなければならない。

 見事なまでに嵌められたのである。

 

 

「人型のアラガミね」

「……ふん。所詮は化け物だ」

 

 

 シスイとソーマはそれぞれ、あまり興味がなさそうに、だが内心では興味津々にアラガミの少女を見る。アラガミ化しているシスイと、身体の半分ほどがアラガミであるソーマにとって、見ていて気持ちの良い存在ではない。

 二人とも『化け物』と呼ばれて育った人間だ。

 どうしても自分を重ねてしまう。

 そんな二人の内心などよそに、コウタはただ面白そうにアラガミの少女へと近寄っていた。

 

 

「ホントにアラガミなのかぁ。これで人は食べないんだよな博士?」

「勿論だよ。こうして私たちが襲われていないのが証拠さ。ただ……あまりにもお腹がすいていたら、人も食べてしまうかもしれないね」

「えっ!?」

「イタダキマス!」

「止めろ! お前が言うとシャレにならないから!」

「はははははは」

「博士も笑ってないで!」

 

 

 今はペイラーが用意したアラガミ素材の破片を食べているので、人を襲うことは無いだろう。だが、確かに空腹ならば人でも襲うに違いない。危険だが、餌さえ与えておけば爆発しない爆弾といったところか。

 そんなコウタをよそに、ユウはふとペイラーに尋ねる。

 

 

「博士」

「何だいユウ君」

「この子がアラガミってことは、他にもこの子みたいなアラガミがいるってことですよね? アラガミって同じ種類の奴が一杯いますし」

「なるほど。確かにそれは興味深いが……流石にそれは私も分からないね。何なら、この子に聞いてみるのが一番なんじゃないかな?」

 

 

 確かに、とユウは考え、前に進み出てアラガミの少女に問いかける。

 

 

「ねぇ、君の仲間はいるの?」

「ナカマ?」

「君と同じ姿をしたアラガミだよ」

「ンー? ンー?」

 

 

 どうやら言葉の意味が理解できないらしく、少女は首を傾げるだけだった。

 それを見たペイラーは困ったような顔をしつつ口を開く。

 

 

「どうやら彼女にも勉強が必要みたいだ。これからも、君たちには彼女と出来るだけ交流を図ってもらいたいと思っているんだが……構わないね」

「いや、イエス以外の返事をしようがないでしょ。俺たちは共犯なんですよね」

「分かっているじゃないかユウ君」

「うわぁ……」

「私たちに拒否権ないんですね」

「諦めなさいアリサ。ああいう時の博士は止めようがないわ」

 

 

 そんな会話に、アラガミの少女はただ首をかしげるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 第一部隊はアラガミの少女を見つけてから忙しくなった。

 通常の任務を受け、そのあとは彼女との交流を図る。場合によっては、彼女の食事となるアラガミのコアを入手するためにアナグラの外に出なければならない。シスイが部隊に復帰したことで負担は減っているが、仕事が増えたのは間違いなかった。

 この日、シスイはソーマと共にシユウ六体討伐の任務を達成し、帰投してペイラーのラボにやってきた。

 扉を開けると、既にユウ、アリサ、コウタ、サクヤは揃っており、アラガミの少女は丁度食事をしている最中だった。

 

 

「あ、シスイにソーマ。おかえり」

「お疲れ様です」

「おかえりー」

「二人ともお疲れ様」

「お疲れ様~?」

 

 

 アラガミの少女も真似しているのを聞いて微笑ましい雰囲気となる。

 シスイは軽く手を振りながらコウタの隣に座り、ソーマは鼻を鳴らしつつ壁に背中を預けた。

 そして第一部隊が全員揃ったところで、ペイラーは今日の本題を語りだす。

 

 

「さて、諸君」

「どうしたの博士? 急に改まっちゃって」

 

 

 訝しげに尋ねるコウタに対し、ペイラーは深く頷いて答える。

 

 

「実はね。君達にはこの子の名前を考えて欲しいんだ。いつまでも『この子』や『アラガミの少女』では不便だからね。ちゃんと名前を付けてあげよう」

「ふーん。いいね」

 

 

 隊長のユウが同意したところで、コウタが元気よく手を上げる。

 

 

「はいはいはいはいはーい! 俺そういうの得意なんだ!」

「へぇ? 自信あり気ねコウタ?」

「勿論っすよサクヤさん。ズバリ……ノラミ!」

 

 

 その瞬間、空気が凍り付いた。

 あまりにも酷いセンスに誰もがフリーズしてしまったのだ。唯一、アラガミの少女だけは首を傾げつつ食事を頬張っている。

 その中で、最も先に復帰したユウを筆頭に次々とダメ出しをする。

 

 

「いや……それはないよ」

「ドン引きです」

「うーん。ちょっとないわねぇ」

「……ふん」

「え? ダメなの?」

 

 

 誰一人として同意を得られず、コウタは動揺する。

 そしてまだコメントしていないシスイに助けを求めるべく視線を向けたが、無駄だった。

 

 

「バカラリーには荷が重かったようだね」

「シスイが辛辣!? ならユウはどんな名前つけるんだよ! 一番初めに反対したなら言えよ!」

「え? 急に振るの? うーん……アリサは何かある?」

「私ですか? ちょっといきなりは思いつかないですね」

「ほら見ろ! ノラミでいいじゃん!」

『だからそれはない!』

 

 

 多数決によってノラミは惨敗。

 それでも諦めきれないコウタは、隣に座るシスイにもう一度問いかける。

 

 

「なあ、シスイも思いつかないならノラミで良いだろ?」

「えぇ……そうだなぁ。名前ねぇ」

「頑張れシスイ」

「そうですよシスイ。この子の運命は貴方にかかっています!」

「そこまで言うかユウにアリサ」

 

 

 ともかく、シスイとしてはノラミ以上の名前を考えなくてはならない。

 こういう時は下手に考えると碌なことがないので、直感に任せて案を出すのだった。

 

 

「子猫を育てているみたいだし……キティとか?」

「……まぁ、ノラミよりはいいな」

「ノラミに比べれば遥かにマシですね」

「お前らノラミを馬鹿にし過ぎだろ!」

 

 

 シスイも案を出したが、結局はコウタよりマシという評価。

 他には誰も案を出せないので、ここでペイラーが話をまとめる。

 

 

「まぁ、待ちたまえ。折角二つも意見が出たのだから、この子の意見も聞いてみよう」

「なるほど。博士の言う通りかもしれませんね」

「よっしゃ。ノラミを推すぜ! なぁなぁ、ノラミがいいよな!」

「ちょっとコウタ! ダメですよ。せめてキティにしてください!」

 

 

 コウタとアリサが必死に少女へと語り掛ける。

 だが、一心不乱に食事をしていた少女は、顔を上げて一言大きく叫んだ。

 

 

「シオ!」

 

 

 彼女の言葉に一瞬、ソーマ以外の誰もが首を傾げた。

 だが、すぐにペイラーが意図に気付き、口を開く。

 

 

「もしかして君の名前かい?」

「シオ! ソーマが付けてくれた!」

「っ! てめぇ余計なことを言うんじゃねぇ」

「あらあらあら? ソーマがねぇ」

「面白がるなサクヤ」

 

 

 意外にもソーマが彼女に名前を付けていたらしい。

 シスイはシオという名前から『塩』を連想したが、本部に居たことで欧州言語も達者な彼は、すぐに名前の由来に気付いた。

 

 

「chiot……フランス語で子犬だね。洒落た名前じゃないかな?」

「なるほどね。発想としてはシスイのキティと同じか。この子も認めているみたいだし、シオで決定だね」

「……ちっ」

 

 

 ソーマは照れ隠しなのかソッポを向き、コウタは諦めきれないのか最後までノラミを推す。しかし、彼女がシオだと言い張ったので、決着はついた。

 そして名前が決まったところで、再びペイラーが口を開く。

 

 

「さて、この子の名前も無事に決まったことだし、もう一つの問題について議論しよう」

「もう一つの問題?」

「そうだよユウ君。これは非常に深刻な問題……シオの食糧問題だよ。今はどうにか物資倉庫から拝借したり、君たちの頑張りによって賄えている。だが、シオの食欲がこのままなら、貯蔵してある彼女の食事は三日と持たないだろう」

「つまり?」

「彼女を外に連れて行って欲しい。アラガミを丸ごと食べさせれば、彼女も満足してくれるだろう」

 

 

 ペイラーの言ったことは、かなり危険な側面もある。

 ゴッドイーターが外に行く場合、それは任務として出ていくことになる。だが、シオに食べさせるとなると、回収するハズだったアラガミがシオのお腹の中に消えてしまう。

 シオの食事を考えるなら、秘密裏に行く必要があるだろう。

 当然、ペイラーもそれを理解している。

 

 

「私がどうにか手配しよう。君たちはコッソリとシオを連れて食事に行って欲しい」

「まぁ、そういうことなら」

 

 

 隊長のユウがそう言ったことで、皆が頷く。

 第一部隊はペイラーが用意したルートを使い、アナグラの外に出る。神機を持ちだせる時点で、既にリッカはペイラーの側についているのだろう。神機を受け取る際に苦笑していたのが証拠だった。

 ヨハネスも大概だが、ペイラーも様々な方向に根を張っているらしい。

 ジープを使い、鎮魂の廃寺までやってきた第一部隊は、早速アラガミを狩っていた。シオは器用にも神機を真似て右腕を変形させ、共に戦っている。

 

 

「そっちに行ったよシオ!」

「イタダキマス!」

「反対側は僕がする」

 

 

 シオとシスイの一撃で寒冷地適応したクアドリガ堕天種のミサイルポッドが壊れる。

 クアドリガ堕天は呻くが、第一部隊のメンバーがその隙を逃すはずがない。ユウは全面装甲にインパルスエッジを撃ち込んで破壊し、サクヤとコウタは顔にバレットを撃ち込んで追加ダメージを与える。そしてアリサは跳び上がってロングブレードを振るい、顔を結合崩壊させた。最後にソーマがチャージクラッシュを放ち、クアドリガ堕天にトドメを刺す。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 最後にクアドリガ堕天はそう呻いて倒れた。

 ディアウス・ピターすら倒した第一部隊にとってクアドリガ堕天など大した敵ではない。

 

 

「こんなもんかな?」

「やったね」

「流石です皆さん」

「俺たちにかかればこんなもんだぜ!」

「……ふん」

「皆強くなったわねぇ」

「イタダキマス! だな!」

 

 

 倒れたクアドリガ堕天をシオが食べ始める。

 その間にシスイとソーマ、サクヤは周囲を警戒し、ユウ、コウタ、アリサはシオが食事する様子を眺めていた。こうしてアラガミを食べる姿を見ると、やはりシオもアラガミなのだと思わされる。

 見た目は人だが、中身はアラガミなのだ。

 この光景を見ていたコウタはふと呟いた。

 

 

「やっぱシオもアラガミなんだなぁ」

「ん? コウタもイタダキマス! するか?」

「しねぇよ! でも……ちょっと興味あるかも」

「止めとけ」

「ソーマ?」

「とんでもなく不味いに決まっている」

 

 

 素っ気なく答えるソーマにコウタは首をかしげる。

 そしてそれを見たシオもコウタを真似つつ首を傾げ、口を開いた。

 

 

「でも、ソーマのアラガミはタベタイ! って言っているよ?」

「っ!?」

「シスイのアラガミはイッパイ食べて満足! って聞こえる」

「……」

 

 

 シオの爆弾発言とも言える言葉にソーマは沸騰しそうになるが、続いて聞こえた言葉によって冷静になる。そして信じられないと言った目でシスイの方を見つめた。同様にソーマがマーナガルム計画で半分近くアラガミとなっている事情を知るサクヤも、シスイに驚きの目を向ける。

 ペイラーのお陰で事情を知っているユウだけは何かを察したように表情を暗くしているが、コウタとアリサはよく分かっていないようだった。

 そんな注目を浴びたシスイは神機を肩に担ぎつつ、ポリポリと頬を掻く。

 

 

「あー。そうか。満足しているのか。僕には自覚ないけど」

 

 

 唐突なことで、シスイはどうするべきか迷う。

 反応を観察する限り、ユウ、ソーマ、サクヤは気付いたのだろう。シスイとしては何故ユウが知っているのか謎だったが、今はそれよりも切り抜ける方法を考える方が先だ。

 だが、その心配は無用だった。

 

 

「そうか……」

 

 

 ソーマはそれだけ言って再び周囲の警戒を始める。

 そんな様子を見た他のメンバーも、ソーマに続いて戻っていく。

 

 

(ソーマの気遣い……かな?)

(まさか……シスイも)

 

 

 シスイとソーマはこの日から距離が近くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シスイ×ソーマはありません。

ちゃんと男女の恋愛に落ち着けます。

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